カルディッシュ・カルメロルツ領攻略⑧/カルディッシュの国教
「……………天井が見えねぇ」
「むっ!? マヒル! ああ、良かった! 目が覚めたのだな!」
真昼が意識を取り戻すと少し硬い感じもあって少し柔らかい感じもあるものに頭を乗っけられている。
加えて上を見ると暗くて何も見えない。
辛うじて自分の体と横側が見えるくらいだ。
四の五の言わずに鑑定眼を使えばいい話だが、疲れていてとてもじゃないがそんな気分にもならない。
ただ、少し甘い匂いが鼻腔に広がっている。
汗と石鹸が混ざりあったような変な匂い。
ずっと嗅いでたら変な気分になりそうな、そんな匂い。
「マヒル! マヒル、マヒル!」
アリスが名前を連呼すると共に真昼の顔に柔らかい水風船のような物がむぎゅっと押し当てられた。
あー……これ、アリスの太腿と胸か。
膝枕されてる事に気付いた真昼はあまりの居心地の良さに動けなくなってしまっていた。
さっきチラ見した時に横側の床にアリスが付けていた胸当てが置いてあったのをふと思い出す。だから柔らかかったのかと納得する。
そこから朦朧としていた意識がしっかりし始めて、改めて歳下の女子に膝枕されてる事実を思い返し顔が赤くなった。
「……アリス?」
「マヒル、どうしたのだ?」
アリスの声は優しく、そして柔らかい。
「ありがとう。だけど重いでしょ。どくからちょっと離してくれる?」
「駄目だ! 離したらまた傷付いて死にかけるかもしれない! だから私の運命を二度と離すものか!」
「…………」
ぎゅーっと必死にくっ付いてくるアリスに困惑する。
やっぱりこの子、俺に執着し過ぎじゃないか? と、そう思うのと同時に官府突入時の事を思い出した。
『安心しろメシアよ! 貴様の敵は私がギッタンギッタンのメッタンメッタンにしてやる! 故に敵陣の中であろうと大船に乗ったつもりで悠々と闊歩するがよい!』
『疑うまでも無く貴女の事は信頼していますよ。アリス』
『むふー!』
あの時の発言を果たす事が出来ず、気に病んでいるのだろうか。
「もはや私はマヒルでマヒルは私なのだ……マヒルが刺された時、私も自分の事のように辛かった。もう嫌なのだ……また、マヒルが傷付くのは……」
そんな事は無かったらしい。
だけど、アリスは声を震わせていた。
アリスにとって自分という存在が自分が思っている以上に大きいと確信した真昼は小さく呟く。
「神の贈物を所有する人間は俺が思ってるよりずっと貴重なのか」
「………うむ。およそ世界規模で見ても神の贈物所有者の存在はレアだ。だからこそ私は同類を求めていたのだ」
「職業や技能とは無縁の全く別種の能力か」
「確か神の贈物の能力は所有者の切なる願いが具現した結果らしい」
「願い、ね」
真昼は己の所有する神の贈物『神の御言』の能力を思い返す。
「イリオスにいた時、堅苦しい阿呆なギルド員が昔に訊いた話だと語っていた」
「人伝の人伝なんだな」
「うむ。希少だから無闇に吹聴するなと言われた。死期を早めたくなければ絶対にと念を押されてな」
そこまで希少なら解剖してでも解明したいって輩が出ないとも限らないか。
「だったらいっその事、アリスの能力の応用で片っ端から見つけ出して神の贈物集団でも作るか?」
「むっ!? いや、でもそんな簡単には……」
「俺を見つけられたじゃないか」
「それはそうだが……それはマヒルが私の運命だったからで……これまでずっと見つからなかったし……」
「でも、実現させてみたいだろう?」
真昼の語る甘い理想。
顕在的にも潜在的にも望んでいる甘い未来を言葉にされ、アリスはついぞ頷いた。
「う、む……そうだ、な」
「俺の運命なら、それくらい出来るさ」
「うむ……うむっ! 今は独りじゃない! 今は私の運命がいる! 私達の仲間を集めるぞ! マヒル!」
アリスがやる気になり、真昼の口角が吊り上がる。
「ああ、アリス。俺達の仲間を集めようか」
「うむっ!」
アリスの嬉しそうな声。
それを聞き届けた真昼は別方面から戦力増強が出来そうだとニヤリと笑う。
「それはそうと、マヒル……」
「ん?」
