4:キノコパーティー
「さて、全部食べれるキノコだけど、種類ごとにまとめなきゃか……」
カゴにモリモリ入っているキノコたち。食べられるものを片っ端から採取したので、何種類あるかわからないし、似たキノコで別種もあるかもしれない。
鑑定をかけていって、名前ごとに選別作業をしないとならない気がしたアリカは、大きなため息を落とす。
「アリカ、それはタケルに任せてしまうといい」
「ふぇ?!」
レイジの落とした言葉に、アリカは瞬きが多くなり、タケルもにっこり笑顔を浮かべて頷いた。
「『ストレージ オープン』っと」
収納スキルを展開して、タケルはキノコのカゴをスキルウィンドウに向けて傾けた。
スキルウィンドウにザバザバキノコを流し込んでいく。
「あー、あっ! あっ!!」
アリカはスキルウィンドウを指差して「あ」しか言えなくなっているが、レイジとタケルは見慣れているのか特に表情の変化はない。
カゴから離れ、ウィンドウに収納されていくキノコは、種類ごとに分かれて表示されていく。
ひとつめのカゴには5種類のキノコがあったようだ。
ふたつめのカゴは8種類、みっつめは…………
「すっご……」
キノコが見事に種類ごとに並び、個数も表示される。
今度は種類ごとに取り出して、カゴに入れていくと、ひとつのカゴに1種のキノコ。
「カゴごと入れると、カゴメインで認識されるけど、中身を入れると自動ソートされるんだ」
ダンジョン攻略の際、荷物持ちとして、ハンターのストレージャーが重宝される理由はこれである。
ちなみに、誰にも言っていないが、ゴミ箱のゴミをストレージに入れると、燃えるゴミと燃えないゴミ、資源ゴミに分別されたりする。
「よし、『食材鑑定』」
アリカは、各キノコの適した調理法を見ていく。
そして、とあるひとつを見て、にんまり笑う。
「レイジさん、タケル……明日休み?」
今は、閑散状態なので休んでも問題ないはずだ、とレイジとタケルはスマートフォンを取り出して、スケジュールアプリを開く。
特にメールもメッセージもなく、緊急の用事もないし、溜まっている仕事もない。
スケジュールアプリにある明日の日付に、休みの申請をした。
そして、上長も暇なのか、OKがすぐに返ってきた。
「「休み」」
アリカはさらに笑顔を強めて、頷いた。
「ニンニクみたいなキノコでも出たの?」
タケルの問いにアリカは頷いた。
明日を気にする時は、大抵ニンニク料理みたいなもので、匂いが強く美味しいものだ。
自然と期待が高まってしまう。
「何か手伝えること、ある?」
タケルの言葉にレイジも真剣な顔で頷く。
「買い物、頼んでいい?」
どうせなら、色々作って種類多く食べたいので、作りたいと思ったけど足りない食材のお使いをお願いして、豪華にやってしまいたい。鑑定によると肉や魚に合うキノコ、キノコ単体で美味しいもの、盛りだくさんだ。
普段、複数種類のキノコを使ったものを作るときはキノコ鍋くらいだったので、楽しみになってくる。
アリカは2人が買い物に行っている間に、下ごしらえや作れそうなものに取り掛かった。
夢中になって色々つくっていると、色々出来上がっていく。
「どれどれ……」
出来立てなキノコの天ぷらをひとくち、ぱくり。
「なにこれ、エビみたいにプリップリ! ローストされたような香ばしい匂いが鼻から抜けて、味も匂いも美味しい!」
いつもダンジョン産食材を試すときは、つい独り言が多くなってしまうアリカ。
通常営業なのだが、今日はいつもと違うことが起きた。
「なにそれ、キノコのくせに気になる食レポじゃん」
「その香り、住居側にも漂ってきていたぞ」
タケルとレイジが帰ってきて、店舗側のキッチンにやってきていた。
