閑話12使徒とペンダントの秘密
プロローグ
━━西大陸、パルストア帝国。
━━数ヶ月前。
雑踏に紛れ。フードを目深に被った。繊細な顔立ちの青年は、路地裏に急ぐ。ほどなく黒髪、浅黒の眼光鋭い男と合流した。
「ピアンザ待たせたか?」
「構わん。俺も今来たところだ……」
「早速だが……」
うむと頷き、魔王の杖を掲げ。オーラルより譲り受けた。破壊された魔人王の杖が、封じられた。装具を取り出した。
「それが………」
「そうだ、そちらは?」
息を飲んでいた、魔神ベセルバブル=オール・セラは、日中普通の人間である。ただし不死の呪いは残るが……、
「そちらの……」数年の付き合いで、端的にしか言葉をはっしない。ピアンザの性格を理解していた。小さく苦笑しながら、セラは懐から6つのペンダントを取り出した。
眼を細めたピアンザは、12使徒に与えられた、聖なるペンダントを見て、大地の女神アレの信者アレイ教徒が下げる物に似ていた。それもかなりしっかりした造り。また純度の高い金が使われた装飾品・アンティークな物だと分かる。
「それが……」
「そうだ我々が、アレク様を通じて、ラトワニア神王から頂いた。12使徒の証」
「もしや……」
「先日手に入れた魔人の武具で、短時間だがレシアが……、それでな」
驚いたようだが、小さく頷き。柔らかな眼差しをセラに向けていた。
「魔王……、君とオーラル陛下には、世話を掛ける」
深々頭を下げていた……。大賢者オール・セラは、百年以上も前……。魔神となって世界中を旅し。2つの書を探し求めた。最悪の敵。白の女王すら見付けられず。また二冊の書を見失い。夜のこともあって……、
先代の魔王ヒザン、西大陸にいた。12使徒ナタクに助けられてきた━━。
━━僅か15年……。百年も動かなかった過去は、劇的に動き始めていた。
「それが必要と言うことは、オーラル王は、『神の鉄槌』では足りない事態になると?」
物静か、そうとらえられるピアンザだが、眼差しは厳しい。一つ頷き。
「南大陸の消滅。その可能性も高いと考えている」
「疑似神は……、それほどの敵なのですね?」
「ああ少なくとも。魔人などより危険ではある」
静かな声音であるが、それ故に真実味がある。
「そうですか……、しかし残念ですが、それでは足りないですよ?」
「それは理解している。しかし残りの品は、エレーナ大司教様がお持ちだそうだ」
目を見開くセラに、改めて説明した。
「エレーナ様は、12使徒セレナ・シタインの養女であり。ラウ・ガイロン、ダン・カレン、ルリナ様。サンレイ・ダルフォン・カーリアから。ペンダントを託されていた」
「なんと……、セレナが……、そういえば、エレーナという孤児を養子にしていたな」
驚いたセラに向け。一つ頷き。懐から絹のハンカチを取り出して、中から一つのペンダントを掴み出して、
「それはまさか……」
「ナタクから」
セラの視線に端的に答える。ゆっくり瞼を閉じながら。ペンダントの一部に傷があるのを認め。深々とため息を吐いていた。あの人らしいと感慨深い気持ちを込めていた。
━━118年前。
アレイクの町は、この二年の間に。大きく発展していていた。城の建設も進み。アレイ学園の設立も同時に決まって。セラは多忙を極めていた。
「セラ様!、急いで下さい」
黒髪の笑うと頬にえくぼを作った、可愛らし笑顔の少女は、早く早くと急かす。彼女はアカネ・オーマ、朝から元気一杯である。
「アカネさん。そんなに急かさないで下さいよ~」
小さく苦笑したが、彼女が張り切るのもわかるだけに。仕方ないですねっと微笑んでいた。
アカネが、アレイクの町に住み始めてから、もう二年になるか……、彼女はセラの正式な弟子となり。魔導師として、少しずつ実力を付けていた。だからではないが、春からアカネに初等部の一クラスを任せるようなって、毎日張り切ってると。そんな訳である。
セラ夫妻、弟子のアカネが住むのは、町の東。孤児院近くである。屋敷からアレイ学園に向かう道は、中央にある住人の憩いの公園からも。ようやく整備されてきたが、まだまだ牧歌的な光景が広がる。学園の隣は農園と牧場が隣接していた。その為か牛や鶏の鳴き声がさかましい。
「お兄ちゃん先生~、アカネ先生おはようございます♪」
「先生おはようございます~」
可愛らしい姉妹が、二人を見つけ走り寄り元気に。挨拶してきた。
「二人とも随分早いわね~、おはよう」にこやかに笑いながら挨拶した。姉妹は今日のピクニックが楽しみで、早く登校したと、照れ臭そうに笑っていた。
今建国にあたり。王制を定め。新たな王を決めなければならぬことに直面していた……。出来ればアレク様が、王になってくれれば問題ないのだが……、どうも乗り気ではない。だから建国王にはレシアが選ばれた。アレクの実子クラウベリアが、成人するまでと10年を目処に。決まりそうである。問題は……、
「セナ様、レシア様の体調どうですか?」
「うん大丈夫。ちょっとルリナ様のことがあって、心配したんだけどね……」
セナがしみじみ困った顔で、嘆息していた。
「それがね。朝から三人前ペロリでね~」
