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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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38/60

怪しげな白衣の男



 翌朝。

 夜の見張りが朝の見張りと交代し、軽い眠りに入った。

 硬い荷馬車で雑魚寝してたから少し身体が痛い。

 カルディッシュで贅沢を覚えてしまった弊害か。

 不便も早く慣れなければな。


 目が覚めた時にはすでに信者達は朝食の調理に入っていた。


 何かしらしてる人を見てるだけで手持ち無沙汰だと無性にソワソワして落ち着かない。

 邪魔にならない程度に手伝おうと近寄ると「メシア様が雑事を行う必要はありません!」と過激派に追い返されてしまった。


 まあ、手伝わなくていいって言質を貰ったから心置き無くのんびりと待たせてもらうけど。


 ソラスは名目上、小間使いとしてメシアの側にいる。

 奴隷でいる時間が長かったからかトテトテと朝食作りの手伝いに行こうとしてた。

 だから襟首を掴んで止めさせてもらった。


 ちびっ子が手伝いするのは別に構わないけど、こいつの場合はなんか違うからな。

 意識に刻まれた義務や強制。

 つまりは強迫観念で動くのはよくないという事。


 自分の意思で作業に加わるなら止めなかったけど、こいつの場合無意識にそうしなければならないと刷り込まれてるから非常によろしくない。


 健全なる精神は健全なる肉体に宿る。逆もまた然り。

 そして環境が人を作り、人が環境を作る。

 こいつは最悪の環境で人格形成されかけてる訳だから、比較的良い環境で───。


 ……………………待て。俺は何でこんなにもこいつを気を掛けてる?

 いくら子供であろうとこの世界の人間に違いは無い。

 気にする必要は何一つ無いんだ。


 こいつは利用するだけ利用して使い捨てるつもりだっただろう。

 こいつらに優しさなんか不要だ。

 よし、オッケー。切り替えた。


「メシア様! 朝食のご用意が出来ました!」


 取り敢えず飯だ。腹減った。

 ソラスを隣に置いて作りたてホヤホヤの朝食を摂取する。

 うーん。微妙な味。


「っ!?」


 なにやらソラスがビックリした顔をしてるが……俺、何かやっちゃいました?


「ぼ、ぼくに毒味をさせるつもりで隣に置いたのではないのですか……?」


 あー、そういう事?

 何に驚いたのか分からなかったが、今の一言で理解した。


「毒味の必要はありません。ソラスを隣に置いたのは私の小間使いだからです。温かい朝食も時間も勿体無いのでソラスも早めに食べて下さい」

「あ……はい。ありがとうございます……」


 ソラスは居心地を悪そうにしながら朝食を食べ始めた。

 ちなみに毒味の必要は本当に無い。

 毒性があれば常時働かせてる鑑定眼が見逃さないから毒味は無駄。故に不要。


 最初から鑑定眼を使いこなせれば場所さえ選べばサバイバルもそこそこやれたんだろうなぁと思案する。


 そういえば鑑定眼のアップデート未だに終わらないんだよな。

 今日でようやく三〇パーセント超えたから、アップデート完了まで推定残り三ヶ月くらいってところか?


 でも、読み込みが一定じゃないから分からない。

 もしかしたらもっと速いかもしれないし、もっと遅いかもしれない。

 今のところ目立つ不便は無いからずっと放置してたけど、アップデート完了したらどうなるんだろう。


 今でさえ色々あるのにさらに出来る事が拡張されるのか、それとも改悪アプデが入るのか。

 改悪はヤダな。


 スマホで改悪アプデあった時、操作性悪くなったり画面固まりまくったり勝手に電源切れたりしたからな。

 この世界で、それも鑑定眼でそれやられたら終わるぞ。俺が。


 頼むー。改悪はやめてくれー。


 朝食を食べながらそんな事を考えてたらふと違和感に気が付く。

 ───あり? アリスいなくね?

 一昨日までいなかったソラスの存在に気取られて気が付かなかった。


 どこ行ったんだ? と鑑定眼を使い、遠くを視ようとした瞬間、背後からドスーン! と爆音が落下の衝撃と共に鳴り響いた。

 鑑定眼で視ると土煙が舞い上がる小さなクレーターの中心には案の定と言うべきかアリスがいた。


 なぜか荒縄で手足を拘束されてる白衣のメガネ男を連れて。


「これは……」

「まさかっ、こいつがグールを作ってた犯人か!?」

「そうなんだな! アリス!」

「ええぇえええ!? なになになに!?」


 詰め寄ってくる信者達に白衣のメガネ男は状況を掴めず大困惑している。


「む。何の話だ? この男はカルディッシュから拉致って……じゃなくて連れてきただけだぞ?」


 この子今、拉致ってきたって言いかけたよね?

