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清里園グルーブの誕生日 後編

午後の休憩時間、昼に書いた分をやっと投稿です。

早く書くはずが、トラブル続きで毎日帰りが遅くて挫折しとりました。

遅くなりました、読んで下さる方ありがとうございます。

 

前編どうしたら一緒になるんだろう?

ナンマイダブ?と、

とりあえず唱えておこう。


 保の髪を撫でながらただ空を、暗い夜空を見上げていた私は何かの気配に顔をあげた。


 見ると、あの男達のひとりが、私達のすぐそばに近寄ってきていた。


 私は保を更にギュッと抱きしめその近づいてくる男をにらんだ。


 男は片手で咥えていた煙草を地面にポイッと投げ捨てて、更に私の目の前までやってきた。


 こんなに至近距離までお互い近づいたのは初めてだった。


 その男が何も言わず私の方に手を伸ばしてくるのが見えた。


 それが怖くて保を抱えこんだまま、私は目をつぶってしゃがみ込んでしまった。


 それでもなお、その手が伸ばされる気配を感じた私は、本当はこのままぎゅっと目を閉じていたいくらい怖かったけど「保を守らなきゃ」ただその気持ちだけでそっと目をあけた。


 そしてその手が自分の目の前まで伸ばされているのを見て、それがあの包丁を持って追いかけて来た母の手とかぶり私は思わずそれに噛みついていた。


 噛みついた手からやがて血が少しずつ滴り落ちてきて、私の口の中までそれは入りこんできた。


 私は男の顔を睨みつけながら、かといってそれ以上強く噛みつく事もできなくて、男の手を口に挟んだまま男をみつめた。


 人の肉の感触とその血の味にすでにテンパってた気持ちも少しずつ落ち着いてきて、今度は自分がしたこととはいえ痛いだろうかと心配になった。


 途方に暮れて男を見上げれば、男は私を見ながらうっそりと笑っていた。


 いつも静かな男達の中にあっても、ひときわ大きな身体のこの男の顔は私も自然に覚えていた。


 まるで学校の社会科見学で見に行った能面のように、いつも無表情なピクリとも動かない顔をしていた男は、この男達の中でもえばっているようなのは知っていた。


 その男が私を見下ろしながらその大きな体をかがめ、とても嬉しそうに目を細め私を見つめながら小さく笑っていた。


 私が恐る恐る噛みついていた手を離すと、男は私が噛みついて傷つけた血を流すその手を、自分のした事に固まったままの私の口もとまで持ってきて、はじめてただ一言「なめろ」とそう言った。


 私は何を言っているのか初めわからず、再度私の口元に押し付けようとするその動きで、「舐めろ」の意味を理解しそんな事をいまさらだけど意識してできないと思い、この男から逃げるため立ち上がろうとした。


 けれど、私はその男の目を見て動けなくなった。


 そのまなざしの暗くてどこまでも沈んで行きそうに深くて、その癖変な熱さをおびたそれに私は目をそらす事ができなくなってしまったから。


 私はその目に逆らえず促されるまま、ゆっくりと私が噛み付いて血を流すその手のひらの脇の部分をチロリと舐めた。


 それに満足そうな充足の息を吐いて再びあの笑顔で私にひたと目を合わせてきた。


「お前の名は?」と聞かれたのが二言目で、これがこの男たちのリーダーである黒髪をつんつんと立たせている椎名航との本当の出会いになった。


 それからすぐに「あはっ、ダセー。何やってんの?」とそのきつい口調とはうらはらにヒラヒラと手を私に振りながら赤茶の毛の色をしたひょろっと背の高い男がやってきた。


 けれどその男は邪魔をするなとばかりに、すぐさま椎名に無言でお腹をドコっと蹴られた。


 とても大きな体で強く蹴られて鈍い音もして痛そうなのに、柳の木のようにしなやかに揺れて少しだけよろけただけでまるで何事もなかったように私のところまできて、軽く笑いながら「ねぇねぇ、小さな怪獣ちゃん、元気だねぇ。君の背中の洋服ちょこっと斜めに切れてるよ。こう、スパッて感じ。なかなかやるねぇ」


