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「役立たずの記録係はいらない」と婚約破棄されましたが、王国を救ったのは私の帳簿でした  作者: 北野風人


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本物の許可証

 販売許可書には、王宮会計室の印が押されていた。


 冠の下に、二本の麦穂。


 外周の文字にも、目立った欠けはない。


 私は写しの余白へ、原本を確認した場所と時刻、立ち会った者の名を記した。


 ベルク商会の男が、その手元を見ていた。


「支店の保管簿もお見せします。正式な取引だと分かれば、村への請求も再開できますね」


「許可書と請求の根拠は、それぞれ確認します」


「同じ穀物です」


「はい。同じ穀物について、異なる記録が残っています」


 男は口を閉じた。


 私は許可書を返し、王都へ送る照会を読み直した。


 登録番号と発行日。


 売却対象の品目、数量、管理番号。


 用途変更と引渡しの記録。


 ノラには原簿を調べてもらう。


 封をする前に、一行を書き加えた。


 ――一致した点も、照合者の名を添えて報告すること。


     ◇


 返事を待つ間、私は村に残った支払いの記録を調べた。


 売渡証に記された初回支払額は、村の共同支出記録と一致した。


 その後の領収書にも、商会の受領印がある。


 村は穀物を買い、代金の一部を払い、残りを借金として抱えていた。


 ほかの家にも尋ねた。


 七年前、無料の救済穀物を別に受け取ったと答えた者はいなかった。


 ただし、当時の住民全員に確認できたわけではない。村を離れた者も、亡くなった者もいた。


 私は聞き取り済みの家と、未確認の家を分けて残した。


 翌朝、アルベルトたちは次の地域へ向かった。


 出発前、彼が机に並んだ写しを見た。


「許可書は、偽物だと思うか」


「まだ分かりません」


「本物なら?」


「王宮が販売を認めたことになります」


 彼は村の売渡証を手に取った。


「王宮が売り、商会が買い、村が金を払った。それだけなら、取引は成立している」


「はい」


「だが、同じ村が無料で受け取ったことにもなっている」


 私はうなずいた。


「どこで記録が分かれたのかを調べます」


 アルベルトは紙を戻した。


「こちらの荷は予定どおり届ける。受領が済んだら知らせる」


「お願いします」


 広場から車輪の音が遠ざかっていった。


 私は古い領収書を日付順に並べ、支払いが続いていた年を一覧にした。


     ◇


 王都から返事が届いたのは、三日後の夕刻だった。


 ノラの報告には、原簿の写しと照合者の署名が添えられていた。


 販売許可書、登録番号一致。


 発行日一致。


 品目、数量、売却先一致。


 押印担当者の記録あり。


 私は最後まで読み、もう一度、最初の頁へ戻った。


 商会が示した許可書は、王宮の登録内容と一致していた。


「正式に発行されていたのですね」


 同行の記録官が言った。


「はい」


 私は現地の確認記録へ、その結果を書いた。


 商会の男は、この点では正しかった。


 王宮は販売を認めている。


 次の頁を開いた。


 許可の根拠となった処分申請だった。


 建国祭中止に伴い、儀礼用保存穀物の一部を余剰品として売却する。


 対象は、添付された在庫目録に記載の穀物。


 私は目録の写しを取り出した。


 数量は、第八車の荷と一致する。


 管理番号も同じだった。


 その前に、もう一枚の記録がある。


 北方救済用穀物から、儀礼用保存穀物への振替。


 ライナーが清書したと証言した文書だった。


 私は机を空け、四枚を並べた。


 救済用としての出庫。


 儀礼用への振替。


 余剰品としての処分申請。


 販売許可。


 最後の一枚だけを見れば、売ってよい穀物だった。


 最初の一枚には、北方へ届けると書かれている。


 私は日付を一覧へ写した。


 救済を取りやめる判断が、どこに残っているのか。


 ノラの報告にも、その文書はまだ見つかっていなかった。


     ◇


 翌朝、地方の救済担当官に立ち会いを頼み、ベルク商会北方支店を訪ねた。


 街道沿いの倉庫に、小さな会計棟がついている。


 村へ来た男が、奥の机へ案内した。


 販売許可書と保管簿が、すでに用意されていた。


「王都の確認はいかがでしたか」


「登録内容は一致していました」


 男は椅子へ深く座り直した。


「では、許可に問題はない」


「発行は確認できました。次に、対象となった穀物について伺います」


 私は振替記録の写しを置いた。


「この荷が救済用だったことを、取引当時、御存じでしたか」


「知りません」


「商会に示された品目は?」


「儀礼用保存穀物です」


「その記録を見せてください」


