第六十六話 トラブル
中央都市を逃げだしてから二週間が過ぎた。現在、空飛ぶ家は馬が走る程度の速度で南下を続けて、ついに海上に出た。
この時の盛り上がりときたら凄まじく、何名かの蜂っ子が興奮のあまり、海に落ちたほどだ。
蜂っ子は飛べるから、落ちても問題無かったのだが、事件は蜂っ子が空飛ぶ家に戻ってくる時に起こった。
空に向かって上昇する蜂っ子を追うように、巨大な肉食魚が海中から飛び上がって来たのだ。
蜂っ子はギリギリで食われずに済んだが、足の裏の20センチ下で、凶悪な歯が並んだ巨大な顎が音を立てて閉じたんだから、生きた心地がしなかったに違いない。
俺はあの肉食魚の名前がメガロドンじゃないかと思ってるが、実物を見た事は無いからな。死ぬかと思うくらい驚いた。
助かった蜂っ子は、恐怖から絶対に高度50メートル以下では飛ばなくなったよ。そんなアクシデントはあったけど、海の恐ろしさを知る良い教訓になったはずだ。
ちなみに助かった蜂っ子は、時々夢に見るらしく一緒に寝て欲しいと頼みにくるので、快く引き受けている。
そんな俺達に神から試練が与えられたのは、さらに10日後の事だった。空飛ぶ家が嵐に巻き込まれたんだ。空飛ぶ家は大きいが、嵐の中では木の葉のようなもんだ。強風に煽られて、家の中は地震のように揺れている。
「いいか、絶対に甲板に出るなよ。
空を飛べても強風に吹き飛ばされたら
戻ってこれないぞ」
全員、真剣な顔で聞いている。これなら大丈夫かな。この時、操縦室から伝令が来た。
「フェイロン、至急操縦室へ来て下さい。
島を見つけたそうです。
着陸するか相談したいとハルナが!」
急いで操縦室に戻ると、俺の顔を見たハルナが島を指差した。それは島と言うより巨大な岩って感じだ。
「なんか島ってよりも、デカイ岩山って気がするけど、着地できるスペースはあるか?」
「少し傾くかもしれませんけど何とか」
それならと、着陸許可を出す。
家はゆっくり降りて、音と足元への小さな衝撃の後、ピタリと揺れは治った。
ハルナは、はぁ〜っと長いため息をついた。緊張してたんだろうな。
「おつかれさま。お見事でした」
そう言ってハグすると、ハルナの方からも抱き返してきた。背中を優しく叩いてやりながら、抱き合っていた。
「今日はもう大丈夫だろう。ここは他の奴に任せてハルナは、ゆっくり休んでくれ」
「もう疲れて歩けません」
本当に歩けないはずは無いだろうけど、甘えたいのかなと思って、ハルナをお姫様抱っこして、部屋まで連れていった。服を脱がせてベッドに入れたら、三つ数える前に寝てやんの。
船内を見て歩いたら、まぁ酷い有様だった。至るところがゲロまみれ。すぐに治療室へ行ってライムにスライムはいるかを聞いた。
「10匹いますよ」
「至急、家の中の清掃を頼む」
「了解です」
スライムがゆっくりと出ていった。これで綺麗になるな。それから嵐が去ったら、空飛ぶ家の点検と、必要があれば修理をやらなきゃな。
「よし、嵐が去るまでは休憩だ。ゆっくり休もうぜ」
休憩の為に自分の部屋に戻ったのだが、ライムがついてきた。俺の着替えまで手伝ってくれる。
普段、寝る時は全裸派なんだ。シャネルだけをつけてるのよって言ったの、誰だっけ。
今日はライムがいるからパジャマ着るけどね。
ライムが照れながらベッドに入ってくる。
一緒に寝たのは中央都市にいた頃か。
男女の機微も分からない奴だったけど、あの時に比べたら大した進歩だよな。
ライムが近くに来たので、くすぐってやったら無邪気に笑って、くすぐり返してきた。
童心に帰って遊ぶのは楽しいが、眠くなってきたのでライムを抱き寄せる。ライムの大きな胸に顔を埋めて眠った。
温かくて良い匂いだったよ。




