第11話 服に関して
数年前の話になる。
干し上がったワイシャツのアイロンがけをしていたら、10着くらいの内の1着だけ、袖口に突き破ったような穴が空いているものがあった。
ボタンを留めるために重なりあった部分が2枚とも貫かれてギザギザに裂けており、どんな風に破れた傷だか、ちょっと想像するのが難しい。着ている最中に空いた穴だとすれば間違いなく怪我をしていただろうが、もちろんそんな記憶もないし怪我もしていない。
特徴のない無地の白いワイシャツで、左胸のポケットの底に多少の汚れが見られるものの、手首の傷の他はさほど古びた感じもしなかった。
しかし、ためつすがめつ見ているうちに、どうもそれが自分の物でないような気がしてきた。
一人暮らしの部屋のカーテンレールに、見知らぬ白シャツが下がっていたとすれば奇妙な話だ。使われていたハンガーの方は、まあ間違いなく自分の物だと思うから、ますます訳が分からない。
サイズは他のと少しも変わらない。
古着屋でこんなのを買っただろうか。
これだけ破れてたらさすがに値もつかないと思うのだけど。
服についてはもう一つ、これは人から聞いた話がある。
その女の子の数年来の仲の良い友人が、もう着ないから良かったらどう、とお古の服を彼女にくれた。
まだまだ状態もよく、デザインとサイズも気に入ったので、彼女はそれらの洋服をもらい受けた。
しかし数日して彼女がもらった服に袖を通していると、後ろで様子を見ていた彼女のお母さんが突然悲鳴を上げた。どうしたの、と振り返って聞くと、背中の腰の辺りに不自然な皺が寄って、それがはっきりと人の顔に見えるという答えが返ってきた。袖を通す前にはそんな皺は無かったということだが、鏡に映してみるとたしかに人の顔が浮かんでいた。
この女の子自身は霊感の強い人だったが、お母さんは全くその種の才能がない方だった。友人もお母さんと同様いわゆる普通の人で、お下がりの服をくれたことはその時が初めてだった。ただ、仲の良い友だちにおかしな服をわざわざ渡す理由もないから、偶然だったのだろうと彼女は言った。皺が寄ったのが偶然ということではなくて、霊が寄ってきたのが偶然という意味である。もらった服は仕方がないので、くれた子に悪いとは思ったけれど、その後どこだかの寺か神社に持って行き、気休めのお祓いも受けてきたとのことだ。




