ご愁傷様スライムくん
「最近楽しくない?」
「お前だけね」
夕方の下校時間、黒季とけんちゃんは一緒に帰っていた。黒季はすごいご機嫌そうだ。今日は家に帰れば、ずっとダラダラ出来る。何しろ明日は土曜日だから!!映画を見ながらご飯食べ、ゲームのログインしながら溜まったアニメを見続ける!!これが最高で最強の金曜日の過ごし方だ!!姉さん達、妹達は友達の所に行くと言ってたから、実質一人!!誰にも邪魔されない解放感だ!!ご飯は久々に外食でもするか!!そううきうきしながらアパートの階段を登って、鍵を開けて家に入った。
「ただいまー!!」
「おかえりー!!」
すると奥からどこか聞き覚えのある声が聞こえた。しかもその声の主は本来滅多にいないはずの人だった。その声を聞いた黒季は固まってしまった。
「なっ、母さんっ!?何で帰ってきたん!?」
「仕事がひと段落したから30分で帰ってきたわ!!」
「いやここから駅って、結構あるんじゃけど!?」
「そこは愛と勇気と母の力♡」
「どんな力だ。それにその力、すげぇな」
呆れてものが言えなかった。そう、今帰って来た人こそ、我が家の大黒柱(?)色田黒子である。たった今、仕事から帰って来た所だそうだ。帰ってくるなら連絡よこせよ。何かこの母さん、最初はいい人そうだと思ったが、一緒に住んで分かった。人生で一番めんどくさいってね。正直この人嫌いだ。その理由は。
「家賃はどうした?最近、取り立てで目が覚めるんだけど!?」
「さっき払ったわ」
「なら良かった。いや、いい加減毎月払ってよ。何だよ、大体半月に全部払うってルール自体何なんだよ!?」
「いいじゃない。こうやって住めるんだから」
「普通はこんな馬鹿みたいな考えしないと思うけどね」
そう、うちが家賃を払わない、いや払えない理由は母さんルールという物があるからだ。さっきの家賃もそうだが、何か面倒臭いルールしかない。それが嫌な理由の一つだ。そして最大の理由がある。それは・・・。
「それは置いといて」
「置いとくな」
「ほら、おかえりのあれ」
「あれって何だ?」
「もう、知ってるくせに。それっ!!」
「はっ、しまった!?」
黒子は素早く走り、そのまま僕に目掛けて走った。そして一瞬にして僕に抱きついた。これは僕が唯一攻略出来ない技だ。
「離れろ!!厚苦しい!!」
「はぁ〜。6ヶ月振りの息子の体温。疲れて冷えた体が一瞬で疲れをとってあったまる」
「変態の常套句か!?」
ムギュッて抱きしめられため、ジタバタ出来なかった。まさかハグが恐ろしい凶器になるとは考えたことがないだろう。ずっとこれをやらされてるが未だに慣れない。
(早く帰って来てくれ〜!!)
ストッパー係の女子がいない為、最悪の休日になる気がしてきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
台所では母さんが夕食を作っていた。ほとんど春姉が料理をしていたので母さん自身が料理をするのは久しぶりだな。今日はステーキだそうだ。牛肉なんて何年振りだろう。今日は僕しかいないと知っているため、奮発したのだとか。僕は作っている間に家事をしていた。
「家事なんてえらいね」
「みんな僕にやらせるんだからな。特に妹達は全くやってくれない」
「それは・・・気の毒ね」
「どーも」
母さんは気を遣っている。話を聞いて可哀想だと思ったんだな。掃除機、玄関掃除、洗濯物を中に入れる頃にはステーキが焼き上がっていた。美味しそう。野菜を切って、パンを焼いて、ステーキを皿に移した後、机に運んだ。ナイフ、フォークを食器棚から出して机に並べると二人で「いただきます」と言って食べ始めた。このステーキ、美味しい。中にも火が通っていて、硬くないし切れやすい。母さんは料理は美味い、料理だけは。しかしこんな贅沢は姉さん、妹達がいないと出来ないな。
「美味しい?これは料理が好きな人から焼き方を教えてもらったのよ」
「なるほどね。通りで美味しい訳だ。牛肉を買うなんて珍しいね」
「今日はみんな泊まりに行ってるでしょ?あなただけ可哀想かなと思ってね。それに一人よりも誰かいたほうがいいでしょ?」
母さんの言う通りだ。確かにご飯は一人より誰かいたほうが美味しく感じる。母さんは苦手だか、たまに優しい所もある。その比率が半分半分なのが残念だけと。
「今日はあなたと食べているから特別に美味しいわ。ムスコパワー菌がたくさん詰まっているからかしら?」
「人を病原菌扱いするな」
何やかんや言いながら、夕飯を終わらせた。それから1時間後に風呂が溜まったので、風呂に入ることにした。母さんは食器洗いをしている。いつもは姉さんや妹が先に入っていて、それも結構長く入っているので一番風呂は正直嬉しかった。それに風呂のお湯が無くなることはないしね。あ〜、ゆったり出来る。母さんが帰って来たから一時はどうなるかと思ったが、案外普通だな。これが続けばいいんだけど。ガチャン。すると洗面所の扉が開いた。扉越しからシルエットが浮かび上がって来たから誰かが、というか母さんしかいないけど。・・・うん、母さん?何か悪い予感がしてきた。風呂はあったかいが体は次第に冷えて来た。すると
「私も入っていい?」
案の定、母さんがタオルを巻いて入ってきた。何してんだ?!勝手に入ってくるなぁ!!すると母さんは僕がいることを気にもせずに頭を洗い始めた。
「何で入って来たんだ!?僕が入って来てるだろっ!?」
