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第六十四話 退去

 いつだって悪夢ってのは、突然やってくるんだよな。空飛ぶ家が他人の目に、とりわけ権力者の目にどう映るかを考えなかった俺の落ち度なんだけどね。


 空飛ぶ家の内装が完成して、全員でお祝いをしてたんだ。俺は調子に乗って語りまくったよ。


 どこかの無人島に行こう。

 真っ白な砂浜で遊ぼうじゃないか。

 魚や貝を取って食べよう。


 山でもいいぞ。

 山脈連なる最高峰の頂上で景色を眺めるか。

 

 雨が降った時は、雲の上に出て日向ぼっこしよう。

 

 まだ見ぬ美しい景色を想像した者達から歓声があがる。


 歓声を聞いて更に調子に乗った俺は言った。


 「毎月一回は全員を乗せて

 誰もいない海上に出るぞ!

 そしたら全員裸族で過ごすぞ。

 みんなで楽しもうぜ!

 同意不要で遠慮無用で

 やり放題だ!」


 大歓声が上がる、事は無かった。

 それどころか


 「ダメな大人の生き見本があそこに!」


 とか言われた。

 ちくしょうめ。


 「ここにいる美少女を抱き放題なら、ぜひとも参加したいですな」


 ふざけんな。

 男は俺一人に決まってんだろ。


 「つーか、あんた誰?」

 

 そこに知らない男が立っていた。軍服を着ていて身のこなしに隙がない。好色そうな目で舐めるようにナツミを見ている。


 「申し遅れましたな。私はノーザン帝国のスォーカです。以後、お見知りおき下さい」

 「これは御丁寧に。今日は何の御用ですか?」


 そう尋ねる俺に、そっとサァベルが近寄ってきた。そして俺の耳元に「人間に囲まれてますわ」と囁いて教えてくれる。


 「いや実は、空を飛ぶ家とやらの噂を聞いて、半信半疑で見にきたのですよ」

 「そうでしたか。これがその家です。ご覧になったのなら、お引き取りを」


 スォーカは大袈裟に肩をすくめて見せると、手を上げた。すると兵隊が大勢現れて、俺達を十重二十重に囲んでしまう。


 「手ぶらで帰る訳にはいかないんでね。その家と女達をもらっていくとしようか」


 ふざけんなってんだ。


 「お前らを連れて帰って不埒な真似をしたいらしいぞ。一緒に行きたい奴はいるか?」

 「「「「「絶対に嫌!!!」」」」」


 だとよ。

 嫌われたもんだね。

 あまりに声が揃ったので爆笑してたら、スォーカがキレた。カルシウムが足りないんだな。


 「あの男を殺せ! 女は捕らえろ。抵抗したら痛めつけてやれ。あとで慰みものにしてやる」


 バカめ。

 普通の美少女と思うなよ。


 「お前らに危害を加える奴らに遠慮無用。やっちまえ!!」


 ライムとスライム娘は家に退避する為に動くのが見えた。兵隊蜂っ子が三小隊護衛についてるようだ。


 キーラは働き蜂っ子を連れて、家の甲板に退却している。おそらくは、甲板から敵を攻撃してくれるに違いない。


 ゴーレム姉妹のミスリーンはスライム娘が家に入った後、敵を侵入させないように、入口を守る気のようだ。


 もう一人のイオリは俺を守りにきた。イオリが守ってくれるなら、他は攻撃にまわせる。


 「サァベル、リル、ミッキー。敵の指揮官を捕まえてこい」


 三人は敵中に突撃、敵兵士を薙ぎ倒して指揮官に迫る。兵隊蜂っ子達も小隊ごとに移動しながら、敵を吹き飛ばしていた。


 「貴様ら、よくも下劣な言葉をワシに聞かせてくれたのぅ!!」


 ベティが激怒して兵士の足元を指差した。次の瞬間、兵士は胸元まで埋まって、身動きが取れなくなったようだ。

 

 「ひ、引け!貴様ら引けッ!」


 スォーカが撤退していく。

 追撃はしない。

 こちらも全員を乗せて空飛ぶ家を発進させる。


 兵隊蜂っ子の小隊を一つ、スォーカ達の偵察をするように指示を出す。


 「さて、どうしたものか」

 「宿屋の自宅に戻って、必要な物を取ってきた方が良いと思う」


 俺はミッキーの言葉に頷く。

 完成しただけで、何も生活に必要な物は入れてないからな。


 この際、騒ぎになろうが知ったことではない。宿屋の自宅の直上に停止させて、蜂っ子を全員を撤収作業に集中させる。必需品の買い出しもさせておく。

 俺は冒険者ギルドへ行くと、スォーカの暴挙について話しておく。じゃないと、何を言われるか分かったものじゃないからな。


 「中央都市は中立地帯だ。小規模でも軍を動かした事は厳重に抗議しておく。そこは任せておけ。だが、空飛ぶ家とやらは他の国も狙いに来るかもな」

 「俺達は、しばらく姿を消すよ」

 「それがいいな。だが寂しくなる。No21は娘のように可愛がっていたのに」

 

 涙ぐむなよ、ギルマス。

 可愛い奴だな。


 「このまま逃げるのも悔しいから、空飛ぶ技術を安価に提供できるようになっても、ノーザン帝国には売らないと言っておいてくれ」

 「分かった」


 兵隊蜂っ子のファントムとイーグルが迎えに来たので、宿屋の家に戻る。もう家の中は何も無いはずだが、戸締りはしておく。


 「俺で最後か?」

 「「そうですよ」」


 二人が頷いた。二人は左右から肩を担ぐと、ゆっくり上昇を始めた。そんな二人を見て、やけに親近感が湧く。

 兵隊蜂っ子達は生まれたばかりで、あまり一緒に遊べてないんだけどな。


 「お前、蜘蛛の化け物を吹き飛ばした蜂っ子だな?」

 「覚えててくれたんですか?」


 ファントムが嬉しそうだ。ちなみに、この子が蜂っ子を襲った蜘蛛を葬りさった蜂っ子だ。


 「覚えてる。産まれたばかりだろうに、強かったよな!」

 「光栄です!」


 申し訳なさそうな顔をしたのはイーグルだ。だが、武勲はこれから立てれば良いのだ。


 「ファントムで兵隊蜂っ子の強さを知ったから、これから頼むぞ」

 「お任せ下さい!」


 頼もしい奴らだな。


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