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少尉ですが何か?  作者: 背徳の魔王 人と話すうちに性格から行動パターンを読み取り。隠された本性を暴き。時に未来を予言することからリアル魔王と呼ばれ。材料と調味料の分量で味がわかるので、絶対味覚と本人が詐称する一般人
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覇王と仁王。両雄と遭遇しちゃいました。

ついに北大陸を訪れたシンク達。だがやはり事件に巻き込まれる運命にあった……、やがてシンクの運命に深く関わる。二人の青年と出会うことになる。ラノバ・プレイゼン、サザノーラ・アブストと。

プロローグ




━━北大陸。西海岸。ラノバ族の治める街は、近年のリゾート化に伴い。目にも美しい。町並みは白で統一されていた。また街の中心である。なだらかな丘から、螺旋を描くような。変わった整備をされ。コバルトブルーの海と相まって、まるで、巨大な巻き貝のように見えることから。宿借りのヤドカリと、一部の批判的な。16部族の長老達は、揶揄していた。




12年前……、最年少で、16部族の族長となった、ラノバ・プレイゼンは、僅か4歳で、ラノバの名を受け継いだ。優秀な若き族長である……。



活発そうな面立ち。茶色い髪。浅黒い肌、商売で財を為してる。ラノバ族ならではで、商人としても広く知られていた。



━━首都アージンの南西。総統府。



ラノバ族の族長プレイゼンは、少年から青年に至る段階にあって、端正な顔立ち。適度に鍛え上げられた身体。子供の頃から、頭が良かったプレイゼンは、レオール学園で、魔力がほとんど無いにも関わらず。権威ある。賢者の称号を与えられた。頭脳明晰な。強かな人物である。彼に家督を譲った祖父は、中央大陸事件で息子が命を落としたゆえ。族長を兼任していたが……、如何せん高齢であり。プレイゼンが、物心ついた頃から。寝たっきりで、実質ラノバを育てたのは、フォルク・バードと呼ばれる。老賢者である。



フォルク・バードは、バード族の生まれである。バード族とは成人すると、その多くが、他部族の元で暮らしている。それには理由があるが……、全部族からは、ただ変わった一族だとの認識である。




バード族には、他の部族にはない。古代の民の知識があり。その祖は、白の民のハーフだったと言われていた。




バードの名を継いだ者には、忘れ去られた。古い伝承と、知識が伝えられる。そして……秘密を守る義務が生じた。それはバード族が、全部族の歴史を残す役目が、白の民に与えられていたから。未だに掟として、残されていた。だが他の部族とは違い。武勇を求めないバード族は、秘密を守るために。時に戦うことがある。16部族で唯一。独自の魔法を使う事が出来た。だから何時しか……、魔法使いの一族と呼ばれていた。長年フォルクは、ラノバ前族長である。プレイゼンの父の祖父の代から。支えていた人物だった。


……15年前━━。ケンタウルス族が、平原に。突然現れた……。夫のプラ、リブラ将軍からの進言を受け。レイナ宰相は、バード族の中でも。賢者と呼ばれていた。フォルクを呼んだ……、



だが……、首都アージンの総督府にやって来たフォルクは、何故か……、まだ幼いプレイゼンと。フォルクの弟子で。幼なじみのナルクの二人を連れて現れた。レオールの最高権力者であるレイナ・ホルトは、酷く驚いたと言う……。まさか幼子を連れて、現れるとは予想外だと驚いた。だが直ぐに違うと気が付いた。


フォルクはレイナや。集まっていた、長老逹の想像以上に。優秀で、また博識な人物であり、総督府に訪れた時には、既に……。ケンタウルスについて。文献をまとめた資料を持参していたのだ。フォルクの報告を聞き、また資料を見終えた後……。改めて大人しく、聞き耳を立てていた。プレイゼンに目が向いた。

「……貴方は確か……」

凛とした顔立ち、まだ物心付いたばかりの子供、そういった印象とは異なり。レイナが声を掛けるや。ぺこり頭を下げて、

「この度。ラノバ族長となりました。ラノバ・プレイゼンです。以前祖父を見舞われて頂き。感謝してますレイナ様」

ニッコリ屈託なく笑う一方で、ああ~なるほどと得心した。それよりもレイナが、注目したのは、声を掛けられるまで、口を開かなかった点。しっかり周囲を。場を見ていた節があり。また自分の考えで、挨拶を口にした点を高く評価した。優しい眼差しになって、微笑しながらプレイゼン注意深く見たら、何か勘違いさせたか、赤くなり照れ臭そうにはにかむ姿が、好印象だ。

「プレイゼン、ファランゼル殿は、ご健勝ですか?」

ちらりフォルクの様子を伺う。もしやあの老人が、何か合図を繰り出して、プレイゼンに言わせてる。可能性を考えたのだ。しかしフォルクは、ニヤニヤ意味ありげに笑っていた。改めてプレイゼンをみると。表情が曇り。見るからに配そうな顔をしてから。誰かに言わされたのではなく。自分で考え。答えてるのだと解って、内心驚いたと言う。


「レイナ様……、祖父は、あまり体調も良くなく。最近食が細まり。心配しております……、今回長老である祖父の名代として、フォルクに同行して参りました」

ニッコリ人好きする笑みを浮かべると。素の幼い顔が垣間見えた。レイナはプレイゼンに興味を抱き。様々な質問を投げ掛けるや。ハキハキ答える利発さ。また鋭い観点を持っていて、幼い子供とは思えない。意外な答えを聞いて、プレイゼンが自分の置かれてる。状況を的確に把握でき。また俯瞰ふかんで物が見れる。天才だと。一瞬で見抜いた。

「そうでしたわね……」

ラノバ族は、商人の一族であり。プレイゼンは幼いながら。族長の仕事をきちんとこなしてると。後に聞いて。益々好奇心を刺激された。

「私のことレイナさんか、レイナお姉ちゃんて、呼んでくれると嬉しいわね♪」

そう申し出ると。一瞬驚き、照れて赤くなったが、本当に嬉しそうに笑んだ瞬間。レイナは、プレイゼンを気に入っていた。

「はい!、……その……、レイナお姉ちゃん♪」

恥ずかしそうにしながらも。嬉しそうな顔が印象的だった。




━━それから……、レイナは、ラノバ族長プレイゼンを。アージンに屋敷を用意させ。手元に置いて、何かと目を掛けていた。裏表の無いプレイゼンの性格と。商人の族長ならではの抜け目なさが、混雑し魅力ある少年に成長して行った、レイナは実の弟のように可愛く思い。また豊かな才能の高さに。嬉しい驚きを感じた。



そう……、プレイゼンを。自分の後継者たる。次期宰相にと考えるのに。時間は掛からなかった━━。



しかし……、それを良しとしない者は多い……、それには深い理由もあった。最たる理由が、ラノバ族が、戦士の部族でないこと言う点を。問題視にしたのだ。だが一方で、商人として、様々な経験を培っていたラノバ族は、結束力も固く。利に対して、決して裏切ることはなかった。が、16部族の勇者、戦士からは、今まで軽視されていたのは仕方ないこと。



一方でレイナにとって、プレイゼンの祖父ファラゼル長老は、最初にレイナの後見人と、なってくれた恩義もある。今まで忘れたことはない感謝を抱いていた。またラノバ族の流通網がなくば、今のようなレオールの発展は無かっただろうと。国の未来を考えたら。武で名を馳せる者がトップに立つのではなく。情報と金こそが、力を持ち始めていた。その事に未だ気付いてないのは……、レオールの武勇に優れた5部族の戦士、勇者であろうか……、結果になるが、レイナは必然的にラノバ族に頼っていた。その結果━━多くの富をラノバに与え。またラノバは、レオールに莫大な財を与えた……。それを面白く思わなかったのが、

アブスト族含めた。クラブラ、ダラノフ、ジブロサの戦士の四部族。最後までレイナを宰相と認めなかった頑迷さを持っていたため。

遅参した形になり……。現在は莫大な利権から。外された地位に追いやられたと……。自分たちの見識の無さを棚にあげ。レイナや他の部族長のせいにしてる節があり……。度々問題を起こしていたのだ。



プレイゼンは、レイナの期待以上の働きをした。若いが優秀さを示したのだが……、武勇で、名を馳せた訳では無いため。レイナ以外の四人の族長。八人の長老から。侮蔑されていた。それはレイナ宰相とは違い。己の力を示してないから、武勇を重視する部族の者は、ラノバ族が国の実権を握ることを。認めていなかった……。所詮は頭だけの族長と。プレイゼンを軽視すらしていた。



だが……、僅か三年前……。ラノバ族は、自分たちの小さな村を整地。リゾート化に成功して、莫大な利益を得た。また様々な外交的効果をもたらせ。レオールの財政をになっていた。そんな背景もあり。少しずつ近隣の五部族から、豊かさを持って。信頼を勝ち得ていた。



━━現在。レオール連合は……、



内部的な問題。次期指導者の地位である。次期宰相を。誰に据えるのか……、後継者問題で揺れていた……。



━━候補の1人は、あの英雄の王の実父であり。自身も北大陸の危機を救った英雄であるリブラ将軍。推すのは……、レイナ宰相の夫。プラ・カードラを含めた。部族の垣根を越えた絆で、繋がっている。新世代と呼ばれ。戦士達から尊敬を集める。竜騎士達と。団長レダ・アソート、

副長イノワ・ミササ、

副長ロライド・セラ等。レオールの一翼を担いし。重鎮新たなる勢力である。


片やラノバ・プレイゼンを押すのは、ファルバス族長レイナ含めた。ラノバ族村があった。近隣の族長逹、利権の恩恵を得た長老達である。


最右力と黙される候補こそ━━。レイナと同じく。12部族の勇者と戦い。実力を示した。歴代最強の勇者と名高い。サザノーラ・アブスト族長である。彼は若者に絶大なる人気があった。彼を推すのが、戦士の部族と呼ばれる。

クラブラ族長ラタノーラ。

ダラノフ族長カナタ。

ジブロサ族長ブザノア、若長と呼ばれる。武闘派の四人は、幼少の頃から。切磋琢磨した間柄だ。現在この三大勢力による。政権争いが行われていた。だが………、リブラ将軍は、他国の人間である。実質プレイゼンとサザノーラ二人の争いと。黙されていた。




━━西平原のアブスト族の町━━。



平原とは……、戦士の部族にとって、聖地と呼ばれる神聖な地であり。古くから成人の儀式に使用されている。平原と呼ばれるが、大小の山々に囲まれた盆地であり。入り口があるのが、戦士の部族と呼ばれる。四部族が町を築いていた。



━━平原と呼ばれているが、北大陸のほぼ半分もある。広大な領域を指していて、神世の時代から存在すると言われていた。とても危険な地域であり。竜ですら近寄ることを躊躇うと。呼ばれるほど━━。しかも地域内には、危険な動植物。魔物。魔獣の生息圏であった……。



━━町の四方を囲むよう。城壁に守られていた。夜になると町の側まで魔物の群れが現れるため。戦士の部族の町は、城塞化されていた。町のほぼ中央の東。族長の屋敷はある。質素な佇まいだが、多くの戦士の姿が、時を惜しみ。鍛練に励む。訓練所が隣接していた。部下からタオルを受け取り、汗を拭いながら。尊大で、ふてぶてしい顔立ち。一見粗野な印象を与えるが、こと戦いになると恐ろしいまでの冷徹さで。勇猛果敢な武人。サザノーラは、部下達と訓練で汗を流した後であった。屋敷に戻り。鍛え上げられた裸体に、無数の傷が、歴戦の栄誉だと物語る。

「閣下」

突然音もなく。男が1人入って来た。一通の書状を受け取り。印象の無い男は、影のように消えていた。レオールに放っていた。間者からの報告に目を通して、突然目を細めていた。

「いかがなされた。若?」

サザノーラに気配さえ気付かせず、間合いに入れる者は、屋敷に二人だけ。1人は先ほどの影、もう1人の中年男をチラリ見下ろしていた。サザノーラは2m近い。恵まれた長身であり。鍛え上げているが、無駄な筋肉は付けてはいない。例えるならしなかやな。猫化の肉食獣を思わせる。サザノーラの軍師を自称する中年男が、顔色を伺うには、見上げなければならなかった。

「フン!、ザノバか……、英雄王の子息が、来日するとよ」

ニタリふてぶてしく笑うと、獲物を狙う肉食獣のようだ。

「それはまた……、利にさといラノバ族長が、動きますかな?」

「かもな……、それよりも」

こいつは楽しくて仕方がない。悪巧みを考えついたと。言わん笑みを浮かべていた。何よりサザノーラの気持ちを昂らせるのは、武勇で名を上げた者と対面するときだ。それは生まれながら武勇を好む。部族の生き方が、サザノーラの質で、子供の頃から身体も大きく。力も強く。自分の力に絶対なる自信を持っていた。だが……、



