カルディッシュ・カルメロルツ領攻略⑦/裏切り者の正体
「武装第一部隊、魔導具第一部隊、魔術士第一部隊のリーダーは同第二部隊、第三部隊、第四部隊、第五部隊を連れ行き手筈通りに突入の指揮を執って頂きます。騎士の中には我々に寝返った者がいます。分かり易い合図を見れば簡単に違いが分かるでしょう。その者達とも協力し官府制圧に当たって下さい」
「「「承知しました! 全てはメシア様の御心のままに!」」」
疑問や文句一つ言わず各種第一部隊のリーダー達は中隊規模になった集団を三分割して先導し、三箇所から官府へと突入した。
官府内の見取り図はすでに頭に入っている。
これは中央の代表が提供し、ノーランド・カルディッシュが検分した正しい情報だ。
それらを元にあらかじめ作戦を複数パターン用意した。
あとはアリスのようなイレギュラーが発生しなければ、こちらの負けは万に一つも無い。
計画通りに進めば、これでチェックだ。
「教主メシアよ。我々も……」
「ええ、行きましょうか」
「安心しろメシアよ! 貴様の敵は私がギッタンギッタンのメッタンメッタンにしてやる! 故に敵陣の中であろうと大船に乗ったつもりで悠々と闊歩するがよい!」
「疑うまでも無く貴女の事は信頼していますよ。アリス」
「むふー!」
運命の言葉で嬉しそうにアホ毛を揺らすアリス。
対照的にガラルストス・デタルーは「なぜこのような……」と不満を隠そうともしない。
そんな些事は捨て置き、俺は正面からゆっくりと侵入を果たした。
すでに建物内は荒れている。
戦闘が始まっているからだ。
官府にいる騎士は本国と同じくランクB相当の上澄みの実力者が揃っている。
流石に巣の中は厳重になっているか。
だが、作戦が通じるかどうかの良いテストモデルとなる。
本国の騎士の程度を想定する良い機会だ。
「敵陣で武装もせず護衛も少ないとは舐められたものだな!」
「それに指揮官が前線に出てくるとは愚かしい!」
「ようやく見つけたぞ! 貴様がメシアだな! 覚悟ォ!」
ワラワラと集まってきた騎士が一挙に襲い掛かってきた。
「愚か者はどちらだ。私が傍にいる限り、私の運命には指一本触れさせはせぬ」
どこからか重低音が鳴り響き、メシアに迫ってきた騎士は一人残らずバシャッと潰され、床の染みとなった。
ガラルストス・デタルーはアリスの理不尽な強さを目の当たりにし、冷や汗を流す。
「ありがとう。アリス」
「うむ! メシアよ!」
そんなアリスを籠絡したメシアもまた、警戒するに足る人物となった。
メシアは一体どのようにしてあんな怪物を懐柔したのか。
気を失っていた間に何が起こったのか。
空白の時間について考え、ガラルストス・デタルーは眉を顰める。
官府は地上七階高層。
地下を含めると全八階構造となっている。
七階建てなのに天井が高い為、ちょっとした大型のショッピングセンター以上に高く大きい。
単純だが権威を示すには良い手を使うと感心する。
だが、避難経路がお粗末過ぎる。
非常用経路すら作らないとは強気だな。
ここまで襲撃されるとは想定すらしてなかったという事か。
多少技術があろうと蛮族はやっぱり頭蛮族だったという訳だ。嘲笑してやる。
「総督の現在位置は……最上階か。私達は敵の作戦室に向かいます。アリスは先頭に、殿はガラルストス・デタルーに任せます」
「うむ!」
「分かりました」
▼
「ついに奴ら、官府に襲撃を仕掛けて来たぞ!」
「防衛線にランクA相当の者は配置していたんだよなっ!?」
「ランクB相当の者でも十分と言ったのは貴様だ!」
「カルメロルツの騎士ならばやってのけると後押ししたのは貴様だろう!?」
「官府内にはランクA相当の騎士が複数いる。籠城戦ならばまだ慌てる時では無い」
「呑気な事を言うな! 侵入されてるんだぞ!?」
総督は作戦が尽く裏目に出た現状にべとつく脂汗を滝のように流して焦っている。
「官府内の防衛ラインが次々と突破されている……っ、我が国の騎士はなぜ勝てないんだ!? 警邏団の平凡な騎士と違い逐次投入した者達はエリート揃いだったはずなのに! このままではキリューゼル殿下に会わせるか、かか顔が……っ!? この体制に楯突く野蛮人共がっ!!」
作戦室の全員が敵の官府の構造を知り尽くしているような手際の良さに恐怖する。
そして、有効な解決策を編み出す事も無く二〇分も経たずに状況が終了した。
恐ろしい速度で作戦室を除く全ての場所が制圧されたのだ。
ドガッ!