「ごめんね。突然水が暴れちゃってびしょ濡れになっちゃってね。折角ならみんなで入った方が時短にもなるかなってね」
「暴れたって何だ?それに時短以前に裸の人がいるんだぞ」
「あら、昔は一緒に入ってたじゃない?お母さんと一緒じゃないと入らないって」
「それは昔の話だろ。今は絶対危ないだろ」
「きゃっ!血の繋がってない息子に襲われるっ!!」
「襲わねーよ」
母さんは楽しんでいる。風呂場でストレスが溜まるとは思わなかった。このままいるとゆっくり出来ないから、素早く出てパジャマに着替えた。居間に戻ってテレビをつけた。9時から金曜シネマショーが始まった。今日の映画は面白いな。恐竜が出てくる映画だから。するとポケットからけんちゃんが出て来た。
「君の母ってあんな人なのか?」
「あれはもう病気だ。それとも遺伝かな?」
「まあ異常だということは分かった。僕も見たけど、何か隙がないね」
「あれが母というモンスターだ」
すると洗面所の扉が開いたのでけんちゃんはすぐさまポケットに入った。すると母さんは僕に
「今誰かいなかった?」
と聞いてきたので「映画じゃない?」と誤魔化した。丁度映画は始まったし。母さんは「あら、そうなのね」と納得してくれた。母さんって意外な所で勘が鋭いからな。用心しないと。
「ねぇ、明日付き合ってくれない?私も明日休みだし」
「どこか連れて行ってくれるの?」
「ちょっと買いたい物があってね。ご飯も奢るわ」
「まぁいいよ」
「ありがとう。またハグしてあげる」
「結構です」
「じゃあ、愛のチューで」
「もっと結構です。絶対しないでください」
「もう意地悪」
母さんは残念がっていた。もう勘弁してほしいな。まあ映画でも見て、気分を直そう。その日の夜は映画を見て1日を終えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「一体私達を呼んで何をする気?」
「ちょっと用事があってな」
その頃、グレゴリー本部のバーでドラゴ・ジャルダンと暗黒の七将軍が会っていた。お互い酒を飲んでいて、戦闘の意思はなかった。メリウスはみんなにカクテルを作ったり、お酒を注いでいた。ジャルダンはお酒をグイッと飲んで、マールスにある話をした。
「実はお前達に用がある」
「何よ?」
「ノワールファミリーについてだ」
「・・・!!」
その話を聞いたみんなは動揺していた?何しろ一度戦ったことがある相手だからだ。彼らの強さは戦ってきた私達がよく知っている。危うく死にかけたから。
「何でぇ〜、私達にぃ〜そんなことをぉ〜頼むのですかぁ〜?」
メリウスの質問にジャルダンは
「我々も戦った。しかし結果は惨敗だった。今の所、奴らの情報が少なすぎる。グレゴリーパトロールにもお願いしたが奴らでは何もなさすぎる」
と答えた。
「あー、奴らはあんな連中だからな」
その場にいたルーナがいた。彼女は未成年なのかお酒ではなくオレンジジュースを飲んでいた。
「そこで私達に白羽の矢が立った訳?」
ユピーテもこの場にいた。ユピーテは下戸なのかジンジャーエールを飲んでいた。
「そうだ。他にもお前達の知ってる情報を話してくれたら、この力をくれてやる」
ジャルダンは何やらキューブ状の物を取り出した。色はオレンジで何やら光っていた。これは一体何なのか、みんなは夢中になっていた。するとそれを見たウェヌスは何かに気づいた。ちなみに彼女は好物である炭酸水を飲んでいる。
「これは・・・能力をキューブ状にした物だね」
「あなた、知ってるのっ!?」
「噂だけだ。この組織に他人の能力を奪う能力者がいると言う噂を聞いた。確か盗んだ能力はいずれもキューブ状になっているとか」
マールス達は驚きを隠せなかった。この組織に入っても知らなかったことだからだ。しかし何故これをジャルダンが持っているのか?
「これはその能力者から借りた物だ。もう一度ノワールファミリーに勝ちたいだろ?」
それを聞いてみんな黙ってしまった。確かに彼女達は最初は負けた。おかげで評判はガタ落ちになった。しかしこれを使えば汚名返上になるかもしれない。そう思ったマールスは
「分かりました。ノワールファミリーの情報を分かる限り話します」
と答えた。それを聞いたジャルダンは
「ならこれをくれてやる。ただし一つ言っておくが、それがどんな能力かは俺にも分からない。用心して使うんだな」
と能力のキューブを渡した。それを受け取ったマールスはしばらくじっと眺めていた。魔力を感じる上に何だか力が込み上がってくる気がして来た。
「それの使い方は体にそれを入れるだけだ。ただ致命傷を喰らえばそれは出てしまって能力は使えなくなる。気をつけることだな」
ジャルダンはそう言って出て行った。残った彼女達はしばらく黙っていた。このキューブにみんな引き寄せられるように手を伸ばしていた。
「はっ!何やってるのよっ!!正気に戻りなさい」
マールスの人声でみんな我に戻った。みんなキューブに魅了されていたのだ。
「私、今何を?」
「なんだかぁ〜、引き寄せられたですぅ〜」
「こんなの、凄すぎて感動しちゃったわ」
「やはり実物は恐ろしいな」
みんなバラバラに離れて酒とジュースを飲み始めた。キューブを机に置くと何かと危険なのでしばらくは金庫にしまっておくことにした。
(あんな物が存在するなんて。この組織、一体どうなってるの?)
マールスはしばらくそのことを考えていた。