━━所詮は、部族内だけの話だと。思い知ったのだ……、



━━英雄オーラル。魔王ピアンザ、緑眼の騎士ギラム、オーダイ将軍、四人の真の英雄を前に……、


自信満々で赴き、衝撃を受け……、あまつさえ自分が、井の中の蛙だと思い知った……。


そう……、


四人を目にした瞬間。魂が震えた。中でも……オーラルを見た瞬間。直感した彼こそ。世界の王に相応しいと、彼に付いて、彼のために働きたいとさえ思い。強い憧れを抱いた……。

「あの英雄王が、長年倒せずにいた魔人王を。仮にも討ち取った若武者だ。是非とも仕合いたいものよな~……」

壮絶━━。そんな表現がピッタリはまる。覇気を纏うサザノーラに。ザノバは、恭しく頭を下げていた。

「いずれにせよ。ケンタウルス王が、お会いになると思われます。そこで……」

一計を。主君と仰ぐサザノーラに授けた。

「ほ~う。なるほどな……。皇子達は乗り合い馬車を使うな。そうなると……、レイナ宰相も動くか……」

最悪━━内戦になる可能性もあるが、上手くやれば……、計算高く。瞬く間に。ザノバの深謀を見抜いた上で、楽しげに笑っていた。



━━首都アージン、郊外にある。レイナ・フォルトの屋敷。


「だあ~だあ~」幼子が母を見つけて、満面の笑みで、トコトコ走りより。母の膝に抱き着いた。キラキラした目でせがまれ。クスクス愛しそうに微笑み。抱き上げた女性は、僅かにピンクかかった髪をしていた。ファルバス族の女性ならではの特徴で、自分の力を正しく使える技量を得ると。髪は本来の色に戻るとされる。レイナは生まれつき金髪だったが、魔力が強かったため。バード族の秘術により魔力の封印の儀を受けた。その後遺で、ピンク掛かった髪色になっていた。

「アシュ~ただいま~♪」

子供特有のミルクのような、甘やかな香りの汗と。高い体温を感じながら。息子の胸に顔を埋める。

「くちゅくたい♪」可愛らし声をあげ。楽しげにはしゃぐ。

「ん~元気にしてましたか~」

「は~い。あしゅ~げんきでしゅた」

ハキハキ答えるアシュは、祖母のように慕うララ大司教様の孤児院で、毎日預かってもらってるからか。友達と毎日仲良く遊んでると。一生懸命教えてくれる。

「そう~良かったわねアシュ♪」

「うん♪」

愛する息子と。ずっと一緒にいられないのは寂しく。またアシュにも申し訳ないと感じてはいた。だからララ大司教様の申し出を受けて、本当に良かったと。笑みを深めた。

「アシュ~今日は。お父さん、いっぱい遊んでくれたのかな?」


「うん~、いっぱいいっ~ぱいおかけこすたよ~。いまねオネンネしちゃったの~」可愛らしく。小首を傾げたて、大好きな母に訴えた。ん~それは仕方ないだろうと、吹き出していた。夫のプラも政務で普段忙しく。アシュと遊んであげれないから。休みの今日は、朝から張り切っていたし、孤児院主催の運動会に参加したことは。レイナも知っていた。プラが大活躍だったことも噂になるくらいだ。本当はレイナだって参加したかったが、政務が忙しく。また様々な事で、国内は揺れていて、私的な事では、早々抜け出せずにいた。

「本当……、プラ達が、第三勢力になってくれたから……」

レオールは、真っ二つにならずに済んでいた。噂ではリブラ将軍の入れ知恵とか……、短絡的な夫には、思い付かない策略だ。無論夫にも感謝はしてる……、私達のためにリブラ将軍は、厳しい立場に立たされていた。

「でも……、良いときに来てくれるわね。不思議な巡り合わせだわ」

クスクス小さく微笑むと。

「シンクには、悪いけど……」

今しばらく。北大陸の平和を保つには、サザノーラの鼻っ柱を。へし折る必要があった。今彼にそれが出来るのは……、悔しが、レイナが認めたプレイゼンでは無理だ。そんなこと。オーラルが知らない筈が無いのに……。

「オー君たら……、君はそこまで、息子を信じてるのね……」

ならば自分も信じれる。若き英雄たる。彼の才覚に……、

武力馬鹿サザノーラと。優し過ぎる財務の天才プレイゼンは、彼と出会い。どうなるかしらね……」

予想すら出来ない。だけど不安よりも。好奇心の方が勝っていた。




━━北大陸。ターミナルの街━━。



セナの案内で、16部族の一つアロンド族が営む。土竜乗り合い馬車の運行署に顔を出した。

「シンク様。北大陸には、16部族が居るのは知ってますね?」

「うん、連合だったね?」

「はい、それ以前から全ての町、村に乗りい馬車の運行署があったのですが、今ほど大規模な物ではありませんでした」現在は、主に軍所属の竜や、セナの乗って来た土竜等、各市町村で預かるサービスが、開設されていたが、それは中央大陸事件後の事で、今のように全部族が、手を携える事はなかった……。現在は部族間の交流も盛んで、別大陸からの旅人を受け入れていた。その関係もあり。乗り合い馬車を使う旅人が年々増えて、比較的安全である。乗り合い馬車が好まれ。現在のように土竜ギルドとは違う。アロンド族が運営する。乗り合い土竜馬車が、一般的となった。運行署の場所を知ることは、北大陸を旅する者に。必須いと言えた。



レオール軍。土竜輸送所属の土竜二匹を連れて、戻ってきたセナは。馬車とは少し造りの違っていた。縦二頭土竜を並べる。変わった造りの馬車に繋げていた。

「おいセナ?どうして。二頭も土竜がいる?。それに縦繋ぎとか?」理由が解らず。戸惑いを浮かべるラシカ。

「ラシカさん。それはこの子達が、一匹づつだと非力で、一匹だと全く走らないんですよ」

「はっ?、だってこいつら土竜だろ。地上を走るんだろ?」意味が分からないと。首を傾げる。さもありなん。セナだって、土竜は一匹で、走る物だと思っていたからだ。

「地下を走る土竜と違い。地上を走る土竜逹は、仲間と協力して走る。集団行動する生き物なんですよ」

カルチャーショックとも言うべきか……。驚きの事実を前置きして説明するや、ラシカは目をキラキラさせて、土竜逹を構う。

「へえ~。お前達は仲間と協力して走るのかい?」嬉しそうに鳴いた土竜逹も。ラシカを気に入ったようだ。

「流石ね~ラシカ♪」

ミネラが妙な感心していた。

「こいつらには、それぞれ役目があるんですよ」

セナから土竜逹が、16ある都市に。自然と向かう習性があること。また訓練された土竜逹の習性を利用して、乗り合い馬車は、運行されていることで。比較的安全であることと聞いて感心した。二匹はラシカに興味を抱いたようで、頻りに右手の匂いを嗅いでいた。

「へえ~あんた達も鼻が利くんだね。こいつはわたしの相棒のさ。よろしくな」二匹は同時に返事をしていた。

「シンク様~手荷物お忘れですよ」カメザ、カメローがうんしょうんしょと。小さくピョンピョン跳びながら。一苦労して。シンク愛用のリックを運んできてくれたようだ。セナが目を丸くして、

「トリトン族!」

物珍しさに。人々も驚きの顔をしていた。

「ありがとうカメザ、カメロー」

シンクに抱き着いた二匹が、あまりにも可愛らしいお目めキラキラさせながら。嬉しそうにしてるから。なんだか微笑ましく見える。だからではないが、自然と人々の注目を集めていた。

「リブラ将軍もお待ちです。シンク様、早速出発いたしましょうか」

「そうだねセナ。クルミ、ローザ」

二人を促せば、嬉しそうに微笑み。小さく頷き返していた。 三人と、ミネラが馬車に乗り込み。ラシカは、弟子と久しぶりに話がしたいからと、御者台に同席した。

「それ!」

二匹を繋いでる手綱をしごいた。手綱はそれぞれ。土竜に繋がっているが、通常の馬と。土竜は扱いが違う。鞭を使って、土竜に直接合図は送られない。何故ならば地上を走る土竜は、皮脂が分厚く。土竜が気付かないからだ。それに馬のように合図したりしたら。驚いて逃げてしまう。だから創意工夫して、手綱を左手前に強く引くと。先頭の土竜の後ろ足を。伸縮性のある手綱がタワンで、軽く触れるような。特殊な素材が使われていた。この合図で、先頭の土竜がゆっくり前進する。また次に。右の手前を軽く引くと。後ろの土竜の足に触れるよう手綱は、加工されていた。この合図は、徐々にスピードアップである。地上を走る土竜は初速が遅く。一匹では非力だ、だから土竜に急がせるには、二匹以上が力を合わせる。その現象を目にして。ラシカは目を丸くした。仲間の尻尾を食わえる姿が、なんだか微笑ましい。お互いの動きに連動させ始めた。



連動行為で。力を合わせる地上の土竜の歯は、鋭い物ではない。またしっぽの皮膚は硬く。分厚いこと聞いて。終始目をキラキラさせる。実の姉のように慕う。ラシカと話しながら。ゆっくり土竜馬車は走り出した。



━━ガクンと多少の圧を残し。緩やかに。徐々にスピードを上げていった。




晴天の下を走り抜ると。心地よい風と。景色がめぐるましく流れ、体感的にとても早いと感じる。シンクは皆のため。窓枠を少しだけ引き下げる。すると……今が初夏である。北大陸は、程よい夏の陽気で、キラキラ緑が輝いて見えた。また温かな風が頬を撫でる気持ちよさに。皆の頬が緩んでた。シンクはハッとしていた。

「クルミ、ローザ……、水着って……、持って来てる?」

二人を伺うと。揃って首を振る。しまった……、

「来週末爺ちゃん逹と。リゾート地に行くことが決まってたの。言い忘れてた。ごめん……」

ばつが悪そうに頭を下げていた。だが二人同時に。少し困ったように。でも気恥ずかしくなり。頬を赤くした。微笑ましい二人の様子を横目に。ミネラも楽しそうに笑っていた。



シンク達の他愛ない会話を楽しみながら。流れる風景をとりとめなく眺め。間もなく訪れる。人生最大のピンチ……、どう切り抜けるか……、頭の痛い話に。小さく嘆息していた。




━━南ターミナルの街から。首都アージンまで、土竜馬車で、僅か半日で到着した。



意外なことに。地上を走る土竜は、一度スピードに乗ると。快適でとても早く。普通の馬車なら。2日は掛かる道乗りを。休むことなく半日で走破するのだから、土竜馬車が流通するのも納得である。



━━街の入り口にある税関で、街に入る手続きを済ませてから。土竜馬車は一度、外壁側から街に入り。土竜馬車は乗り合いターミナルに集まり。旅人は降りるとのこと。



そこには理由もあった。近年旅人が増えた。その影響ではないが、首都アージンでは、各都市の中継地でもあるため。毎日数万人もの旅人や、流通の商人が、土竜馬車を使う。流石に全てを細かく調べるのは不可能で、混雑を生んだ。そこでプレイゼンの案により。外壁を作り。街入り口の税関で受け付け。一定の税を納めれば。土竜馬車を乗り継ぐ事が許されるようになった。またターミナルから。街に入らずとも。旅人用の宿屋や飲食街が作られ。一夜休み街を出るのが、楽な政策を行った。すると毎日混雑を極めた税関は、混雑が緩和され。また税収入まで増えて、一石二鳥と良い結果をもたらせていた。



さらにプレイゼンは、首都に入る税を、かなり安くしていた。それには理由があった。

「流通網が、発達してる北大陸では、毎日同じ土竜馬車が、街に入るから、税を重くするとアロンド族に。負担が掛かりすぎ、また旅人が少なくなるのを懸念してのことでした」

竜騎士団に在籍してるセナだが、中央大陸では、重鎮の子息。民の生活をとても気にしていた。



やがて……、セナの操る土竜馬車は、外壁から、右手に。巨大なターミナルが、遠目に見えてきた……。



━━その日……、日も登らぬ早朝から、北大陸アレイ教の大司教の職にある。ララ大司教は、そわそわしながら土竜馬車が見える度に百面相を繰り返す。馬車から降りる。旅人はきょとんとするが、アレイ教徒の多い首都アージンでは、どうしたのかと注目を集めていた。



