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lumière du futur.

ーあらすじー

配給を終えて一息ついたのも束の間、アンドレはもう一仕事あると荷物を持って歩き出す。

次の仕事は、この国の未来に関わると高らかに宣言しながら。

どこへ向かうかも告げずに先導するアンドレに続く俺とドミニク。


どこへ行くのか分かっているのか、ドミニクは特に不平不満も漏らすこともない。


徐々に薄暗い路地の中へと進んでいく。

まだ昼時だというのに、肌寒さを感じるのは季節のせいか、それとも日の光が差し込まないせいか。


鼻が曲がりそうになるほどの強烈な刺激臭はそのままに、カビや埃まで舞っているのか、息を吸う度に喉奥に不快な違和感がこびりつく。


足音だけが路地裏に木霊し、ひっくり返ったゴミ箱を漁っていたネズミ達がその音に駆け出した。


不意にアンドレが立ち止まる。

横から先を覗き込むようにすると、道が複数に枝分かれしているのがわかった。


「みーんなー!!出ーておいでー!!」


突如、断りもなく張り上げられた声に、耳が痛む。

俺が耳をさすっていると、いくつもの足音が奥からゆっくりと向かってくるのが分かる。


道の先から、ひょっこり顔を出したのは――。



「子ども?」


アンドレを見つけたその子は、目を輝かせて駆け寄ってくる。

その子だけじゃない。


一人、二人と路地から出てきてあっという間に大所帯になってしまった。


「ア、アンドレ?この子達は?」


「小さな大人……って言ったら、分かりますか?」


その言葉で思い出した。

この時代の子ども達の扱い、胸糞の悪い話を。


「働けない子ども達か!こんな歳で『自立しろ』なんて無茶苦茶な話だろ。」


ボロ布から伸びる細腕は、張り子のようで。

油断すればポッキリいってしまいそうで、見てるこちらが不安になる。


「皆の分あるから!一人一回、順番だよ!」


アンドレの指示に、子どもたちは素直に従う。

ドミニクはいつの間にか周りを見張るように路地の入口側に立っていた。

その背を眺める俺に気づいて、アンドレがため息交じりに笑う。


「ああやって見張っておかないと、分別のつかない『大きな子ども』が出てきてしまうので。」



パンを配り終えて一息つく。

壁に凭れ掛かり、子どもたちが食べ終えるのを待っているとアンドレがおもむろに口を開く。


「子どもたちこそが、この国の未来なんです。」


彼の目線は、子どもたちの姿を捉えて離さない。

堅い黒パンをしっかりと味わいつくすかのようにゆっくりと咀嚼する姿は、現代人の俺の感性で見ると心苦しいものがある。


「いずれ、今の大人たちが老い、世代が移り変わり世界を動かしていくのは、彼ら子ども達なんですから。」


アンドレは、どこまでも遠くを見ているように感じる。

俺と違って彼には先のことは分からないはずだ。

にも関わらず、この混沌とした時代のその先を、既に見据えているんだ。


「大丈夫だよ、アンドレ。」


怪しまれないように、言えることだけに絞って。

俺が彼なら、最も欲しい言葉を。


「君の想いは、すぐに形になるから。」


俺の言葉に、曖昧に笑う。

その背後で、一人の少女がアンドレの袖を引いた。

アンドレはしゃがみ込み、少女に目線を合わせる。


「どうしたの?足りなかったかな?」


少女は少しの間モジモジしていたが、意を決したかのように何かをアンドレの頭に被せた。


「これは……、花冠?」


少女はコクリと頷いた。


「いつもありがとう、アンドレ!」


真っ赤な顔をしてそれだけ伝えると少女は走って隠れてしまった。

呆気にとられたアンドレは花冠を指で軽く弄りながら振り返る。


「いやぁ、ホントに形になっちゃいましたね。」


その顔には、よほど嬉しかったのか軽く涙まで浮かんでいる。



「王妃様と会う方法?」


最後の一人が食べ終わったのを確認して、俺たちは撤収準備を始めていた。


その際に、腹を括って聞いて見たわけだが……なんとも言い難い表情を浮かべられてしまう。


悩んだり、警戒しているのとはまたちょっと違う神妙な面持ちで唸り続ける眉間には彼には似つかわしくない深いシワが刻まれる。


「やはり難しいだろうか。」


アンドレから辿るのは無理すぎかもな、なんて落胆しているのが顔に出ていたのか、彼は慌てて取り繕う。


「あぁ、いや、会うことそのものは、上手く行けば可能です。ですが……。」


そこでアンドレは言葉を濁す。

思わず俺も生唾を飲み込んだ。


「ですが?」


パンパンと腰にくくりつけた袋を叩いてため息を吐く。


「コイツが相当に必要です。」

「……金か?」


コクリと頷くアンドレ。

声を潜め、ぐっと俺に身を寄せると続きを口にする。


「王妃様の遊び癖については、民衆の間に流れてる噂の通りです。ご存知ですよね?」


「あぁ、パリの方によく出向いているってやつか。」


マリーアントワネットは憂さ晴らしなのか、それとも別の理由があるのか、記録上もよくパリで見かけられたらしい。


「その遊び先っていうのが、仮面舞踏会ってものらしいんです。」


「仮面舞踏会?」


俺は敢えて知らないフリをする。

一市民の俺が仮面舞踏会を知っている理由をツッコまれたら何と答えても変に映るだろうし。


「えぇ、なんでも各々好きな仮面をつけて身分の貴賤なく交流しようって集まりらしいですが……無論、最低限の身なりと参加費を求められます。どちらも合わせれば金貨が何枚必要になるやら。」


そう言ってアンドレは肩を竦める。


そう、そこが問題なのだ。

コストを度外視するなら最短で接触する事が出来る仮面舞踏会を利用しない手はない。


しかし――。


①身なりを整える

②参加費を用意する

③マリーアントワネットが参加する日を押さえる


この3つの条件がパン職人という身分ではあまりにも無理ゲーだ。


だから最初から選択肢に含めていなかった。


「アンドレ。最初に言ってたよな、金さえ用意できれば会うのは比較的簡単だって。もしかして、王妃が参加する日が分かるのか?」


彼は目を丸くして、観念するかのように両手を挙げる。


「いやぁ、鋭いですね。あまり大きな声では言えませんが、レコレは王家ゆかりの施設ですから、高貴な身分の方も利用されることがあります。人が集まれば、必然、噂も集まりますから。」



ごめんなさい、少しお休みします


ーーー

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