 信者達から次々と出てくる言葉から事情を察した白衣のメガネ男は「ははぁん」と興味深そうに口角を上げる。


「今回の件と無関係なら、お前は一体何者なんだ?」

「そうだ! 怪しい奴め! 正体を明かせ!」

「ええ……? まあ、自己紹介くらいならいいか……」


 白衣のメガネ男は手足を縛られたまま「突然連れてこられてこの仕打ちって……」と諦めたように口を開いた。


「僕はスマルド、スマルド・エルシーニ。物を造ってるだけのただの人間だよ。あー、あと『賢者』も兼業してるよん」

「───っ!?」


 賢者……自分を賢者って言ったかこいつ!?

 これは、朗報だ。

 なぜか? それはこいつが元の世界に帰る手段を見つけられるかもしれない存在だからだ。

 正しく吉報。


「アリス」

「む?」

「なぜ彼を連れてきたのです?」

「ふっふっふ……この男は餌だ。獲物を引き寄せる釣り餌として連れてきたのだ! ふわぁーはっはっはっは!」


 なるほど分からん。

 取り敢えず賢者だから連れてきたという訳では無いみたいだな。

 尚更ホワイ?




 ▽




「うむ。と、まあ他の者に会話を訊かれぬよう三人になった訳だが……」


 俺とアリス、そして手足を拘束されたままのスマルドは信者達と少し離れた位置に着いた。

 信者達もソルトも目の届く位置だからこちらとしても安心。

 アリスの青の魔術で向こうからはこっちが見え辛くなってるけど。


「まずはアリス、こいつを見つけ出した経緯は?」

「それがだな! こいつ、神の贈物(ギフト)所有者と会っていたぞ! 私の引力がそう言っている! ビビッと感じ取って取っ捕まえに行ったのだ!」


 神の贈物(ギフト)だと? それはまた急な話だな。


「ふーん? なるほどねぇ……。アリスっていったっけ……君、何で分かったんだい?」

「気安く話し掛けてくるな! 貴様に交わす言葉は無い!」

「ええぇ……」


 即答だった。

 アリスはスマルドの問い掛けを迷う事無く一蹴した。憐れなり。

 アリスには悪いが正直俺は神の贈物(ギフト)を使える奴がいるって情報よりこいつが賢者だって情報の方が重要だ。


「スマルド。この世界に召喚された勇者を元の世界に戻す手段は無いか? また、その手段を作れるか?」

「……それを訊くって事は、もしかして君…………ははぁん! 少し前にカルメロルツが召喚した勇者だね!」


 まあ、こういう風に訊けばその結論には至るだろうとは思ってた。


「ふーん? 召喚された三人の内、二人が男性だったって話だから……君がマヒル・シオクラか。同郷の仲間を性的に襲ったって噂の───ぐえっ!?」

「俺を前にその話題を口にするなら慎重に言葉を選べ」

「マ、マヒル……?」


 スマルドの首を掴んだ俺の瞳孔は開いている。

 それは目隠しで見えないが、アリスは声音で俺がキレてる事を察した。


「ぐ、むぐぇ……っ、わわ分かっだ……分が、りまじだ……っ! 離じ、て……苦、じい……っ!?」


 スマルド・エルシーニのステータスは低い。

 ランクで言えばDだ。それもE寄りの。

 だからこそ俺の握力でも首を絞める事が出来ている。


 五指の力の入れ方さえ変えてしまえば殺す事だって簡単に出来る。


 俺は今、本気で苛立っている。

 何をどう見てそう判断したのかは知らないが、俺が挑発に乗らないと高を括ったか?

 お生憎様。俺は生来短気でね。


 俺より下の奴が俺に対して調子に乗ってるのを見てると思わず捻り潰したくなるんだよ。あくまで程度の問題だが。

 元の世界では基本我慢してたが、この世界はいいな。

 我慢する必要が無くてッ!


「ぐぅえええ……っ!?」

「やめよマヒル! こいつ本当に死ぬぞ!」

「……ああ、そうだな」

「っ、かはっ!?」


 パッと手を開きスマルドの首から手を離した。

 アリスに懇願されたから放したのではない。

 アリスに抱きつかれたから放した訳でもない。

 冷静に考えてただ単純に殺すより有効活用した方が利があると思い返しただけだ。


 苛立ちが収まらないが、仕方無い。我慢だ。


「それでだスマルド。この世界に召喚された勇者を元の世界に戻す手段は無いか? また、その手段を作れるか?」

「ごほっ、げほっ……カルディッシュの英雄、メシア教の神……信者達の前で教主がこんな直接的な手に出るとは、思わなかったよ……。いや、魔術でカーテン掛けてたんだっけ……?」