何れくらい、やきもきしていたのだろうか?、日がだいぶ高くなる頃……、また一台の土竜馬車が、ターミナルに入って来たので、ララは御者をする。二人に目を向け。優しい顔を。にっこり綻ばせていた。

ターミナルの停車場では、次々に停車する土竜馬車の為に。見習いが、ひっきりなしに土竜の世話をするため。速足で現れるのだが、セナの土竜馬車は、レオール軍所属を示す特別な物で、見習いではなく、一人前の土竜御者が、太い腕を示すように。腕捲りなどしていた。やがて……、セナの操る。土竜馬車は、停車場にゆっくり停止させると、セナに話し掛け。にこやかに話が纏まり。馬車から土竜を外し始めるなか、馬車から。孫のシンクが降りて来るのを認め。満面の笑みを深めた。「シンク!」

今日来るのは分かってた……。家でじっと待つなんて、とてもじゃないが出来っこなかった。ララには珍しく。リブラに内緒で、乗り合い馬車のターミナルまで、出迎えに来ていたのだ。

「ララ婆ちゃん!」 ララに気が付いたシンクは、目を輝かせ手を振りながら、急いで馬車から飛び降りるや。走り出した様子に。二人は苦笑を忍ばせた。

「……まったく私達の王子様は」

ラシカが苦笑すれば、シンクの後に降りたミネラが、クルミ。ローザが降りるのに手を貸しながら、無邪気に走ってく姿に。目を細めながら、それも仕方ないのだと思っていた。




ララ大司教は、孫の姿に。それはそれは嬉しそうな、幸せそうな顔をしていた。だから人々は、お孫さんが来られたのだな……、そう思い。誰もが首を傾げていた。そう……、ララ大司教が、一歩踏み出そうとした時のように。誰もが思い出して、ハッと息を飲んだ瞬間だった。



━━モウモウと土煙を上げて、凄まじいスピードで馬を駆り。まるで狙い済ましたタイミングで、シンクとララの視界を遮るように。豪奢な馬車が、ララの前に現れ止まった。呆気にとられたララは、いきなり扉が開き、屈強な男逹に。いきなり腕を捕まれた。

「なっ!、貴方達。何者です」

ララ大司教が、一瞬の間に。馬車に引き込まれようとした瞬間。誰もが息を飲み。悲鳴を上げた。

『シンク……、我の力を使え……』

右腕のラケルから声が聞こえてきた。ラケルとは、竜王プライムの竜鱗と、牙から骨格が作られた。竜王と同じ風属性の風竜である。最早ラケルを使うことに。迷いはなかった。

「ラケル!、竜の強化」

『承知。竜の息吹き』

ラケルは、嬉しそうな思念で、シンクの願いを聞き届け。一瞬で、強大な魔力が収束。魔法として放たれるや。シンクの全身に竜の魔力が駆け巡った。その間僅か、瞬き二度程度のこと。人間には不可能な魔法構築スピードである。


━━竜の肉体強化魔法=とは、高等複合強化魔法と同じ。効果を発揮する魔法だが、一般的な魔法と。竜の魔法とでは、根本的な魔力の質と量が、違いすぎた。


まず竜は、人間より遥かに頑強なこと。竜の魔法は、無属性に分類されるため。とてつもない破壊力を秘めている……、人間が、竜の魔法を使うには、多くの制約が存在する。今使った竜の息吹き等は、強大過ぎる竜の魔力だからこそ、時の制約すら。解き放たれる……。


━━知ある竜には、物理的制約が存在しないと。言われていた。



一見。良いことだらけに思われる竜の魔法だが……、

人間である。シンクが、竜の魔法を使えば、恐ろしい勢いで、魔力と精神力、さらには体力を消耗する。



その為━━。



人間が、竜の魔法を使うには、時間の制約が存在する。肉体強化魔法ならば、その時間。僅か15秒━━。



………周りから見れば、突然シンクが消えたようにしか見えなかったろう……。竜の肉体強化魔法使ってる間は、脳内のリミッターが外れる。

その為━━。

時間的感覚は、15秒以上━━。数倍になる。おおよそ数分ほどに感じるのだ。シンクから見れば、周りは、スローモーションである。



閃光の如く。馬車に回り込んだシンクは、

「風竜のブレス」『承知』

右腕で、馬車を凪ぎ払った、それだけで……、暴風に襲われたように。

馬車だけを破壊していた━━。

祖母を拐おうとした、男達が、破壊されは馬車と共に。宙に浮いたのを認め。

「クエト捕縛!」

『おう!』

左足から凄まじい魔力が、大地に広がり。男達は、蔦に捕縛され。瞬く間に簀巻きにされていった。

「きっ……」

まさに悲鳴を上げ掛けた。ララ大司教は、シンクに抱き止められ。言葉を失った瞬間……、竜の強化魔法が消えた。



クルミ、ローザの二人は。愛するシンクの後を……、追いかけんが為。走り出した瞬間。数度の瞬きをした。

「えっ?」

次の瞬間、馬車が破壊され。路上に縛られた。男達が転がされていた……。



一体……、何が起こったのか、まるで理解出来なかった……、だけどシンクの厳しい眼差しから。シンクが、何らの方法を使って、ララ大司教を助けたのだと理解していた。

ミネラとラシカには、何となく覚えがあった。

「ミネラ……、あれってもしかして?」

「ええ……恐らくね」

ゴクリ二人は、二人目の竜の魔法使いである。シンクに驚愕していた。セラはと言うと、何が起こったか理解出来ず。顔を強張らせていた……。



それは、ララを拐おうとした男達。さらには、それを命じた男にとっても。まさに予想外な結果であり。顔を強張らせていた人々を。凍りつかせるに十分だった。間近でシンクを見た人々は、彼を怒らせてはならない。強く思わせた出来である。

「ララ婆ちゃん。大丈夫?」

祖母を心配する声音。優しい眼差しに。誰もがホッとした。

「えっええ……」

自分の身に。一体何が起こったか?……、理解はしてないが、見上げたシンクの厳しい顔を見て。孫のシンクが助けてくれたことを理解する。



通りの反対側。オープンカフェで、一部始終見ていた、サザノーラ・アブストは、我が目を疑い。何が起こったのか理解出来ずにいた。

「サザノーラ族長……、一体何が……」サザノーラの軍師を自嘲するザノバとて、それは同じであり顔を青ざめさせていた。

「何が起こったのか分からねえな……、だがよ魔法の類いなら。可能ではないかの?」

ふてぶてしい顔に。少しずつ自信を取り戻したザノバを、ハッと見やる。確かに……ザノバには、数多の知識があり。気が付いた。

「肉体強化の複合魔法ならば、可能かと……」

「……成る程な……」

小さく嘆息していた。やがて厳しい顔で、腕を組み合わせ。低い声で唸る。サザノーラを伺いながら。ザノバは厳しい顔で、シンク皇子を見ていた。この一連の出来事は……、全くの予想外であった……、ザノバの策はこうだ。目的地到着で、気を抜いてるシンク皇子の目の前で、ララ大司教か、同行者を拐うこと。後の世で……、覇王サザノーラ・アブスト、生涯の敵となる。シンク・ハウチューデンとのファーストコンタクトであった。




ターミナルにいた旅人は勿論。ララ大司教を知ってる人々は騒然とした。急に辺りが騒がしくなりだした。ここに要るのは、流石に不味いと判断した。不敵な笑みをシンクに向けながら。サザノーラは悠然と立ち去っていった。




━━時間は少し戻る。



官邸に足を運ぶ。ラノバ・プレイゼンは足早に。宰相レイナ・ホルトの元に急いだ。それには理由があった……。ラノバの育ての親であり。勉学の師でもある。フォルクからの急使を受けて。サザノーラのキナ臭い動きを察知したと言う。プレイゼンは嫌な予感がして、レイナに報せに来たのだ。一報を受けた瞬間。レイナの顔色が変わった。

「ゼン!。至急動ける兵を連れて。乗り合い馬車停留所に急いで。今日シンク皇子がいらっしゃいます」

サッと血の気が引いてくのが、自分でも分かった。

「はっ、はい!」

慌てて、出ていったプレイゼンに。一言付け足すのを躊躇い。まあ~直接会えば分かるかと。嘆息していた。




━━時間は戻る。


10人の兵士を連れて、ラノバ・プレイゼンの幼なじみにして、護衛隊長を勤めるリオナと。彼女の弟で同じく護衛隊長のカノアが、ようやく騒ぎの現場に現れたのは……、全てが終わった、直後だった。



「これは……、何があったのかしら?」

やや呆然とバラバラに壊された。豪華な馬車を認めて、顔色が変わる。よく見れば残骸の側に。すっかり萎縮してる四人の強面の男達。傍らにいる。鋭い眼差しをした少年に。睨まれて、男達はガタガタ震えていた。

「姉貴あれ……」

「ええ。彼が恐らく……、シンク皇子でしょうね……」

纏う空気とでも言うか……、別物だと感じた。それと少年の傍らに立ってる。あの初老の女性に。見覚えがあった。何があったか分からないが……、全て見ていた町の人々から。同行していたラノバの護衛兵が、話を聞き回る。直ぐに情報がリオナの元に集まった。どうやらあの男逹は、ララ大司教様を。シンク皇子の目の前で、拐おうとしたと……、これには呆れよりも。護衛兵達の顔色が変わっていた。今やララ大司教様は、大陸中の人々から、尊敬を集める聖女様と崇められていたからだ。さらに街に住む人々にとって。ララ大司教様の善行は、有名である。



今まで、親を亡くし身寄りの無い子供逹は、市町村に住む。親戚や村で面倒を見てたのだが……、それをララ大司教様が集めて。孤児院を建設なされた。子供逹に新しい家と、家族を与えてくれた。あの誰にも優しい人柄。分け隔てなく接する。慈愛いの心。それ故にララ大司教様を。拐おうとした。不届き者を取り巻く民の顔は険しい……。

「シンク様~」

「シンク様、ご無事ですか!」

ぴょんぴょん跳ねながら。北大陸では、大変珍しい亜人の子供たちだろうか?、はしっとシンク皇子に抱き着いていた。

「……大丈夫だよ。ありがとうカメザ、カメロー」

お目めパッチリ。亀に似た亜人逹は、安堵の顔をした。そんな可愛らしい従者を連れた少年から。リオナ、カノア姉弟は、目が離せずにいた。

「あら?、貴女は確か、リオナさんでしたわね?」

こちらに急ぎ来る。二人に気が付いたララは、優しい眼差しで会釈した。ハッ慌てた姉弟が、頭を下げた。姉弟の背後に兵士数名が従い、頭を下げて。

「ララ様。遅くなり申し訳ありません、ですが……、ご無事で何よりでした……」

ちらりシンクを伺うが、皇子は何やら深く考え込んでる様子……、声を掛けるのが、躊躇われた。

「こらシンク!、詳しい説明が必要です。貴方が気付いたこと。このリオナさん達に。教えて差し上げなさい」

突然ではあるが、大変な事件に。巻き込まれそうになったララ様。だが気丈に振る舞われ。お茶目に片目を瞑り、ウインクしてきた。思わず同じ女性として、ララ様の強さに驚きと、優しさに感謝を示した。

「あっゴメン。ララ婆ちゃん。失礼しました。話は構いませんが……、僕らの同行者には、女性がいます。休める場所に案内して下さると。嬉しいのですが?」リオナもハッとした。よくよく辺りを伺えば、騒ぎが大きくなっていて、周りの目もある。更に不安そうに。自分と変わらぬ年齢二人の少女と、シンク皇子の護衛か?、腕の立ちそうな二人の女性と……、

「セナさん?」

声を掛けられたセナは、ばつが悪そうな顔をして頭を掻いていた。咄嗟の事で、ラシカ、ミネラ同様。見物人に成り果てていたセナ・ホウリは、姉弟とたまに訓練を供にする。知り合いである。

「ここからでしたら……、我々の屋敷が近いです。そちらの方でよろしいでしょうか?」

シンクより少し年下になるが、仏頂面で、提案したのは、リオナの弟で、カノア・サレスタである。


━━ラノバ族の多くは、商人として生活をするのだが、子供の頃から、剣と弓の訓練しており、二人は武勇に優れた素質があって。リオナは弓、カノアは剣のかなりの使い手と自負していた。二人はラノバ族長の護衛隊長を任じられた程の腕前である。



━━シンク達を改めて、プレイゼンの屋敷に案内する道すがら。姉弟があの場に訪れた理由から語った。

「レイナ様の……」

困った顔をするララ様は、やんわりと。

「あの子も大変だから……」

まるで娘を心配する。口調のララに、シンクは首を傾げ。姉弟は見合い苦笑していた。あまり知られてはいないが、レイナ様は、時折子息のアシュを連れて、ララ様と過ごしてることは、姉弟とプレイゼンだけの秘密である。