買ってきた物をストレージから出して冷蔵庫や棚に置いていく。
「あっ、タケルがいるってことは、今度業務パックで色々買おうかな!」
「別にいいよ、今度な」
そして、レイジとタケルにも揚げたてのきのこ天ぷらを振る舞う。
揚げたて熱々の天ぷらは、ハフハフと空気が送り込まれながらも、するすると口の中に消えていく。
「出来立ての天ぷらは、やはりいいな」
普段はスーパーの惣菜パックやチェーン店の天丼・天ぷらしか食べていないので、レイジはホクホクの天ぷらの出す熱と、温かいうちに口へ運べる幸せを噛み締める。
「出来立ていちばんのアツアツを食べれるのは、味見ならではですからね〜」
「天ぷらに味見って意味なくね?」
タケルのツッコミに、レイジは心の中でそっと頷いてしまう。
「なに言ってるの、磯辺揚げに路線変更するかそのままで行くかを決める重要な味見だよ、これは!」
あとは、衣の硬さを見たりとこれでもアリカは色々考えているらしい。
そして、買ってきてもらった物も使って、きのこパーティーの料理が揃った。
店のテーブルにたくさんの料理を並べて席につき、缶ビールを開けて、全員の腕が伸び缶をぶつけ合う。
「「「かんぱーい!」」」
ゴキュッ、ゴキュッと喉を鳴らし、冷えたビールを迎え入れた。
そして気になる料理を好きなように食べ始める。
「あの巨大な石突だったきのこがステーキに……! 歯応えもいいし噛めば噛むほど味が滲み出てきてすごいな、これ」
ナイフとフォークでキノコを食べる、ちょっと不思議な気分になりながらも、タケルは感想を口ずさむ。
「ね、結構ウェルダンな感じで焼いたのにパサパサしてないし」
アリカもキノコステーキを噛み締めながら頷く。
レイジは天ぷらが気に入ったのか、わさび塩でじっくり食べる。
「なにこれ、ただ焼いただけ? ソースとかないけど」
皿にこんもり載った焼きキノコ。
シンプルな料理に首を傾げるタケルだが、レイジはひとつヒョイっと口に放り込む。
「んっ……!」
短く驚きの声を上げたのち、じっくり噛んで、酒をグイーッと飲む。
「アリカが明日休みか気にしていたのは、このキノコでだな?」
「ですです!」
ただ焼いただけながら、ニンニクのより強い香りと味が鼻から抜ける。
なにも味をつけなくても、十分濃いものとなっていて、非常に酒が進む。
梅雨の憂鬱になりそうなジメッとした空気も、吹き飛ぶような気分になれる。
「この焼きキノコと酒があれば、休日前夜の気分はとてもいいものになるな……」
流石にこれを食べた翌日は出勤する勇気が出ないレベルの、強いニンニクのような香りだ。
休み前の楽しみになる物だろうとレイジは呟き頷く。
「これもいいけど、おれはステーキが気に入ったな」
「私はシャケとキノコのホイル焼きが好き」
一通り食べてお気に入りを見つけるも、この酒にはこっちの方が合うなど、酒もつまみもおかずも満遍なく楽しんだ。
酒を飲んでいたけれど、いつの間にかレイジのところには山盛りの白米があり、レイジもご飯をかきこんでいた。
タケルのところにはバゲットが置いてあり、主食とキノコも美味しく頬張り、贅沢なキノコパーティーを堪能し、気づけば日付も変わり、雨が降ってきた。
「晴れている日が多いながらも、やはり梅雨なんだね、むしろやっと雨降ったよ」
「本当だな」
酒が入っていて気分が高揚していることもあり、雨にテンションが上がる一同。
そして、レイジは寮へ帰っていく。酔い覚ましに丁度いいと笑い、傘もささずに雨の中帰路に着いた彼をアリカは心配するものの、ダンジョンで悪天候には慣れているとタケルは教えてくれた。
少し心配はしつつも、その言葉に安心したアリカは、梅雨というジメジメ感とは裏腹にすっきりした気持ちで眠りについた。