突然デカい音が鳴り響き、作戦室の扉が破壊された。
それと同時に作戦室にいた全員が扉のあった場所にバッと顔を向けた。
「ふむ。メシアの見立て通り、ここが作戦室のようだな」
視線を向けた先には右手に剣を握り、魔鉱石製の胸当てを身に付けた金髪の美少女がいた。
扉は蹴り飛ばしたらしい。
「急ピッチで尚且つバッファを設けなかった甲斐がありましたね。おかげで一ヶ月も掛からず目下の課題をクリア出来ました」
金髪の美少女のあとに目隠しの黒き聖装束の男が姿を現した。
総督はその男の目隠しに施された紅き円形と首に掛けた紅き円形の装身具を目の当たりにし、思わず声が漏れた。
「貴様が、メシアか……っ?」
「ええ、初めまして。カルメロルツ王国第一王子キリューゼル・ラ・カルメロルツの騎士団所属、その文官が一人、クリッシュタルド・タイアス卿。まさかカルディッシュ・カルメロルツ領を治める総督に知られていたとは光栄ですね」
「や、喧しい! 貴様ら、こんな事をしてただで済むと思ってないだろうな!? カルディッシュの反乱が本国に知られれば、今度こそ国の名前すら抹消され原住民への激しい弾圧が始まるぞ! メシア教と言ったな! 貴様の怪しい新興宗教もそうだ! それが分かっていて今回の暴挙に出たと言うんだな!?」
ランクB相当の実力を持つにも関わらず怯え、必死に虚勢を張る総督にメシアは「く、ふはははは」と思わず口角が吊り上がり嘲笑が込み上がってしまった。
相手は自身を追い込み、絶望の淵へ叩き落としたカルメロルツの人間。
そんな相手が無様を晒す姿は心底滑稽に過ぎる。
「き、貴様!? 一体何が可笑しい!!」
「いやはや、それが分からず決行する馬鹿がどこにいるというのです? しかし、カルメロルツの騎士はもっと気骨があるものと思っていましたが、いささか買い被り過ぎていたようですね」
「我らを愚弄するか……っ!」
「愚弄? 不倶戴天の相手には相応しい応接では? 主人であるキリューゼルがアレであれば部下もまたそういう事なのでしょうか」
「どこまでも馬鹿にして……っ、貴様ァッ!!」
「ふははははははは───」
カルディッシュ攻略を目前に興奮したメシアは今までの鬱憤を少しでも晴らさんと総督を煽りに煽った。
作戦室の人間が怪しい動きを見せればアリスが殺す。
余裕が出来たが故の発散。
しかし、凶刃は前からで無く後ろから迫ってきた。
「ぐっ!?」
メシアは腰から腹を貫く剣に目を見張る。
貫かれた傷口から温かい液体が、血が流れる。
明らかな致命傷だ。
一瞬遅れて事態を認識して瞳孔が開いたアリスは下手人を殺そうと咄嗟に剣を振り上げたが、メシアに手をかざされ動きを制された。
「なぜだ!? この男は貴様を殺そうと卑怯にも後ろから剣で刺したのだぞ!? なぜ裏切り者を殺さぬ! なぜ裏切り者を殺させぬ! なあ! マヒルッ!!」
「アリス……人前では、メシアと呼べ、と……っ」
「そんな事を言っている場合か! 私の運命!」
「く、ひひひひ。何だ、仲間割れか?」
メシアを後ろから刺す男。
そして散々と煽ってきたメシアが致命傷を負ったのを見て総督は嘲笑う。
「違う、な……ガラルストス・デタルー。この男は始めから、私の仲間では無い……」
「ガラルストス・デタルーだと……? ハハハッ、ノーランドの側近中の側近じゃないか! そんな男に後ろから刺されるとは……ノーランドに見捨てられたか!?」
嘲る総督に男は訂正を入れる。