「シンク皇子、改めてまして、私達はラノバ族長護衛隊長を勤めてる。リオナ・サレスタ、こっちは弟のカノア・サレスタです」

姉についで、ぺこりお辞儀はするが、無愛想は変わらない。そうした性格なのだと頷いた。

「僕のことは知ってるようですから、挨拶は、この場ではしょります」

「あっ、はい……」

やたら不機嫌そうな顔をしてる。女性二人が気になったが、今は状況を聞く方が先である。

「あの男達から。何か聞き出せましたか?」

詳しい話をする前に。それだけは聞きたかった。

「いえ……それが…」

言い難そうな顔をしていた。なるほどと小さく頷いた。




姉弟に案内された、プレイゼンの屋敷のサロンで、シンクは改めて話を聞かれ、なるべく詳しく思いだしながら。語り出した。

「彼等は、僕が乗り合い馬車で現れた。時を見計らっていましたね。多分ですが祖母、または同行者の誰かを。拐えと。金で雇われただけの人でしたか?」

あの僅かな移動の間で、そこまで考え見抜かれたかと、リオナは驚いた。

「はっはい、報告によればシンク皇子の御明察の通りです」いきなり核心から、事件の完結まで導きだされ。言われたらこちらとしては、何も言えなくなる。まさか……それを見越して?、疑問を抱くリオナを。正面から見据えてるようで、シンクの頭の中では、北大陸の情勢が、細かく篩に掛けられてるとは、思いも知らない。

「リオナさん。今回の事件……、簡潔に言えば、彼等は、恐らく僕の実力を知るために。使われた。捨てゴマだったと考えてます」

姉弟は、目線をちらり合わせていた。

「なぜ……」

リオナが質問を発する前に。シンクから凄まじい圧力を受け。口をつぐんでいた。

「先に謝らせて頂きます。すみませんリオナさん、僕は二人を観察させて頂いてました。それからララ婆ちゃんのレイナ様に対する。親しみの言葉から、僕の推測ですが」

いきなり皇子の様子が、ガラリと変わっていた。二人は居心地悪そうな顔をして。戸惑いが浮かぶ、「レイナ様は、僕か、祖母に。危険が迫っていたか、その可能性を察知したのですね?」

まともに顔色が変わったミネラ、ラシカが、何か言いたそうな顔をしたが、視線で留めた。

「理由は解りませんが……、レイナ宰相は、普通の兵に。事件を任せる訳にはならない。政治的問題があった……、貴女達。もしくは貴女方の族長が、レイナ宰相の同盟者か、信頼出来る人物だったから、僕の護衛に動かしたと考えてます」

姉弟は、ゾクリとした。もしかして……、あの時なにやら考えていたのは、このことを?、そして……自分たちの僅かな所作、対応を見られていたのだと理解して……、二人は冷や汗が止まらなくなっていた。

「あっ……、あの……」シンクの鋭い眼光に、気圧され、リオナが青ざめた瞬間だった。

「シンク?、いくら私のことが心配だったからと、二人を責めてはダメですよ?」

緊迫した空気を、温め抱きしめるように。やんわりララ大司教様に言われて。シンクはハッとした顔をして、ばつが悪そうに項垂れるや。今まであった。世界を支配するような。重く冷たい空気が霧散していた。

「……ごめん、ララ婆ちゃん……」

圧迫感が消えたと。ほっと安堵した姉弟に。シンクは素直に頭を下げていた。

「責める口調になってしまい。申し訳ありません。貴女方のことを知るため。少し無理をしました……」

ただ二人は、戸惑いを浮かべていた。仮にも一国の皇子が、一介の将兵に頭を下げるなど……、聞いたことがなかった。

「さあさあ~~辛気くさい話はやめて、そちらの皆さんのこと。私に紹介してくださいねシンク」

ララの眼差しで、シンクが、わざと同行者を紹介しなかった理由を知ってるわよ?、大丈夫と言われた気がして、小さく頷いた。

「ララ婆ちゃん、ミネラさんと、ラシカ姉さんとは、中央大陸で会ってるよね」

「ええ。ミネラさんその節は、うちの人とお世話になりました」

ララに頭を下げられて。慌てたのはミネラである。相手は尊敬してるリブラ様の……。

「此方こそ。リブラ様には、竜騎士のいろはを教えて頂いた私の師です。此方こそお世話になっております……」オヤッて首を傾げた。姉弟のために。ララが代表して、柔らかく教えていた。

「リオナさん。ミネラさんは、レイナ様と同じく。ファルバス族の産まれでして、女性二人目の竜騎士でもあり、孫の竜騎士としての師でもあるのよ♪」

思わずミネラは、嬉しさのあまり感動していた。尊敬してやまないリブラ将軍の奥方に。そんなこと言われて、照れない方が可笑しい位だ。姉弟は驚いたようだが、なるほどと頷いた。

「こちらのラシカさんは、シンクの義姉ですわ」

ラシカは目を丸くして、今まで不機嫌そうな顔が一変。真っ赤になっていた。だが驚いたのはリオナである。

「確か……、シンク皇子には……」「はい、まだ内々の話でしたので、正式に発表されてませんが……、ラシカ義姉さんは、我が父。オーラルの養女になります。それゆえ内密にしなければならない話でした」

シンクの眼差しで、それとなく先ほどの事と符号して、なるほどと小さく嘆息していた。ララ様が、気を利かせてくれていなければ、私達は知ることはなかった可能性もある。ララ様の気遣いにより話していただけたと……。先ほどのはそうしたやり取りだったのか……、思わず座り直し。悩ましげな顔をしていた。

「それだけではありませんよ。彼女達を紹介したら、場合によれば、国際問題になりかねないので、あえて紹介しませんでした」

しまった……、表情を読まれたか……、まだ政務に慣れていない為の失態。唇を噛みながら。

「……それはいったいどういった。理由からですか?」

こうまで言われたら、聞かねばならない。今後のこと考えたら……。佇まいを直した。

「そうですか……」

半分諦め。少し離れたテーブルにいた。不安そうな顔の二人の少女の手を。それぞれ取り。立たせて、まずはララ様の前に連れて行った。理由は直ぐに解った。

「彼女達は、いずれ僕の妻になる。クルミ・アルタイル、ローザ・リナイゼフさんです。ララ婆ちゃん」

驚いたのは、リオナ姉弟だけではなかった。目を丸くしたララ様が、

「まあ~、本当に?」喜色満面に。嬉しそうに笑って、ララが立ち上がるのを。ローザが、咄嗟に手伝い、クルミの前に連れてく然り気無い優しさに。ララは好ましく微笑み。お礼をのべると。照れくさそうにはにかみながら、クルミの隣にローザは並んでいた。


二人のそれぞれお顔を拝見するララ。真っ直ぐ見つめ返したのは、優しい一面と気遣いの細やかさを見せたローザで、赤くなって見るからに。可愛らしい風貌のクルミは、揃って恥ずかしそうに頷いていた。

「……まさか、アルタイルって……」

絶句して。みるみるリオナの顔から。血の気がひいていた。

「まあ~貴女は、ミザイナ様の」

「はっ、はい」

やや緊張したクルミの栗色の髪を見て、頬を緩ませる。

「ジンベイ王に、お髪が似られたのですね」

父を知る人は、大概髪の話をされるから、クルミとしては困ったような。嬉しいような。複雑な顔をした。

「ローザさん初めまして、シンクの祖母ララ・ハウチューデンですわ」

「はっ、はじめまして。ローザ・リナイゼフと申します」

慌てて頭を下げた。ララは好ましく微笑み。二人を直ぐに気に入った様子だ。

「私達にはもう……、手に負えないわ……」

「急ぎ、フォルク様に……」

「そうね……、カノア頼めるかしら」

「わかった」

音もなく。カノアが席を立って、部屋を後にしたのだが……、シンク皇子、クルミ様、ローザは、しっかりカノアが、部屋を出て行くのを見られていた。その瞬間……、皇子だけてなく。次期王妃となる二人も。ただ者で無いのだと理解していた。



よりにもよって……、剣の国ファレイナ公国の姫様とは……、皇子の言われた。国際問題になるも。あながち冗談ではなくなっていた……。これでララ様が拐われて。誰か怪我でもしてたら……。そう考えただけで、冷や汗が止まらない。



━━カノアが気を利かせ、レイナ宰相に使者を立てていた。これによりララ大司教拐かしの一報と、シンク皇子の同行者について、詳しく知らされたレイナは、騒然としたのは、言うまでもない……、



カノアは急ぎ、町外れに住まう。フォルクの家宅に向かった……、

姉弟が何故、族長のプレイゼンではなく。フォルクに知らせに走ったか……、彼は16部族の歴史を記した。北大陸の全ての歴史を受け継ぐ。魔法使い一族と呼ばれる。バード族であり。若きプレイゼンを育て、導いた。養父でもあった。立場上ラノバ族長の後見人だからだ。様々な国々の情勢にも詳しく。政治にも造詣があった。レイナ宰相に請われて。仕方なく首都アージンで暮らしていた。



本当は……、もっと大きな屋敷を用意されたが、かなり不精な老魔法使いは、弟子と二人で住むには、これで足りると、一般的な小さな家宅を選んだ。カノアは無遠慮に。ノックすらせず。ズカズカ家の中に入るや、スゲー嫌そうな顔をした。

「また姉さんに。掃除を頼まなきゃな……」

足の踏み場もない。様々な物が散乱してる玄関。主に古い本で、貴重な本もあるのだが……、この家に住む住人に、掃除、片付けと言う言葉はない。普段仏頂面しか浮かべない顔に。珍しく。仕方なさそうな。諦めの素の表情を浮かべ。嘆息していた。

「あれ~カノア。おはよう~」

二部屋あるのだが、玄関に近い部屋に寝泊まりしてるのは、フォルクの弟子で、養子であるナルク・バード、カノアの幼なじみでもある。ボサボサの髪は、いつ櫛を通したのか……、なんの染みか、分からないがそんなローブを。平気で着れることが、本当に信じられない。ナルクのズボラさと。無神経さが分かる。

「姉さんからフォルク様に、急ぎ知らせを伝えに来たのだけど……」

「ん?、師匠に……、多分部屋に居るけど……、呼んでこようか?」

ちらり家の奥を伺い。カノアの性格を知ってるからの提案だが……、諦め顔のまま首を振っていた。



━━カノアが、家の奥に向かうのを見送ったナルクは、本当に人が住んでるのか?、疑問を抱くような通路を見ながら。もう一眠りするか、悩みながらも。それは叶わないなと諦め欠伸を噛み殺す。

フォルクの家宅を訪れた者は、例外なく。通称ダンジョンと呼ばれる。理由を思い知る。数千万冊はある。蔵書の迷宮を、かき分け、また泳ぐようにして、先に進み。玄関から━━、昔はキッチン(半月前は、姉に発掘された)の。服に付いた無数の埃に、辟易しながら、ようやくフォルクの巣と呼ばれる。部屋の前に着いたのは、フォルクの家宅に入ってから、一時間後のこと。半分諦めたとはいえ。苛立ちを深呼吸で沈め。一応声を掛けた。

「フォルク様!、いらっしゃいますか?」

……………………………………………… ……………………………………………… ……………………………………………… ………………………………………………。パサリ……、



━━本を捲る音が微かに聞こえた。

「開けます」

意を決めて、えいやって。扉を一気に開けた瞬間には、カノアは、素早く後ろに跳んでいた━━。

━━ザッザバー!



