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幸薄公女はスパダリ王太子とすれ違いながらも、幸せの階段を上る  作者: 水川 トオル
第二章

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28 王太子の報告会③


 ルイスの眼は少し前から鋭く殺気を放っている。他の臣下なら竦んでしまうような場面でも、セバスディは気にせず笑顔で拍手を送った。


「素晴らしいですね、さすがルイス様。しかしアリシア様はさぞ大変でしょう。ローズ嬢が禁呪指定の呪いをかける前に、家族から禁呪指定の呪いをかけられていたとは……」


 可哀そうだ、とでも言いたげな同情心あふれる顔でセバスディが憐憫の言葉を口にすると、ルイスはギロリと前を見据えた。


「私は今猛烈に怒っている。私の婚約者に禁呪指定された呪いを2つも付けたことにな。そして何より、前例を作ってしまった王家に対しても同じ気持ちだ。それに付け込む貴族も許せない!」


 そう語気を強めたルイスに対してセバスディは、「お気持ちは分かりますが、どうか落ち着いてください」と言いかけたが、ルイスの様子を見て言葉を噤む。ルイスの身体からだは確かに憤怒で満たされていたが、心は至って冷静だとその眼を見て気付いたのだ。

 

「……し、失礼しました。それで彼らをどうするおつもりですか?」

「確実に証拠を押さえて彼らを裁く。前例を繰り返さない。ローズの件はもうすぐチェックメイトだ。メロディアス家の場合はそうだな……」


 ルイスは暫し沈黙した。


(アリシアの家族構成はメロディアス公爵夫妻とその娘、つまりアリシアの妹か。血は繋がっているにも関わらずこの仕打ち。さて彼らにどう()()をするべきか……)


 う~んと頭を曲げたのは、仕返しの策がポンポンと浮かぶからだ。


「そう言えばこの学院に公爵家の犬がいたな、それを使うか」

「犬、ですか?」

「ああ、そうだ。私は毎日授業後の社交で情報収集をしながら、上位貴族と信頼関係を築いてきた。それと同時に選別もした。私やアリシアに対して、負の感情や敵対心があるかどうかを見定めてな。怪しい人物は計3人。その中でもローズは、第3番目の候補者だった」

「ローズを上回る強敵が2人いる、と?」

「強敵というよりも厄介者と表現した方が正しい。私やアリシアの周りで起きていることや知り得た情報を公爵家に流している」

「あとの1人は誰ですか?」

「それは……今のところはだが……害はない」


 ルイスは歯切れの悪い言い方をしたが、セバスディは「そうですか」と言い、それ以上聞くことはしなかった。


「ではその犬を使い、メロディアス公爵家を罠に嵌めるのですか?」

「そうだな。まぁそれはローズの件が片付いてからだが……」

「ルイス様、一つ質問があります。どうして公爵家は実の娘であるアリシア様だけに、このような仕打ちをしているのだとお思いですか?」


 セバスディは真剣な面持ちでそう聞いてきた。

 

「……それについては、半年前から仮説を立てながら考えていた。メロディアス公爵夫妻とその娘のヴィヴィ。アリシアの妹に当たる訳だが、この3人を調査していくととある共通点が浮かび上がった」

「共通点、ですか?」

「ああ、原性遺伝子持ちだという共通点がな。となると、アリシアは零性遺伝子か中性遺伝子の可能性が高い。親とは違う魔法遺伝子の形だから疎まれ、排除される対象となったのかもしれない」

「ある特定の魔法遺伝子を特別視する派閥があるくらいですからね」

「ああ。そういう派閥を黙らせアリシアのような人間を守るためには、より魔法遺伝子のことを深く知る必要がある。そこで私は半年前から研究機関のデータを基に、原性遺伝子について秘密裏に研究をし始めた。その結果思わぬ発見をしたが、その内容はもうお前にとって既知のことなのだろう?」


 説明するのも面倒だと、ルイスはセバスディに腹を割って話そうと提案する。


「ふっ、ふふ……。ルイス様、成長されましたね。その真実まで辿り着いたのならもう私には言うことはありません。どうぞ今後このセバスディを貴方の手足としてお使いください」


 そう言ってセバスディは着席したまま、軽く頭を下げた。


 待っていたとばかりにルイスは妖しく笑う。

 全てを知りながらものらりくらりかわして、あくまで指南役としての立場を守っていたセバスディ。そんな彼を納得させて味方に引き入れたことは、ルイスにとってとても心強いことだった。


「では、セバスディに命令する。私が学院にいる間、公爵家を見張り諸々の証拠を押さえろ。条件が整ったら、メロディアス公爵夫妻を学院に招待する。派手にやりたい」

「かしこまりました。あぁ~、わくわくしますね」


 メロディアス公爵夫妻の驚く顔や戦慄く姿を想像しているのか、セバスディは瞳をキラキラと輝かせている。


(――父王はアリシアの呪いや彼女を取り巻く環境、果ては公爵家を筆頭とする敵対貴族のことを知りながら、私を試しているのだろう。学院を卒業する前にこの件を解決すれば、きっと認めてくださるはずだ)


 ルイスは考えながらゆっくりとティーカップを手に伸ばした。滋養茶を飲んでもルイスの肩は微かに上下に揺れている。所詮は気休め。効果が現れるのもすぐではない。そのため、熱の籠った報告をしただけで息は上がっていた。


(……くそっ、呪いのせいで息苦しい。今頃アリシアも呪いで苦しめられているのだろうな。彼女の周りで起きる小さなハプニングは全部、そのせいだろう。呪術師の魔法で解けるといいが……)


 ルイスは薄っすら光る窓の外を見る。


 ファウスト王立学院を小さな王国に見立てているルイスは、これから起こり得る学院の未来に目を向ける一方で、婚約者「アリシアの幸せ計画」を並行して遂行するのだと、目的を再確認した。その小さな王の眼には眩しいほどの自信ではなく、執念のような仄暗いものが宿っている。


 しかしルイスは一度ひとたびセバスディに視線を移すと、爽やかな笑顔を作り報告会の終わりを告げた。

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