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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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レアーレの願い①/屍人発生の首謀者


 有志のメンバーである信者達、アリスもソラスも腹拵えは済んだ。

 これから行動に移る。

 まずは荷馬車に乗り、昨日に襲われた場所へ向かう。


 俺の乗る荷馬車にはスマルドが追加された。

 追加メンバーのスマルドは「僕はまだ朝食を摂ってないよ!?」とかなんとか言って喧しいからアリスが黙らせた。

 ゴツン(殴った音)。拳で。ドン(地面に踏み込む音)。ゴツン(殴った音)。


 スマルドは痛みに負け、白目を剥いて気絶した。

 手加減してるとはいえランクAの拳骨を食らうっていうのは流石に同情する。

 まあ、一重にお前が騒がしいのが悪いんだけどな。

 若干煽るような物言いだったし……やっぱり同情はしないでおこう。


 うーん。暴力。暴力は全てを解決する。

 ……身内が解決する時に限るって但し書きはしておこう。


 アリスの役割は基本的にはカルディッシュ攻略時の時と変わらない。

 俺の護衛だ。

 今回はそれにプラスしてソラスとスマルドの見張りを兼任する。

 この二人は降って湧いたスーパーアイテムだから、紛失は出来るだけ避けたいのが本音。


 ───くたばった信者四人の死体を取り戻す。


 信者達はその四人に思い入れでもあったのか、あるいは同じ民族だからか、やけに張り切っている。

 さっきアリスは手伝ってもいいって言ってたけど、やる気はそんなに無さそうだからね。

 それは俺にやる気が無いのが分かってるからだろうなぁ……。

 そんなに分かりやすいか、俺。

 それともアリスの察しが良過ぎるだけかな?




 はい。現場に到着した。

 犯人は現場に戻る確率は非常に高いってプロファイリングがあったような無かったような。

 とにかくグール達はここに来るだろうか。

 それも朝っぱらから……昼も来なそうだなぁ。

 グールは陽の射さない場所にいるイメージあるし。


 ちなみに他の奴ら同様、今回からは俺も武具を装備している。

 カルディッシュにいた時は護衛を置くだけで獲物なんて一切身に付けてなかったから、あの二人と冒険者三人、ついでにメイドと試しの森に行ったっきりか。

 厳密に言うと慰め程度に護身用の短剣は懐に忍ばせていた。ランク差的に無駄な感じはしてたけど。

 まあ、一応お守り感覚で。


 俺は筋力の問題で細身で軽めの剣を左腰に差している。

 もう二ヶ月くらい竹刀振ってないし、結構身体が鈍ってるから身体を動かしたい。

 こんなに身体を動かさないのは初めてじゃないか?