「その体勢で喋られるとその、いささか胸が……くすぐったい……」
真昼はずっと真面目な顔で話していた───下乳と太腿に挟まれながら。
「アリスの力が強くて振り解けないんだよ」
「む、むむむむ……」
アリスは葛藤する。
「そろそろこっちに来る奴もいる。目隠しくらい着けさせてくれ」
「むむむむむむ……っ」
アリスは葛藤する。
「俺はいなくならないよ。絶対に置いていかない───アリスだけは」
「………………うむ」
アリスは納得はせずとも欲しい言葉を真昼がはっきりと口にした為、腕の力を抜いた。
柔らかい拘束から抜け出せた真昼はふらつきながら起き上がった。
しかしクールを装いながらも赤くなった顔は隠せていない。
軽く顔を左右にブンブンと振って煩悩を払う。
それから床に落ちていた目隠しを拾い上げ、埃をはたいて目元に着けた。
「アリス」
「うむ。私はマヒルに付いて行く。だから、私を独りにしないでくれ」
「ああ、約束しよう。俺の運命」
「ありがとう。私の運命よ」
▽
あの後、官府に侵攻した全部隊がメシアの館内放送で一階の広間に集まった。
戦後の処理について指示を出す為だ。
まずはカルディッシュ全域に通信の魔導具を使い、中央の勝利を伝えた。一部の伝令兵には国境沿いの砦で警戒している人員に勝利を伝えに行かせた。
倒壊した建物の撤去や負傷者の手当。
家を無くした民間人には公共の施設に設置した仮設シェルターを利用させる。
死亡したカルメロルツの人間は疫病を撒き散らす前に雑にでいいから、取り敢えず一纏めにして焼かせて、カルディッシュの死亡者は手厚く弔うようにと指示。
あとから訊いた話だが、国境沿いに設置した砦の中間付近で本国に向かうカルメロルツの騎士を数名捕らえたらしい。
やはり直接足を使わせ、本国に応援を求めに行かせていたという事だろう。
念には念を入れておいて良かった。
ただ、南と東の都の特定の場所だけは大打撃を受けたらしい。
目先の勝利を焦った馬鹿な信者とバカな騎士が大規模な魔術を使って色々と破壊してしまったらしい。
建物も人もお構い無く……やっぱり獣か。
今、国中が勝鬨を上げている。だが、すでに賽は投げられた。
大々的に行動を起こしたからには様々なものに影響が及ぶ。
その影響に飲まれないように、逆に影響を飲み込むつもりでこれからも行動する。
俺はカルメロルツを浄化してあの二人をカルメロルツから連れ出す。
元の世界に帰れないのなら、せめて俺達が安心して生きていける居場所を作る。
そこでゆっくり探せばいい。
元の世界に帰る方法は。
「すっかり日を跨いでしまったね」
「東西南北と四方の都から中央の都に集まってるんです。時間が掛かって当然です」
「拠点都の中央区域からハブられた指揮官が何か言ってらぁ」
「南の代表……っ、貴様は茶々を入れなければ死ぬのか? それとも死にたいのか!?」
各都の代表は中央の都にそびえ立つ官府に集まった。
今回の作戦で各代表の副官を務めた者を、この場では付けて良いとして同伴した。
中央の都と南の都。
バチバチに仲が悪い二箇所の代表の副官は二人して困った顔してアタフタしている。
「そういえばだメシア。貴様、殿下の腹心であるガラルストス・デタルー卿はどうした? 貴様に付いていただろう。なぜこの場にいない? その女は誰だ?」
「それはこちらも気になっていた。中央の代表が言った事について何か言う事はありますか?」
中央の代表と東の代表がメシアに矛先を向けた。
口にこそ出さないが、信徒である南の代表もメシアに説明を求める目を向けている。
メシアはそれら圧に動じる事無くノーランドに問い掛けた。
「ノーランド・カルディッシュ。話しても?」
「そうだね……うん。私からも頼むよ」
「ええ、分かりました」
メシアは語った。
アリスは運命によって自身の元に導かれた使者である事。
ガラルストス・デタルーはすでに死んでいた事。
本国の諜報員が化けてノーランドをずっと監視していた事。
最後の最後に官府の作戦室で背後から刺され、アリスと共に撃退した事。
「騎士団『黒爪』だと……?」
