第1話「神に会いましたが、くそ野郎でした」
目を開けると、俺は見知らない場所にいた。
ここは、どこだ?
真っ白な空間だ。
宙に浮いているような浮遊感がある。
「目を覚ましたようだね」
少年とも少女とも取れる中性的な声が聞こえてきた。
よく見ると目の前に、モザイクがかかった何かがいる。
誰だ?
「うーん、特に名前はないけど・・・君たちでいう神みたいなものかな」
こいつ自分のことを神と言ったぞ。
痛いやつだ。
「失礼だね。それよりも、自分がどういう状況か理解しているのかい?」
車にはねられて死んだんだろ。
わかってるって。
「へー。あんまり悲しまないんだね」
いやいや、めっちゃ悲しんでるからな。
せめて、童貞だけでも捨てて死にたかったわ。
友達と風俗街行ったとき、お金払うのケチったせいで、結局最後まで入らなかった。
風俗街を3時間以上も歩き続け、リサーチは完璧だったのに。
くそっ、黒髪ショートの巨乳ちゃんに俺の童貞を捧げておけば良かった。
後悔ち〇ぽ立たずとはこのことか。
あの頃は「付き合った人としかやりたくない」というプラトニックな関係を求めていたんだ。
「君って・・・可哀そうな人だね」
うるせー。
ところで、死んだら天国行けるんだろうな。
誰にも迷惑かけずに生きてきたわけだし。
「天国は存在ないよ。それは人間が勝手に決めた架空の場所さ」
ということは、輪廻転生パターンか。
「輪廻転生は確かにあるね。記憶を消してから転生させるのがセオリーだけど」
じゃあ俺も記憶がなくなるのか。
大した人生ではなかったけど、悪くない人生だったよ。
「確かに、君の人生は大したことない。ちょっと覗いたみたけど、本当につまらない人生だ」
酷い言いようだな。
それでも神かよ。
「僕は君たちが考えているような存在じゃない」
まあ、どうでもいいわ。
で、記憶消すんだろ。
さっさとやってくれよ。
「普段なら、記憶消してさよならするところだけど、君は運がいい。特別に異世界に転生させてあげよう」
別にいいや。
裏がありそうだし。
「裏なんてないさ。僕はこう見えても誠実なんだ」
モザイクしか見えんやつのどこが誠実なんだ?
誠実っていうなら顔ぐらい見せろ。
「モザイクになってる気はないんだけどね。君が僕のことを認識できないだけさ」
顔が見たいわけじゃないから、どうでもいいんだけど。
「そういわれると傷つくなー。正直に言うよ、君に頼みがあるんだ」
いやだ、断る。
「即答だね。もう少し悩んで欲しいよ。こんな幸運めったにないのに」
だって、神の頼み事とか面倒そうだし。
世界救ってくれとか言われたら困る。
「面倒でごめんね。世界救って欲しいんだ」
絶対いやだ。
「お願いだ。君しかいないんだ」
転生とか世界救うとか、そういうこと好きそうな奴、探せば他にもいるだろ。
転生チートで俺TUEEEEしたいやつとかさ。
「残念ながら、転生チートはない。これを伝えるとほとんどの子が行きたくないって言ってね。僕も困ってるんだ。だから、お願い聞いてくれないか?」
より一層、行きたくなくなったわ。
転生チートなしで世界救えと言われても、冷静に考えて無理ゲーだろ。
もはや、くそゲーだ。
そもそも、神なんだから、あんたが救えば良いだろ。
「僕たちは転生者を通してでしか、世界に介入できないんだ」
そうか。
それなら仕方ない。
「やってくれるのかい?」
はっ?やるわけねーだろ。
「もう、あとがないんだ。これ以上先延ばしにすると、その世界は滅びる・・・かもしれない」
それは、お前の責任だろ。
俺に責任を押し付けんな。
お前の管理能力の問題だろーが。
「・・・うーん。それを言われると痛いね。ただ僕にも言い分があってさ。僕が任されたときには、すでに崩壊しかけていた世界なんだよ。前の責任者のせいでね」
それは可哀そうな話だが、俺には関係ない。
「そこまで否定するなら、僕にも考えがある。強制的に転生させよう」
なんだと。
それは良くない。
考え直せ。
「ごめんよ。僕は君に行ってほしいんだ」
はあ?
「君と話すのは面白い。それに、これから先、長い付き合いになるなら、君のような愉快な人がいい」
ま、待て。
俺は全然面白くない。
だから、やめとけ。
「安心しなよ。転生チートはあげられないけど、僕が君を見守っててあげるよ。神のサポートだ。ありがたいだろ?」
全然ありがたくない。
「あはは。じゃあ、またね」
神がそう言うと同時に、意識が飛んだ。