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釈迦の掌~クラス転移で才能開花~  作者: にゃほにゃほ
閑話
3/42

閑話:白い日のお返し

『邂逅と世界創造』を読んでない方はネタバレになってしまうため、そちらを先に読んでいただきたいです。


3/5にデイリー1000PVと累計10000PVを達成した記念としてホワイトデーに因んだ閑話を書きました。

報告が遅れて申し訳ありません。

投稿の割り込みを忘れていたので、再掲し直しました。
























 ホワイトデーのお返しはどうしようか?

 海に貰った手作りチョコは美味かったな。

 あいつは昔から何でも出来る、出来過ぎる。

 完璧超人という言葉が相応しい。

 少しくらいその才能を俺にも分けてくれても良かったのではないかと思ってしまう。

 それを言うと「空も私が持ってないものを持ってるんだからいいじゃない。」と返ってきてしまう。

 俺のは役に立たないんだよ。

 使いどころもあまりないし。


 それはともかくお返しをどうしようか。

 あのチョコに見合うものが思い付かない。

 海は何なら喜ぶだろうか?

 金は腐るほど持ってるはずだから、大抵のものは手に入るしな。


 ふと、机の上のチラシに目がいった。


-------------------

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 記載されている文章はともかく『花嫁体験』か。

 海も女の子だし喜ぶだろうか?

