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負け犬のくせになまいきだ  作者: 石山 雄規
一章 ターン Where is my outlet ?
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8話「待ちますよォ」

 奴隷にされた小学生たちを解放した俺達は、その対価に失踪した今泉の探索を命令する。

 

 別々に探す合間、遅れて来た泪に先程の事情を説明した。


 彼女はじっと黙って聞いていた。聞き終えると、無言で俺の胸ぐらを掴みにかかる。


「馬鹿!……なんでそんなこと話したのよ!」


 三度目で慣れたわけでもないが、今回ばかりは抵抗する気にもなれない。


「……考えなしに言い過ぎた」


 俺の消沈した態度につられたのか、彼女も溜息を吐き、ゆっくりと腕を下ろす。


「あんたが話すとこうなるから、話さないでって言ったのに。無視するんだもん」


「そんなに信用なかったか」


「あんたの馬鹿さ加減を信用してたの。馬鹿は加減を知らないんだから」


「丁度良い加減だろ」


「ほんとにね!」


 いいかげんにしてよとその場にしゃがみ込み、くだらない問答を中断する。


 どのみち小学生らが今泉を見つけるまではネカフェ周辺で待つしかない。


「お前はどうする。無理やり止めて思い直すようには思えんけど」


 俺が問いかけると、彼女は地面を見つめたまま、ぼんやりじっと、確認するように呟く。


「方法ならあるわ。あんたには無理なこと」


 棘があるなぁ。昔からそうだったけど、帰って来てからは特に苛立ちようが酷い。


「異世界なんて絶対行かせないんだから」


「……異世界に恨みでもあんの?」


 言動を振り返るまでもなく、彼女は異世界に対して良い印象を持っていない。


 まぁ、ダメ人間が行くようなところだから、彼女は特に好きにはなれないだろうけど。


「未練があると異世界には行けないのよ。向こうに行く人はみんなそう」


 ……あぁ、なるほど。


「だからダメ人間なのよ。残される人の気持ちも考えられないような人は、大嫌い。やることもやれることもたくさんあるのに、やりたいことは見つけられないような人は、もっと」


 それが誰を指しているのか、俺にはなんとなく分かった気がした。


 今泉に必死なのも、俺のことを嫌っている理由も、ぼんやりと。


「向こうの世界でしかやれないことをやろうと行く人は?」


「……だから嫌なの」


 同感だ。


「で、結局何をやるんだ?」


「未練たらたらで、絶対に異世界転生なんて出来なくなるくらい付き纏ってやる。謝っても許してやんない、勘弁してくれ付き合うよって言うまで、一緒に遊びまくってやるんだから」


 言い方が完全にストーカーのそれだが、回答としては満点だろう。


 確かに俺には無理だな。そこまで親しくもなし、男がやったら真性の変質者だ。


 しかし彼女は、そんな強い言葉を吐いた後、さっきとは違うぼんやり調子に呟く。


「……わたしで大丈夫かな?」


 そんな一言。何を今さら言ってんだ、お前より走って汗かいた奴はいねぇよ。


 けれど、俺はそういう言葉は返さない。素直じゃない女に、素直な気持ちは返さない。


 この女が弱音めいたことを呟くときは、不安だからでも、自信がないからでもない。

 

 いつも待たずに突っ走る彼女が、唯一待つのは、隣にいる奴からの再確認だけだ。


「信頼してるよ。お前のことは」


「信用じゃなくて?」


「お互い信用ならない関係だからな」


「……よし!」


 彼女は思いっきりスクッと立ち上がり、やるぞー! と大きく両腕を伸ばす。


 そしてちょうど捜索隊員三号が帰ってきて、目標物発見の知らせを伝える。


 財布を入れたバッグを置いてきて行くあてなく、公園のブランコで黄昏れているらしい。


「そんじゃ、俺は帰って寝るよ」


「あ、待って」


「はいはい待ちますよォ」


 まだなんかやることあるのかよ。お礼のキスくらいで頼むぜ本当。


 彼女はほんの軽く下唇を噛んでから、恥ずかしげの欠片もない真正面から言葉を投げる。


 とても細やかな、思い出と変わらない笑顔で。


「――――ありがとね」


「……感謝ならそこの小学生にしてやれよ。俺がしたのは」


「多分、わたしが会ってもあんたと同じことしてた。だから、ありがと」


「頬にキスでいいぞ」


「馬鹿」


 そう笑って彼女は公園へと走り出していく。


 道角を曲がろうとしたところで、なぜか立ち止まり、もう一度俺の方を振り返る。


「そうだ、ちょっと待って」


「ボケ老人になるまで、いくらでも待ちぼうけますよォ」


「頼まれごと! お願いしていい?」

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