紅蓮な衝撃
翌日、赤城は歩いて通っていた。執事の見送りはないようだ。そもそもやめちゃったからな。赤城は不服そうながらも学校に行っていた。それを見た黒季はどのタイミングで声をかけたらいいか、分からなかった。石を持っているかを聞きたいが、そもそもあんな事があったばかりなので中々聞きづらかった。
黒季「・・・まずどうやって話しかければいいんだ?」
ジャラゴン「まずは・・・挨拶したり・・・何かの話題を話したり・・・?」
ジャラゴンも的確なアドバイスをしたが、どれもイマイチなものだった。それにあんな性格だったのか、誰も近寄らない。一応不憫には見える。赤城はみんなの目を気にせずに堂々と学校に入った。教室に入っても、みんな注目していた。そんな時、赤城は亡き父の言葉を思い出したのだ。
赤城父(ノブレス・オブリージュ・・・高貴なる者には背負うべき責任がある。我々、赤城は俗物とは違うのだ)
赤城は父の言った言葉通り、挫ける事なく堂々とやり通した。昼休憩、売店でパンを買っていた。そのパンを学校のベンチで座り、食べていた。しかし、友達がいないのか、1人で食べる事が多い。1人で黙々と食べている時、足元にコロコロと何かが転がって来た。それは彼女の足元で止まり、やがてカラカラカラと音を立てて、回って止まった。彼女は拾ってみると、縁が金色で中身が赤いメダルだった。よく見ると、鳥の絵が描かれていた。一体誰の物なのかよく分からないが、彼女は誰にも見られていない事を確認すると咄嗟にポケットに入れた。そして彼女はそのまま何処かに行ってしまった。しかし、この状況を見ていた者がいた。黒季だった。今度はカマキリの姿に化けて監視していたのだ。もちろんメダルを転がしたのも黒季。あらかじめメダルにマイクロトランシーバーをつけているので、彼女の音声を聞く事が出来る。
黒季「あとは帰って確認だ」
黒季は人間体に戻って、教室に帰った。
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その日の放課後、赤城はすぐさま家に帰った。家に入るとポケットからメダルを取り出した。見た事ない姿に彼女は見惚れてしまった。
赤城「ビューだわ。こんなメダル、見た事がない」
赤城は押し入れにある大きな缶を取り出した。中を開けると綺麗な宝石類がたくさん入っていた。指輪やネックレス、ネクタイピンにピアスなど高価そうな物が入っていた。中にはあの時拾った赤い石も入っていた。
赤城「綺麗だわ。これはパパの形見だから、誰にも渡さないわ」
どうやら亡き父の形見だったようだ。中には私物もあるが、殆どは亡き父の物だ。これは彼女の宝物のようだ。
赤城「必ず取り戻してみせる!!また高貴なる者になるために・・・」
???「ノブレス・オブリージュだっけ?」
赤城「・・・!!!」
突然、聞き覚えの声がして辺りを見渡した。しかし辺りには誰もいなく、空耳かと思われた。一瞬恐怖を感じたが、次第に冷静になった。赤城は急いで宝の缶を引き出しに隠し、ホウキを手に取った。
赤城「だ、誰っ!?誰かいるのっ!?」
赤城は震えながら、部屋中を探し回った。そう言えばこのアパートの家賃、安かった気がする。何やらいわくつきで、安いからという理由で契約したとか。もしかするとあれにあったとか?しかももうすぐ夜。電気代節約のためにろうそくで明かりを灯している。唯一の頼みのろうそくを持って、暗い部屋を進んだ。
赤城「だ、誰かいるなら出てきなさいっ!!」
???「ふぅー」
するとろうそくの火が消えた。部屋には風も吹いてなかったので、恐怖が倍増した。
赤城「い、いやあぁぁぁぁぁー!!!」
赤城は持っていたろうそくとホウキを落として、玄関まで走った。玄関の方へ行き、ドアを開けようとした時、足元に何かが掴んでいる気配がした。しかも掴む力は強く、歩くどころか後ろにどんどん引きつられている。
赤城「ひっ!?」
赤城はショックで固まってしまい、抵抗するのをやめてしまった。そして椅子に座らせられて、手足を脚に拘束された。赤城は必死に椅子をガタガタ動かすも中々前には進まなかった。絶対絶命だと思った。また復興するという夢があるのに、その夢すら叶わなくなってしまった。そう覚悟した時、急に部屋の明かりがついた。赤城は状況が分からなくなってしまい、また固まった。そして目の前の物を見て、思考が回らなくなった。髪と髭の生えた大きなトカゲがいたからだ。
大きなトカゲ「こんにちは。本来は初めましてと言いたい所だが、実は会った事が・・・てあれ?」