唸りを上げて、扉の前に置かれていた。大量の蔵書が、崩れた音である。下手に扉を開けたまま居たら……。蔵書の波に飲まれたはずである。かつて……姉弟で、一度お茶をしたことのある。テーブルに乗って、助かったと吐息をついて。嫌な汗を拭いながら。ようやく問題の部屋の中が見えた。



━━部屋の奥、窓際にある。机の前に陣取てる。家主の背があった……。


━━猫背の小柄な老人は、白くなった髪を。束ね後ろに流し。長襦袢ながじゅばんを羽織っているが、食い入るように書を捲ることを止めない。このままでは何時までたっても。カノアが来たことにすら。気付かないのは、理解していた。一度知識欲にのめり込むとフォルクは、寝食を忘れてしまう悪癖があった。半分諦めて。

「フォルク様!」

強く声を掛けられ。ようやく本を捲る音が止んだ。

「ん?、なんじゃ。もう朝飯かの~」

惚けたことを言った老人に。ずっこけそうになりながら。小さく溜め息を吐いていた。



━━空腹を訴えたフォルクと、ナルクのため。持参したサンドイッチ(念のため購入していた)を食べさせる間に。事件の全容を聞かせた。「ほうほう……、その皇子。なかなかの人物じゃな、それに……絶対に敵にしてはならないの~」

満腹になって、ようやく頭の回転を始めたのか、飄々とした顔。キラキラした好奇心丸出しの目をして、厳しく目を細めた。食事の最中もフォルクは、カノアが判る範囲を。せっつくように質問をしていた。そんなフォルクの性格を知るカノアは、仕方なく。なるべく詳しく話せるように。思い出しながら答えた。どれくらいそうしていたか、しばらくニタリと笑い。厳しい眼差しながら。愉しげな顔をして、そう結論付けたのだ。



はてさてカノアとナルク顔を見合せ。大層驚いていた。何せフォルクは面白い程。人間に興味を抱かない、自分の知識欲を埋める作業を好むのだが……、過去フォルクが同じように人間に興味を抱き。評価した人物逹がいた。二人はそれを思い出していた。


━━その人物達は、フォルクが、首都で暮らす内に知り合った。リブラ将軍と。子息ブライアンである。


ただ……英雄王オーラル、魔王ピアンザを目にした後。四人に言った言葉を……、忘れられずにいた。

『あれは、絶対に敵にしてはならんぞ!?』

きつく言い含められた。

「お前の話を聞く限り。確かにリオナでは荷が重いな。また噂の皇子の才は、ラノバやサザノーラとは次元が違うかの~。やれやれハウチューデンの一族は、そんなやつばかりじゃの~!。かっかかかか」

半分呆れた口調だが、からからっと楽しげに笑い出していた。うむうむパチリ手を叩いた。

「レイナ宰相に伝えよ。早めに本当のこと皇子に。言ことだと伝えなさい。彼は、全てに気が付いてる。その上で、レイナ宰相の反応を見ておるとな……。もしも皇子を試すような気持ちだと。この大陸は、皇子に滅ぼされるときつく伝えよ。良いな?」

さらりと恐ろしいこと言われて。

「……わっ、分かりました」

ゴクリ唾を飲んで青ざめていた。それは……老人が、けっして冗談を好まない。人物なのを理解していたからだ。だから事実として、二人は受け入れた。

「だがま~。噂を聞く限り。きちんと話をすれば、力になってくれるがの~……」

フォルクは知っていた。優しい人間の裏返しは……、自分の大切な物を。守るためならば、非情になれる。その最たる人物は、英雄王と、魔王と呼ばれておる。


いざ皇子が敵となれば、レイナ宰相とて敵うか疑問だ……。魔人王とは、それほどの力を持っていたのだ……、それを討ち取ったシンク皇子は、英雄王、魔王に比肩する力を秘めている。そう考えるのが妥当である。



━━忘れてはならない……。あの英雄王が……、

━━10年以上も。手をこまねいてた相手。皇子はそれほどの相手に。勝ったと言う事実。どんな強者とて、相手の本質を見誤れば、相手を侮り。100勝しようが、101戦目に命を落とすと言う……。歴史は教えてくれている。



……だが稀に。一度も負けない。人間が存在する。その人間の多くが、情報分析に優れ。僅かな情報から多くを見抜く。時期を見る天才であった。バード族は、そんな彼等を。『可能性に備える者』達と呼んでいた。「英雄王の子が、英雄王以上の存在だとしたら……」

敵に回すには、危険すぎる相手だ。注意深い対応が、必要である。

「サザノーラの馬鹿が、功に逸り、蜂の巣に……、いや蜂の巣ならまだ良いが、竜の巣の卵を盗もうとしたのならば……」

皇子は敵として、既に認識してる可能性すら高い。だが……プレイゼンの人となりを見れば、同盟者として、選ばれる可能性もあるだろう……、何はともあれ。

「ゼン次第になるかの~」

苦い顔で呟いていた。




━━その頃……、レイナ宰相から。全てを聞いたプレイゼンは……、至急シンク皇子に会うよう命じられ……。戸惑いながらも。自分の屋敷に急いだ。報告を聞く限り。問題は切羽していた。あくまでもプレイゼンが知ってる情報ではだが……、厳しい状況に。代わりはない。



……一通り。事件の詳しい詳細を聞いたリオナは、お茶の用意をしようとして立ち上がった瞬間。何故か……、シンク皇子の手料理を食べることになって……、再び座ってる事態に。戸惑いを露にしていた。

「何で、こうなったかな~?」

リオナの苦悩した。一方で、朗らかで、慈愛に満ちた笑みを浮かべてる。ララ大司教は、膝にトリトン族の子供を乗せて、愉しげにトリトン族の話す、地下迷宮の話に。耳を傾けていた。

「まあ~、カメザさんのお仲間は、地下迷宮で、宿屋を?」

「そうなんです~。僕たちは、み~んなオーラル陛下に。感謝してるんです♪」甘えん坊のカメザは、構って貰えることが凄く嬉しかった。またララ様が、トリトン族の大恩人である。オーラル様のお母様と知り上機嫌に。ニコニコ可愛らしく笑っていた。端から見ればとても微笑ましいのだが……、複雑心境なリオナには、苦々しい。浮かない顔の気がついて、仕方ないなと思い。少しヒントと助け船を出すことにした。

「リオナさん。シンクが、急に料理をすると言ったのには、理由がありますのよ?」

ララから見ても。シンクの申し出は、本当に唐突だった。ただ何か含んではいた。しばらくこうして和やかな時間を過ごし。ようやく気付けたのだが……、



━━時間は少し前になる。リオナがお客様にお茶を出そうと。立ち上がろうとした瞬間。

「リオナさん、キッチンをお借りします」

「えっ、えーと……」

「ララ婆ちゃんの相手。頼んだよカメザ」

「はあ~いシンク様♪」

「カメロー、クルミ、ローザさん手伝いを頼むね」

二人は小さく頷き。カメローが先に立って、ぴょんぴょん跳ねながら。キッチンに向かっていた。案内に立とうとしたリオナを。ララが引き留め。所在なさげなセナは、微妙な顔をしていた。

「あの子が、珍しいわよね~」

ミネラの呟きに、ラシカが小さく頷いた。二人とララは気が付いていた。今回の事件をシンクが、とても重く見ていることに。



二人の視線に気が付いて、小さく苦笑を浮かべたララは、

シンクの狙いに。無論気が付いていた。そうではないわね……。優しさに……、



リオナと顔見知りのララならば、リオナに対して、先程のシンクのように。追い詰めることはないだろうと気遣い。シンクを知らないリオナは、不安でどうして良いか。分からないことも。

「それは……」

ララの真摯な眼差しを受けて、ハッとした。

「もしや……私達の……為?。ですか」

リオナは戸惑いは隠せないが、徐々に頭が周り始めた。

『そうだ……』

ララ様とリブラ将軍が、この地で暮らし。実際に生活をしてる。私達はそれを知っていたはずなのだ……。シンク皇子様は、それを心配している。自分がいない場合。もしも……同じ事があったら。ハッとしていた。血の気の引いた顔をララ様に向けると。小さく頷かれ。だからシンク皇子は、二度とそんなことが、起こら無いように。または起こさないようにするため。この国の反応を見ている……。ゴクリ唾を飲んで、シンク皇子の深謀を垣間見た気がして、鳥肌がたっていた。

「弟さんでしたよね?、恐らくレイナ様か、貴女方の族長プレイゼン君に。知らせに行ったのよね?。あの子は、そのことを理解してるの。だから料理をすると言い出して、時間稼ぎをしてる。……それは私達と言うより。私と貴女方の為ね」

「はい……」

ララに説明されて。リオナの考えが肯定された。考えれば分かった筈だ……。シンク皇子達は、今回の事件の話が終われば、この場にいる理由がないことも。そもそも屋敷に来る必要すら無かった━━。

今更ながら、その事実に気が付いて。羞恥と自分たちの甘さに。赤くなっていた。

「これは、あの子なりの謝罪なんです。だからリオナさん。あの子を許してあげてね」

「そっそんな……」

頭を下げなければ、ならなかったのは……、リオナ逹の不手際である。困った顔をしてると。

「ララ様って、性格シンクに似てないか?」

ラシカの囁きが、ララにまで聞こえてきて。二人はハッと見合い。確かにさっきまでと酷似していた。リオナもそれに気が付いて、二人はクスクス笑ていた。そんな些細な毎に気付き。場を和ませれるのは、ある意味ラシカの才能である。あの子が養女に迎えたいと考えた理由が、今なら察せれた。

「……ララ様……、そのありがとうございます」

リオナの素直な様子に。ラシカ、ミネラは好意を抱いた。それは……、二人が男社会に所属していて、同じ男社会で生きる者としては、素直な反応を好ましく思ったのだ。

「お待たせしました~♪」

まるで扉の外で、タイミングを見ていたような、絶妙さである。皆目を丸くしていた。



━━和やかな昼食の後。カメザの入れたお茶を頂きながら。談笑を交え。リオナのことや。幼なじみで、婚約者プレイゼンの話になると。女性が多いせいか、恋ばなが咲いた。一時肩身の狭い思いをしたシンク、セナを他所に。年齢の近いクルミ。ローザは、直ぐにリオナと打ち解けた。

「そう言えばセナさん、噂になってますよ?」

茅の外にいた自分が、いきなり名指しされ。キョトンとした。

「こちらのどちらかが、恋人なのではないかって♪」

活発そうな顔に。悪戯ぽい目をしたリオナ、驚いたのはセナだけではない。ラシカは弟子と?、変な顔をしたが、セナとミネラは揃って、赤くなっていた。その瞬間シンクは、獲物を狙うハンターの目になっていた。気が付いたローザは、思わず横顔に。見とれていたのはご愛敬である。

「そっ、そんなはずは……」

「わっ、わたしとセナが……」

二人の微妙な空気に。恋愛に疎いラシカ以外、皆ピーンと来ていた。

「そうなんですよリオナさん。ミネラさんが、年上なんですが……」

いかにも。意味ありげな、顔をするシンク皇子に。二人は面食らう。

「なっ、皇子」

「しっしししシンク」

「あ~あなるほど」

1人勝手に納得したリオナ。二人の面映ゆい反応に。目を細めたララ大司教。

クルミ、ローザは、またシンクが何か始めるのだと。何となく察した。

突然━━渦中人にされた二人は、大いに慌てたが、それはシンクにとって。好都合である。

「リオナさんそれで……」

本人達そっちのけで、スッゴク気になるフレーズが登れば、他人の噂好きな女性は、直ぐに食い付いた。シンクの語った物語は、リオナ処か、皆の好奇心を刺激するに。十二分で、思わずセナの手をがっちり掴み。

「1人の女性の為に、竜騎士になるなんて……」

思わず感極まり。涙目になっていた。二人はもう……どうしていいか解らず。顔を見合せていた。終いには、がっしりセナの首に腕を回したラシカが、ズッズズーって、鼻を鳴らしながら、

「なんで……、内緒にしてたんだよ~。頑張ったんだな~」すっかり信じ込ん出るようで。二人は……居心地悪そうな顔をして。シンクに助けを求めたが、二人にお構い無く。

「そこで……、商人の一族であるラノバ族、しいてはリオナ達に。お願いがありまして……」

こっからが本題である。ラノバ族長の側近なら。それなりに顔も広いだろうとの根回しだ。

「はっはい、なんでしょうか?」すっかり信じ込んでるから。目をキラキラさせて、意気込んでいた。彼女には悪いが……、上手く動いてもらう、打算的な考えがあった。それに……、まさかあのセナさんがね……、悪いとは思ったが、セナの素の表情と。異国から来て竜騎士になった経歴は、十二分に使える。

「実は……」

再び、女性の好奇心をたっぷり刺激して、シンクは騙る。ミネラがどうして……シンクに付いて、帰国した理由を。



ハッと息を飲んで、顔が青ざめたセナ、顔が強張るミネラ。二人は再び目を合わせた。そんな悲しみすら漂う様子は、恋人達が現実に。引き裂かれるかもしれない……。そんな真実味すら醸し出していた。ゴクリ息を飲んで、今にも泣きそうな顔をしたラシカは、