「それでだスマルド。この世界に召喚された勇者を元の世界に戻す手段は無いか? また、その手段を作れるか?」

「……本当にごめんなさい。調子に乗り過ぎました。ご質問にお答えします」


 スマルドは真昼の逆鱗に触れて怒らせたままと言う事を温度の無い声音で繰り返される質問にて悟る。

 また痛くて苦しい思いをするくらいならと飄々とした態度を改めた。


「勇者を元の世界に戻す手段の確立、ね。前例が無いから確実な事は言えないけど、うーん……」


 スマルドは頭を回し、真面目に考えていく。


「勇者召喚の儀に使ってた魔法陣があれば多分研究出来無くは無さそうだけど……それは僕の専門じゃないし……」


 真面目に考えた末にスマルドは「つまんなそうで興味が沸かないなぁ」と小声で漏らし、シラケた顔を晒した。

 この男、どんな状況であろうと興味の範囲を逸脱すると途端に気力が無くなるのだ。

 しかし、そうは問屋が卸さないのがこの男。


「俺が訊いたのは興味うんぬんじゃない。やるかやらないかだ」

「でもぉ前代未聞だし、確約は……」

「やらないならお前に存在価値は無い───殺す」


 当然、スマルドは脅しと捉えた。

 しかしアリスがデモンストレーションもつもりか近くの木の一本をメキメキバキバキと悲鳴を上げさせ、瞬く間も無く一瞬でぺしゃんこにしたのを目の当たりにさせられたスマルドの身体はビクッと震え上がった。


「……………………………………協力します」


 マイペースな男は圧倒的な力の前についに観念した。


「それと貴様、神の贈物(ギフト)所有者と関わりがあるだろう? その者の居場所を疾くと吐くがよい」

「別行動中だから居場所は分からないんだ……ほ、本当だよ!? でも、そのうち姿を現すと思うよ……多分」

「ほう? 貴様、肝に銘じておくがよい。釣り餌として価値が無いと私が判断した時が貴様の最後だ」

「……………………………………はい」


 アリスの青く鋭い眼光に晒され、スマルドはしなしなと力無く返事した。


「ふわぁーはっはっはっは! 見たかマヒル! ついに三人目だぞ!」

「ああ、まさかこんな速く手掛かりが見つかるとは……流石はアリスだな」

「もっと褒めるがよい! 具体的には……頭を撫でてほしいなぁ……なんて……」

「可愛い奴だなぁ。よーしよしよしよし」

「む……んふふふふ!」


 アリスは自身の頭を撫でる真昼の手にグリグリと頭を押し付ける。


「そういやアリス、朝食は摂ったか?」

「む。そういえばまだだったな」

「腹が減っては戦は出来ぬって言うし……まあ、それはグール相手は静観するらしいアリスには関係無い、か?」

「ふっふっふ、私は今とても気分が良い! ちょっとくらい手伝ってもいい気分になってきたからな!」

「それは助かる。アリスが加われば文字通り百人力だからね」

「ふっ、百人力では無い……千人力だぁ!」

「アリスってほんっとーに可愛いな」

「うえっ!?」


 顔を赤くしてビックリした表情を浮かべるアリスを視て真昼は「アホの子っぽくて」という余計な一言を口に出す事は無かった。




 和やかな雰囲気の中、突然冷淡な顔つきになったアリスはスマルドに右手を向けた。


「おい貴様! クネクネと怪しい動きをしてからに……まさか逃げる腹積もりじゃないだろうな?」

「いえっ!? まさかっ!? そんなっ!?」

「分かってると思うがお前、俺達以外に余計な事言ってみろ。その素振りを見せた時点でお前は有罪(ギルティ)。俺の神の贈物(ギフト)でお前を意思無き奴隷に変えてやるからな」

「ひぃいいい!? 余計な口は開きません! 言う事は聞きます!」


 スマルドは確信した。

 勇者マヒル・シオクラは嘘を吐いていない、と。

 なぜかは説明出来ないが、己の直感が逆らうべきでは無いと激しく警鐘を鳴らしているのだけは分かった。


 おそらく神の贈物(ギフト)持ちというのは本当。

 アリスの木を潰した力もきっと神の贈物(ギフト)の恩恵だ。

 神の贈物(ギフト)所有者という激レアな二人組を前にスマルドは冷や汗が止まらない。


 己の命や尊厳を脅かす存在を前にスマルドはダラダラと流れる冷や汗が収まらない。






「(ラベッタ君んんんんん!? 早く助けに来てぇえええええええええ!?)」


 スマルドは突然誘拐されたり脅されたりと己の不遇に心の中で嘆き叫んだ。


山場が後二つ終われば第三章に入ります(入りたい)。

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