 そう言いいながら大きな口を開け何が楽しいのかニパッと私に笑ったその男がサブリーダーの小野寺誠だった。


 私のワンピースは朝着替えたときはなんでもなかったから、さっき逃げる時に玄関を出るまでのどこかでお母さん持ってた包丁がワンピースにあたり切れたのだと思う。


 それを思うと急に背中の上の方ちょっとピリピリ痛いような気がしてきた。


 保じゃなくて良かったとほっと胸をなでおろしたと同時に、ちょっとでもこんなにピリピリするのに私が噛んで傷つけたそこはどんなに痛いだろうかと気がついて、私は「ごめんなさい、痛いことしてごめんなさい」と徐々にひゃくりあげながら謝った。


 もうひとり別の男がやってきて、泣く私とそれにつられてここにきてやっと泣き出した保に「ん」とただひと声を幼い子供のように発して、無表情のままその大きな手のひらに握るお菓子の数々を私たちの手からぽとぽと溢れるくらいくれた。


 また別の鶏のトサカのような頭をした男はいそいそと嬉しそうに救急箱を持ってきて私と椎名の手当てをしてくれた。


 後にマッドとつくくらい流血大好き男とわかったけど。




 これが私とこの場所「清里園」という保護施設に暮らす男たちとの本格的な出会いだった。


 彼らとそのまま朝がくるまで過ごし何日かは母を警戒していたけれど、母は嘘みたいに私達に無関心になり、家にいる時も携帯ばかり見て嬉しそうにしていた。


 そうして数ヵ月後に母が新しい父だと連れてきたのは見知った男で、あの清里園の園長をしている蓮水章という四十歳の男で、私は「はじめまして」の言葉ってがこんなに難しいのかとしみじみ思い、思わず無口の弟を羨ましく思った。


 蓮水は母が席を外したわずかなすきに、私たちに向かっていたずらが成功したかのようにキラキラとした目をして、その口に人差し指を当てて「しぃ~」という動作をした。


 すぐさま戻った母が「蓮水さんは優しいからあなたたちにも早く挨拶なさりたいとおっしゃったのよ。だからといってお忙しい方なのだから、ご迷惑をおかけしてはいけませんよ」そう言って蓮水さんに甘えるようにしなだれかかった。


 母は夢見るように結婚式はああがいいこうがいいと蓮水さんに語っていたけど、蓮水さんはただ微笑んでいるだけで、母の視線が自分にないと、いつものような感じをかもしだしていた。




 清里園には十八人の子供達、ほんと子供達なんだ、あれで。


 上は高校生から下は中学生までの男子ばかり、親や当人に問題があり「家庭」で暮らせない子供達だけを蓮水さんが預かっている。


「きちんと学校を卒業させる」と親に納得させ預かるためにそれぞれの親に連絡するけれど、ほとんどのの親は蓮水さんが連絡しても無関心で、ただ厄介払いができた、って感じなんだと言っていた。


 ほとんどボランティアで預かっているけど、清里園は役所からの補助金も申請していないし、直接本人が申し出てはじめてここに入る資格が出ると言っていた。


 蓮水さんいわくここの噂を聞いて清里園に自分から来るやつはまずそれだけで第一ポイント通過していて、その後の蓮水さんとの面接をクリアしてやっとここに入所できるらしい。


「お前ね、ここに入るのってホント凄いんだからねっ!ある意味将来約束されてんだから。表と裏どっちに進んでもバッチこい!すんばらしい先輩方がもうちらほら出てるわけよ。もう十年以上たつからね、ここはじめて。毎年ひとりも入れない時が続く時もあれば今季みたいに粒ぞろいの年もあるわけ。ガオガオちゃん、ガオちび君、君らに熱く語るこの私こそがその代表なわけ!さあ、拝み倒してもいいんだよ!」


