カルメロルツ王都決戦⑤/指名手配
───カルディッシュ王国・中央の都。
その官府の執務室に、ノーランド・カルディッシュはいた。
彼の座る長机の周りには、慌ただしく報告を寄せる者達で溢れていた。
「わざわざ進路を変更してまでリカンテア共和国軍が我が国に攻め入って来るとは……」
「ノーランド様、メシア殿は戦力を割けないと返答がありました」
「ふむ……」
カルディッシュの戦力はほぼ全てがメシアに──マヒル・シオクラに吸収されている。
今、最北に集まってる戦力のほとんどはカルディッシュを南下した国の人間達だ。
自分達の国くらい自分達で守れと言っているのなら、それはその通りだろう。
しかし、それは手を組んだ者のする事ではない。
「……なるほどね」
「如何致しましょう」
虚空を見つめ、目を細くするノーランド。
ただ、その仕草は一瞬だけ。
軽く息を吐き、ノーランドはすぐにいつもの自分に戻った。
「セカンドプランは期待しないでおこう。一応は国同士なんだ。それに、地の利はこちらにある。だからこそ──勝機は私達にある」
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───カルディッシュ王国・最北の国境。
「ふはははは……」
そうか。キリューゼルが王都を離れ、そこにいる。
手を伸ばせば殺れる位置に自ら登板するとは、実に都合が良い。
あいつには散々やられたからな。
溜まりに溜まった借りを今、返してもらおうか。
「お前の首が、カルメロルツ滅亡の真の狼煙となる」
お前の命を以てして、あいつらの士気を上げさせてもらう。
民族浄化の序章を飾るんだ。
だからお前は──喜んで死ね。
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───カルディッシュ王国・東の都。
その宿屋の一室に待機していたあたし達のもとに、浅利が帰ってきた。
「ちょっと街を見て回ったけど、俺達──指名手配されてる」
「「「え?」」」
予想を超えた浅利の発言に言葉を失うあたし達。
「念の為に顔を隠しといてよかったよ」
気怠げにフードを外しながらあたしに紙を手渡す浅利。
その紙にはあたしら四人の似顔絵と外見特徴が書かれ、懸賞金が掛けられていた。
「唯一と言っていい良かった事は、ALIVE ONLYな事だね」
確かに、注意事項にもそう書いてある。
少なくともこの紙が原因で殺されるなんて事態にはならなそうではある。
「あらいぶおんりー?」
「あの、生け捕り限定で報酬を支払うって事だと……思います」
「わ、分かってるっての! 言ってみただけだっての!」
「わ、わ……す、すみません……」
村崎が見栄で語彙を強くした為、怯えてしまった綾香。
「あんた、綾香を怖がらせてんじゃないよ」
「すんまっっせん!!」
あたしが咎めるとノータイムで土下座する村崎。
それは多分、以前にも綾香に当たり散らかしてた時にコッテリ叱りまくったから、条件反射で体に刻まれたのだろう。
……だったらまず、綾香に対する接し方を変えてほしいんだけど。
「予想以上にアレクサンドリアの動きが速いな……。とりあえず、これからは顔を隠して行動しよう」
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───魔大陸・ギルナクス王国。
渡航してから、およそ二ヶ月余り。
未だに王都にすら辿り着かない。
僕達は国の端も端で手をこまねいていた。
「セイト殿……このギルナクス王国全体を覆ってるものは、結界……ですか?」
魔物の大群が襲いかかってくる中、隙を突かれ、通信の魔導具を破壊されてしまった。
いくら荷物持ちの騎士が原因とはいえ、一時でもそこまで突破させてしまった僕達にも責任はある。
カルメロルツとの通信手段が無くなり、一ヶ月前ほどから向こうの様子が分からない。
美菜子ちゃんと御子柴先輩の安否が気掛かりだけど、そこはカンベルトを信じるしかない。
「セイト殿……?」
「……見た通りだろう。シンクレシオ、君が言ってるのは目の前のこれが魔術的な結界なのかという話か? それとも、別の何かなのかという問い掛けか?」
「いや……いえ、そうですね。国全体を覆う結界や魔術など聞いた事が無いので、セイト殿の知見を伺いたく……」
