第三話 マリアと会話
「そんなに強いのって、君は殺されかけたでしょ!!」
マリア曰く、顔面直撃を受けて失神した俺の顔にスライムは覆い被さって、俺を窒息死させた後、ゆっくりと吸収するところだったらしい。
「君、どこかの裕福な家庭の坊ちゃんなの? あまりにも世間知らずだよ。エリックに中央都市に確認に行かせて正解だったよ」
35歳にもなって世間知らず呼ばわりか。
「35!? 見た目は私と変わらないよね。もしかしてエルフなの?」
この世界ってエルフは実在するのか。
それより、また聞き捨てならない事を言われたよな。私と変わらないって。鏡を持ってないかマリアに尋ねると、胸のポケットから出して貸してくれた。
「若い!!」
鏡の中にいたのは中学生の頃の俺だった。
事情を知らないマリアには、何を言ってんだ、こいつって顔をされたが仕方ないよな。それよりも、だ。
夢で見た事は本当だったんだ。
だが困ったぞ。
この世界へ来るにあたって必要な知識とか、あらかじめ教えてくれるんじゃないのか?
全て解決って言ったじゃん!
解決してねーよ。
若くなったし、意思の疎通も出来てるけれど、それだけじゃないか。
今の俺は客観的に見れば、常識を知らない変な奴でしかない。だからもう真実を話そう。あの神は大勢の人間を、こちらに送り込んでるようだし、信じてもらえるかもしれない。
覚悟を決めてマリアを見ると、怒りの色は無く、哀れみの目で見られてた。ヤバイ、状況が悪化したかも。
「マリア、これからウソみたいな話をするけど、真実なんだ。聞いて欲しい」
マリアは無言で頷いた。
ここで飛田竜司と名乗ったら、フィダ・ルージーと言われたので、ゲームキャラ名と同じフェイロンと名乗る事にした。
「俺、実は異世界から来たんだよ」
「そうなんだ。私、初めて異世界の人を見た」
マリアは驚くことも無く、すんなりと受け入れた。ちょっと拍子抜けしたな。
「武器を持たず、鎧もつけず、護衛さえいないなんて、絶対に世間知らずで苦労知らずの、頭の中は糠味噌が入ってる人だと思ってたけど、異世界人だったんだね」
キツイな。
この世界は生物でも物でも、とにかく漂流物が多いらしい。俺のいた世界は、ほとんど皆無だった事を教えると驚いてた。
「マリアは糠味噌を知ってんの?」
「うん。フェイロンは異世界のどこの国の出身なの?」
「日本だ。ニホン、ニッポンとも言うよ」
「ニホンから来た人は、たくさんいるよ。だからショーユ、ミソ、コメもあるよ」
歴代の転移者達が苦労して作り上げたらしい。
過去に来た日本人に感謝。
嬉しさに思わずガッツポーズが出た。
和食食べたいよね。
和風の料理でも構わないし。
喜びから我に返るとマリアが笑っている。
「ニホン人はコメやショーユやミソがあると言えば喜ぶって聞いたけど、本当なんだね」
パンも好きだけど、やはり米だよ。
それよりも、食も大事だけど、今は食事を得る為の収入の確保を考えないと。
「日本から着の身着のままで、こちらの世界に放り込まれたから金も無いし、服も装備も無いんだ。何とかならないかな?」
「大丈夫だよ。明日、中央都市の冒険者ギルドへ連れてってあげる」
マリアが言うには、こちらの世界に漂着した物を鑑定する仕事があるそうだ。本などの場合は翻訳も頼まれるらしい。
俺しか出来ない仕事があって良かった。
まずは身の回りを整えるのが目標だな。