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あれよあれよという間に。

日曜日。


朝9時から11時まで桜花F.C.の練習をこなした後は、軽く昼ごはんを近くで食べて、それから彩未と翔太の実家のあるマンションに客用ガレージにネイビーのスポーツワゴンを停車させて、それぞれの家に一旦帰ることにした。


翔太はスポーツウェアだったから、シャワーを浴びて着替えるそうだ。彩未は花柄のワンピースとカーディガンというちょっとお嬢様っぽいスタイルで無難にまとめている。


彩未の家は1217号室。翔太の家は1215号室。


つまりは二軒隣という環境で生まれ育っている。


「じゃ、また後で」


「うん」


エレベーターの前で翔太は右へ彩未は左へ。


懐かしい感覚だった。

高校時代、毎朝のようにここで会っては一緒に登校した。“男女交際禁止”の校則があったから、登校の途中までが貴重なデートの時間だったとも言える。


そしてたまの一緒の下校は、こうして右と左へ別れるのだ。


「なんか、なつかしいね」

「だな」


翔太は笑うと、軽く手を上げて1215号室へ向かっていった。


「ただいまぁ~」


「おかえり」


出迎えた母 京香は、サマーニットにキレイ目スカートで客人対応バッチリですよ、という装いである。


「彩未、一緒に来なかったの?」

彩未の背後を伺うようにしている京香は、誰も居ないことに戸惑っている。


「あ、うん。もうすぐ来るよ」


(そ、そうか。誰とは言ってなかったんだ...)


「家知ってるの?」

「あーあのね、マ...お母さん。会わせたい人って、翔太なの」

「翔くん?」


京香が、目をぱちくりさせた。

「へぇ~、続いてたの?」


「続いてたってゆうか、うーん。やり直しって言うか」


「ん〜。つづきを聞きたいところだけど、翔くんが来てからにしようかな?ごはんは食べて来たんだとしたら、お茶は何がいいかな?」

「翔太は紅茶派だから、アイスティがいいかも」

「へぇ〜そうなんだ」


そんな事を話しながらリビングに入ると、父 真人まさとがダイニングテーブルに座っていて

「ただいま、お父さん」

「お、おかえり」


「お父さんにも言っておくけど、これから来るの翔太だからね」

「翔太くんか…。」


真人はゆっくりと頷いたが、返答しづらそうだった。


「そうか…翔太くんときちんと話すのは初めてかもしれないな」

「そういえばそうかもしれないね」


彩未も京香と共にキッチンに立って、お茶の準備をしていると、インターホンが鳴って

「あ、私出てくるね」


そのまま玄関を開ければそこにはもちろん、翔太とそして翔太の両親が立っていた。


「えっ…」


「ごめん…話したら、それは一緒に行くべきだって」

「ごめんなさいね、彩未ちゃん。でも、そういう話なら一度に済むかとおもったの」

そう言ったのは翔太のとても美人なママの沙也子さんだ。


「沙也さん、ご主人もどうぞ」

京香がにこやかに告げて、スーツまではいかないが、きちんとシャツとスラックスを穿いた翔太が緊張気味に入って来た。


「どうぞ」


真人がにこやかに、ダイニングテーブルに案内する。

彩未は折りたたみの椅子を出して来て、京香と彩未用に置いた。


「あ、と、その…その前に…。」

翔太が気合を入れたように彩未の両親に向かい口を開けば、真人と京香にも緊張が走る。


「すでに、聞いてられるかも知れませんが。彩未さんと将来、結婚をさせて頂きたく、今日はそのお許しを頂きに参りました」


そういうときっちりと頭を下げた。


コホンと真人が咳払いをすると

「ま、まぁどうぞ座って…翔太くんも、長瀬さんたちも」


「あ、私お茶を用意します」

彩未が言うと、


「彩未は座んなさい」

「えっ、あの空気どうしたらいいの」

こそこそとやり取りをすると、

「バカね、彩未の事でしょう」

京香に嗜められる。

「デスヨネ」

彩未はみんなが、ビシバシと緊張しているというそのテーブルに着いた。


「まぁ」

真人はゴホンと変にまた咳払いをして


「…許すというか…彩未をよろしくお願いします。翔太くん」


と一言、言った。

そして、ホッとした空気が一気に流れる。


「ありがとうございます」


「良かった…」

そう呟いたのは沙也子さんで、京香はニコニコして紅茶を淹れてきた。


「ほんとに」

母同士は笑みを交わし合っている。


ぎこちないのは父同士で、


「で、彩未。いつにするの?」

「来年の春以降かななんて思ってるんだけど」


「住まいはどうするんだ?」

そう翔太に聞いたのは、翔太の父の有吾ゆうごだった。


「まだ何も決めて無いから、今日はただ挨拶だけのつもりだったんだけど」

翔太が言えば


「ちょうどここでオープンハウスしてるじゃない?見に行って見たら?」

沙也子が続け、

「あ、それはいいわね」

そして、そこに京香もウキウキといった感じで同意している。


「「オープンハウスって」」


彩未と翔太が驚くと

「ここなら親も近いし、駅も近くだし便利だ」

真人がいえば


「後々の事を思えばいいかもしれないぞ」

有吾も翔太にそう言い、


「…じゃあ、見るだけ行って見るか」


とうとう翔太がそう釣られ、彩未は本気でおののいた。

「ええっ!」


「じゃあ、お茶を飲んだら行って見ましょう」

と京香がいい、ゆっくりお茶を飲んで、オープンハウスの1501号室にぞろぞろと向かったのだった。


担当者が愛想よく出迎えたその部屋は、リフォーム済みの物件で、角部屋で日当たりも良く何より広い。


「...確かに、いいんじゃない?」

「ね」


親たちも乗り気だし、何となく彩未も良いような気がしてきた。


「どう思う?」

「…悩むところだけど、条件はいいよな…」


( おおっ、乗り気?)


その内覧者の手ごたえの良さに担当者は嬉々として、翔太と有吾に営業トークを繰り出し始めたので、そちらは男性に任せ彩未はその間に京香と沙也子は水回りのチェックをする。


どこも清潔にリフォームがされていて、ベテラン主婦のお眼鏡にも敵ったようだ。


そんなこんなで、…商談中と決まる!


「どうしましょう?翔太さん?」

「...帰ってから、家族会議をしましょう」


(かぞくって!!なんか...テレちゃう...)


さらりと言われたその言葉が、なんだかとても自然でなのに照れる。“家族会議”...そうやって一歩ずつ家族になれるのかな


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