彼女は気絶してしまった。目は白くなり、体は筋肉が無くなったように椅子に垂れ下がっていた。まあ、何となく分かる気がする。こんな見た目だからな。もちろん、正体は黒季。この姿、"イピリア"と言うモンスターだ。オーストラリアの先住民アボリジニが崇拝している精霊だ。何でもトカゲの姿をしているらしい。普通に入っても良かったが、ちょっと驚かせようとスライムで体を引っ張って、その後この姿にしたが、予想以上に驚いたのでこっちも驚いた。元の姿に戻り、手足を解かすとそのまま水のように垂れてしまった。
黒季「・・・これって僕が悪い?」
ジャラゴン&ケンちゃん「「・・・うん・・・」」
・・・気を取り直して、早速押し入れにあるお宝箱を開けた。中には今日囮に使ったメダルと予想通り、赤い石があった。やっぱり彼女が拾ったんだな。あまり長くいる訳にもいかないので、その2つをポケットに入れ、お宝箱を押し入れに戻すと電気を消して家を出た。赤城は深夜まで気を失っていた。
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翌日、石を取り戻した黒季はご機嫌だった。そのおかげなのか、朝は余裕を持って準備して、いつもの30分以上前には学校に着いていた。それを見た綾乃は
「朝早くに珍しいね。何か取り憑かれた?」
と心配してきたが、別に取り憑かれてはいない。ちょっと嬉しい事があっただけだ。そう言えば、赤城は今日はどうしたんだろう?学校にいる気配がない。試しにクラスを覗くも、彼女はいなかった。やっぱり昨日のあれがヤバすぎたのかな?とりあえず、しらを切るか謝るかだけど、あんな姿ならバレないよね?しばらく様子見だな。その後、赤城の事をすっかり忘れた黒季。そのまま昼休憩まで忘れて、自販機のジュースを買おうとした時、隣に見ただけですごく落ち込んでいるであろう人がトボトボと歩いていた。あれは赤城だった。赤城は誰にも顔を合わせず、怯えた様子だった。
黒季「どうしたんだ?あ、原因僕か」
昨日の事を引きずっているのか。本当に申し訳ない。その後、教室に戻った黒季は自分の席に座ってジュースを飲んだ。人間とはよく分からない生き物だな、と考えながら飲んでいる時、ふとポケットに手を入れた。すると、また重大な事が起こってしまった。
黒季(うん、うん・・・あ、あるぇ?石がない?また?)
また石が無くなったのだ。今度は体内に入れたはずの石が。こうなってくると、石が誰かを探しているに違いないと思った。こうなった以上、探すのは難しいと思い、しばらく様子見をする事にした。その後、予想外の形で会う事になるとはこの時はまだ考えていなかった。
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同時刻、校庭に1人立っている人がいた。コートにチューリップハットを被った男、廣嶋がいた。彼はただ学校をジッと見つめていた。
「ノワール、次がお前の最後だ」
そう言うと、黒い緞帳を出して、中に入って消えた。
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放課後、何気なく帰っている時、念力通信がきた。もちろん、アインスからだ。いつか地球にもアインス達を案内したいとは考えている。そう考えつつ、通信を開始した。
アインス『ノワール。今回、また奴らが動きだしたわ。詳しい詳細は城で話すわ』
黒季『珍しいね。何かあったの?』
アインス『たまにはね。じゃあ、あなただけ来てね。また後ね』
そう言うと、通信を切った。普段ならその場でペラペラと話すが、最近構っていないから構って欲しいのかな?猫みたいな奴だな、なんか可愛い。
黒季「たまには構ってあげるか?」
黒季は黒い緞帳を開いて、暗黒の魔城に行った。そして言われた通り、1人で来た。そしてある部屋に入った。そこは僕がたまに使う部屋で、休息するには打って付けの場所だった。ガチャッと入ると、窓際の椅子にはアインスが座っていた。しかし着ていた服はいつもの戦闘服ではなく、白いシャツにスカートを履いたいかにもJKみたいな格好をしていた。あれ?そんな格好持ってたっけ?まいっか。黒季はすぐさまベッドで横になった。するとアインスが近づいてきて、ベッドに座った。
アインス「制服がシワになるわ。きちんと脱ぎなさい」
黒季「後でね。それよりもそんな服持ってたんだぬ」
アインス「ああ、これはねブランが教えてくれたのよ。あなたの学校の制服だってね」
黒季「そうか。君にもいつか地球を案内してあげるよ」
アインス「楽しみにしてるわ」
黒季「それより話って?」
アインス「ええ。またグレゴリーが動いたわ。しかし場所が変わっているわ」
黒季「どこ?」
アインス「地球よ」
それを聞いた黒季は驚いた。いつも異世界ばかりで戦っていたから、ちょっと意外と思った。まあ、いろんな世界を蹂躙しているから当たり前か。それにしても何故地球にしたんだ?
