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『異世界無双ショートスリーパーで生きていく〜「睡眠は趣味です」と言い放ち、1日45分睡眠で世界を救う〜』  作者: ぽてと
異世界の常識を破壊する目覚め

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第1話:転生と45分の朝

頬を撫でる風が、やけに心地よかった。

遠くで聞いたことのない鳥のさえずりが響き、鼻腔をくすぐるのはアスファルトの匂いではなく、むせ返るような土と緑の匂い。


「……ん」


峰長夢(みね・おさむ)は、パチリと目を覚ました。

視界に飛び込んできたのは、見慣れたワンルームの白い天井ではなく、視界を覆い尽くすほどの巨大な樹木と、その隙間から差し込む眩しい木漏れ日だった。

むくりと上体を起こし、周囲を見渡す。明らかに日本の植生ではない。葉の色がどこか青みがかっているし、空気中にはキラキラと光る謎の粒子すら漂っている。


「なるほど。これはあれだ。俗に言う異世界転生ってやつか」


夢は驚くほど冷静だった。

最後の記憶ははっきりとある。午前3時。彼にとっては「日中の活動時間」のど真ん中である深夜のジョギング中だった。交差点に猛スピードで突っ込んできた居眠り運転のトラック。その前に飛び出していた野良猫を助けようとして、彼はトラックと正面衝突したのだ。

トラックの運転手はコックリコックリと完全に夢の中だった。

(居眠り運転とは嘆かわしい。人間、コントロールできない睡眠欲求に振り回されるほど無駄なことはないのに)

死の間際にそんなことを考えていた自分に、夢は思わず苦笑した。


「とはいえ、新しい命をもらえたならラッキーだ。さて、異世界のお約束といえば……『ステータス』」


夢が呟くと、何もない空中に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


【名前】ミネ・オサム

【職業】無職

【レベル】1

【体力】15/15

【魔力】10/10


ここまでは、ごく一般的な初期ステータスだ。だが、その下にある項目を見て、夢の瞳がカッと見開かれた。


【ユニークスキル】

・超短眠(ウルトラ・ショートスリープ):極端に短い睡眠時間で、肉体および精神の疲労、並びに魔力を完全回復する。

【耐性スキル】

・状態異常耐性(睡魔):睡眠を誘発する魔術、薬物、環境要因を無効化する。


「おぉぉっ……!!」


夢は誰もいない森の中で、思わずガッツポーズをした。

異世界転生してチート級の攻撃魔法や聖剣をもらったわけではない。しかし、夢にとってはこの【超短眠】こそが、何にも代えがたい最強のギフトだった。


前世の夢は、決して生まれつき睡眠時間が短い「ネイチャー・ショートスリーパー」ではなかった。

一般的な日本人と同じように、毎日7〜8時間は寝ないとスッキリしない体質だったのだ。しかし、彼はある時出会った「睡眠メソッド」の教えに感銘を受けた。

――睡眠時間は後天的に削ることができる。

――睡眠は人生の負債でも義務でもない、「趣味」である。


人生という限られた時間を、意識のない睡眠に費やすのはもったいない。起きている時間を長くし、より多くの経験をし、人生を味わい尽くす。

その哲学に惚れ込んだ夢は、食事のとり方、運動、メンタルコントロールなど、あらゆるメソッドを徹底的に実践し、数年かけて見事に「1日45分睡眠」の後天性ショートスリーパーへと生まれ変わったのだ。

1日は24時間。普通の人が睡眠に8時間使うなら、活動時間は16時間。

しかし夢の活動時間は23時間15分。

毎日のように「他人の1.5倍」の時間を生きる圧倒的な優越感と充実感。読書も、仕事も、趣味も、すべてを全力でこなせる最高のライフスタイル。

トラックに轢かれて死んだことよりも、「異世界の肉体になったら、また8時間睡眠に戻ってしまうのではないか?」という懸念のほうが、彼にとってはよほど重大な問題だったのだ。


「よかった……! この世界でも、俺の45分睡眠のサイクルは通用するってことだ。おまけに睡魔の耐性までついてるなんて、神様はわかってるじゃないか!」


夢はスキップでもしそうな足取りで、森の中を歩き始めた。

とはいえ、先ほどから少し体が重い。ステータスは満タンだが、次元の壁を越えて転生してきたことによる、魂レベルの疲労のようなものを感じていた。


「よし、異世界最初の『趣味』の時間といくか」


夢は太い木の根元に手頃な窪みを見つけると、そこに腰を下ろした。

ショートスリーパーにとって、寝る場所などどこでもいい。高級なマットレスも、遮光カーテンも不要。彼らは「寝よう」と思った瞬間に、どこでも深く質の高い眠りに落ちることができるのだ。

目を閉じ、呼吸を整える。

設定した起床時間は、きっちり45分後。


――スゥ……。


わずか数秒で、夢の意識は完璧な眠りの底へと沈んでいった。


***


――パチリ。


体内時計が正確に45分の経過を告げ、夢は一切の寝ボケや気怠さもなく覚醒した。

すっと立ち上がり、大きく伸びをする。

首の後ろを揉みほぐし、体温を上げるストレッチをこなす。そして、木漏れ日を見上げて強い光を網膜に取り込んだ。これで覚醒のルーティンは完璧だ。


「……最高だ。めちゃくちゃ調子がいい」


転生直後に感じていた謎の疲労感は完全に消え去り、体の奥底からエネルギーが湧き上がってくるのを感じた。これが「魔力」というものかもしれない。

異世界の常識では、宿屋で一晩(約8時間)がっつりと眠らなければ回復しないはずの体力と魔力が、たった45分で完全に満ち溢れている。


「さて、この世界にはどんなワクワクが待っているのかな」


残された今日の時間は、たっぷり23時間15分。

普通の人間が寝静まっている間も、俺は活動し、経験値を稼ぎ、世界を知ることができる。

夢は口角を吊り上げ、未知なる異世界の森へと意気揚々と足を踏み出した。

最強のショートスリーパーによる、文字通り「休むことなき」異世界無双が、今始まったのだ。

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