 小学校から高校の七月半ばまでは毎週剣道やってたし。


 ……そういえばもう九月頃か。

 夏休みが終わって二学期突入してる頃だろうな。

 あっという間に時間は過ぎていく。

 元の世界に戻れたとして、その時の俺は一体 何歳(いくつ)になってる事だか……。


 それはそうとグールは死んでる魔物だから俺の神の贈物(ギフト)『神の御言(ヒプノシス)』の効果対象外だ。

 その為、無手は無理。

 だけど、レベルが上がってて元の世界にいた時よりかは身体が思うように動く。

 剣があって、不意打ちさえ喰らわなければ大丈夫。

 それに俺にはアリスがいるんだから(フラグ)。


「前方からグールが多数襲来! 距離およそ八〇!」


 御者が目当ての魔物を目視したみたいだ。

 そうか。

 グールは朝っぱらから活動するのか。

 部活オフの日曜の俺より健康的じゃん……負けたわ。


「近接戦闘が出来る俺達が先行する! 魔術組は俺達の援護を頼む!」

「ああ!」

「分かりました!」


 戦っても無駄なのに戦うのはあの四人を見つける為。

 いなければ即離脱してグールが向かってきた逆方向に一直線で向かう。

 俺は魔術の撃ち漏らしでこっちに向かってくるグールを対処する組にいる。


 アリスは護衛を全うする為、俺の後方から一定の距離をキープしている。

 ちなみに右手はソラスの首根っこを掴んで、左手は荒縄で拘束されたスマルドの首根っこを掴んでいる。

 ランク差的にちょっとでも力加減を間違えたらポックリ逝っちゃいそうで怖いが、まあいいだろう。

 他人事だって? いや実際他人事だし。


 おっと。撃ち漏らしだ。


「りゃあ!」


 グールを縦から両断した。

 ただ剣には血じゃない、腐ったようなベトベトした液体がくっついてる。

 気色が悪いし気分も悪い。

 剣を軽く振り上げ、素早く振り下ろす。

 それによって剣から地面にビシャッと液体が振り落ちた。ちょびっとだけ。


 マジか。

 この腐ったような液体、見た目より粘度がある。

 加えて三回同じ動作を繰り返してようやく気色悪い液体が全部落ちた。

 赤坂道場で習った抜刀術の型の納刀前の動作は血液を想定してたから今回の液体はスマートに振り落とせなかった。

 まあ、そもそもベトベトしてるし、しゃあないしゃあない。


 そういえば抜刀術の型じゃないけど、日本剣道形の方は昇段試験前によく水島と組まされて練習したな。

 最初は大まかな動きだけ覚えて、細かいところは赤坂先輩が外から修正してくれて…………待てよ。

 俺、マジで先輩に世話になり過ぎてたのでは?

 もし元の世界に戻る事が出来たなら、改めて菓子折り付きでお礼言いに行こう。マジで。


 それにしても目の前のグールの群れ。

 こいつら、昨日と比べるとだいぶ弱体化してる。

 太陽の下で活動は出来るが、辺りが暗くないとパワーが無く、陽が射してるとパワーダウンするみたいだな。


 分からんけどグールってゾンビと同じって考えていいのか?

 噛まれたりすると感染したりとか……傘会社が開発したあのアルファベット一文字ウイルスに感染した奴らみたいに。

 鑑定眼でも視える情報と視えない情報がある。

 今回のは後者。


 贅沢になってきてるな。

 段々と鑑定眼を不便に感じてきた。


 俺が真っ二つにしたグールは少し目を離した隙に結合して元の状態に戻っていた。

 身体に内包してる粘液で両断された断面がくっ付いたのか?

 死霊系の魔物はよく分からないと思いながら、復活したグールに二閃入れて四等分にした。

 それからまたベトベトの液体を四回ほど振り払う。


「ここにあいつら四人はいない! 総員! 中級魔術で押し返せ!」


 近接戦闘に向かってた荷馬車の代表者の一人が大声で後方の魔術組に指示を出した。

 魔術組は魔術による攻撃を点から面に変え、グールの群れを押し返した。

 その隙に乗じて荷馬車で強行する。


「我々の仲間を弄び、冒涜した首謀者を見つけだせ! 報いを受けさせろ! 絶対にだ!」


 信者達の雄叫びが響き渡った。




 ▽




 縦に伸びたおよそ三メートルほどの錆びた鉄柵が広く囲っている寂れた洋館。

 そこから醸し出される雰囲気はまるで人気の無い廃屋のようだ。

 その二階。

 電気を付けない暗い一室にワインボトルを開けた音が鳴った。

 部屋に広がっていく芳醇な葡萄の香り。


 悠々と葡萄酒をグラスに注ぎ入れる男がそこにはいた。

 男は金髪をオールバックにして白のスーツを着用している。

 歳は三〇を超えているように見えるが、その肉体に衰えは感じさせない。


 この世界を基準にすれば、男は戦う者と呼べるような体格では無い。

 村人と同格以上程度と戦闘で測れば弱者と呼ばれる側の人間だ。

 だけど男はそんな弱点を一笑に付すだけの自信がその表情にありありと現れていた。

 そんな男はワインボトルをテーブルに置いた後、額に手を添えて目を閉じ集中する。


「仕掛けた網に掛かった愚か者がまた現れたか」


 配下であるゾンビから送られてくる信号が男に襲撃を知らせる。


「奴らは昨晩グールにした四人の仲間か……」


 配下を使って荷馬車の後部に座っていた四人を引き摺り降ろし、ゾンビに変えた。

 連中は魔物だグールだと恐れていたが、男が作れるのはゾンビという魔物に在らざるモノ。

 グールであれば一刀両断すれば普通に行動不能に出来る。

 焼かれれば動きは鈍るし斬られた部位も斬られたままだ。


 そもそもグールを作るには特殊な儀式が必要だ。

 その儀式は魔族の中でも一部の存在のみが知っている秘法。

 である為、男が儀式を知る由は無いと言える。


 戦闘持続能力、制圧力。


 大きなものではこの二つを有するゾンビの大軍だが、今回は少し誤算があった。

 荷馬車に搭乗する者のほとんどがランクBに到達した高ランク者だった事だ。

 人数が少なければこれまで通りゾンビに出来たが、今回は如何せん人数が多い。


「お前達が何者かは知らないが存分に恨め。私はお前達に何の恨みも無い。ただ、あの腐った国を滅ぼす為の礎になってもらうだけだ。だから───お前達も私の手駒に加えさせてもらうぞ」


 男の険しい表情は南空の、その遥か彼方に向けられていた。


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