アインス「そこまでは分からないわ。奴らが何をしたいのか、まだ調査中よ」
黒季「何か変な組織と戦っているね。一体何がしたいのか、全然分からないね」
アインス「もしかすると、誰かの差し金があるかもしれないわ。ここからは私の予想だけど、誰かがあなたを仕留めるよう指示しているかもしれないわ」
黒季「可能性としては、なくはないね。どれも僕ばかりを狙っていたし」
アインス「あなたにはまた危ない道を踏んでほしくはないわ。出来れば私達で終わらせたいのだけど」
黒季「悪いね。これだけはどうしてもやめられないね。病気?てやつかな」
アインス「やっぱりあなたは止められないわね」
アインスはベッドから立ち上がると、いつもの戦闘服に着替えた。制服はスライムで作ったようだ。アインスは扉を開けて、外へ出ようとした。その直前、アインスは黒季に
「今日は私の我儘を聞いてごめんね。あなたと話す機会がなかなかなかったから」
と誤ったが黒季は
「別に構わないよ。僕もたまには2人きりで話したかったからね」
と言って慰めた。すると、アインスは
「じゃあ、この戦いが終わったら今度地球に連れて行って。ブランから美味しいケーキを出すカフェがあるって聞いたから、そこに連れて行って」
と言い出した。黒季は
「それは死亡フラグだから、気をつけてね」
と忠告した。アインスは「分かったわ。ありがとう」とセリフを残して、部屋を出た。1人残った黒季。しばらくするとベッドから立ち、窓を開けて、上半身を出した。
黒季「我の地球で好き勝手やるとは、身の程知らずめ。良かろう、相手になってやろう」
体からスライムを出して、まとわりつかせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、アインスから情報を聞いた白沢は部屋で準備をしていた。彼女も体からスライムを出す事が出来た。そのスライムを体に纏わせて戦闘服に着替えた。部屋にある鏡を見つめて、色々ポーズを取った。
白沢「う〜ん、こうかな?こうすれば、セクシィ〜なポーズになるかな?いや、この格好がセクシィ〜すぎるわね」
頭の後ろに手を組んだり、体をくねらせたりとポーズを取っていた。彼女が色々とポーズをしている時、突然ノック音が聞こえた。おばばだった。
おばば「お嬢様、ご飯の支度ができましたが」
おばばは夕飯を作ってくれたようだ。しかし、返事がなかったのでもう一度するも反応がなかった。やむを得ず白沢の部屋に入ったおばばは、衝撃的なものを見てしまった。そこには鏡を目の前にし、全裸で膝をついて座っている白沢の姿だった。実は白沢はポーズを取るのに夢中で、ノック音に気づかなかったのだ。ようやく気づいたのはドアノブが動く音。それに気づいた白沢は急いでスライムを隠したが、それと同時に全裸になってしまったのだ。そして、現在に至る。
おばば「・・・お、お嬢様・・・。その・・・風邪をひかれますよ・・・?」
白沢「お、おばばっ!!これは違うのよーっ!!」
白沢は何とか誤魔化そうとし、おばばは黙ってドアを閉めた。お互いギクシャクになりながらも、何とか隠し通せたが、しばらく白沢とおばばは気まずくなったのは言うまでもなかった・・・。