食費と料理の心配である。
「ああ~レシア様ですからね」
訳知り顔で、クスクス笑っていた。レシアは小柄なのだが……、痩せの大食い、子供が出来てからは、拍車がかかった気がする。
「本当にレシア様は、よくお食べになるから~。明日私がダナイ料理持ってきますね♪」
柔らかい気遣いに。思わずセナの相貌が緩む。
「それは助かるよ~。今はアレク様もいないから。話相手もいなくてね~」
しみじみ呟く内容に。なるほどと小さく笑っていた。
「今頃。ラトワニア神国に到着した頃ですね~」
アレクに同行して、12使徒のブルワーズ、ダン・カレン、ラウ・ガイロンがアレクに同行しているため。セナは学園のこと以外に。建国の法整備。領土となる賛同した民が住まう土地を。魔獣、モンスターからどう守るか、また国境線を何処にもつか、急を要する事案が数多にあるため。多忙である。それはレシアとてわかってはいたが、初めての子供で、常に不安を抱いてるレシアは、愛するセナが側にいてくれない不満から、ついやけ食いしてる節はあった。
━━聖アレイの12使徒。アレイク王国の民達は、セナ達弟子達をそう呼んでいた。中でも高弟子と、信を抱かれてるのが、中心的三人の人物。
賢者オール・セラ
将軍ラウ・ガイロン 財務ダン・カレン
三人の名を併せ。人々は『オールラウンダー』の称号で呼び。敬意を抱いていた。
ラウ・ガイロンには、あらゆる武器、武芸に通じ百戦錬磨で知られ。常に先陣を切って人々を助けていた。
ダン・カレンは、あらゆる困難を。持ち前の才覚と性格の明るさで。飄々と打開策を打ち立て人々を驚かせた。またあらゆる知識を駆使して、新たな未来を見せてくれた。
オール・セラは、子供達の教育に熱心で、多くの後継者を育て、また二人に及ばないが、ラウに代わり。時に先陣を切り、魔法でモンスターを殲滅。また財務に明るく、ダンの相談に乗ることも多く。アレクの妹レシア様の夫と言うことで、アレクの代わりを勤めることもあり。あらゆることの任を相談される。役目をおっていた。
今日……本当なら。朝から建設中の城に。行ってなければならいが、新しい先生を『特待生』から選ぶことになって、セラ自ら任命式に立ち会いたいと。登校しているのだ。
「きっと二人も喜びますね」同い年の二人は、アカネと同じく。孤児院で子供達の世話を手伝いながら。セラから魔法を学んだ同輩である。片やセレナ様の養子の1人になり、片やダン様の奥方となった友人達。二人はセラの頼みを快く快諾して、学園の先生になってくれた。それがセラ様は嬉しいのだろう。にこやかにクスクス笑いながら。そう察した。アカネは腕捲りしながら少しでも。セラの重荷が減れば、レシア様と過ごす時間も増えるだろうと。よし!気合いを入れていた。
━━ラトワニア神国・王宮。
ラトワニア王との謁見は、実に3年ぶりである。王の顔に当時にはない、黒々とした髭を蓄え。がっしりした体躯。眼差し柔らかく、四人を前に、にこやかな笑みを浮かべていた。
「よくぞ参った!、アレクそなたの偉業、我は称えようぞ」深々、臣下の礼を取るアレク達の元に。王座から降りてきた王は、
「みな、顔を上げよ」
異例の行動に、臣下達は驚き眼を見張る。
「陛下いくらなんでも……」
たしなめようと声を上げた内官を。厳しく睨み付け、黙らせた。
「そなた等は言ったな?、南の地域は危険な魔物が住まう森ばかりであると、何者であろうと国など興せぬとな」
かつて……、聖人の称号を与えられたアレクに。嫉妬を覚えた居並ぶ重鎮達は、アレクの命すら狙っていたのだ。小さく嘆息していた。王とは孤独である。信頼出来る人物は得難いものだ。こうして再び会えた喜びに。王はある品を与えることにした。
それが12神殿の大神官達に作らせた。神々の奇跡を込めた遺物である。アレクの弟子は12人、彼等が12使徒と呼ばれていることも……。12のペンダントは、それぞれ神々の奇跡を一度だけ。使う事が出来る品である。
━━現代、大賢者と呼ばれし青年姿のオール・セラは、懐かしそうに。当時を振り返る。
「セラ殿、オーラルからの伝言を伝える。『シンクが気付いた。覚悟を決めよ』と」
「ほう~、若き英雄殿が?」
驚いたように、改めて魔王ピアンザを伺うと、厳しい顔に優しい光を宿す。
「今やシンクは、オーラルに並ぶ重要人物。恐らくリルムに任せるつもりであろう……」
ピアンザの言いたいことを察した。眉をしかめながら、リルムが動くとなれば、無論白の女王は許さないだろ……、四天を遣わせる可能性を考えた。
「そこで相談なのだが……、セラ殿どうか聞き届けよ。四天とリルムを会わせてはどうだろうか?」これには些か驚かされた。
エピローグ
魔王ピアンザの言葉は、セラを十分に驚かせた。先日娘のシレーヌと会ったばかりである。レシアはいたく喜んでいた……、
「ピアンザ……、少し考えたい」
直ぐに答えは出せないが、レシアなら喜ぶだろう。口元に柔らかな笑みが浮かんでいた。
「冬休み。リルムは帰宅する」
「承知した、気を使わせた」
深く娘の夫に一礼した。