 物だと良いものが思い付かないしこれにしよう。






 リビングにいた海に話しかけた。



「海、明日暇か?」


「暇だけど?」


「俺と出かけな「行く。」いか...相変わらず反応が早いな。」


「空の考えてることなら何でも分かるのよ。」



 海は、ふん、と腰に手をあて得意げに鼻を鳴らした。

 小動物が威張っているようでかわいらしかった。



「さいですか、そんじゃ明日はそのつもりでよろしく。おやすみ。」


「おやすみなさーい。」







 次の日の朝、いつもの如く海が俺の部屋に来た。



「そ~ら~、朝だぞ、おっきろー。」


「ぐえっ。」



 そう言いながら海は俺の寝ているベッドに飛び込んでくる。

 毎朝こうして俺は起こされる。



「えへへ、空の匂いだ~。」


「毎朝飽きないな。」


「これで私の一日が始まるのでおじゃる。」


「なんだその口調?」


「そんなことより早く支度をするのでおじゃる。デートに行くでおじゃる。」


「デート?」


「男女二人が出かければ、それはデートでおじゃる。」


「まぁいいや、着替えるから出て行ってくれ。」


「私は気にしないのでおじゃる。」


「そこはわらわとか言うんじゃないのか?それより俺が気にするんだよ。」



 海を猫のように部屋からつまみ出した。

 着替えをしてる間、海がドアの隙間からこちらを覗いているのは毎朝のことなので無視した。


 着替えが終わって部屋を出ると海の姿はない。

 代わりに下の階からいい匂いが漂ってくる。

 これも毎朝のことだ。






「ご馳走様。」


「はい、お粗末様でした。」



 美味かった。

 海の作る料理はどれも美味い。

 いいお嫁さんになるな。



「ほ、褒めても何も出ないわよ?」



 口に出ていたようだ。

 やめてやれ、食器が磨かれ過ぎて悲鳴を上げてる。



「朝食も食べたし出かけるか。」


「そういえばどこに行くの?」


「着いてからのお楽しみってことで。」


「分かった、楽しみにしてるからしっかりエスコートしてね。」


「任せとけ。」



 着替えなどの準備を終えて、家の外に出た。



「ふんふふーん♪」


「えらく上機嫌だな。」


「そりゃそうよ。久しぶりにデートなんだから。」


「デートなのか?」


「デートって言ったらデートなの。」


「分かったよ。これはデートだ。」


「分かればいいのよ。」



 所々寄り道をしながら目的地である結婚式場に着いた。



「ここに海を連れてきたかったんだ。」


「そんな!?私たちはまだ14歳よ?」


「なんで俺と海が結婚すること前提なんだよ。ここに連れてきたのはホワイトデーのお返しってことだ。」


「あー、今日はホワイトデーか。でもなんで結婚式場?」


「それは中に入ってからのお楽しみってことで。」



 そう言って海を連れて式場の中に入っていった。

 中にはカップルと思われる男女が10組ほどいた。

 式場の中を見回していると一人の女性が近付いてきた。



「本日行われる『花嫁体験』にご参加予定の方でしょうか?」


「はい、阿迦井あかいで予約を取っていたと思うのですが。」


「少々お待ちください。はい、確かに阿迦井様でご予約されてますね。お待ちしていました、こちらにどうぞ。」



 女性に海と付いていった。

 海は興奮しているようで、辺りをきょろきょろ見回して落ち着かない様子だった。

 海のそんな様子は珍しくて、後ろから見ている俺は笑いを堪えていた。


 案内してくれていた女性は一つの部屋の前で足を止め、こちらに振り向いた。



「この部屋で女性の方の着替えを行いますので、男性の方は突き当りにある待合室で着替えをしてお待ちください。」



 言われた通りに海と別れて待合室に入った。

 そこにはそわそわしている男性が5人いた。

 目が血走っており、気持ち悪かった。


 そんな人たちのいる部屋の中で用意してあった衣装に着替えをして居心地悪く待機していると、式場の関係者と思われる男性が部屋に入ってきた。



「女性の方々の準備が終わりましたので、披露宴会場の方に移動をお願いします。」



 どうやらお披露目は披露宴会場で行うようだ。

 俺以外の5人は待ちきれないという様子で足踏みしていた。

 子供かよ、と思ったが口にはしなかった。


 会場の中はとても煌びやかでカメラのフラッシュを焚たかれたように眩しかった。

 俺たちはスポットライトの当たっている会場の真ん中で女性陣を待つことになった。

 やっぱり他の5人はそわそわしていた。


 しばらく待っていると一番大きな両開きの扉が開けられてウェディングドレスを着た女性たちが一列になって入ってきた。

 海は純白のウェディングドレスを身に纏って最後尾を歩いていた。


 お世辞抜きに言っても海は美しかった、美し過ぎた。

 女性陣の中でも群を抜いていた。

 普段俺に見せる雰囲気ではなく、外向けの雰囲気を醸し出していた。

 俺はどちらの海も好きだが、この状況では外向けで良かったと思った。

 それほどまでに海の凛とした佇まいは美しかった。


 そのことに気付いたのだろう。

 他の男性5人も海の姿に見惚れているようだった。

 そのせいで女性陣は冷たい視線を向けるかと思ったが、なぜか俺に熱い視線を向けていた。

 そのことを不思議に思っていると海が目の前まで来ていた。



「どうかな?」



 そう言って海はその場でくるりと全身を見せるように回った。

 回ったことによってウェディングドレスの裾が少し浮き上がった。

 それに男性5人の視線は釘付けになった。

 流石にそれはまずいだろうと思っていると、やっぱり女性たちに一斉に肘を鳩尾みぞおちにいれられていた。



「とても綺麗だ。一瞬誰かと思った。」


「それは酷くない?ちゃんと私でしょ?」


「それくらい綺麗だってことが言いたかったんだ。」


「えへへ、ありがとう。そういう空も正装を着ると雰囲気変わるよね。普段の空も良いけどこっちの空も私は好きよ。」


「そうなのか?俺は普通な気がしてるんだが。」


「他の女性たちの視線が釘付けになってるじゃない。」


「あ、やっぱり俺を見てたのか。なんで俺を見てるのか分かんなかった。」


「空はもっと自分に興味を持つべきよ。ちゃんとすればとてもカッコいいのだから。」


「別にモテようとか思わないしな。」


「はぁ、それはそれで空らしいわね。」



 そんな事を話していると、先程案内してもらった女性がマイクを持って話し始めた。



「皆様、これから記念として写真撮影を行いたいと思います。一組ずつ行うので、名前を呼ばれた方からカメラの前に移動してください。まずは山田様。こちらにお願いします。」



