それぞれの休日
「隊長、最近訓練のし過ぎじゃないですか?」
場所はマゼンタ第8部隊本部。その中庭で葉月は剣の素振りをしていた。もう5時間以上はしているようだ。それを心配しに来たドナ。ドナは勇気を振り絞って、葉月に喋りかけたのだ。
「ん?あぁ、すまない。つい夢中になってな」
葉月はドナからもらったタオルで汗を拭いた。どうして葉月はこんなにも訓練をするようになったのか、それはノワールの存在が大きかった。ノワールの圧倒的な魔力、見た事のない剣筋、そして未知の力。どれを差し引いても、今の自分と比べて劣る物ばかりだった。もっと強さがあれば、能力に頼らずに全力の一撃を放てば奴には勝てる。そう思い、日々の業務と同時に訓練をしている。すると、突然カレントがやって来た。
「あのー、隊長にお客様です」
「うん?ああ、あいつか」
葉月が呆れた返事をしたには理由があった。ジョージ和世山の事だった。彼は葉月に何かがあると、よく冷やかしに来る。一体どこで情報を手に入れたかは分からないが、とにかく迷惑な奴だ。訓練をやめて、身支度を済ませて応接室に行くと、優雅にお茶とお菓子を食べているジョージ和世山がいた。本当に腹が立つ。
「Heyheyheyhe〜y!!また派手にやられたそうじゃないか!!」
「何笑っているんだ、貴様っ!?」
「折角様子を見に来たのに、冷たい奴だな〜」
「私は何故マゼンタが貴様を重宝視している理由が分からんっ!?」
「まあまあ、とにかく座って話をしましょうよ。ほら、お菓子も持って来たし!!」
そう言って、靴をガラス机に置くと、その拍子にガラスがガシャーンッと割れてしまった。それを見たみんなはただ唖然してしまった。
ジョージ「・・・安物なら仕方ないよ」
葉月「貴様ーっ!?」
ドナ「第一印象がこれで決まりましたね」
ジョージがフォローするも、葉月は静まるどころか、イライラが溜まってしまった。しかし、自身は隊長なので、ここで爆発させると威厳がなくなるので、素直にソファに座った。みんなが来た所で、ジョージがある話題を振った。
「最近、巷で噂になってるノワールファミリーって組織を知ってるかい?」
その話を聞いたみんなは動揺していた。特に葉月は動揺を隠せなかった。しばらく黙り込んだ後、ジョージを睨み
「貴様、何か知ってるのか?」
と強く言った。あまりの気迫にジョージやこの場にいたみんなは緊張感が漂った。目がガチだったのだ。この目は怪人を狩る目にそっくりだった。それに対し、ジョージはこんな反応をするとは思わなかったようで、どうしたらその場しのぎをしようかと考えていた。
「あ、いやぁ〜・・・なんかまた奴隷を解放したとか、あとは怪人を追っ払ったとか、その程度だよ!!」
ギリ誤魔化したが、葉月の目は変わらなかった。いや怖すぎでしょっ!?最早、彼女の前でノワールファミリーの話題は禁句用語だな。すると葉月が
「貴様、何かあのノワールの弱点を知ってるか?」
と聞き出した。これで全て理解した。ノワールと戦って、勝てなかったんだと。数えられないぐらい怪物を倒した隊長も、手こずる怪物がまだいるとは思わなかった。とはいえ、こっちも噂程度の話しか知らないため、弱点どころか正体も分からなかった。
「今、第9部隊のみんなと協力中だから、調査して分かり次第、そっちに情報をSendするよ」
「あの第9に頼んだのか・・・。まあいいわ。今度は冷やかしで来ないように。あと、机弁償してもらうぞ」
「あ、はい。分かりました」
ジョージはそう言うと、お菓子袋を置いて逃げるように帰った。その後、葉月は腕を組み、ため息をついた。
「ふぅ〜・・・全く、面倒な事になって」
「でも、少しでもノワールについて知りたいのは我々も一緒ですから」
神奈月は弁明した。確かに、情報を知りたいのは事実だ。問題なのはその先。もっと詳しい情報が欲しかった。しかし、いつどこで現れるか分からない相手なのであまり期待はしていない。
「悩んでも仕方がない。吉報を待つしかないな。皆、それぞれの持ち場に戻ろう。」
葉月の鶴の一声でみんな解散していった。葉月は再び竹刀を手に取り、中庭で訓練をし始めた。
(覚えてろよ、ノワール!!今度会った時は必ず、貴様を逮捕するっ!!)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