「ガラルストスはすでに死んでいたのか……そうか……」
「確かにあの時、アリス・フィア・ルーベンデルクは探し物が見つかったような反応をしていたが……」
途中で嘘を混ぜたが、これはアリスの立場を確立させる為だ。
メシアの傍に置くなら味方殺しのままは不味いからな。
それにあまりにも反発が大きければ全員を意思無き傀儡に変えなきゃいけなくなる。
それは真昼の望むところでは無い。
「ありがとう、メシア。私の騎士に裏切りは無かった。知らない間に殺害されていたのは無念だったけど、色々な事がようやく腑に落ちたよ」
「貴方が不穏分子を私に付けたのは未だに腑に落ちませんがね」
「そう言わないでくれ。こっちも疑心暗鬼だったんだ。それなりにね」
チクリとした言葉にノーランド・カルディッシュは苦笑いをする。
「でも、今日この日という瞬間、私達は国を取り戻せたんだ」
「殿下……っ」
「メシア……本当に感謝している。無意味に燻っていた我々はようやく独立の一歩を踏み出せた」
元とはいえ、王族が頭を下げた。
「で、殿下!?」
「一体何を……っ!?」
その事実に各代表と副官は慌てふためき、頭を下げるのを止めさせようとしたりしたが最終的には合わせてメシアに感謝の意と共に頭を下げた。
「『一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ』」
「その言葉は?」
「昔、ある船に搭乗した船長の言葉です。今回の私の使い方からして本来の意味とはかけ離れますがね」
「まあ確かに、やり残した事もやらなければいけない事もまだまだ沢山残っている。そういった意味では今回の革命は小さな一歩なのかもしれないね」
「しかし民衆や兵士、植民地に堕とされた諸外国にとって今日の革命は大きな飛躍だと……そういう事ですね? メシア様」
「その通りです。南の代表、ジム・アグラルカ。大々的に震え歓喜するのは民草の仕事です。民草を導く我々の仕事はカルメロルツからの介入阻止、また各植民地を解放していく事の大きく二つ。我々はまだ喜ぶ段階では無いのです」
ノーランド・カルディッシュは肯定し、頷いた。
「カルディッシュは私達に任せてほしい。あの頃と違ってカルメロルツは全力を出す事が出来無いだろうから、これまでならともかく団結した私達なら時間稼ぎ程度やれない事は無いはずだ」
「ギルナクスとの海を跨いだ戦争。植民地への戦力分散。勝手に弱体化してくれている今こそがチャンス。故に最短最速で植民地を解放し、総力を挙げてカルメロルツに攻勢を仕掛けなければならないのです。長年に渡る支配からの解放。それにより得られるは自由。そしてそ───」
「メシア。貴様はこの国どころかこの大陸の人間ですらないのだろう? そんな貴様がなぜ植民地解放に積極的なんだ?」
話の途中で中央の代表が突っかかってきた。
内心面倒に思いながらも必要な事かと思い直し、メシアは返答してあげた。
「私はメシア。この世を救う主、人類の解放者、世界救済を望む現人神」
「貴様……はぐらかすつもりか?」
中央の代表はメシアを見る目を鋭くさせる。
剣呑な雰囲気が流れかけたその時……というよりメシアを責める中央の代表に不機嫌になったアリスの手が出掛けた時に仲裁に入ったのは意外な人物だった。
「はっはっは。結構結構。いいじゃないか。人間誰しも知られたくない過去の一つや二つはあるものだよ」
「ノーランド殿下! それは怪しいって言っているという事では無いのですか!? なぜはぐらかせたままで───」
「マキシマス。マキシマス・ピコロ」
「……っ、はい。殿下」
「私はメシアを知っている。私がメシアを知っている。だからこそ言わせてもらおう。彼のカルメロルツに対する怒りは真正のものだ。そこに疑う余地は無いよ」
「分かり、ました……っ」
ノーランド・カルディッシュの言葉に理解を示した中央の代表だったが、納得はしていない様子だ。
メシアの後ろに控えるアリスも自身の運命に突っかかる男のせいで不機嫌なままだ。
「さて、カルメロルツ全土の拡大図を用意してくれ」