「違いますね。今の行いにノーランド殿下は関係ありません。全て私の独断です」
そう言ったあと、ガラルストス・デタルーの全身がブレた。
アナログテレビの画面にノイズが走った時のように。
そしてガラルストス・デタルーは……否、全くの別人の姿になったガラルストス・デタルーだった者は髪をかき上げた。
姿を変えた見慣れぬ男の台頭にアリスはより警戒し目を鋭くする。
「ノーランドも私を疑っていたが、それはあくまでガラルストス・デタルーとして。貴君はいつから私が裏切り者では無く、成り代わったスパイだと確信された?」
「始め、からだ……。貴方の雰囲気には、覚えがあった……」
「なるほど、直感と。流石はメシアとしてカルディッシュ・カルメロルツ領に王手を掛けた男だ。あの時とは目が違う」
「貴様……やはり、王都にいたな……っ」
メシアの指摘に男は小さく息を吐いた。
「そうだ。私はカルメロルツ王国国王カンベルト・エル・カルメロルツ陛下直属隠密精鋭部隊、騎士団『黒爪』が一人。ネバンネン・ハーデルファイツ。その眼、リリアンの言った通り、やはり『偽装』は見破れないようだな」
「貴、様ァ!」
リリアン。
確かあの無表情なメイドの名前だ。
釘宮をカンベルトに献上したクソ女。
その女と同じようにガラルストス・デタルーに扮していたネバンネン・ハーデルファイツなる男から視える能力値はランクA相当からランクS相当へと変化していた。
「こ、国王陛下の騎士団!? まさか、実在していたのか!?」
総督が驚愕したように言う。
作戦室にいる騎士達もどよめいた。
「勇者マヒル・シオクラ。あの日、ノーランドの命令で北の都に拠点を置く新興宗教の教会へ訪れた際、貴君の顔を目にした時は驚いた。まさか本当に生きていたとはな」
「ああ……俺は地獄に舞い戻ってきた。全てを斬り拓く、為にっ!」
目隠しを外し、顔を後ろに向け自身を刺した男を憎々しく睨みつける。
激しい憎悪を向けられた男は意にも返さず涼しい表情のまま淡々と言葉を続けた。
「だが、貴君の活躍もここまでだ」
「ぐぎっ!?」
腹を貫いた剣を強引に引き抜かれた。
傷口からの出血が勢いを増す。
「マヒルッ!!」
ふらつく身体をすかさずアリスが支える。
「くひひひ、いいぞ! 奴を殺せ!」
「総督殿、何を言っておられる。なぜ私が素性を明かしたのか理解出来ていないでおいでか?」
「な、何を……?」
「カルディッシュ・カルメロルツ領をまともに統治出来ず、あまつさえ一日で国の要を落とされた。独立戦争がたった一日で。貴君らはもうお払い箱なのだよ」
「そ、そんな……私は、キリューゼル様の為に……っ!?」
「辞世の句はそれでよろしいか?」
「うわぁあああああああああああああ!!?」
赤の魔術によりボッ! と発生した炎が総督の全身を燃やした。
あまりの熱さに耐えかね、高く設置されていた椅子から汚い悲鳴を上げ、転げ落ちた総督に剣を振り上げ止めを刺そうとした。
「ネバンネン・ハーデルファイツ」
その瞬間に制止する声が男を止めた。
「貴君もこの場の無能共のあとで殺す。その前にアリス・フィア・ルーベンデルクを殺さねばならなそうだが……話を訊くのはその時でよいな?」
指輪を外した後、白の回復魔術を宿した貴重な代物である回復の祝符を使いメシアは……否、真昼は全快した。
腰から腹に掛けて刺されたところはすっかり塞がり、損傷した臓器も元通りになった。
祝符は魔力を使わず使用出来る使い捨ての紙札。