 これが蓮水さんに最初に会わせてもらったときの会話だ。


 続けて蓮水さんは私たちに「二人うちの園のマスコットにしてやるね。嬉しい?嬉しいでしょ。ネーミングセンスも褒めていいからね。うんうん、マスコットいいよね、合格、合格だよ。ガオガオちゃんのその冷めた凶暴さ、大きくなったのはゴロゴロしてるからいらんし、今時の女の子のそれも全然可愛くないんだよね。うん、つい見つけて俺に絡んでこられたら、もっとおっかない、もっと光の届かないとこに落としたくなっちゃうよね、実際落としてるけど、ね、おもしろい?おかしかった?」


 その時「おかしい」のはあなたでなかろうかと子供心にそう思った。


 その蓮水さんがいつものノンストップな会話を隠し「新しい父」だとやってきた。


 私と弟は子供だけど、いくら見た目が貴公子なこの人でもどんなに危ない人か知っている。


 そういえばついこの間「最後の怪獣ちゃんの小学校生活のお祝い何にしよう」企画大会なるものが開かれていた。


 すでに企画などではなく本番さながらドンチャン騒ぎで洒とつまみが飛び交っていたけど。




 出会ってしばらくして、彼らが清里園のホール、うん、名前はホールなんだけど、ただの倉庫にしかみえないそこで、ラジオから流れたアナウンサーの「誕生日おめでとうございます」と読み上げられたそれに、なんか情報関係が強いから「電波君」ていうあだ名で呼ばれている中3のヒロ君が「誕生日なんか一度もやったことなんてねーな」と言って「ちがいねえ」とみんなが笑うので、私が思わず「じゃあさケーキ明日持ってきてあげる」と言う一言がきっかけで、その日以降事あるごとに清里園では何かお祝いをするようになってしまった。


 実はその日ちょうど母の実家から祖父が何かの勲章を国から頂いて、その祝いにと大量の引き出物が家に届き、その中に大きなケーキも入っていた。


 母は海外旅行に出かけたきりで、家政婦さんにもおすそ分けしたけど、まだまだ冷蔵庫にいっぱいあったから、その処理をしてもらおうと私は声をかけたんだ。


 まあ、結局あんなに静かな彼らは意外や以外、皆お祭り騒ぎが大好きだとそれで目覚め、それ以降暇さえあれば、どんちゃん騒ぎをしている。


 それで新しいお祭り騒ぎの題名が今度小学六年生になる私のための「最後の小学校ヤッホーだぜ」に決まったのも昨日、いや一昨日の事だ。


 勿論題名をつけたのはこの園の責任者であり、あの何ともいいがたい遠い目を子供にさせるあほらしい題名の数々に、命名権は奪った方がいいんじゃないかと椎名っちに言ったんだけど、椎名っちはニヤリと笑うだけで何も言わず、代わりに小野っちが「いいの、いいのぉ。あれでがっぽがっぽ軍資金出してくれるんだから、みんなで園長先生ありがとう!そう優しく声を揃えて素直に言わなきゃだよ。わかった?」と全然素直なありがとうじゃないあくどい笑みを見せてクフクフと気持ち悪く笑ったのを覚えている。


 椎名っちも小野っちも絶対私がつけたものじゃない事はわかるだろうけど言っておく!


 私がつけたと思われたら、この先の長い生涯生きていける自信がなくなる。


 保にも「長いものにはまかれろ」ということわざがあるらしいけど、この人達を見て、きちんと長いなら短く切ってやるのも大事だよ、こんなのになっちゃうからって教えてあげた。



 その元凶の蓮水さんとその日の帰り際、玄関を出た時にあって「おうおう、うちのガオガオ怪獣ちゃん、もう帰るの?気をつけてお帰りなさいね、面白いプレゼントあげちゃうから、楽しみに待っててね」そう言って別れたのを思い出す。


 これがプレゼント?私の冷たい視線に母があれこれ夢を語って自分の世界にいるのをいいことに、我が園長先生はこれが答えだ!とばかりに久しぶりに背中がゾゾゾとする視線でしなだれかかったままの母を冷たく温度のない目で見下ろしていた。


