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143.嵐の後、そして前

「ーーはい、これで大丈夫です」


 ふわりと淡い緑が揺れ動き、みるみる塞がっていく隊員の傷口。リレイヌの手から溢れるそれがゆっくりと消失していけば、隊員の傷は綺麗に消え去っていた。


「ありがとな、嬢ちゃん」


「いえ、大したことはしていないので……」


 へらりと笑うリレイヌに、「ぐうっ!! 目が潰れるっ!!」と叫ぶ隊員。そんな隊員に「お前大袈裟だって」と笑う別の隊員が、「リレイヌちゃんだっけ? 俺も治療頼んでいい?」と傷ついた片腕を差し出す。


「はい。もちろんです」


「お、いい子だなぁーーところで彼氏はいるの?」


「ふふ、どうでしょうね」


 柔らかに笑うリレイヌに、訊ねた隊員はぱたりと倒れた。その姿に「何遊んでんの」と文句を告げるリンは、「助けてくれてありがとうございます隊長ぉ!!」と男泣きを披露する隊員を一瞥。「むさ苦しい」と顔を背けて無言で座り込むリックに寄った。


「りっちゃん、大丈夫?」


 戦争が始まって暫く戦ってきた他の連中とは違い、はじめて戦いに巻き込まれたリック。共に巻き込まれたリレイヌの方は大丈夫そう(と言っても無理をしているかもしれないが……)だが、リックのメンタルはどの程度なのかがまだ測り知れない。それ故に、心配の意味も込めてリンは彼に問いかけた。座り、俯く彼は、そんなリンに一言、「はい」を返す。


「……無理は禁物だよ」


「はい」


「……リレイヌちゃん、ちょっと」


 そっと離れた位置にいるリレイヌを呼んだリン。呼ばれたリレイヌはきゃあきゃあと騒ぐ隊員たちに一礼してから二人の元へ。「どうかしましたか?」と不思議そうに訊ねる彼女に、リンは無言でリックを指差す。


「え? なんですか? あ、もしかしてリック、怪我してました?」


「心の方がね。大ダメージ負ってるみたいよ」


「あー、ホラー苦手だもんなぁ、リックは」


「うるさい」


 吐き捨てるリックが「そうなんだ! 今度一緒にホラー映画観ようね!」と笑顔のリンをひと睨み。近づいてくるリレイヌに「余計な事を言わないでくれないか?」と低く告げれば、そんなリックにリレイヌは「別にいいじゃないか」と一言。微かに震える彼の手をそっと掴み、優しく握る。


「誰にだって怖いモノは存在するからね。隠さなくても良いだろう?」


「……」


 掴まれた手をそっと握り返し、リックは仮面の下で目を細めた。そうして深々とため息を吐いた彼は、俯いたまま「嫌になる」とポツリ。「そうだね」と頷くリレイヌの手を少し強く握ってみた。


「でも意外だね。りっちゃん普段クールだからそんな怖いモノ無さそうなのに……」


「まあ、リックのこれはトラウマと言いますかなんと言いますか……」


「トラウマ?」


 不思議そうなリンに、リレイヌは「はい」と頷く。


「地下世界に居た頃、とある疫病が流行りまして……リックはたまたまその疫病を患ってしまい、倒れてしまったんです。その時患った疫病が、“毒素の病”という極めて治療法の少ない病気で……」


「リレイヌ」


 それ以上は言うなと言いたげなリックに、リレイヌは沈黙。軽く肩を竦めて、「まあいろいろ調べてみれば分かるかもですね」と話を締めくくる。


「“毒素の病”かぁ、さすがに知らないなぁ……」


「知らなくていいですよ、あんな病」


「んー、そう? じゃあ帰ったらアジェラくんに聞いてみよ〜、っと」


「……」


 無言のリック。凄くイヤそうな表情を仮面の下で披露する彼は、リレイヌの手をそっと離すと「そういえば」と話題を変える。


「シルフは、大丈夫なのか?」


「シルフ? ああ、あの子なら大丈夫。だいぶ傷ついてたから暫く呼び出しは出来ないと思うけどね」


「そうか……」


 守れなくて悪かった。

 そう謝るリックに、リレイヌはゆるりと首を横に振った。そして、彼女は言う。


「リックは十分守ってくれたと、私は思うよ」


「リレイヌ……」


「ホラー苦手なのにね」


「リレイヌ……!」


 クスクス笑う彼女に、リックはジトリとした目を向け、やがて嘆息。この状況でも元気そうな彼女に、安心したように仮面の下で微笑んだ。


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