「ミネラ……嫌だよ~」

ぐずぐず泣き出すのはご愛敬。益々、真実味を増した。

「シンク皇子!、私達にお任せください。今日中にセナ様とミネラ様の噂。しっかり流しときますわ」

涙を拭い。快く引き受けてくれた。

「ありがとうございます」

あくまでも真摯な眼差をして、頭を下げていた。はてさて困ったのは、渦中の二人━━。セナとしては、初恋のミネラさんが、お見合いさせられ。また結婚させられるのは、嫌だと思ったことだ。あながち嘘とは言えない部分を、思い出し赤くなるミネラ、二人は、お互いを伺うように見るから。端から見れば、切なげに見つめ会う。カップルにしか見えず。流石にララは呆れていた。こうした根回しの上手さが、夫になく。息子のオーラルにあった部分。ララが目を光らせとかないと。心配になる部分だったのだが……、

「ただいま~」

何とも。甘やかな空気が広がる中。小柄で人好きする笑顔が、可愛らしいと表現の似合う青年が、入って来て、奇しくも皆の注目を集めた。

「あっゼン。お帰りなさい!」

慌てて立ち上がったリオナ。彼女には珍しい失態に。思わず小さく笑みを浮かべていた。改めてシンク達を伺う。

「プレイゼン族長。お久しぶりですわね」

ララ大司教が立ち上がり。真っ先に挨拶した。

「はいお久しぶりです!。ララ大司教様。そちらがシンク皇子ですね?」「ええ。初めまして」

シンクが立ち上がり。左手で握手を求めるや。プレイゼンは嬉しそうに握手を交わした。その瞬間両雄は、驚いた顔をしていた。不思議な感覚だった……。お互いがこの出会いを。大切な物だと。魂で感じていた。

「シンク皇子……、可笑しく思われるかもしれませんが……、その……、とても懐かしい気持ちを抱きました」

プレイゼンの言葉は、シンクも感じていた物で、

「……僕も。そう感じたと言ったら。変かな?」

真摯に言われた瞬間。くすり二人は、楽しそうに微笑み合う。

「……良い関係を築ければ、幸いですね」

「そうだね。お互いの為に」

二人は同時に。彼は敵に回してはならない相手だと、認識していた。

「それはそうと。先程の悪巧み。お詫びと言っては何ですが、僕達で良ければ、お手伝い致しますよ♪。何よりたのしそうだし」

「まあ~ゼンったら」

困った顔はしたが、リオナも楽しそうに笑うから。彼女も同意していたのだ。

「どうやら、話はまとまったようね~。そろそろ屋敷に戻りましょうか、あの人がやきもきしてる。筈ですからね~」

ララ大司教に言われて、窓の外を見れば、すっかり日が暮れ始め。暗くなり始めていた。

「……では、私達の方である程度。準備は進めますので」

「ラノバ族長……」済まなそうな顔をしたシンクに。くすり小さく微笑み。

「僕の本名は、プレイゼン、ゼンと呼んで下さい」

商人が商談を終えて、握手を求めるなら左手を出すが、今度は右手を出していた。それは友人に対しての挨拶であると。気が付いてシンクは嬉しそうに笑いながら。

「なら僕のことは、シンで」

二人は、力強く握手した。




━━シンク達を。玄関まで見送ったプレイゼンとリオナは、安堵のあまり座り込んでいた。

「大丈夫ゼン?」

「ん……、何とかね。それにしても。世の中は、広いな~」幼なじみで、許嫁のリオナの前では、素の顔を見せる。嬉しい反面。もっと自分に自信を持って欲しいと思う、そこが僅かな不満である。「そうね……、でもゼン。貴方も皇子に。負けて無いわ」

だから私だけは言ってあげるの。するとゼンは、大いに照れた。

『……私の大好きな顔。そんな謙虚なゼンが大好き……』

でも……先程の光景が、忘れられずにいた。きっとあの場にいた彼女達も。同じように感じた筈だと、確信していた。




━━平原……。ケンタウルスの都ザウス。



遥かなる悠久の時代。ケンタウルス族は、質素な生活をしていた。それはケンタウルス族が、狩人の民だったからだ。



だが千年振りに世界に戻されてから。生活は変わった。レオールの援助により。堅牢な都が、平原に建設され。かなりの領土の田畑まで、手に入れられた。リブラ将軍の口利きで、近年アレイク王国で、小麦。麦。葡萄の良い稲作方を教えてもらい。この二年で、ワイン。ビール。小麦の輸出で、生活は豊かになった。その一方で、平原の魔物は年々強さを増していて。被害も増えていた。近年魔獣と呼ばれる。個体の報告すらあった。



四つの部族の町でも。少しずつ……被害が出始めていた。また先日ケンタウルスの戦士数名が、命を落とした……、それゆえ竜騎士団とケンタウルス族は、合同で、哨戒に当たっていた。


それには理由もある。以前竜の巣を襲った。魔獣マンティコアの例もある。魔獣は危険と。リブラ将軍の働きかけで、両国合同の哨戒が、実現した。



ケンタウルス族の都ザウスに。金の竜鱗が、とても美しい竜が降り立った。彼に乗るのは、プラチナブロンドの美しい。美丈夫と名高い。竜騎士団長レダ・アソート、隣に降りたのが、右の足爪が欠けてる。緑竜で彼に乗るのが、副長ロライド・セラ率いる。一個中隊である。



深夜未明。ザウスに12名の竜騎士が降り立った。場所はザウスの都南西にある広間。

「今宵は、レダ卿であったか」

哨戒に同行する。ケンタウルスの戦士30名が、徐々に集まって来ていた。率いるのは、戦士長ダノ・バルタス。勇壮なる馬体を躍動させ。高らかに。蹄を高鳴らせ。にこやかに声を掛けてきた。

「うむ。ダノ戦士長。リブラ将軍は、シンク様が来られるため。今宵は来られぬ」驚いたダノだが、にかり男臭い。笑みを浮かべ、

「なんと!、噂の若き英雄殿が、この大陸に来られてるのか?」

何とも嬉しそうに聞いてきたから。滅多に表情の変わらぬレダも。柔らかく微笑して頷いていた。

「そうか……、一度。我が国に寄られると。嬉しいのだがな……、レダ卿?」

熱心な眼差しで請われて。思わず苦笑を漏らすも。

「リブラ将軍に伝えよう」

快く快諾され。にこやかにダノは頷いた。

「それは良い話と約束を得られた!。王に良い報告が出来ようぞ!」

部下逹に勇ましい。掛け声を掛ければ、熱い性格の戦士達が、多いケンタウルス達は、

『おおお!』

ノリノリである。流石に鬱陶しく思ったが、半分諦めていた。「やれやれ……、プラが居なくて良かった……」

しみじみ呟いていた。




━━現在。レオールは、3つの勢力による。覇権争いが、密かに行われていた。それぞれの一派が、次期宰相候補を擁立している。その一つが、若い戦士達に。圧倒的カリスマ性で、絶大な人気を持っていた。若き族長サウザントを擁立した。サウザントと同盟を結んだのは、幼なじみや喧嘩友達の若長達。それと……サウザントの性格を利用してる。一部の長老逹であった。



対するは、レオール最大の功労者であり。レイナ宰相が擁立した。ラノバ・プライゼン、彼をを支持するのは、実績を認めたていた。6部の族長であろうか……


━━亜流だが、先の中央大陸事件。それ以前の魔王軍と戦い。獅子奮迅の活躍をし、また英雄王の実父であるリブラ将軍だ。彼は竜王に選ばれた伝説的な武人であり。妻は北大陸に住む民。特に女性に人気がある。アレイ教大司教の地位にある。支持を表明してるのは、リブラを信望してる竜騎士団と。伝説を知る。古い考えの長老達から。強い支持を得られていた。



何れもレオールの舵取りを。任せるに足りる人物達だが……、近年のリゾート開発。多額の利権が絡むようになると。様相は一変した。

三竦み状態を嫌った。若いサウザント一派が、過激な行動に出てしまうのも、後ろ楯の長老達による。強い後押しがあるからだろう……。それだけに目に余るようになっていた……、



レイナには、十分憂慮出来たが……、16部族の古い慣習によるしがらみや。古い思想は変わらない。いくら生活が豊かになろうと、16部族は本来……、それぞれ土地を持ち。広大な北大陸で、部族ごと……町や、村を持った。小さな群都だった。レイナ宰相は、沢山のしがらみと弊害に苦しんでる時である。




━━ほんの16年前……。長老、族長、若長が、部族の中心となり。町、村の運営をしていた……、やはり貧富はあった。無論部族同士による争いも。



━━平原の北、勇壮なる山々の峰の麓。広大な領地と16部族最強と自負する。ファルバス族は、比較的豊かで、部族間の力もあり。レイナが16部族を纏めれたのは、そんな理由からもあったとされる。




━━しかし……、



当初……16部族を束ねた。連合と言う組織は、世界の敵となった。友魔王ピアンザに対抗する為の苦肉の策で、レイナが産み出した組織だ。それ故に国という組織を運営するには、弊害と亀裂。金と言う軋轢を産み出していた……。


━━徐々に、歪みが表面化し始めたのが……、奇しくもラノバ族によるリゾート化が進み。莫大な利益が見込める事がわかってからだ。今まで見たこともない。莫大な金と利権を前に。浮き足だった長老も多く。争いが密かに始まったのだが、皮肉とも言うべきか、それは魔人王という。目に見える脅威がいなくなってからだ……。今では昔ほど武勇を振り撒くだけで、もはや金も名誉すら。手に入らない……、それが現実だ。



━━平原の西に街を築いてる。アブスト族は別名。戦士の一族と呼ばれていた。まさに武勇の強さこそが、未だに重要視されていた。



サザノーラの武勇の片鱗がかいま見えたは……、当時僅か9歳の頃だった。戦士の一族の成人儀式は、16歳になった若者に与えられる。別名勇者の儀式と呼ばれていた。それは魔物、肉食獣、魔獣が生息する。平原を数日生き延びることが、武勇だけではなく。平原で生きる経験を正しく。理解しているかを見る試練でもある。厳しい試練を乗り越えた若者は、アブストの戦士と迎える。だが希に。危険な魔獣を倒す若者がいた。アブスト族の戦士逹は、勇者と呼び。絶大な信頼を得る。サザノーラは僅か9歳で、平原に行くことを認めさせた。



━━数日後……事件は起こる。なんとサザノーラは、10匹もの魔獣の群れを狩っていた。もはや誰もが認め始めた。サザノーラこそ。歴代最強の勇者だと━━。



━━だが、サザノーラの絶大なる自信は、あっさり壊される。当時レオールは……、魔王軍との戦いで。戦士は16歳以上でなくば、戦場に立つことは許されなかったからだ。続く中央大陸事件……。何れもサザノーラは、戦場に立つことが、許されることはなかった。まるで対岸から、結果だけを聞かされ。自分より弱い戦士が、勲功を上げる様を、見せられただけだった……、

『俺なら……、あの英雄達と肩を並べて、戦って見せるのに……』

年齢と言う足かせにより。悔しい思いを強いられた。だから余計サザノーラは、武勇を誇り。自分こそ北で最強の戦士だと。自負していた。だからサザノーラは、武勇で身を立て。16部族の中で、勇者と呼ばれる戦士逹と戦い。全て勝ち続け証明した……。唯一負けたのは、レイナ宰相だけである。



何故サザノーラが、武勇に固執するか……、それは平原に近い都市ほど。命を落とすリスクが高いからだった。サザノーラの父も早世した。故に武勇に重きを抱く者は多い。中でも戦士の四部族が、名を挙げられよう……、だからサザノーラは、ラノバ族のような頭だけの部族。弱い族長を認めていない……。無論リブラ将軍の武勇を。認めてはいるが……、所詮よそ者である。若い戦士達にとって、リブラ将軍の栄光は、過去の事でしかなかった……。━━そんな血気盛んな。若い族長達を。煽ってるのが、自分たちの古い考えで、ケンタウルスと戦うべきだと。せっついた為。肩身の狭い思いをしていた。四部族の長老達。当時の失策。いやそれ以前からの自分勝手な行いで、レオールの利権から。離れた地位に。追いやられていた……。だが天武の才を持った。サザノーラを。傀儡として。どうにか利権を手にしようと躍起になっていた━━。



長老達の思惑で、操られてれなど無論本人は知らない……。長老達の意向に添うよう。甘言を持って唆す役目━━。

自称軍師と名乗る。魔法使いの一族ザノバ・バードだけが知っている裏側だ。ザノバが居るのは、アブスト族の官邸。長老の住まいに呼びつけられた。理由はサザノーラの行った。事件のあらましを聞くこと。それに対しての詰問だ。

「あの馬鹿者が!、よりにもよって、ララ大司教を拐おうとしただと?、未遂で済んだからよかったが……」

忌々しが、ララ大司教の子息は、中央大陸の英雄王……、実母に何かあれば、世界中から非難を受けかねん。場合によれば……、全ての部族から謗りを受け、戦になった可能性すらあった。

