第二十八話 草原の城で。
俺達は草原の城へ帰ると、すぐにギルマスへ報告を行なった。
ユニコーンが種付けに現れなくなったのは、ユニコーンを狙う魔物がいたからであり、それを退治したので今後は大丈夫である、と。
しかし、困った事があった。
キマイラもそうだが、フェンリルも倒した証拠が一つも無いのだ。キマイラはローエングリンが塵にしてしまったし、フェンリルは俺の隣にいるのだが、言うわけにもいかない。
だから、倒した報酬はもらえない事となってしまった。だが、今回の事件が終焉に向かうとの情報については、考慮してもらえるようだ。
毎日の報告からモンスターの減少を確認し、逐次冒険者集団を撤退させる事で、経費削減を図れたらしい。
そして草原の城に戻って一週間後には、各地でユニコーンが目撃された。これはギルマスも、草原の民も驚いていた。
「俺は馬については知らんが、草原の民は馬を扱う玄人だ。その玄人が言うには、この数十年で草原に現れる個体は同じ奴だったそうだ」
それが今年になって、複数の若い個体が同時に現れたのだという。
「そのフェンリルとの戦いで、ユニコーンが一頭殺されまして、それで若い個体が殺された個体の縄張りを分割して受け継いだのでは?」
なるほど、とギルマスは頷く。
チラッとユーリを見ると、違う方向を見て口笛を吹いていた。ユーリめ、何と欲深い奴。
「希少種のユニコーンが犠牲になったのは、実に惜しいですけれど、複数のユニコーンが現れたわけですし、これが最良の結果だと思いますよ」
エルフィンがユーリを横目で見ながら、ギルマスに話している。ユーリにセクハラされたからか、言葉に毒が篭ってるよ。
「そうかもしれん。災い転じて福となす、ってやつだなぁ」
殺されて良かったんだと結論されたので、ユーリが静かに悔しがっている。それを見てエルフィンがニヤニヤしていた。
「全部まわれないのに、独り占めしようとしたからだ。自業自得だろ」
「ふん!世界中の牝馬は、私のモノだったんだ。未熟な奴に譲れない」
「今度はユーリが産む番だな。抱かれたい男がいたら教えてくれよ」
こんな事を言われたら、いつもなら死ぬほど嫌がるのに、今日は黙って下を向いている。言いすぎたかと心配になった頃、ユーリは俺を見た。
「精神が肉体の影響を強く受けているのを、日々感じるんだ。そう遠くない時期に、私は私の記憶を持つ人間の女に変質するだろう」
長寿であり、草原の牝馬に種付けして、雄の自覚を強く持っていたから、肉体が変化しようとも変わらずにいられた。でも遠からず変わる。
「その時はフェイロン。君に抱かれたいと、私は思うのだろうな。だ、だが、それはいつかの話だからな!」
こいつも心と体の性の乖離で悩んでるのだな。
去っていくユーリの背中を、申し訳ないとは全く思わずに見送った。
ユニコーンの頃なら、牧場主と思惑が一致してたから良かった。もし、こいつが人間の男になってたら、とんでもない事件を巻き起こしただろうから、女にして正解。
あ、でも人間にしたのは申し訳ないなーと思ってる。ホントに。
ライムがスライムを連れて歩いてるのを、ギルマスが渋い表情で見てる。中央都市と違って、草原ではスライムは受け入れられてないんだな。
そういえば草原の城の汚水処理事情って、どうなってるんだ?
ギルマスに聞いてみた。
ギルマスの説明では、王族や貴族、平民でも商人などの資産家は蓋つきの立派な拵えの箱にする。
それを召使いが頃合いを見て、外へ捨てに行くそうだ。これって平安時代の日本の貴族と同じだっけ?
ただ蓋があると言っても、やはり仄かに香るので、強い匂いの香を焚いて誤魔化してるみたい。
そんなのスライムがいれば解決できるのに。
「「ね〜」」
と、ギルマスの前でライムと頷き合う。ちなみに下々の庶民達は、外でするか城内の外周付近に穴を掘ってしてるらしい。
「俺だって中央に行った時に、ずいぶん清潔だなーって感心したんだぜ」
感心するだけじゃダメだろう。それを取り入れるように動かないと。とりあえずギルドで試して欲しい。城の外側なんだし、それくらい大丈夫なはず。
ギルドのトイレにスライムを使って、10日もすると職員も冒険者も、綺麗なギルドで用足しをしたがるようになった。
スライム三匹ほど就職。
さらに数日後、ギルマスが職権濫用。自宅にスライムの就職を斡旋。奥様と娘さんは、最初は嫌がったらしいけど、ギルドのトイレを見て態度が変わったらしい。
スライム一匹就職。
ギルドに依頼に来た商人がトイレの清潔さに驚き、スライムを求めてきたのでスライムを就職させた。
商人の自宅と商館を合わせて七匹ほど就職。
この時には二週間ほど経過しており、ユニコーン事件は完全に終息。貴重な情報を提供したということで、報酬も得る事が出来た。
そしてエリック達とは、ここで別れた。
連中は中央都市に帰るけど、俺達はやる事があるのだ。正確に言えば俺とライムね。
商人から貴族、そして王族へと清潔なトイレと、それに尽力するスライム達。王家のトイレに就職するスライムを集めて、激励してから何となくノリで敬礼をしたら、スライム達が答礼したような気がした。
いや、気がしたんじゃなくて、本当にしたんだろうな。ライムが俺とスライムを交互に見てたからな。
そして俺達は一カ月後に、懐かしの中央都市へと帰還したのだった。草原の国で、トイレ伯爵の地位を贈ると言われたが、全力で断った。