悪い空気を変えるように南の代表が自身の副官に指示を出す。
彼の副官は頷き、手に持っていたファイルの中から折り畳まれた紙を取り出した。
その紙を広げ、五人が囲っているテーブルに置いた。
「メシア様。次の解放目標は如何なさいますか?」
「どうしても孤立している二ヶ国は後回しになってしまいますね」
「カルメロルツの西にあるフランクールと東にあるアカルバーデルクだね?」
「ええ。だからロアルナ、ビルポタス、リスバイル、アレクサンドリア、サンブルックス、ヒナメルツの六ヶ国の内どこかという事になりますね」
「少しいいですか?」
東の代表が声を上げた。
遮らず、全員が続きを促した。
「リスバイルとアレクサンドリアはどうも最近きな臭い動きをしています。秘密裏に動いているようですが、今もうちの諜報員がその詳細を調べています」
「で、あるのならその二つの国は一旦避けた方がいいという話でいいか?」
「そうですね。南の代表。アレクサンドリアには有望な魔術士が集まってるという話もありますし……一体何を企んでいるのやら」
リスバイルとアレクサンドリアは東の代表がストップを掛ける。
メシアもわざわざ薮蛇をつつくような真似はしない。
だったらロアルナ、ビルポタス、サンブルックス、ヒナメルツの四ヶ国になる。
「メシア様。ヒナメルツも後回しでよろしいかと」
「理由は最南端の島国だからですね?」
「はい。それに海上戦を勝ち抜いても次は陸上戦、籠城戦と時間が掛かり過ぎる懸念があります」
「となると残るはロアルナ、ビルポタス、サンブルックスの三ヶ国ですか……」
残った三ヶ国の中でカルディッシュに隣接してるのはロアルナ。その南にビルポタス。そのさらに南にサンブルックスがある。
ならばとメシアは結論を下した。
「ロアルナ、ビルポタスを経由してサンブルックスに向かいます」
「サンブルックスが次の解放目標かな?」
「そうです。道中のロアルナとビルポタスには諜報員を捩じ込み、情報を集めさせます。その間にサンブルックスを攻略し、ビルポタス、ロアルナの順で解放していく」
道中でメシア教を広めて、最終的にはこの大陸の全てを牛耳る。
この大陸の人間には宗教にのめり込む材料がいくらでもある。
だからこそ抜け出せなくさせて使えなくなるまで使い潰す。
俺達がこの世界に召喚された原因。
カルメロルツの横暴を止められなかった全ての国に責任がある。
だったら責任を取らせないといけないだろう。
「メシア。この前の話になるけど、この国はこれまで国教を持たなかった。だけど今回で国民に信徒が多くなってしまったからね。この国の救世主となった貴方のメシア教を国教としていいかな?」
「殿下っ、それは!?」
「マキシマス、これは誠意だ。メシアに対して出来る今の」
「誠意を見せる者が誠意とか口にしない方がいいんじゃないですか? 殿下」
「貴様は黙っていろ! 南の代表!」
メシアは穏やかに快諾した。
「ええ、貴方がそれを望まれるならば」
そうだ。カルメロルツだけじゃない。
この世界が俺達の敵だ。だから───。
▼
長引く会議の末、辺りが少し明るくなってから解散となった。
真昼はアリスと馬車に乗り、一度北の都に戻った。
北の勢力から引き抜き許可が降りたから、その選別の為に戻っているのもある。
北の都北部に到着したのはすっかり朝日が昇ったあとだった。
サナトス・アペストルを呼び出そうと思ったが、連日の疲れがピークに達して流石に眠くなった。
「これから教会に行く。俺はそこの仮眠室で寝るけど、アリスはどうする?」
「私もマヒルと寝る……流石に寝ずの二日目突入は、キツ過ぎるぞ……」
目蓋を重そうにしてるアリスが可愛くて少し笑ってしまった。
「分かった。もう少しの辛抱だから付いて来てくれ」
「う、む……」
歩きながら眺めるがここ、北の都北部も当たり前だが無傷とはいかなかったらしい。
初動で暴動させたからか民衆への被害も相当なものとなっている。
生き残った者達も疲れから未だに眠ってるからか道には人が少ない。
祝い酒をそこらで呑んでいた形跡があるからアルコールで起きれてないだけかもしれないが。
