第三十九話 家探し
蜂っ子とスライムを連れて、ギルドのエントランスへ行くと、冒険者がギョッとした目で見てくる。そりゃそうだよな、子供がいればさ。
早速、誰かが報告に行ったのだろう。ギルマスがやってきた。
「フェイロン!! 貴様だな!?」
何故、分かった!?
「お前しかいないだろう。で、どうするんだ、これ。さすがに部屋はもう無いぞ」
しばらくは宿で暮らすしかないな。
「宿屋なら、格安のを俺が紹介してやるぞ」
そりゃ、ありがたいですけど、何か隠してないですかね。疑いの眼差しでギルマスを見つめてたら、「分かったよ!」と事情を話してくれた。
ギルマスが駆け出しだった頃、とても世話になった冒険者が引退して始めた宿屋を紹介するつもりだったそうだ。
「旦那は最近亡くなってな。子供は全員独立して他の町で生活してんだ。もう人手は足りないし年寄りだし、もう店仕舞いするしかないって、寂しそうな顔してやがんだよ」
それで?
「つまり、全部セルフサービスでやる代わりに格安にしてやるって話なんだが、どうだ悪くないだろ?」
まぁ確かに。
善は急げと言うし、早急に寝場所を確保したかったので、場所を聞くとギルマスは「俺も行く」と言い出した。
スラムにも近い場所に、その宿屋はあった。かなり大きい宿屋で、100人だって宿泊できそうだが、近くで見ると結構ボロい。
「いい宿屋だろ? 味があるって言うか、侘び寂びを感じるって言うか。な? ここに決めておけよ」
宿を見た瞬間に、俺が回れ右をしないように、ついてきやがったな。
「ここに決めようぜ。な? ぐはぁ!?」
しつこいギルマスが、いきなり悲鳴をあげて倒れた。見れば眉間に小さな石礫を食らったらしい。
サァベルとリルとミッキーは宿屋を睨みつけて、臨戦態勢に入ってる。蜂っ子達は頭を抱えてしゃがんでるのが、とても可愛い。
キーラは蜂っ子達を庇うような位置にいる。ライムと五人はユーリを守るように立っていた。
すると宿屋から、一人の女性が杖を使って、ゆっくりと歩いてきた。女性はまだ20代後半に見えるので、宿屋の主人では無いだろう。
近くに来た女性は微笑むと、ゆっくりと頭を下げた。エルフほどでは無いが耳が長い。ハーフエルフって奴か。初めて見たな。
「あんた達、ごめんよ。コイツに無理矢理、ウチを勧められたんだろ?」
ギルマスをコイツ呼ばわりするなんて、でも老人と言ってたよな?
「痛えじゃねーか、このクソババァ!!」
ギルマスが起きた。やはり、こちらのハーフエルフが宿屋の主人らしい。
「後輩に無理強いすんじゃないよ!」
「してねーよ!」
無理強いしてる自覚が無いとはタチが悪いな。それにしても疑問だ。
「ハーフエルフですよね。見た目通りの年齢じゃないのは分かりますが、若くて美しい女性を年寄り扱いするのはダメじゃないですか?」
口論してた二人は顔を見合わせて
「私、口説かれてる?」
「やめとけ。連れてる女の数を見ろよ」
「末恐ろしい坊やだねぇ」
いつ口説いたよ?
「見た目が若くても、中身はお婆ちゃんだから仕方ないんだよ。無理すんなよって、コイツなりに気を使ってくれてんだよ」
そう言ってギルマスの背中を優しく叩いてると、本当に婆ちゃんぽい。
「その足は治療しないんですか?」
「古傷は魔法でも治らないんだよ」
「ホントにすまねぇ」
諦めたように言う婆ちゃんと謝るギルマス。どうやら古傷の原因はギルマスか。だから、ギルマスは無理強いするのかな。この若くて綺麗な婆ちゃんの為に。
「ユーリ!」
「はいな、治癒魔法スペシャル!!」
なんか適当ぽくやってるけど、ユーリは回復魔法のエキスパートだからな。
「おや、足が・・・身体の古傷も痛まない」
「マジかよ!? 古傷まで治せるなんて、とんでもねーな!! リーフレット、良かったな」
ハーフエルフの名前はリーフレットというらしい。ギルマスが喜びのあまり泣いている。そこまで責任を感じてたんだろうか。
「ほら、いい歳した男が泣くんじゃないよ」
「おう、わかってる・・・」
ギルマスは俺の手を握ると、「ありがとう」を繰り返してる。
「坊や。宿屋は店仕舞いするつもりだったから、あんたにあげるよ。私は足が治ったから子供達の所に遊びに行くとしよう」
リーフレットはテキパキと旅支度をすると、翌日には出発してしまった。宿屋をもらうわけにもいかないと思ったので、金貨を渡した。
「宿屋はあげるって言ったろ?」
「だから、これは代金じゃないですよ。お子さんへの土産代ですよ。よろしく、お伝え下さい」
「じゃあ、ありがたく頂戴するね」
手を振って去っていく姿は、旅行に出かける女子大生みたいだった。




