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幸薄公女はスパダリ王太子とすれ違いながらも、幸せの階段を上る  作者: 水川 トオル
第二章

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29 攻めの王太子と守りの公女⑦


「ルイス様……、色々とありがとうございました」


 ルイスに呼ばれた呪術師により、ローズがアリシアにかけた呪いはいとも簡単に解けてしまったが、ヴィヴィの呪いは解けなかった。しかし、呪いを解き終わった呪術師の晴れやかな顔を見ると、アリシアの胸に疑問が浮かんでくる。


 呪術師はヴィヴィの呪いには気付かなかったのではないか、と。


 その仮定が正しいとするなら、ヴィヴィの呪いは厄介だということだ。アリシアは眉間に皺を寄せて、難しい顔をした。


(『無限ハプニングを起こす呪い』が呪術師に解ける呪いではなく、永遠に続くものだとしたら、私はどうしたらいいのかしら……)


 あまりに笑えない話だ。


 これからアリシアは、少し前に『貴女は魔法のコントロールが上手くできなくて、ハプニングに見舞われているんじゃない』とルイスが発言した件や、今後の勝負について、じっくり本音で話さなくてはいけない。


 それなのに、またこうして新たな悩みができてしまうのは、本当に胃がキリキリした。


 どんよりとした顔になっていくアリシアの前で、ルイスは何とも形容しがたい溜め息を吐く。まるで先ほどアリシアがしたような覚悟を、ルイス自身もしているように見えた。


「ローズの呪いが解けても、貴女は勝負を続けるのか?」

「……はい、そのつもりです」

「そうか、それなら続けよう」


 その言葉にアリシアはホッと胸を撫で下ろした。


 たとえ全ての真実をルイスが知っていたとしても、簡単に頷くことはしたくなかったからだ。頷いてしまえば、良くも悪くも状況は全てひっくり返る。


 ルイスの性格上、呪いをかけられたアリシアに同情し、気持ちに寄り添うことはするだろう。しかし、前例のことを踏まえて出す結論には感情を挟まず、貴族の目と立場を第一に考えるとアリシアは予測した。それが研鑽を積んだ王太子の務めだからだ。


 アリシアが望む結末とは真逆の、そんな悲しい結末を迎えるならば、まだ勝負を続けた方がいいとアリシアは結論を急いだ。


(ルイス様の優しくて厳しい御心は、ローズとの会話で痛いほど分かったわ。だから、ごめんなさい……)

 

 ルイスの身体には、もう魔力は残されていない。ハプニングが起きても、アリシアを守る盾にさえならないだろう。次のハプニングが起きれば、必然とアリシアが勝つ。現状維持を望むアリシアは、ただじっとそれを待つだけでいい。


(さぁ、勝負の続きを――――!)



「ふぅ、本当は、こんな卑怯なことはしたくないのだが……」


 水を差すようなルイスの不穏な言葉に、アリシアは耳を疑った。


「はい……?」

「私は貴女のことをよく知っている。たとえば、ローズの呪いを受ける前から、不幸体質に悩まされていたことも」

「え……!?」

「そして、その不幸体質が貴女の()()()()()()()()()によるものだということもだ。厄介なことに、呪術師でもその呪いを解くことは愚か、気付くこともできなかった訳だが……」


 アリシアは思わず、一歩後ずさりした。


 足のつま先から上がってくる震えは、怯えだ。ルイスは今、困ったような顔をしてさらりとアリシアの秘密を暴露した。丸裸にされたアリシアは途端にパニックになる。


(こ、このタイミングでそれを仰るの? きっと私がこういう態度を取ることも、ルイス様にとっては想像の範疇なのでしょう。けれど、こんなことってあんまりだわ。勝負する意味が、もう……)


 まるで先ほどのローズのように青褪めていくアリシアだが、声だけはなんとか絞り出した。嘘偽りなく答えれば、これ以上こてんぱんにはやられないとそう踏んで。


「……ル、ルイス様とローズの会話を聞いて、もしかしたらと思っていました。全部、私の事情を知っていたのですね。いつ知ったのですか?」

「知ったのは最近だが、貴女のことはずっと気にしていた」

「そう、でしたか」

「アリシア、家族から受けた呪いによって不幸体質になった貴女は、『欠陥品』として婚約破棄をされるのを怖れて、私と距離を置いたのか?」


 ルイスは瞳は真剣だ。「そうなのだろう?」を念を押してくる。


(んう~~ッ、何なのかしら、この羞恥プレイを強要するかのような質問は……。まるで、婚約破棄をして欲しくないがために私がせこせこと呪いを隠し、こんな偏屈な行動を取ったとでも言わせたいような……ん!?)


「……はい、その通りです」


 アリシアは素直に認めた。悔しいが、あながち間違ってはいないのだ。


「辛かったな。これからは私を頼っていい」


 ルイスはアリシアの肩をポンと優しく叩くと、アリシアははっきりと自身の負けを認識した。

 

 勝てる訳がなかった、とアリシアは思う。


 風に靡く髪を押さえながらアリシアはルイスを見上げると、バチッと目が合った。


(い、いつからこちらを見ていたのかしら……)


 陽に当たって煌めく金の髪は眩しくて、その真っ直ぐな碧眼の視線はアリシアにはくすぐったい。耐え切れずにルイスからすぐ目を逸らしたが、居たたまれなくて逃げ出したくても、その口実さえもう何もない。


 アリシアの頭上からクスッと微かな笑いが聞こえてきた。


「今回の件を前向きに捉えるなら、アリシアと話すきっかけが掴めなかった私はローズのおかげで、貴女に近付けたということか」

「……ルイス様?」

「もう距離を置かなくていいし、貴女に遠慮する必要もない」

「ですが、パーソナルスペースが確保できなくなるのは困ります……」

「家族から受けたその呪いが解けるまで、私は貴女を守ろう。その小さなハプニングから。もちろん全てがきっちり片付いても、離れる気はないが」

「あの、ルイス様。聞いていますか? なんかまた楽しんでいません?」

「もちろん聞いている。不謹慎かもしれないが、私はアリシアと一緒にいられるのならどんなことでも嬉しくて仕方がない」


 困り顔のアリシアだったが、ルイスの笑顔に不覚にも絆されてしまった。


(私はルイス様のこの笑顔に弱いのだわ。私の不幸を楽しみに変えてくれるから。それにしても、久し振りにルイス様の楽しそうな姿を見た気が……えっ?)


 ブン、ブン、ブン。ブン、ブン、ブン。


 不快な羽音がどんどん大きくなり、こちらに近付いてくる。アリシアはハプニングの前兆に気が付いて、ルイスの手をそっと掴んだ。


「ルイス様、魔力がもうないのですから講堂まで逃げましょう」

「……勝負は?」


 答えを聞くまでは頑なに動かないという姿勢を見せてルイスはにっこり笑い、アリシアに問う。 


「も、もう勝負は私の負けでいいですからっ! 私の事情を全て知った時点でルイス様の勝ちに決まっています」


 降参サレンダーの言葉を言うと、ルイスは嬉しそうに口角を上げて微笑んだ。


(ルイス様はこの勝負に何を望んだのかしら……?)


 そんな疑問が再び湧いてきたが、悠長に考える暇はなさそうだ。突如として現れた毒蜂(キラー・ビー)の大群がもうすぐそこまで来ているのを見て、アリシアはルイスの手を掴んで走った。


 こういうのも悪くないと思いながら。

短編+追加はここまでです。明日以降はゆっくり更新します。

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