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多重部室3

クラストに入れば、それを作った人の性格や趣味や雰囲気が分かる。

大型の部屋を好むか、それとも小型のものか。余計なものをつくるか、あるいは必要なもの以外は簡素にするか。


魔力という慣れないリソースを使って作成するからこそ、「もっとも力を入れているのはどこか」という点がわかりやすい。


だが、かつて文坂波等羽が作り出したクラスト、僕が入り込んでしまったそこは、彼女の性格を十分に表してはいなかった。

だってそこは彼女自身の自室だった。力を入れている部分が現実の模倣だ。


文坂波等羽はどんな人間か?

この答えを僕は知らない。僕のことをセンパイと呼び、自身の癖っ毛を暇そうに弄んでいる同級生のことを、理解できていない。

だけど――


「文坂さん……」

「なんですか、センパイ」

「どちらにせよ、やっぱり最初と答えは変わらないよ、僕が巻き込んで犠牲にするのは無しだ」


わからないからって、危険にさらしていい理由はどこにもない。


作られたサイトは、どうにか消すべきだ。

最低でもクラスト部なんて文字は外させる。文坂さんと僕を無関係にする。


しばらく考えた末に出た結論が、これだった。


「……私がいた方が、犠牲者の数は減りますよ?」

「クラスト関連で一番防ぎたいのはデスゲームをやるような連中だ。文坂さんのやり方は、それを止めることができない」


相談によって解消されるものは、言ったら悪いけどその程度のものでしかない。


「んー……」


文坂さんは腕を組み、珍しく悩んでいた。


「んんー……??」


段々と首を傾げる角度が大きくなった。


「何を悩んでるの」

「いえ、センパイって意外と頑固だなぁ、と思いまして」

「誰であっても、僕のせいで命を落とすのが嫌なだけだよ」


けっこう一般的な感性だと思う。


「私みたいなストーカーにもそれ適応します?」

「自覚あるんだ……」

「うふ」

「何を喜んでいるのか」

「センパイが輝くのって、誰かの無茶に振り回されているときだと思うんですよ」

「心外すぎる指摘」

「クラストは、振り回す最たるものです」


超常現象で脱出行動を強制するそれは、たしかにそうではある。


「やはり、必死に考え苦しむセンパイの姿こそ見たいものです」

「趣味が悪すぎる」

「私がクラスト部に入った際の次なるメリットについて説明します」

「話聞いて?」

「ここ、予算はたくさん出ていますね」

「まあ、うん」


たぶん「頼むからこれで大人しくしていてくれ」という意味合いも含まれてる。


「欲しいものとか、無いんですか?」

「え、そりゃ――」


多少はある。

けれども領収書を取っておいて、書式を整えて、その報告をして、などの諸々の雑務を考えると「そこまでして欲しいものでもないかな」という感情の方が先立った。


「学期末の予算委員会に出席する、先生方に報告する、実績活動の報告をする、そうしたことをしてくれる人、欲しくないですか?」

「……代替してくれると」

「それをするのが文坂波等羽です」


正直少し揺れた。

余計な被害者を出さないためだけの部活動だけど、細々と欲しいものはいくらでもある。

たとえば――


「そうですよね、コーヒーメーカーとか、いい椅子も欲しいですよね」

「人の心を読まないで欲しい」

「センパイが顔に出やすいだけですよ?」

「何を考えているのかわからない、って皆からよく言われるけど?」

「その皆とやらは観察力が足りていないですね」


ストーカーヂカラの間違いじゃないかと思う。

とはいえ――


「まず断っておきたいんだけど、僕がクラストに巻き込まれるのは強制だ、本意じゃない」

「そうですね」

「そこに自ら入りに行きたがるのは、馬鹿そのものだ。やるなら僕がクラストに巻き込まれない方向で努力して欲しい」

「無理です」

「僕史上最大の望みを最速で諦めないで欲しい」

「だって……」

「なに」


とても悲しそうに文坂さんは言った。


「……どれだけ調べても、センパイがこんな頻度でクラストに巻き込まれた原因、わからなかったんですよ」

「ある意味では一番絶望的な情報をどうもありがとう」

「クラストに愛されているとしか……」

「気色の悪い推測やめて」


よくわからないレベルでの調査能力を持つ人でも原因不明のままだった。


「それに、やっぱりセンパイはクラストに入ってなんぼです」

「あのね……」

「センパイが苦しむ姿って、たまんないですよね」

「死ねよ」


文坂さんは両手を組んで、左右に振った。

なにそのテンションの高さ。


「センパイが冷たいと、すっごくテンション上がります!」

「僕のこと人間扱いしてないよね? 適当にプレゼントをやれば対応が変わるゲームキャラクターとして扱ってるよね?」

「いいえ、単純に好みの問題ですよ」

「なにそれ」

「根本が善良な人の見下した目つきって、いいですよね!」


話せば話すほど理解できない気がした。


「とにかく、僕は文坂さんがこのクラスト部に所属することを認めない、この決定は変わらない」

「そうですか?」

「ああ」

「それは、まあ、そうですよね」

「ん?」

「だから、こうした行動は結果的に正解だったということです、先見の明というやつがありました」

「何について言ってる?」

「本当にもう、仕方がないことなんです、ええ」


いきなり話に具体性がなくなった。


「文坂さん、会話能力をどこかに落とした?」

「だから、こうして私がセンパイをクラストに閉じ込めているのは、正しい選択です」


言葉の意味を、一瞬理解できなかった。

一瞬だけだ、すぐに椅子を蹴りたて、ドアノブを回した。


当たり前に入った部室の扉、鍵すらかかっていないそれを、回して開くことはできなかった。


「そんな、馬鹿な」


ドアノブが取れた。

破損ではなく、最初から偽物を接着剤で貼り付けていたかのように、ぽろりと分離した。


そう、文坂波等羽はかつて、自室そっくりのクラストを作成した前科があった。


「センパイ?」


変わらず笑う自称後輩が座ったまま言った。


「このクラストから、どうやって脱出します?」


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