この所、グレゴリーが動き出した様子はないようだ。なのでいつも通り、学校で寝ていた。こんな時間に寝るのが最高の一時だと思う。さてと、そろそろ昼休憩だし、弁当・・・がなかった。そもそも元から作ってなかった。理由は母さん。母さんが仕送りを忘れたせいでガス、水道、電気、その他諸々止まってしまった。今は自給自足と僅かに残った貯金を崩している。母さんめえぇぇぇぇぇぇーっ!!!!!と屋上から叫びたい気分だった。財布を漁ると、まだ取っておいた1万円札と小銭が残っていた。しかし、これだけで次の仕送りまで残るか?今日もチョコ5粒だな。どうせ無くなるなら、もっと有意義な使い方をした方がマシだな。でもそんな物がどこにあるんだ?その時、
「おい、くろりんっ!!今日はアジフライ弁当の日だぞっ!!」
と誰かが話しかけてくれた。その声の主はT.J.こと田村淳。彼とは今も仲良くしていて、お互い連絡も取り合っている。すると他にもゾロゾロと4人やって来た。スキンヘッドの蛇鎧 茂田根。伊達眼鏡をかけた御拓野 痔条。キザっぽい見た目の細井 河理央。通称エロ眼鏡こと江露井 助平。彼らはつい最近、知り合った人達だ。みんなあだ名で呼び合う程、仲が良い。
蛇鎧ことジャガくん「あの伝説の弁当が売ってるのかっ!?」
黒季「伝説の弁当?」
御拓野ことオタクん「売ってるかどうかも定かのあの弁当ですぞ!!」
これほどみんなが興奮するとは、一体どんな弁当なんだろうか?しかもアジフライ弁当なんだ。
細井ことガリオ「あれを手に入れるために、どれだけの人間が血に血を争ったか・・・」
江露井ことエロ眼鏡「ついでに可愛い女子もいますからの〜」
田村いわく1限目の終わり頃に売り始めるようで、その休憩時間に売店に一斉に押しかけてくるようだ。ちなみに1個500円、安い。折角だし、1回だけ食べてみようか。確か、もうすぐ昼休憩になるな。まだ売ってるのかは分からないが、これからだな。授業が終わると、すぐさま教室を出て売店に行った。すると既に数十人押し寄せていて、みんなアジフライ弁当を買っていた。他にも唐揚げ弁当、チキン南蛮弁当などバリエーションはあるが、何故かアジフライが人気らしい。その後もどんどん人が来て、もはやバーゲンセール並にぎゅうぎゅうになっていた。さっそく僕の番になったが、奇跡的にアジフライ弁当が1個残っていた。
「アジフライ弁当、ゲットオォォォォォーっ!!」
すぐさま弁当に手を伸ばした。すると他に2人の手が弁当を掴んでいた。その手は黄色髪ツインテールのギャル、ジャージを着たボーイッシュ女子だった。お互いアジフライ弁当を強く掴み、譲る気はないようだ。
「あの〜、その手を離してはくれませんか?」
「そっちこそ、いい加減離してくれないか?」
「いやいや、僕が最初に手を掴んだんですから」
お互い顔を見つめて、弁当を手放そうとはしなかった。最後の1個だったのか、他の人は諦めて帰ってしまった。しかし3人は諦めずに笑顔で答えていた。弁当を引っ張ってはお互い意地をはっていた頃、横から誰かがやって来た。
「・・・すみません、この唐揚げ弁当をください」
声の主は眼鏡をかけた女子だった。その女子はお金を払って唐揚げ弁当を受け取った。しかし、その女子に気づかなかったのか、黒季が弁当を引っ張った拍子にその娘にぶつかってしまった。
「きゃっ!?」
その女子は倒れてしまって、ついでに唐揚げ弁当も落としてしまった。中身が全部出てしまい、食べられない状態だった。流石に3人も気づいたが、気づいた頃には時遅し。流石にまずいと思った。
「「「・・・」」」
お互い引っ張るのをやめ、その女子に駆け寄った。
「えっと、ごめんなさい!!気づかなくて!!」
「いえ、私こそすみません」
「あのこれ、良かったらどうぞ」
黄髪ツインテールがアジフライ弁当を差し出した。誰も反論はなかった。しかしその女子は受け取ろうとはしなかった。
「いえ、そんな、それはあなた達の弁当では・・・」
「いえ、気が変わったんで」
「「同じく」」
そう言って、アジフライ弁当を置いて売店を後にした。その後、中庭で3人はベンチに座った。
「・・・あんたもあの伝説弁当を?」
「君も狙っていたんだね。僕は噂で聞いただけ」
「ふん。あの時、どちらかが離していれば良かったものを」
「君はあげたじゃないか」
