145.零れた謝罪
「ーー使えない……何もかもが使えない……」
バチンッと音を立てて弾けた、魔力の力が込められた魔鉱石。それを尻目、男は呷るように手にした回復薬を嚥下する。
回復薬により回復する傷口を眺めてから、男は静かにその場で立ち上がった。そうして脱いでいた上着に腕を通してから、小さく深呼吸。クルリと背後を振り返る。
「あらあら、もう見つかっちゃったみたいね。ほんっとアナタって厄介な子ねぇ、リレイヌちゃん」
ガサリと音をたててその場に現れたリレイヌ。
その後ろ、列を成して続くデルヘム隊に、男はにこりと楽しげに笑った。
「不必要なモノも着いてきた感じかしら? いやだわぁ、男と女の逢瀬に首突っ込むなんてとんだ野蛮人ばかりね」
「ははっ、キモイこと言ってないで天にお祈りでもしたら? お前、今から死ぬんだし」
言って前に出たリンは、男を睨むリレイヌとリックを背後へ下がらせると、背負っていた武器を手に持ち構える。明らかに敵意を持ち相対するリンの様子に、男は呆れたと言わんばかりに溜息をひとつ。鬱陶しいと言いたげな顔で目の前のリンを見つめた。
「いやねぇ、知らない男に敵意を向けられる謂れはないんだけど……」
「よく言うね。ウチの隊員殺ってるくせに」
「あら、殺ったのはアタシじゃないわ。アタシはただ頼まれた通りに動いただけ。アンタらをただ迷わせただけよ。……まあ、さすがに抜け出すのは誤算だったけど……」
不満げに一言。
告げる男に、リンはチッと舌を打つ。どうやら虫の居所が悪そうだ。
あまり見ないリンの怒り具合に、隊員たちはそろそろと後退。万が一にも巻き込まれることのないように、ほんの少しだけ距離をとる。
「俺、お前みたいな腐れ外道嫌いなんだよね」
「あら奇遇ねぇ。アタシも、アンタみたいに面のいい男ーー大っ嫌いよッ!!」
吐き捨て片腕を振るう男。それに呼応するように飛び出した大火力の炎が、渦を巻いてリンに向かう。
「隊長!!」
青ざめる隊員が思わずリンを呼ぶ。
だがその瞬間、リンは迷わず一直線に炎の中に飛び込んでいった。「隊長ォー!!??」と思わず上がる悲鳴の中、男がリンの無謀さを鼻で笑う。
「やぁだなに! 随分と死にたがりじゃない!」
笑い、嘲り、さらに炎の渦の威力を増加させていく男。それに隊から悲鳴にも似た声が上がる中、突如、笑う男の目の前に銃の先端が突きつけられた。驚き目を見開く男の前方、炎から飛び出したリンが一切の迷いなく銃の引き金を引いている。
パンッ!!
渇いた音が鳴り響き、銃から弾丸が放たれた。
咄嗟に防護魔法を展開した男だが、しかし軌道をズラすことしか出来なかったようだ。飛んだ弾丸が男の頬を僅かに掠める。
「チィッ!!」
大きく舌を打ち鳴らし、男は手を伸ばした。そうしてリンに触れようとした彼の手を、どこからとも無く飛んできた刀が鋭く貫く。
「ぎっ!?」
痛烈なる痛みに思わず一歩後退した男の腹部に、リンは隠し持っていた拳銃を素早く突き付け二発発砲。男がよろけたのを見逃さず、そのままその体を蹴り飛ばしたリンは倒れた男を冷たく一瞥。銃を構え、容赦なく引き金を引く。
パンッ!!
耳に痛い、音が鳴った。
ぐたりと倒れた男を見下ろし、沈黙するリンはそのまま男の手から刀を引き抜き、それを手に皆の元へと戻る。踵を返して戻った彼は、迎えてくれる隊員に片手を上げてからリレイヌとリックに顔を向ける。
「悪いね」
なんに対する“悪い”、なのか……。
訳がわかっていない様子の二人。
リンは静かに戸惑うリレイヌへと刀を渡すと、次いでリックの肩をポンと叩いた。
「……帰るよ」
告げたリンに頷くリック。チラリと倒れた兄を目にした彼は、特に何を言うでもなくその死体から目を逸らして歩き出す。
リレイヌはそんなリックを見つめながら、そっと片手を握って移動を開始した隊の方へ。ゆっくりとついて行った。