 呼ばれたペアは会場の新郎新婦の座る場所にセットしてあった撮影場に移動した。

 次々とペアの名前が呼ばれ、俺たちの番が来た。



「最後に阿迦井様、こちらに移動をお願いします。」



 呼ばれたため俺たちは移動した。



「まず適当に何枚か撮りますので、緊張なさらないで自然体でお願いします。」



 言われた通り自然体でいるとフラッシュが何回か点滅した。



「お二人はお若いのにとても様になってますね。次はお二人の好きなポーズでお願いします。」


「どうするの?」


「そうだな...」



 発想が貧困なのか思い付いたのが一つしかなかったので、それにすることにした。



「空、なにして...きゃっ。」


「これぐらいしか思い付かなかった。少しの間だけだから付き合ってくれ。」


「う、うん...」


「素晴らしいですね。女性はみんなその『お姫様抱っこ』に憧れるのです。」



 そう、俺が思い付いたのは、いわゆる『お姫様抱っこ』だった。

 海はとても軽かったので楽にお姫様抱っこが出来た。

 海は俺の腕の中で借りてきた猫のようにおとなしかったが、よく見ると口元が動いていて何かを呟いているようだった。



「私はこんなに幸せで今日死ぬんだ。そうに決まってる。ははは...」


「何で死ぬんだよ?」


「こんな多幸感に包まれたのは生まれて初めてで、私はこの日のために生まれてきたと言っても過言ではなくて、それでそれで...」


「頭が回らなくなってるぞ?それより写真だ。」


「う、うん頑張る。」


「撮りますよー、はい、チーズ。」



 カメラマンの女性がそう言うのと同時にフラッシュが焚かれた。

 撮り終わった写真を確認していた女性が突然固まった。



「どうしたんですか?」


「い、いえ、とてもよく撮れてると思いまして。」


「それはあなたの腕が良いからですよ。」


「私には素材が良いとしか思えません。この写真を式場のパンフレットなどに載せても構わないでしょうか?」


「海、どうする?」


「別に構わないんじゃないかしら?減るものでもないのだし。」


「ありがとうございます。早速、上の者に見せてきます。」



 そう言ってその女性は足早に会場を出て行った。

 俺たちをそのまま残したままで...


 しばらくその場で待機していると、しょんぼりと肩を落としたさっきの女性が会場に入ってきた。

 どうやら怒られたようだ。



「皆様、お待たせして申し訳ありませんでした。本日の『花嫁体験』はこれで終了となります。先ほど撮った写真は現像してお渡しいたしますので、帰るときに受け取ってください。お疲れさまでした。もし利用する機会がございましたら、当式場をご利用していただけると幸いです。」



 俺たちはそれぞれ元の服装に着替えて、帰路についた。

 海は貰った写真を眺めてぼーっとしながら歩いていた。



「そんなに気に入ったのか?」


「見て、とってもよく撮れてる。」



 海が見せてきた写真は本当によく撮れていた。

 特に海が。

 今まで見たことのないような満面の笑みを浮かべていた。

 美しく可愛らしい。

 その二つが両立しているのだ。



「空がとってもカッコいいの。今まで見たことないくらい...」



 海は再びぼーっと写真を眺め始めた。


 家に着いて、玄関のドアに手をかけた時、海が口を開いた。



「空、今日はありがとう。最高のホワイトデーのお返しだった。」


「喜んでもらえて何よりだよ。」


「この写真、私の宝物にするね。」



 そう言って笑う海は、写真で見たものと同じくらいの笑顔だった。

 俺の横を駆け足で玄関に入っていく海の後ろ姿を眺めていると、視界に白いものが映った。

 雪だった。

 このホワイトデーの約一か月後、海が雪のように淡く儚く消えてしまうことを、この時の俺は知る由もない...




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