「貴様が付いていて、なんとしたことだ!?」

声を荒げたのは、サザノーラの祖父ザノビアである。他の長老から抗議されて、恥を掻いたと怒り心頭と言った所か?。

「はっ、申し訳ございません」

殊勝に頭を下げたが、内心ザノバにとって、長老達など……、とるに足らない。愚か者達でしかなかった……。彼にとって、主はただ1人サザノーラだけなのだから。




━━長老逹は考えてもいないのだろうな、密かに思いながら、悦に入った。サザノーラは、長老逹の考え等。最初から見抜いていた。その上で、愚かな長老達をも欺いていたのだ━━。



周りが思う程。サザノーラは、ただ武勇だけに命掛けてる。馬鹿な考え無しな若者ではない……、彼こそ16部族を。統一して、北大陸の覇王になる者だと。バード族の自分が認めた。唯一無二の存在である。


バード族とは……、別名魔法使いの一族と呼ばれてる。謎多き部族で、大陸の古い伝承や、部族で忘れ去られた歴史を。伝えしバードと呼ばれている。その為他部族との交流も少なく。あまり表舞台に出ない。そのせいもあり16部族の中でも。秘密の多い。一族であった……、


バード族の村は、平原から遠く離れた。南東の。荒れ地広がる地に。小さな村を建て。ひっそりと暮らしていた。また部族の人数も少なく。一人前になったバード族の民は、自分の村を出て、他部族の村、町で占いや、深い知識を糧に。他部族の相談役等に。収まっていた。だから北大陸の民にとってバード一族は、馴染み深く。謎深き一族とされる一因である。



━━現在の長老達とて、詳しくバード族を知る者はいない。ただ……昔からバード族を。重用していた。それは深い知識を有する。便利な一族。そんな自分達に都合の良い物だと。勝手に思い込んでいた。



しかしバード族とは……、本来知識の追究者である。さらに自分逹に。利益が無ければ、去ってしまう。自由なバードと。本来は呼ばれていたのだが……。

「ザノバ!、あの馬鹿者をしっかり見張れ。お前の仕事は、我々の都合良いように。あやつを動かすことだ。よいな?」

「ハッ、必ずや」

感情の隠らぬ声で答え。頭を下げた。

『愚かな長老達……早めに。始末するべきだな』

恭しく頭を下げたが、冷笑を浮かべていた。




━━日も登らぬ早朝、豪奢な屋敷が並ぶ。美しい通りを。何故か……、血相を変えて、足早に歩く妙齢の女性は、困ったように辺りをキョロキョロ。困った顔をしていた。どうやら目的の屋敷が解らず。迷子になったようだ……、女性の名をソニア・マレストと言い。ミネラ・マレストの実母であった……。

「も~、大きな屋敷ばかりで、全然分かりませんわ!」プンプン地団駄を踏み。怒りを露にしたが、元来おっとりした顔のため。まるで怒ったように見えない。なんか足踏みしてると。奇異に見られるだけであった。



━━その頃。敬愛するリブラに誘われ。久しぶりに竜舎に赴き。思うまま竜逹の世話を手伝ったミネラは、終始ご機嫌であった。あまりのはしゃぎぷりに。リブラとて苦笑する。

「……随分楽しそうだなミネラ」

「はい!、荒くれ(レブラント)やイノワさんも元気そうで嬉しくて♪」

「そうか」

くしゃりミネラの頭を撫でると。くすぐったそうにしたが、とても嬉しそうである。

「あ!?、ミネラちゃん発見ですわ」なんて幸せぶち壊す。聞き覚えある声がして……、ぎくり身体が強張る。急に立ち止まったミネラを、不思議そうに見たが、通りの向こうから━━。



砂煙立ち上げ。猛然と走り込んで来た。女性に気が付いた。

「ん?、あれは確かファルバスの……」

訝しげな顔を向けた瞬間。バヒュンってジャンプ。ハシリ……、ミネラに抱き付き。

「おっ、お母様……」

「うえ~んミネラちゃん怖かったよ~」

泣き出したのであった。



ぇぐえぐ泣きじゃくる母ソニアを。あやしながら。妙な気分になった。

「ここではなんだ……、ミネラ家に来てもらおうか?」

困った顔をしていたミネラに。助け船を出した。

「はっはあ~」


渋々ソニアを連れて、リブラの屋敷に戻った二人は、屋敷に入った瞬間。キリリとしたソニアに唖然とした。

「ミネラちゃん……。元気そうで、お母さん嬉しいわ」

屋敷に入るまで、泣きじゃくってた同一人物とは、とても思えない変貌ぶりだ。

「お母様は……、相変わらずそうね……」

久しぶり過ぎて忘れていたが、母が内弁慶だということ……、思い出していた。

「また供を連れずに……、皆に内緒で来て、迷子になったのね?」

ミネラにチクリ言われた瞬間。ギクリと顔を強張らせて。素知らぬ風を装ったのだが、冷や汗など流して、バレバレである。そんなときだ階段を降りてきたシンクが鉢合わせ。目を細目ながら、

「おはよう爺ちゃん、ミネラさん、お帰り……?」

首を傾げつつ。二人の様子を観察して、おっとりした顔立ちの女性に目を向けた。目元と口元が似ていた。なるほどと笑みを深め。

「初めまして、ミネラさんのお母様ですよね?」

いきなり当てられ。ソニアの目が丸くなる。

「あっはい……、君はいったい……?」

疑問を抱いた瞬間。ハッと急に顔色を変えて、ミネラの前に立ったかと思えば、

「ミネラちゃん!、貴女まさか……、こんないたいけな美少年と婚約してたなんて、なんてう……」

三人同時に。羨ましいと言おうとした?、苦笑した。慌てて自分の口を塞ぎ。私は何も言ってないわよ的な。澄まし顔をして、わざとらしく咳払い等した。

「初めまして、シンク・ハウチューデンと申します。残念ながらミネラさんの婚約者ではなくクスクス。ミネラさんの竜騎士の弟子に当たります」

笑わないよう、気を付けてながら、にこやかに一礼するや。あらまー声を出さずに呟き。真っ赤になりながら、慌てて頭を下げた。

「ごめんなさい……、シンク皇子様とは知らず……」

「気にしてません、それにミネラさんは僕にとって、姉のような方、婚約者に間違えられ光栄です」

さらりほろーまでされたソニアは、いたく感激していた。ちらりリブラ将軍を見て、小さく吐息を吐いていたが……。

「シンク様~おはようございます♪」「ララ様が~、朝食の準備が出来たと。おしゃられてますよ~」

屋敷の食堂から顔を出した。カメザ、カメローが、ぴょんぴょん跳ねながらシンクに抱き付きながら、訴える可愛らしい二匹に。ソニアは目を丸くした。

「かっ、可愛い」目をキラキラさせて、ソニアはトリトン族の子供達に目が釘付けである。 はは~ん。ピンと来たシンクは、二匹に目配せするや、カメザは客あしらいを心得てる接客担当。ニッコリ営業スマイルで微笑み。

「初めまして、僕カメザです」

お目めぱっちりした可愛らしい顔を、ニッコリ微笑めば、ポワン~音がしそうな感じで、カメザをギュッてして、頬擦り。どうやら可愛らしい物が大好きな人物らしい……。それなら勝算があると安堵していた。



━━恐縮したソニアさん交え。楽しい朝食の後━━。

「まったくミネラちゃんたら。帰って来てるのに。顔を見せに来てくれないんだからプンプン」

「そうなんですか?」

すっかりカメザを気に入ったようで、膝に乗せたまんま。愚痴を聞いてもらい。終始ご満悦なソニア。同席したララの手ずから、お茶を勧められ。サクリとした焼き菓子を一口。

「あら……、初めて食べますわ、なんて甘酸っぱい味わいなんでしょ♪」

「気に入ってもらえて、良かったですわ。そちらは春に漬けた。黄桃をジャムにして、今朝焼き上げた焼き菓子に塗りましたのよ」

「まあ~黄桃ですか♪」「ええ嫁のリーラが、お土産に持たせてくれまして……」

そこは子を育てた母親同士。直ぐに打ち解けていた。

「あっ……あのララ様。そのお聴きしたいことが」

先ほどから。そわそわして娘を見るが……、まるで気付いた様子がなく……。相変わらずな様子に。嘆息していた。



━━親子の素っ気ない空気を醸し出す様子を。観察していたララは、昨夜シンクから。ミネラの両親が来るかもとは、聞かされていた。なるほど。中々大変な女性のようだと笑みを深め。切り込むように、

「セナ・ホウリさんのことね?」

ハッと驚いた顔をしていたが、表情を改めて小さく頷いた。戸惑いを露にしたミネラ、

「えっ……どうして、お母様がセナを?」驚き、目をしばたかせ理由がわからないらしい……、今頃セナさんは大変だろうな~。他人事のように微笑んだシンクを、ララはたしなめるように睨んだ。

「実は……、娘には将来を誓っていた殿方がいたと。昨日知りまして……」

あって顔をしたミネラは、慌ててシンクを見たが、肩をすくめただけだ、急に居たたまれない気持ちと。昨日の甘やかな空気を思い出して、みるみる顔が赤くなっていた。そんな娘の様子を見て、諦めたような顔で嘆息をしていた……。

「本当は……、若長から。お見合いの話があったのですが……、まさか娘が、将来約束してた相手がいたなんて……」妙に怨めしげな眼差しをミネラに向けていた。

「うっ……、いやあの……、お母様」

色々と言いたいが、嘘だと言えば、あのハゲの肉だるまと見合いと聞いて、狼狽えていた。話を聞けば、ミネラの見合い相手は、どうやらレイナ宰相の遠縁・親戚筋だったようだ。有力者と婚姻関係があれば、部族内での地位が約束される。だからソニアは不満を露にしてるのか?、そこは分からないが、

「あらそうでしたか?、ですがセナさんも、竜騎士になった優秀な殿方ですわよ?」

ムムムと難しい顔をしたが、諦めた様子が消えていた。

「それは……、来る前に噂話を。聞いてましたから……」にこやかにララが微笑みながら。セナがしばらくこの屋敷で生活してたことや。また竜騎士になるべく。大変頑張ってたこと。彼の人となりをなるべく細かく伝えたのだが……、表情が芳しくない。

「……確かに良い方だとは、話を聞く限り思いますが……」

歯切れが悪く。まるでミネラに言い含めるような口調である。母の眼差しで、ミネラは理解した。自分の思い通りにさせるために。母が来たこと……、セナとのことが……、全てが破談させられる。そう考えたらサーッと。顔色が変わったミネラ。まだラシカは戻らない……、セナと散歩に出たままである。

「……だからね」

「ソニアさん、噂話を聞いたなら知ってますよね?」

口を開きかけた瞬間。何やら気になるフレーズを口にしたシンク。話の腰を折られ。肩透かしをされたソニアは、軽くシンクを睨んだ、その眼差しは、わたくしの話を邪魔しないでと。雄弁に語ってたが、得てしてそう言う女性は、噂話に目がない。

「ええ~とシンク皇子……、それはどういう話なのですか?」相手は、仮にも他国の王族である。気持ちを切り替えて。にこやかに微笑みながら、先を促した。

「分かってると思いますので、ソニアさんには、先に言います。セナ・ホウリの父は、我が国プロキシスの将軍の1人。ボルト・ホウリの子息でして、いずれ土竜騎士団長の要職に着くことが、決まってます。例えミネラさんとセナが、結婚しても。我が国にいてもらいたいと。考えてまして……」

話が見えず戸惑いを浮かべていたソニアだったが、突如クワリ目を開いて、急に身を乗り出していた。

「皇子……、今セナさんが、プロキシスの将軍の子息と……、言われましたが?」

それが、とても大事なことだと。言わんばかりである。

「ええ。そうですが……、もしや知りませんでしたか?」

チラリ祖父を伺うと。にやり悪戯ぽく笑っていた。

「はっはい……」

急に気弱そうに言葉尻が尻窄みに。なるほど……。ミネラさんの両親に対する。反発が何か、理解できた気がした。

「リブラ爺ちゃん。もしかして……、セナさんの為に黙ってたの?」祖父は、俺に任せろと眼差しを強め主張していた。仕方ないな~内心ため息を吐きながら。リブラに話を向けた。途端にニンマリ人の悪い顔をしたのを見て。ララ婆ちゃん曰く。ふてぶてしいほど自信満々に頷いていた。