 母と新しい父は新婚先の東南アジアでのツアー中、事故にまきこまれ母はなくなった。


 ちょこっと怪我をした、本当に指先に大げさな包帯を巻いて帰ってきた新しい父親が私達の正式な保護者となった。


 母の保険金と事故賠償金は全て私たち姉弟の口座に振り込まれ、私には厄介な連中のこれまた厄介な元締めが父親になり残されたという、本当に厄介づくしな状況がここに誕生した。


 こんなプレゼントはいらない。


 母の事はあの日以来、私達姉弟の中になかったから今さらだった。



 この新しい父親が私を自分のものだと常時言い張る椎名と同じ事を、その指先の包帯をするすると解き、我が家の玄関に帰る着くなり一応しょうがないかと迎えに出た私に、あろう事かその指先を突き出し「舐めろ」とおしゃったので、綺麗に私は笑い捨て、ゴキブリを、ゲジゲジをやっつける勢いで履いていたスリッパでスパン!とそのケガしたらしい指先をひっぱたいてやった。


 私のその態度に玄関先に呆然と立ち尽くし、「えっ、若さなの、若さがないとダメなの?椎名っちにはしたくせに、何で俺にはしてくんないの?ここは粗大ゴミを綺麗に片付けたお礼にせめてこう、お腹にぎゅっと抱きつくとかさあ・・・」


 なんか言ってるけど弟の保がニコニコ笑い、祖父宅から母が持ってきていた文化財だとかいう日本刀をすかさず持ってきてスチャっと抜いたので「あはっ」と言いながら後ずさった所を、私がタイミング良く蹴飛ばして玄関先から追い出した。


 鍵をもちろん二重にかけて、何か言ってるけどすぐさま我が家を退場していただいた。


 清里園のみんなから私たちは喧嘩の仕方を教えてもらっていて、なんか特に弟の保がどんどんその影響を受けて別な生き物にチェンジしている。


 子供の月日って吸収が凄いから、たかが半年くらいで、普通の小学校の低学年の子の雰囲気じゃなくなってる。


 私にとっては大事なたったひとりの可愛い弟で、弟にとっても私は唯一の姉で、弟が、無口だったのに、本当に無口だったのに、このごろ時たましゃベリだしはじめると、電波君やら小野っちやらが、聞きたくないとばかりに青い顔をして逃げだす毒舌なのは、その驚くほどの高い知能と同じように素晴らしい才能だと私は褒めてあげている。


 弟がしゃべらないのに誰も気にしないのは、小さな時に受けた知能テストの結果がとてもすごかったので、母はそのせいにして周囲の大人達はその話しを信じていたからだった。




 毎日のように誕生日を勝手に祝い、何かにつけて馬鹿騒ぎをする彼らが、あの会話のない「タバコだけが友だちさ!」みたいな彼らと同じ人物だと思えない。


 それを言うとみんな意味深な顔をして、目をすがめてちょっと私を見て笑い元の馬鹿騒ぎに戻るんだけど、どうなんだろう?大きなくせにまるで私のせいみたいな顔をして、子供の私を見るのは。


 彼らが私を怪獣ちゃんやガオガオ、もういいやめんどくさい、新しく父になった人の「え?なんで俺がつけた名前呼ばないの?」という幻の声も聞こえてきたけど、そう呼ぶのは、私がまだ彼らをどこか信じてないのを知ってるから。


 子供の私の負担にならないように、ふざけて遊んで、守ってくれてる。


 時々、あんた達マジで遊んでんでるよね、と思う時もあるけど、本気にひどく熱い目で見るロリコン変態もいるけれど、私はその馬鹿騒ぎがとても優しいものだとちゃんと知っている。


 いつか彼らに私の名前の紫乃を呼ばさせるのも遠い未来ではない気がする。


 絶対「父さま」なんて呼ばないけどね、「娘」とも呼ばせないけどね!




 私は今日も誰かの誕生日を祝ってる清里園に、弟と一緒にニコニコ笑いながら向かっているけれど、二人目を合わせ確認し園にちゃんと正門から入る直前には何でもないような顔をして帰る。


 自然と足が早くなって保とまたちょこっと笑った。





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