お互いをお互い、いがみ合って埒が明かなかった。するとさっきの女子が現れて、弁当を人数分持って来ていた。
「あの、みなさん。良かったら、ご一緒いいですか?皆さんの分も買って来ました。こっちは唐揚げ、これはチキン南蛮、これはハンバーグ。皆さんでシェアしませんか?」
何とわざわざ人数分買って来てくれたのだ。あんだけの事をしたのに、何て優しい娘なんだ。思わず涙が出そうだった。みんなでベンチに座り、それぞれのおかずを分け合って食べた。こっちの方が伝説級に美味しかった。アジフライも唐揚げもチキン南蛮もハンバーグも初めて食べるが、これほどの豪華な食事は経験した事がない。ギャルっ子もボーイッシュっ子も眼鏡っ子も満足していた。これで満足・・・でもなかった。夜ご飯、何もなかったんだった。
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その頃、帰っていると松田荘ではたこ焼きパーティーをしていた。おいしそうだな、こっちの気も知らないで。なのでこっそりみんなが騒いでいる間に潜み込み、たこ焼きを数個食べて帰った。家に帰ると、そこにはうつ伏せになって寝ていた妹達と姉さん達がいた。みんな空腹で倒れてしまったのだろう。昨日、僕もこうなった。インスタントラーメンもほぼ無くなった。となると、また草原で食べれる植物を探すしかないな。でも肉は食べたい。そもそも、こうなったのは母さんのせいだ。帰って来たら、愚痴を与えてやる。また虫を捕まえて調理するか。
冬美「お兄ちゃん、虫嫌。なんか嫌。あれは野菜の代わりにならない」
・・・。冬美に断られた以上、やめるか。なら野生動物を・・・。
春奈「あ、野生動物却下。前にアライグマとブラックバス、マングースの肉を食べさせたでしょ?あれ、生理的に無理。美味しかったけど」
・・・・。じゃあモンスターを・・・。
秋穂「ドラゴンは飽きた。ミノタウロスも飽きた。オークも飽きた。グリフォンも飽きた」
・・・・・。今日もやっぱりチョコだな。チョコ菓子はあと少ししかない。今日は一粒食べて、1日が終わった。
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その頃、暗黒の魔城では。
「どけどけどけー!!わしが通るぞ!!」
「このやろー!!待てぇ!!」
スカーレットアズガロンのレッドとリザードリンクのリックが走っていた。城の長い廊下を使い、かけっこをしていたのだ。もちろん幅が広く、奥が長いとはいえ、ゴースト、モンスター、メイドや十黒のメンバーもいるのだが、そんな事をお構いなしに走っていた。みんな驚いたのか、片隅に寄った。
レッド「これに勝てば、マグメナルドのハンバーガー10個奢ってもらうんじゃけえな!!」
リック「勝つのはワイや!!」
2人が走っている時、壁から錫杖が横に飛び出た。しかし、それに気づかないのか、2人は走り続け、次第に喉辺りに当たった。2人はぐえっ!?と声を出して、倒れてしまった。
レッド「だ、誰じゃっ!?」
リック「ワイの邪魔をしたのは誰や!?」
すると壁から見覚えのある姿が出て来た。ドルバフォメットのドルバだった。彼は能力を使って、自身と錫杖を見えなくしたのだった。
レッド「何すんじゃっ!?」
リック「邪魔するなっ!?」
もちろん2人は勝負の邪魔をされて激怒していた。しかし、ドルバは錫杖で2人の頭を叩いた。
ドルバ「お前達こそ何をしてる?みんなの迷惑になると思わなかったのか?」
レッド「うるさいっ!!これはわしとあいつの勝負じゃっ!!」
ドルバ「勝負なら外でやれ」
そう言うと、誰かが2人の腕を掴んだ。その隙にドルバは窓を全開にした。2人は見えない謎の存在に驚き、謎の存在は2人を窓に投げ捨てた。
レッド「覚えておれー!!」
リック「絶対許さんからな!!」
2人は罵声を上げながら落ちていった。その頃、ドルバが錫杖を振ると姿が現れた。麦わら帽子を首につけて、オーバーオールの服を着た少年が現れた。彼の名前は"パーフェクトガブリエル"のガブエル。人間体は少年みたいな姿をしていて、見た目と反してかなりの力持ちである。
ドルバ「すまないな、手伝ってもらって」
ガブエル「いえ、ちょうど暇だったんで」
ドルバ「今日は奢ってやるよ」
そう言って2人は何処へいってしまった。