万が一を想定し、早い段階から信徒に用意させていた虎の子を使う羽目になった現状に真昼は内心舌打ちしながら指輪を嵌め直す。
相変わらず集中力が掛けると思考と行動が雑になる自分に嫌気が差す。が、そんな思いは短期間の縛りがあったからしょうがないと雑に脳の片隅に追いやる。
「此度の作戦にて貴君の事実上の副官である私にも知らせずそんな玩具を用意していたとは……最初から疑っていたのか? この私を」
「違うな。お前だけでは無い。裏が取れたスパイや裏切り者は足が付かないよう秘密裏に殺していた。その中でもお前だけが足を出さなかった。ノーランド・カルディッシュは決定的な証拠が無く裏切りの確証を持てなかった。だからお前を俺に付けたんだよ」
「貴君自身が、囮だと?」
ネバンネン・ハーデルファイツは眉を顰める。
「ああ、俺はあの日から妙に頭が冴えるんだ。まるで頭の中にある靄が晴れたかのように、全てが澱み無く澄み渡ってるんだ」
「……何だ? 突然何の話だ? 貴君は何を話している?」
「ステータスが乏しく、魔力が一切無くとも『勇者』は貴重な職業だった。そういう話をしているんだよ。だから───《俺に従え》ネバンネン・ハーデルファイツ」
「───は! 我が主君の命じるがままに」
敵将に従い、素直に膝を付くネバンネン・ハーデルファイツに作戦室内の文官達がどよめく。
「……は? 何だ……っ、何をしたんだ貴様!?」
「まさかカナレア王女殿下と同じ『魅了』の……いや、『洗脳』の技能か!?」
「うるさいんだよ。お前達は───《死ね》」
「「「は! 全ては御身の御心のままに!」」」
彼らは殺傷力のある魔術や護身用の短剣を使い、首を裂いたり心臓を貫いたりと自決していった。
力無く臥せる彼らの後、作戦室に新しい死体が増えた。
パチパチと火花を散らし燃えカスになった総督だった物が熱気に揺られ床を転がった。
優秀な特殊工作員。極上な駒が手に入った。
ネバンネン・ハーデルファイツは長年も信頼関係を築いてきた相手でさえ短期間国を離れたりと不審な動きをしなければ疑われすらしないレベルの変装と諜報を熟す。
ランクはS相当。
まるで棚からぼたもちが降ってきたような気分だ。
まあ、厳密には何もしてない訳じゃないからこの表現は適切じゃないけど。
今日だけであんなに脅威に思っていたカルメロルツの騎士が大勢死んだ。
そしてカルメロルツが支配した国を一つ奪ってやった。
取るに足らないと乱雑に扱った人間にコケにされる大国に口角が吊り上がる。
「く……ふはははははははははっ!」
「マヒル! 今は安静に! 傷がっ、安静にしろ!」
「ふははははははははははははははっ!」
アリスに制止されるが、あまりの滑稽さに真昼の高笑いは止まらない。
散々と笑ったあと、真昼は小さく呻く。
視界がかすみ意識が遠くなり、フラッと倒れた。
「マヒル!?」
真昼を支えていたアリスが慌てる。
貧血だ。
血を流し過ぎた為、真昼が倒れるのは必然だった。
回復の祝符は失った血液を元に戻す効果は無い。だが、職業『勇者』にある基本機能が真昼を生存させる。
「マヒル……私の運命よ。貴様は異界より召喚された勇者だったのか……。いや、例えマヒルが何者であろうとも、私は───」
アリスは気絶した真昼をそっと抱きしめた。
そしてゆっくりと目を閉じる。
あの時、鳥籠に囚われて不自由だった自分を想起して───。
第二章の話数が予想の三倍以上になりそうで白目剥いてる。
速く次の章書きたい……。




