動く暗躍
「今回の事件、全て君の差し金だったようだね、廣嶋?」
「何故私をここに呼んだのかを話したら全て話す」
とある部屋にアートルムと廣嶋と呼ばれる男が椅子に座っていた。この男、実は前に仮面の男といた謎の人間だ。そして、この男の素性は一切分からない。ただ、異世界を行き来する力を持っている以外は。そんな彼がどうしてここにいるのか、それはアートルムに無理矢理連れてこられたからだ。
「無理矢理でごめんね。ただ君と一度話をしたくてね」
「別に構わない。話がしたいならいつでも声をかけてくれたらいいのに」
「じゃあ次からそうするよ」
すると廣嶋はアートルムに写真を見せた。そこに写ってたのはノワールの姿だった。写真を受け取ったアートルムは廣嶋に問いかけた。
「これがどうしたんだ?」
「君も知ってる通り、最近噂になっているノワールって男だ。最近君達の縄張りを次々と制圧しているとか」
「ああ、全く困ったものだよ。最近の悩みの種だよ」
「ノワールは言い表すとするならば災厄そのものだ。いくつもの世界を渡り歩き、その世界を支配していってる」
「それでどうしろと?」
「奴はいづれ全世界を支配する存在になる。いわば私は奴の動きを常に警戒している。ただそれでも限界がある」
「そこで僕達に彼の動きを警戒させろと?」
「そうだ。奴が全世界を支配する前に一刻も早く始末しないといけない。私に協力してくれないか?」
廣嶋は強くアートルムに主張した。アートルムは机のお菓子を食べながら考え込んだ。世界を支配するって意味はよく分からないな。一体どういうことなんだ?アートルムの頭には疑問がいくつかよぎった。しかし、最近部活達がやられっぱなしで実力も分かっている。ならこの手に乗ってやろう。
「いいよ。僕もやられっぱなしは嫌だからね」
「分かった。共に世界を救おう。そして奴の支配から解放しよう」
そう言ってアートルムと廣嶋は手を取り合った。しかしアートルムの頭には何かが引っかかっていた。
(そういえば彼を初めて見た時、何故か初めてじゃない気がしてきた・・・。気のせいか)
アートルムはそう自分にいい聞かせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ある夜。ある場所でローブ男が一人座っていた。するとゾロゾロと兜を被った人達が複数人が歩いてきた。
「遅かったな。一体どこを道草していたんだ?」
「こっちにも事情というものがある。多少の遅刻は許してくれ」
「遅刻はダメだって親に教わらなかったか?まあいい。あんたのことだから免じるよ」
廃墟となった建物に謎の集団が集まっていた。みんなローブと兜を羽織っているので顔は分からない。ただ人見知りではないので、普通に話していた。するとローブ男が懐から何かを取り出した。兜男がそれを受け取ると
「作戦の実行を早めるのか?」
と問いただした。受け取ったのは紙、しかも束になった紙でそこには何らかの作戦が書かれていた。
「もう時間もない。本来なら1ヶ月後にする予定だったが、あの方の指示により一週間後に決行することにした」
「なるほどね。あのノワールファミリーって集団を恐れているようだね。あんな名前も知らない弱小組織に」
「どんなに弱小でも油断はしないことだ。故にもうあちらの戦力はほとんどやられたそうだ」
「ならそれをこの俺が払拭してあげようじゃないか。こうなりゃ、俺も出世街道だな」
「なるほど。今の地位じゃ不満か?」
「あんたこそ、こんな奴らと手を組むなんてな。どういうつもりだ?」
「こっちにはこっちの都合があるってもんだ。それにこの作戦を立てたのは私だからな」
そう言ってローブ男は立って奥へ歩いていった。それを見たただ見届ける兜男は
「お互いしくじらないように気をつけような」
と注意した。すると
「この私はそれほど愚かではない」
と言って去った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は地球。それに高校。ノワールファミリー達はいつも通り学校に通っていた。そうそう、オリヴィアは忘却術で記憶を一部忘れさせた。なので異世界で起こったことは何一つ覚えていない。僕達は屋上に集まって昼食を食べていた。
「全く、記憶をなくしても性格までは消えないか」
「そもそもオリヴィアちゃんが巻き込まれなくて良かったよ」
「ここ最近、グレゴリーの奴らが来るから私達も忙しくなるわね」
「そういえば、城はどうしたの?」
城というのはノワールファミリーの拠点地である暗黒の魔城だ。あの日、カオスに襲撃されたが帰ってきた頃にはファザー、マザー達が片付けてくれていた。それにみんな無傷とはいかなかったが無事だ。
「あの城なら、今は別の所にあるよ」
「えぇっ!!もうキゲンデにないんだっ!!」
夏菜はひどく驚いた。みんな、あの場所そんなに好きなのか?
「今はどこにあるの?」
「カオスが襲撃されて居場所が分かってしまったからね。また襲撃される前に今度は穏やかな場所に移したんだ」
「へぇー。すごいね」
「そもそもあの城って動かせるんだ・・・いや、ありえるか」
黒季はスマホからある写真を見せた。みんなその写真に注目になり、じっと見ていた。
「今度はここにしたんだ。キゲンデと違って穏やかな場所ね」
その写真には暗黒の魔城と森、山、谷、湖の背景が写っていた。何もなく、モンスターがうじゃうじゃ出てきて、天候が荒いキゲンデとは大違いだった。場所は"ワカドカ"という地名だ。
「なんかこれってホグワ・・・」
「こらっ、それ以上言っちゃダメ!!」
「えっ、何で?」
「・・・何となく危ない気がしてきたから」
「そっそうなんだ・・・」
宝華は白沢に説得した。危ないって・・・うん、危ないな、これ。一応大丈夫とは思うけど。何も考えないでおこう。すると黒季のスマホが突然動き出し、宙に浮いた。すると急に
「やっと自由になれた。ポケットの中じゃ息出来ないから窒息死するかと思った」
と喋りだしたのでこの場にいたみんな、驚いてしまった。そういえばみんなに言うの忘れたな。そもそも存在すら忘れてたけど。まあ、こうなったら仕方がないな。黒季はスマホを手に取ると
「こいつは賢者のけんちゃん。見ての通り、喋るスマホだ。みんな仲良くね」
と紹介した。しかしみんなの反応はそれほどって感じだったし、特に賢者は嫌な顔をしていた。
「名前をつけてくれたのはありがたいけど、その、もうちょっとネーミングセンスがあってもいいんじゃない?」
「うん、なんかピンと来るのがなくて、さっき即席で考えた」
「最悪だっ!!」
そう言うとけんちゃんはがくりと地面に画面をつけた。この絵、何か面白いな。しかし、すぐに立ち上がって
「ここで落ち込んでもしゃーないから、絶対体取り戻してやるっ!!」
と大声で叫んだ。いや体ないんだよね?そもそもどうやってやるんだ?するとけんちゃんは小声で
(そこはあなたにお願いします)
と呟いてた。そこは人任せなんだ。賢者なのに人任せ。すると女子達がけんちゃんを撮り始め
「これ、ちょー可愛いんですけど!!」
とベタ褒めした。それ可愛いか?白沢の他、宝華や春香、夏菜秋穂までも何故か愛で始めた。けんちゃんもまんざらじゃないようだ。
(スマホと合体させたことが間違いだったか?)
その日はずっとそのことを考えていた。