僕は分かりやすく溜め息を吐く。
そう、目の前に拡がる結界のようなもの。
それがかなり強力な守りで、僕達の侵入を拒んでいる。
だから何週間が経っても、ギルナクスに威力偵察すら出来ずにいる。
目立った成果は何も上げられていない。
「詳しい事は僕にも分からないが、この結界は個人や集団が張っているだけのものではないはずだ。この大陸に上陸した時から気になっていたけど、魔族達は魔素を利用している」
「魔素? 魔素っていうのは、空気中に漂っているだけの魔力残滓の事ですよね?」
残滓って言い方には語弊があるけど……まあ、今は細かい事はいいか。
魔術適性の無いシンクレシオに説明しても無意味だし。
………………魔術適性の無い、か。
「魔術は自身の体内に廻る魔力を行使して、発現する。一〇〇年前の魔大陸もそういった魔術運用をしていた。だけど、今の魔大陸は何かがおかしい」
「何か……?」
「少しは自分の頭を使いなよ」
シンクレシオに向けた冷え切った目を閉じる。
汐倉君を殺した君達を僕が受け入れる事は無い。
僕達の世界とは異なる世界に召喚された者の中で、無事と言えるのは、もう──。
「なっ!?」
ビュオ! 突然吹いた暴風が僕達を押し出す。
「「「うわぁあああああ!?」」」
僕とシンクレシオは何とか剣を地に突き立てる事で吹き飛ぶのを防げたが、他の騎士達は皆遥か後方へ吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされた彼らとてAランク相当の騎士。
簡単に吹き飛ばされるような若輩者はいない。
……だというのに吹き飛んだ。
「これは魔術では無い」
暴風が向かってくる先から聞き馴染みのある声が耳に届く。
「私が仲間を集め、研究し、試行錯誤した末に見つけた新たな魔術体系だ」
「貴方は……っ!?」
ふと風が止んだ。
体勢を立て直し、暴風を起こした犯人を目にする。
「やはり来てしまったか、釘宮君」
「──水上さんっ!?」
目の前にいたのは水上葉治その人だった。
最後に見たあの日から、全く変わらない姿に懐かしさを覚える。
だが、一〇〇年も経って姿形が変わらない事に違和感を抱く。
「不思議か? 私の姿に変化が無い事が」
「………………」
「君は確か一〇〇年前に行方不明になったと聞いていたが……その様子だと、どうやら時代をスキップしたようだな。カルメロルツが懲りずに勇者召喚を行ったという報告は私も聞いている。再召喚されたのだろう、君は」
「………………」
「……まあ、いずれにせよ私の姿に関して言うならば死ななければ、君もいつかは分かる。そして……そうだな、今私が君に言える事といえば、『私の仲間にならないか?』『さすれば君と、君の仲間を庇護しよう』の二つか」
寝返らないかと提案してきた水上さん。
「僕の、仲間も……?」
「そうだ。釘宮君の本当の仲間の事だ」
「僕の、本当の仲間……」
本当の仲間。
そう言われてすぐ頭に浮かんだのは美菜子ちゃん、御子柴先輩、そして……汐倉君だ。
だけど皆、すでに再起不能になっている。
その事を水上さんは知ってるのか?
「奴が……魔王ヨウジ・ミズカミかッ!」
シンクレシオが吠え、剣を構える。
「奴を討てば、全て終われるッ! 平和な世になれば、ルーシェル様もより良い治世を敷く……だからこそ──『疾走する我身』ッ!!」
シンクレシオの動きが捉えられない。
突然消えて、激しい衝突音と共に結界に突撃していた。
「うぉおおおおおッ!!」
「なるほど、神の贈物だな」
全身全霊の必死なシンクレシオ。
対するは興味深そうにシンクレシオを眺める呑気な水上さん。
「察するに特定のステータスアップ系のつまらない能力のようだが、俊敏しか影響してないな。筋力や何やらが上がってる様子は無い。見るからにハズレ能力だ。神の贈物というのはルール無用の無法な力。それが、こんな無様な能力になっているとは、神自身も渡し甲斐が無かっただろうな」
水上さんのその目から興味の色が消えた。
彼は手を翳し、小さく呟いた。
「『ファイアボール』」
「何ッ!? ぐぁあああああああああッ!?」
赤の魔術『火球』に似た巨大な火の玉。
それがシンクレシオの全身を包み込み、ボンッ! と破裂した。
「くっ!」
その攻撃は、近くにいた僕にも少なからずダメージを与えた。