それらを眺めてしばらく歩いていたら、一つ気になるものを鑑定眼が捉えた。
「───あ」
その正体が分かって足が止まった。
「……んお?」
アリスは不思議そうな顔をしてこちらを見るが、とても相手してられる余裕は無い。
そんな余裕は消し飛んでしまった。
「ああ……っ」
道端に倒れている民衆の一人。
けど、その一人は真昼からしてただの一人では無い。
「ああああああああああああああああ」
北の都に訪れた時、真昼はテロに巻き込まれた。
その時に助けた小さな女の子が道端で死んでいたのをたった今、目の当たりにした。
今回の革命で起こした暴動に巻き込まれたのだろう。
そもそも、あの子はあのあと母親とは逢えたのだろうか───分からない。
終わった事と考えて確認すらしていない。
あの時に助けたつもりになって、結局は俺の行動の結果死なせてしまった。
これも行動の末に起きる影響の一つ。
予想してなかった負荷が真昼に襲い掛かり、ついに緊張の糸が切れた。
「うっぷ……っ」
胃酸が逆流して道端に吐いた。
それは目の前の小さな女の子だけじゃない。
カルディッシュに来てから目の当たりにした全ての死体を思い返し、胃の中のものを吐き出した。
『ーーーーっ!? ーーーーっ!?』
『俺はスパイじゃない! これは本当だ! 本当なんだ!! やめてくれぇ!?』
『ああ、あいつらを殺してから私も死ねばいいんだな?』
『貴様ら! こんな事をして本国が黙っていないぞ!』
『くっ、この圧力は……ぐぴぃ!?』
『うるさいんだよ。《お前達は死ね》』
『『『は! 全ては御身の御心のままに!』』』
吐瀉物を吐き出しながらも頭は冷静になり、人殺しは人あるまじき行為であると思い出す。
すっかり眠気が覚めたアリスが心配して背中を揺すってくれるが、一向に吐き気が収まらない。
『う、ん……ありが、と』
あの時のあの子の笑顔が真昼を追い詰める。
真昼の頭の中はぐちゃぐちゃに荒れた。
己の無力さに。
己の浅はかさに。
己のやるせなさに。
正しい行動とは何か。
歪められた天秤の正しい戻し方とは何か。
正しい革命とは何か。
正しい報復とは何か。
正しい方法とは何か。
正しい何か正しい何か正しい何か正しい何か正しい何か正しい何か正しい何か正しい何か正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい正しい───。
「くっ、ふははははははははは!」
「マ、マヒル? どうしたのだ?」
「ふははははははははははははははは!」
そうだ。正しいかどうかなんて関係無い。
あの日に俺は誓った。
二度と他人を言い訳に使わない。
二度と諦めない。
二度と意思を曲げない。
二度と止まらない。
だから、俺の起こした行動で散ったあの子の命を無駄にしない為にも必ずカルメロルツを、いや───この世界から全ての穢れを浄化させる。
「アリス」
「う、うむ……」
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「そ、そうか? 顔色は悪いままに見えるが……」
アリスは眉を八の字にして変わらず心配してくれる。
「教会で口をゆすいで水をしっかり飲んで寝る。そうすれば次に目覚めた時にはすっかり元気になる」
「マヒルがそういうなら、私もこれ以上は言及しない……でも、どうしても辛くなったなら私に寄り掛ってもよいからな? むしろ寄り掛からせるからな?」
「ああ、アリスがいてくれて良かった」
真昼の本心からの言葉に思わずアリスは頬を赤く染めた。
「お、お互い様だ! 私もマヒルがいてくれて良かったと思っている! ほ、本当だぞ!?」
「知ってる」
「む、むむむむ……っ、恥ずかしい事を言う奴め」
「運命って言うよりかはマシでしょ」
「ぬぉおおおお! それのどこが恥ずかしいのだーっ!?」
俺はアリスを絶対に手放したりしない。
俺はアリスを絶対に逃しはしない。
アリスは俺にとってとても大事で、とても必要で、とても大切な───極上の手駒なんだから。




