第9話 特異体質╱五感と霊と
直接の体験談が続いたので、今回は友人知人との間の話を紹介したい。近い知り合いでは前話に出てきた女の子ともう一人、一回り年上の女性で霊感の強い人がいるのだが、彼女たち以外の友人からも時々は不思議な話を聞くことがある。
一人目は以前に勤めていた会社の後輩で、歳は一つ下だった。北国の生まれで、東京へは大学進学の際に出てきたと言っていた。私も親の一方が北陸だから、彼とは話すことが多かった。当時の私は今ほど怪談奇譚に興味がなかったのだが、アンラッキーな出来事が続いて彼に愚痴ったりすると、お祓いしてもらったらどうですかと笑って言われた。そんなことしたら自分が消えちゃうかもしれないだろ、と言い返して周囲に爆笑されたのを覚えている。
彼の話で印象に残っているのは、霊のいる場所に近づくと瞼が下がって開けていられなくなるというものだ。他ではそんな話を聞いたことがない。俗に心霊スポットと呼ばれる場所以外でも、彼は何度かそういう経験をしていて、そんな時は一緒にいる人にここは危なそうだから早く離れようと伝えるのだと言っていた。仕事に一途な男で、今は郷里に帰って働いているはずである。
別の一人は高校時代からのRという友人で、たまたま今でも近所に住んでいる。昔から知的好奇心の旺盛な人だった彼は、様々な話のネタを持っていて相手を飽きさせない。またどこに行っても上役を任される、働き者を絵に描いたような男である。
彼は私と同様、特に霊感が強いという方ではないのだが、若い頃に住んでいた事故物件では天井の角にわだかまる黒い影を確かに目撃し、即座に引っ越した経験があるそうだ。金よりも命が大事、と文語めいたことを自然に言えるのが彼一流の才能で、話していて愉しい。オカルトや怪談に対しては歴史や文学等の広範な知識に基づく独自のスタンスを持っており、雑談の中でもたびたび興味深い持論を披露してくれる。
ここ最近では幽霊と五感についての話があった。曰く、人間は初めに嗅覚で霊を察知し、触覚や聴覚がそれに続き、最後に視覚でその姿を捉えるというものだ。言われてみれば古典的な怪談話では霊の登場の前には決まって生暖かい風が吹いたり首筋を何かに触られたりするものだが、最近のホラー映画等ではほとんど見かけなくなった(というより嗅覚は映像化が難しいためか)設定でもあり、あらためて聞かされると新鮮な面白味を感じる。というのは、古くから当たり前のように用いられてきたフィクションにこそ、何らかの事実が含まれているはずだからだ。
もっとも、その話は先述の霊媒体質の女の子が立て続けに怖い目に遭っている時、彼女の体験談に対する彼の考察の一部として語られたものだったので、両者の間に立って話をつないでいた私としては、なかなか楽しむどころではなかった。忘れてしまうには勿体ないような話だから、いまこうして書き留めておく。