 男は保管簿をめくった。


「王宮が余剰品として売り出した物を、商会は買いました。入庫する前の用途まで、商会が決めたわけではありません」


「用途を変更した判断は、王宮側へ確認します」


 男の手が止まった。


「こちらで確認するのは、商会が購入を決めた時点で、何を知らされていたかです」


「取引の手順に従っただけです」


「では、その手順を追わせてください」


 男は書棚から、文書を束ねた一冊を出した。


 売買明細。


 支払控え。


 引渡通知。


 三村への再販売記録。


 彼は明細と支払控えを差し出した。


「王宮への代金は支払い済みです」


 私は金額と日付を記録した。


「購入を申し込んだ文書もありますか」


「明細に注文番号があります」


「その番号の申込書をお願いします」


 男は書棚へ戻り、薄い紙を一枚持ってきた。


 保存穀物購入意向書。


 買受予定者、ベルク商会北方支店。


 予定数量。


 引渡希望場所。


 その下に、荷の管理番号があった。


 私は正式な明細と並べた。


 番号は同じ。


 数量も、最終的な購入量と一致している。


「これは、正式契約の前に提出したものですか」


「ええ。希望数量を伝え、許可が下りてから価格と引渡日を確定します」


「提出先は?」


「王宮の調達窓口です」


「作成日と提出日が分かる記録もお願いします」


「受付簿に残っています」


 記録官が文書名を書き加えた。


 男は意向書へ手を伸ばした。


「必要なところは御覧になったでしょう。写しはこちらで用意して、後日お渡しします」


「この場で作成し、原本と照合します」


「古い取引です。ほかにも仕事があります」


 地方の担当官が口を開いた。


「この取引は、村から異議申立てを受け付けている。請求の根拠に関わる資料だ」


「帳簿を持ち出されれば、業務が止まります」


「原本は支店に置いたまま確認する。対象も、この一件に限る」


 男の手は、まだ紙の端に触れていた。


 私は保管簿の該当頁を示した。


「照合が済むまで、文書の差替えや廃棄をしないようお願いします」


「商会が証拠を消すとお考えですか」


「原本の状態を、双方が確認できるようにします」


 担当官は資料一覧を作り、請求審査に関係する帳票の保存通知を添えた。


 購入意向書、売買明細、支払控え。


 受入れと再販売の原簿。


 対象となる管理番号も明記する。


 該当頁と綴じ紐の状態を立ち会いで確認し、以後、原本を扱った者と理由を残すよう求めた。


 男は通知を読んだ。


「保存期間は?」


「管轄の審査が終わるまでだ。正式な通知は別途送る」


 男は保管棚の番号を二か所書き加え、受領者として署名した。


 私たちは、取引の終わりだけでなく、始まりの記録を確認できるようになった。


     ◇


 写しを取り終えるころ、窓の外は暗くなっていた。


 倉庫では、翌朝の荷を積む音がしている。


 私は購入意向書の日付を、振替記録と照合した。


 数日、早い。


 受付簿を確かめる。


 提出日も、意向書の日付と一致していた。


 正式な売買明細は、振替後の日付だった。


 契約が成立したのは、用途が変わったあと。


 購入の申し出は、その前。


「意向書の日付について、確認します」


 男が顔を上げた。


「何でしょう」


「この日には、まだ用途の振替が登録されていません」


「予約取引です。帳簿に載る前に、購入希望を出すこともあります」


「穀物を予約することはありますね」


 私は管理番号を指した。


「ただ、この文書では、買う荷まで指定されています」


 数量も一致する。


 引渡希望場所には、王宮の保管場所が書かれていた。


「何を見て、この番号と数量を記入したのですか」


「当時の担当者に聞かなければ分かりません」


「その方は、今も支店にいますか」


「確認します」


 記録官が返答を書き留める。


 私は日付の一覧へ、意向書の提出日を加えた。


 商会がこの荷を買いたいと申し出た時点では、まだ救済用だった。


 そのあと、儀礼用へ振り替えられ、余剰品として売却が認められた。


 男は意向書を見つめたまま言った。


「先に希望を出しておけば、売却が決まったときに買えます。それだけのことです」


 私は売渡証の写しを、その隣に置いた。


 村人たちが代金を払い、七年後の今も返済を続けている荷だった。


「商会は、この穀物が売却されると見込んでいたのですね」


「そういうことでしょう」


「では、誰から、この荷が売りに出ると聞いたのですか」


 倉庫の扉が閉まった。


 男は意向書から手を離した。


 返答欄は、空いたままだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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