第8話 フィードバック
少し前の話になる。
ある週末に、私は隣の県にある実家の方に帰省して、そこで前職の友人の家を訪ねた。同じ会社に勤めていた頃からのカップルで、小さいながら自分たちの店を構えていた。海外の珍しい植物や雑貨を主に取り扱うその店舗の中を見せてもらっていた時、私はうっかり何かのコードに足を引っ掛けて、棚に飾られていた人形を倒して床に落としてしまった。
木と布で作られたその人形――木像といった方が正確だろうか、その木像は、彼らがアメリカに商品を探しに旅行した時に地元のネイティブアメリカンから購入してきたもので、お土産用にかわいらしく造られてはいたが、彼らの神の像だった。ネイティブアメリカンの文化が好きなカップルはその手作りの神像を商品としてではなく旅の記念として購入し、店に飾っていた。胸ほどの高さの棚から店舗の堅い床に落下した衝撃で、悲しいことにその木像の左の足の爪先は欠けてしまった。私は大いに恐縮して何度も謝り、陽気な二人の友人は気にしなくていいですよと笑顔で言ってくれた。それから接着剤を持ち出してきて、すぐに像の爪先をくっつけた。手先の器用な二人なので木像は元通りしっかりと立つようになり、もう落っこちないように、と安全なレジの隣に移動された。その後は特に何事もなく友人たちと歓談し、夕方には彼らの店を出て自宅へ戻って来た。
しかし翌日のこと、当時の知り合いの中でも特に不思議な体験を多く重ねていた若い女の子が、いつもの平気な調子で私に言った。「昨日いきなり足から血が出たんですよ」と。なぜか左足の指の付け根が横一文字に切れていたという。すぐに血は止まりましたけどね、と珍しいことでもなさそうに彼女は続けた。怪奇に対する感覚が人並みとだいぶ違っていた。
彼女は私の週末の行動を何も知らなかった。普段は思い付いたことをなるべく率直に伝えるようにして彼女とのオカルティックな会話を愉しんでいた私も、この時ばかりは本当のことを言い出す気持ちになれなかった。私は彼女の事を嘘つきだとは思っていなかった。むしろ彼女の話す体験談が真に迫っていたからこそ、きっと想像力が豊か過ぎて色々と見えてしまうのだろう、くらいに捉えて現実とのバランスを取ろうとしていたのだが、全く考えが甘かった。幸いにして彼女の怪我はその後すぐに治り、傷も残らなかったそうだ。




