第3話「30歳(精神年齢)を超えたおかげで魔法が使えるようになりました」
転生してから、2年の月日が流れた。
一人で歩けるようになり、言葉も少しわかるようになった。
ちなみに俺の名前は「ルーク」というらしい。
この世界について、いくつかわかるようになった。
まずは文明のレベルだ。
21世紀の日本よりは明らかに遅れている。
スマートフォンやパソコンなどの電化製品はもちろんない。
本は高価なものらしく、家には1冊もなかった。
ただし、生活のレベルは下がるが、前の世界にはない素晴らしいものがあった。
それは魔法だ。
最初にこの力を見たのは、母さんが手から水を出したときだ。
あのときは驚いた。
いや、手から水だよ。
マジックかと思ったわ。
その後も次々と魔法を見せられ、俺は感動を覚えた。
何もないところから火を出したり、暗い部屋をランプも使わずに照らしたり、魔法でなかったらなんだって言うんだ。
魔法とは神が人に与えてくれた奇跡の力らしい。
神といったら、あのくそ野郎のことを思い出す。
あいつのことは嫌いだが、魔法には興味があった。
現代日本で漫画やアニメを愛してきた俺が、わくわくしないわけがない。
俺は魔法を使うため、色々と試してみた。
まず、魔法を使うにはその源―――魔力があるはずだ。
いくら奇跡の力だといっても、無から有は生み出せないだろう。
さらに、魔力は体内にあると考えた。
そう仮説をたてて、体内にある魔力を探す。
我に眠りし大いなる力よ、目覚めろ! と厨二みたいなことをやってたら、ほんとに目覚めた。
へその辺りに暖かい何かを感じた。
これは、もしや・・・魔力かもれない。
なんとか動かせないかと、意識を集中してみたところ、
―――ズズズッ。
と、動いた。
しばらく、魔力で遊んでいたら、どんどん魔力操作に慣れてきた。
魔力を動かせるようになったら、次のステップだ。
ようやく、魔法が使えるぜ。
俺は両親が魔法を使うのを注意深く見てきた。
そして、いくつかの魔法について知ることができた。
まずは、魔法を使うには詠唱が必要だ。
簡単なものでいえば、「水よ、いでよ」といって水球を出す魔法だ。
他にも詠唱はあった複雑で何言ってるのか、さっぱり理解できなかった。
次に、魔法の発動に術式は必要ない。
よく漫画で魔術式や魔法陣が出てくるが、この世界にそういったものはなさそうだ。
ちなみに魔石はあるが、両親がそれを使う機会はほとんどない。
魔石がなくても魔法は使えるし、問題ない。
ようやく、魔法を使うための準備が整った。
やはり、最初に魔法を使う鉄板魔法といえば、水魔法だろう。
なぜ鉄板かって?
水魔法は失敗したとしても危険がないし、簡単に使えそうだからだ。
俺は、魔力を手に集中させ、「みずよ、いでよ」と唱えた。
「うわっ」
手から野球ボール程の水球が現れた。
「ははは・・・。やったぞ!ついに、念願の魔法を使えた!」
前世のときから、魔法に憧れていた。
中学生のころに、人間は魔法を使うことができないと知り、絶望したものだ。
29歳まで童貞だったから、あとちょっと我慢すれば、21世紀でも魔法使いにはなれたかもしれない。
悲しき魔法使いな。
いざ魔法を使ってみると、意外と簡単だとわかった。
俺には魔法の才能があるのかもしれない。
童貞を貫いてきた甲斐があったようだ。
周りのやつがどんどん童貞を卒業する中、耐えてきたぜ。
あの涙ぐましい努力は無駄ではなかった。
そんなことを考えてたら、集中が切れた。
球状で形を保っていた水が崩れ、床がびしょびしょになる。
あー、やっちまった。
まあ、おねしょだと言って、ごまかせば良いだろう。
実際、今日までに何度もおねしょしてるし。
いや、だって仕方ないだろ。
我慢できないんだよ。
最初は恥ずかしかったが、もう慣れた。
「もういっかい、みずまほうつかうぞ」
魔力を右手に集中させる。
だが、魔力が思ったように動かない。
なぜだか、急に力が入らんくなってきた。
「うっ・・・」
しまいには、くらくらしてきた。
もしかして、魔力の使いすぎだろうか。
なんか、二日酔いに似ている。
人生初の二日酔いは気持ち悪かったな。
もう二度と酒なんか飲まないと誓った。
けど、3日後にはその誓いは破ってたな。
今日は頭痛いから、魔法使うのやめとこう。