「シンクそれはそうだろ!。仮にも一国の重鎮の子息が、竜騎士になろうってんだ。生半可な覚悟では勤まらないさ」

さも当然と言われた瞬間。衝撃を受けたのは、意外にもミネラであった。

「うっ……そ。セナそんなこと一言も」「ミネラちゃん……?」

娘の驚いた様子を見た。ソニアの横顔には、……僅かな迷いが見てとれた。



機が熟すのを。孫と祖父は見極める。今だな二人は目配せを交わしていた。

「ソニアさん。プロキシスの国王である。父に代わり……、申し上げます。正式にミネラさんを。我が家臣セナ・ホウリの妻として、迎えたいと考えております」

「……なっなんと。誠ですか?」

驚いたのはミネラ、それ以上に驚きを露にしたソニアに。シンクは頷き。次いでリブラが畳み掛ける、

「ソニアさん。セナが、レオールにいる間は、私が父親代わりを勤めると。彼の父ボルトには約束している。私が、セナの身元を保証しよう!」

リブラ将軍にまで言われては……、僅かな迷いが消えて、小さく嘆息していた。

「分かりました……、ミネラちゃんの婚約を認めましょう……」

「お母様……、ありがとうございます!」感極まって涙ぐむミネラ、ソニアが娘の手を取る感動的な場面。ララは二人を軽く睨み付け。首を竦めた夫は、まだいいが……、孫の成長に。苦笑していた。

「本当に……、似た者親子ね……」

オーラルが自分の同僚を。アレイク王国の為に結婚させたこと。忘れていなかった。結果として、クエナさんは幸せそうだし。良いことなのだが……、

「ただし……、私のお願いを、叶えてくれましたらですが」にこやかに笑っているが、このまま皇子に。良いようにあしらわれるのは面白くない。おっとりした顔立ちとは不釣り合いなほど。強かな顔を覗かせる。

「ソニアさん、それはどのようなことでしょうか?」

「ええ……実は」ソニアが語ったのは、最近ファルバス族含めた。平原に近い。都市で起こってる、魔獣事件について、セナと供に解決しろと言ったのだ。

「お母様!いくらなんでも」

慌てたミネラが、立ち上がろうとした瞬間。今まで押さえていた。鋭い母の眼差しに息を飲んでいた。

「貴女は黙っていなさい!、私達ファルバス族の掟は知ってますね?」

「だっ、だからって……」

狼狽える娘に対して、多少なり胸は痛んだが、例え王族だろうと。武勇が廃れようと。誇り高き16部族最強を誇るファルバス族の女を、妻にしようとするなら。最低その程度の武勇伝は欲しい。そうでなくばお見合い相手が納得しまい。



そんなソニアの思いなど。シンクにとって、些細なことであったが、ミネラさんを側近に迎えれるなら……。

「なんだそんな事で良かったんだ!」

「シンク皇子……?」

あっさりと手を叩き。凄く嬉しそうに喜ばれたから、唖然とした。

「失礼しましたソニアさん。安心のあまり、はしゃいでしまいました。これでケンタウルス王と会談出来る。よい口実が出来ましたと、つい思ってしました……、ね~♪リブラ爺ちゃん」

「おお~確かにな、考えればそいつは好都合だぜ。シンク善は急げだ。今すぐシンクレアを召喚しとけ。その方が移動が楽だしな」

「あっ、そうだね~、爺ちゃん。裏庭借りるよ?」「……まあ~構わんが、ミネラは、シンクレアの竜舎。準備をしてくれんかな?」

「あっ、はいリブラ様」

「あっ……、あっさり了承されたけど……」

残されたソニアは、困ったように、同じような顔をしてるララ大司教と目があった。何だか馬鹿馬鹿しくなり。笑いが込み上がっていた……。二人は共感めいた眼差しをかわしていた。それは不思議な感覚だった。

「不思議なこと……」

ファルバス族にとって、魔獣討伐は、命を落とす危険が高い。重大な試練である。それ故『勇者の試練』とされ。魔獣を倒した戦士を。勇者と呼ぶのだ。あの皇子はさも当たり前に。危険な試練をこなせると。自分を含めて、誰もが信じて疑っていなかった。私自身まで……、

「そう言えば、先ほど、リブラ将軍が口にされたシンクレアとは、一体?……」「ソニア様は、知りませんでしたか?。シンクはミネラさんの弟子で、ただ1人竜王の愛娘に認められた。竜王姫の騎士プリンセスナイトですの」

「竜王の娘……ですか?」

訝しげに小首を傾げていた。



━━竜騎士団・竜舎。急に竜達が、騒ぎ始め。見習い達は、竜を落ち着かせる為。慌ただしくなっていた。リブラ、ミネラと別れた後。まだ竜舎にいた、イノワ・ミササは、傷だらけのゴツゴツした岩だなのような竜。荒くれ(レブラント)まで、落ち着きを無くしてることに驚いていた。

「レブラント……貴方まで、いったいどうしたっていうの?」

心配そうな相棒の眼差しに気が付いて、強面な風貌ながら、イノワだけに甘えるように。優しく鼻っ面をにくっつけ思念で答えた。

『……姫様が、凱旋なさる……』

「姫様?」

訝しげな顔をして、首を傾げていた。



━━その日……、北大陸に住まう全ての竜が、空を見上げていたと言う━━。




シンクに連れ出されたクルミ、ローザは、リブラ邸の立派な菜園を案内され。戸惑いながら二人に付いてくと。さほど歩くこともなく。訓練場に着いた。

「爺ちゃん、今も召喚魔法。使えるの?」突然の問いに。驚いたが、苦笑混じりに首を振る。

「いや……、暴君と契約を破棄したからか、そっち系の魔法は使えんな」

苦笑気味に答えていた。そうかと一つ頷いて、

「なら、僕の魔法。一度見れば覚えれるね♪」

にやり不敵に笑う孫に言われて。思わずリブラはシニカルに笑いながら。肩をすくめていた。

「まあな~。召喚使えるとわりと楽だし♪」

素直に認めていた。しかし同行した二人は、訳が分からないと、顔を見合っていた。




シンクは、二人に意味ありげに微笑み、ささっと訓練場の真ん中に立って、魔方陣を展開し始める。するとリブラの眼差しが鋭くなり、二人は気圧された。二人は知らなかったが、リブラ・ハウチューデンは、特別な目を持っている。人間の魔力を視認出来る。変わった才で、一度魔法を見れば、自分の魔法として、使うことが可能と規格外な特技を持っていた。


「我が名シンク・ハウチューデンの名において、我れは願う……、我が妹にして契約者。竜王姫にして我が相棒よ。彼方よ此方へ我が願いを。聞き届けたまえ」

凄まじい魔力が、シンクの足元より溢れ出す。


━━素早く腕を動かして、魔方陣を上空に浮かせ。さらに足りない部分を即興で描き、魔方陣を起動させてく様子に……。二人は顔を強張らせ。息を飲んで見ていた。



……俗に召喚魔法と呼ばれる魔法は、特殊魔法に分類されていた。高度な、大変難しい魔法である。学生が召喚魔法を使えること自体が、とても珍しいことで。さらにそのなかでも対象物を。限定して召喚することは、宮廷魔導師クラスの深い。知識が必要とされていた。

「━━我が前に来たれ。汝の名は━━、竜王姫シンクレア!!!」

上空に描かれた魔方陣は、緩やかに明滅が始まるなか、歓喜の叫びが、首都アージンに響き渡る。




━━魔方陣の明滅が、より激しくなり。 膨大な魔力により。今━━。


扉が開こうとすると。感じた刹那━━。



閃光が……、雷撃の如く。上空を走った。


グァアアアアアアアー!!!。



魔方陣から飛び出した。白銀の竜は、竜王姫の名に相応しく。美しい白銀竜だった。クルミはあまりの竜の美しさに。ほ~うっとため息を付き。ローザはきゅっと。身体を強張らせ、顔が青ざていた。竜に恐れを抱くのは、華の国ダナイの惨劇を。思い出すからだろう……。

「ローザ……、大丈夫よ。あれはシンクが呼び出したんだもん」

強く励ますような。優しい眼差し。

「……そう……、だったね」

まだ怖いと思う、自分はいたが、クルミが自分の傍らに。居てくれたことに。感謝して。まだ体が強張るが、恐々シンクが呼び出した竜を。見上げていた。



力強く羽ばたき。雄壮な太陽の光に、白銀の鱗を煌めかせ。祖たる地に。初めて降り立ったシンクレアは、初めて見る景色。空の色。何より町並みが、全てが違うのに━━。シンクレアの胸は、強く波打ち。気持ちが高鳴っていた。それに大好きな兄であり。相棒であるシンクに呼ばれたのだ━━。嬉しいに決まっていた。懐かしい風を嗅ぎ。ゆっくり滑空を始めた。逸る気持ちから、ついスピードは早くなるが、一刻も早く。シンクの待ってる。訓練場に降りたいそんな可愛らしい気持ちの表れである。

『シンク!、シンク!、シンクレア寂しかったよ~♪』

甘えた声で、シンクレアは、着陸するや。巨大な頭を。シンクの胸に額を着けていた。

「シンクレアありがとう、来てくれて」

優しく、頭を撫でながら呟くと。笑むように目を細め。甘えた返事を返していた。

「なるほどな……、上空に魔力で魔方陣を描くか、考えたこと無かったが……、使い方によれば面白いか」

しきりに感心するリブラとは違い。ハッとするほど美しい白銀の竜が、シンクに甘える可愛らしい様子を目にして。ローザは目を丸くさせていた。



━━グァアアアアアアアー!!、

━クアアア!!?



アージン中に響いたのでは?、そう錯覚させるほどの喜びの咆哮。リブラは思わず苦笑を深くした。

「まさか……、あの竜王プライムが、我慢出来ずに飛び出すとはな……」

ため息を吐いていた。



━━リブラ邸の南西から、二頭の竜が、寄り添うように現れた……。




エピローグ




雄大な肉体を誇る。蒼き輝く竜鱗、王が、冠するよう王冠の如く雄壮な竜が、現れた……、北大陸の竜を統べる王プライム……、王に付き添い従うのは、彼の伴侶である。白銀の美しい竜王妃クレア、娘が、この地に召喚されたのを感じて、二匹は、気が逸るのが止められず。リブラ邸にやって来たのだ。

『シンクレア!?』

いち速く白銀の竜は、シンクレアの側に降り立ち。嬉しそうな鳴き声を上げた。

『お母さん♪』

シンクレアは、もう大人の竜、母クレアと身体は同じ位。大きくなっても。まだまだ子供で、甘えたい盛りである。久しぶりに母に会えて、嬉しそうに喉を鳴らしていた。




近隣の住人は驚き、集まりだしたが、竜王プライムと二匹の白銀竜に気が付いて、さらに驚いていた。白銀の竜は、世界に一頭だけしかいないと。誰もが思っていたからだ。

「しっ……シンク。あの竜達は」

クルミ、ローザが、恐々シンクの傍らにやって来て尋ねた。特にローザはまだ恐怖が、あって不安そうに、シンクの腕を掴んだ。訝しげに思ったシンクだが、ローザから物心付くか付かないかの頃。三体の疑似神に。生まれ故郷を滅ぼされたことを聞いていたのを。思いだして……、自分の配慮の足りなさに。小さく唇を噛みながら。「大丈夫だよローザ。彼女シンクレアは、ぼくの妹であり。相棒だから」

シンクレアは嬉しそうに頷き、喉を鳴らして胸を張った。

「今……頷いた?」

ローザが驚いたようだから、シンクは、北大陸で暮らす竜と。人間の関わりを話した。

「無論自然に生息する竜は居ますが、竜王プライム率いる。竜達は、人間と友好的な竜が集まってます」

それを聞いて安堵したローザは、改めてシンクの優しさを噛みしめ。きゅってシンクの手を握った。

「クルミ」

少し拗ねた顔をしてたクルミに。反対の手を差し出すと。嬉しそうにはにかみ。まるで抱き付く勢いで、腕を絡めてきた、気恥ずかしく。ほんのり赤くなるシンク。シンクレアは驚いたように目をしばたいた。



竜王の一族は、人間以上の知力と独自の魔法を操る事から、古竜エンシェントドラゴンと呼ばれているが、敢えて二人には話さず。素の彼女シンクレアを見てもらいたく。出来れば仲良くなって欲しいと願った。


その間も父竜王プライムが、緩やかに降り立ち。親子は久しぶりの再会を果たした。

「参った、こんな騒ぎになるなら。竜舎に行けば良かったな~」

苦笑混じりに嘆息していた。

シンクの妹であり。相棒のシンクレア、また竜騎士の師であるミネラの苦難。冬休みなのに。苦労人の遺伝子爆発である。また同じ物語か違う物語で、背徳の魔王でした。

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