第20話:今日も45分で世界は輝く
魔王軍幹部・ザンデとの激闘から数日後。
ファルガスの街は、かつてないほどの平和と活気に包まれていた。
城壁の修復は瞬く間に終わり、街の商人たちは「魔王軍をも撃退した眠らない街の特産品」と銘打って新たな商品を売り出し、経済は空前の大繁栄を見せている。
中央広場の一角にある『異世界ショートスリーパー育成ギルド』の前には、メソッドを学びたいという新たな希望者たちの列が、今日も朝早くから長々と続いていた。
「おいおい、朝の4時だっていうのに、相変わらずすごい人気だな!」
ギルドのテラスで、カインが焼き立てのパンをかじりながら笑った。
「みんな、オサムみたいに『自分の時間を充実させたい』って思ってるのよ。すっかり街の定番文化ね」
ルミアが紅茶をすすりながら満足げに頷く。ドンも大きな肉にかぶりつきながら「だな!」と豪快に笑った。
そんな賑やかな様子を、ギルドの2階の窓から眺めながら、峰長夢はふっと小さく息をついた。
「さてと……」
オサムは腕時計の代わりに、懐に収めた小さな砂時計に目をやった。
今夜の睡眠サイクルは、きっちり45分。
ベッドに入り、思考のスイッチを切り替え、一瞬で質の高い眠りへと落ち、そしてアラームなしでスッと目覚める。目覚めのストレッチと、朝の光を浴びるルーティンも完璧にこなした。
頭はどこまでもクリアで、体の芯から無限のエネルギーが湧き上がってくる。
「オサム、次の依頼掲示板のチェックに行くぞ! 今度は西の荒野に新しい迷宮が見つかったらしい!」
カインが階段を駆け上がってきて、嬉しそうに声をかけた。
「西の荒野か。夜間の探索なら、新しい魔石がザクザク採れそうだな」
オサムは愛用の剣を腰に帯び、黒猫の紋章が刻まれたギルドのバッジを胸元にキュッと締め直した。
現代日本からこの異世界へ転生してきてから、どれだけの時間が経っただろうか。
睡眠を削ることは、決して孤独でストイックな修行などではない。
食事を工夫し、体を動かし、時間をコントロールし、そして何より――「起きている時間を誰よりも愛する」こと。その生き様に共感してくれる仲間が、今ではこんなにもたくさんできた。
人生は短い。だからこそ、意識のない暗闇に眠る時間を最小限にし、この鮮やかな世界を隅々まで味わい尽くす。
「よし!」
オサムは窓の外に広がる、どこまでも高く青い空を見上げて、びしっと背伸びをした。
「今日も45分寝たし、準備は万端だ。新しい迷宮の踏破といくか!」
最強のショートスリーパーは、今日も1日23時間15分の圧倒的な活動時間を武器に、最高の仲間たちと共に、眩しい朝日の中へ爽やかに飛び出していく。
――眠らない男の冒険に、終わりなどないのだから。




