大浴場で非常識な幼馴染のことを親友2人に忠告しておきます。
聖地虞狼高校の女子寮の大浴場は町で潰れた銭湯屋をそのまま移動させたらしく、女子寮1階の半分以上の面積を確保されています。
男女の仕切りは壊されて、多人数でも使用できるように解放感ある作りになっています。
番台……今日のアルバイトの生徒からロッカーカギを受け取って、服を脱ぎます。
基本的にこの行為をする必要性はないのですが、正直、雰囲気作りが肝心という方針です。
個人的にはなかなか趣があって好きですね。
「あっ、優奈も今日はこっちなの?」
「雲母ちゃん。はい。のんびりしたくなったので」
「私もだよ~~。最近、アルバイトが忙しくて疲れをとりたいんだ~~」
雲母ちゃんは私の隣のロッカーを開け始めます。
ビッビッビッと手早くボタンをはずし、その大きな胸が淡い水色に包まれたブラジャーから顔を出します。
相変わらずデカいですね。
彼女はこの学校に入ってからの親友ですがその時からすでに成長しきっていた……いえ、現在も成長中のようですね。
そのくせ、身長は低くかわいらしいときてロリ巨乳という言葉は雲母ちゃんのためにあるのでしょう。
私も人並みに、平均ぐらいの大きさですけど雲母ちゃんの胸には完敗です。
(……揉みましょうか? いえ、それは雄くんだけにしましょう)
同性とはいえセクハラ扱いされてはまずいです。スキンシップと取ってくれるかもしれないですが親友にはやりたくないですね。
そもそも、ボーイッシュな口調と見た目をしてますが、雲母ちゃんは小さくみられることや胸を揉むなどの身体的特徴にコンプレックスを抱いている節があります。
そんな親友に嫌がることはできません。
雄くん? ああ、雄くんは例外です。徹底的に揉むことが許されます。
「優奈? お風呂行かないの?」
「ああ、すみません。ボーとしてました」
「へんなの」
ロッカーに荷物を急いで詰め込んでタオルだけをもって大浴場に入ります。
中には大きな富士山が描かれた背景にブロック式のお風呂となっています。
さてさて、さっそくかけ湯だけ済ませて湯船につかります。
ちょうどいい温度ですね。思わず口から吐息が漏れます。
「はふぅ、いい湯です」
「本当だねぇ~~」
隣では肩までしっかりと浸かり、顔だけ出している雲母ちゃんが蕩けそうな顔をしてます。
誰もいなかったらお湯の上で寝転び始めそうな勢いです。
「あー、そういえば、あの転校生どう?」
「どう? とは?」
「妹なんでしょ? 気にならないの?」
「あー、そういえば、そういう設定でしたね」
言われて思い出します。
あの時の記憶はほとんどプリンが埋め尽くしていますがそういうことを言っていた気がします。
その設定にあった答えを私は用意していないのですが……。
「大丈夫ですよ。雄くんは馴染めると思います」
「そうなんだ。通じ合っているんだね」
「そうですね。会うのは7年ぶりぐらいでしょうか」
ふと、昔のことを思い出し、今日のことと思い比べます。
まるで7年間の空白なんてなかったような濃密な2日間です。
だけど、それはどことなく楽しく。私自身、あまり嫌ではない……それどころか雄くんに会えて私は……。
「……ごめん。聞かない方がよかったかな?」
「ううん。大丈夫ですよ」
雲母ちゃんが申し訳なさそうに顔を下げる。
どうやら考えている間に雲母ちゃんは「やばっ、地雷踏んだ?」みたいなことを考えたのでしょう。
私はそれを訂正しようと雲母ちゃんの肩を叩いたその時でした。
「あっ! あーかーつーきさーん!」
その声に振り返るとすらりとスレンダーな体をした年相応の実りを持つ早苗がいました。
エメラルド色のポニーテールを崩し、いかにもオフっといった感じです。
「早苗? 珍しいですね」
「うん。歓迎会があったけど片付けがすぐに終わったの」
入ってくるとすぐに私の近くまで来ました。
早苗は基本的に寮母の仕事として食事などを作ったりしているからだいぶ遅いはずなのですが、今日は珍しく早く終わったみたいです。
「仕事は終わりですか?」
「まあね。今日の分があとちょっとってところかな」
「そうなんですか。ちょうどいいです。雲母ちゃん、早苗も言っておきたいことがあります」
「「?」」
今の内に釘をさしておく……違いますね。雄くんが暴走したらいけないので言っておくことがあります。
すでにいろいろと手遅れな気がしますが、被害者は私だけなのでこれ以上、被害を広めないためには重要なことです。
「うちの妹なんですか。問題が起きたら教えてください」
「ど、どうしたの? 寮母としてそれは聞き逃せないないのだけど」
早苗が慌てて詰め寄ってきます。何か問題を起こす生徒のように思われたみたいです。
しまった。寮母の早苗にはもう少しオブラートに包みべきでしたね。
「妹。雄くんですが、男のような価値観を持っているのでたまに変な行動するのですよ」
「……へー、そうなんだ。変わっているね」
「はいです。だから、おかしかったらすぐにご報告を、一発で仕留めます」
「りょーかい。雲母さんもそれでいい?」
「えっ! あっ、うん。大丈夫だよ」
寝ていたのか。雲母ちゃんの反応が薄いのが少し気になりました。
ですが、早苗には伝わったでしょう。今はこれで十分です。
「ふー、体洗いましょうか」
「あっ、洗いっこする?」
「いいですね……雲母ちゃん?」
魅力的な提案に思わず頷いた時、雲母ちゃんが私の手首をつかみました。
「きょ、今日は私としよう!」
「えっ!?」
意外な提案に驚きます。
雲母ちゃんはあまり表には出しませんが自分の体をコンプレックスに思っている節が多々見受けられました。
だから、肩をたたくなどまではセーフラインと思っており、体を洗うなど……ましてや胸を揉むなどの行為はNGだと思っていたのですが……。
と、その時反対の手を早苗が掴みました。
「ちょ! 雲母さん。それはずるいよ!」
「い、いいじゃない。たまには私が優奈をもらってもいいじゃない」
「こっちが先に約束しましたよ?」
「そ、それは……」
子供の取り合いですね。お互いがお互いに引っ張り合って少々痛いです。
私としてはいっそのこと二人とも一緒に洗いあえばいいのではないのかと思っているのですがどうしてこうなったのでしょう。
こうなってはどちらかを選ぶか逃げるかの2択ですね。でも、どちらも傷つけてしまいます。
八方塞がり……思った時でした。
「なら、僕が優奈ちゃんを洗うよ」
「………………は?」
背後から、聞いてはいけない声が聞こえました。
あれほど言ったのに、もしかして入ってきた?
振りぬいてはいけません。もうここは何も見なかったことにして――。
「あれ、暁さんの妹さんじゃないですか」
「っ!!」
早苗が何気なくその答えを言いました。
その答えを聞いた途端、カチリッと渡すの中で何かのスイッチが押されました。
(はい。そうですか……そうなのですか……。残念です)
ゆらりっと私の体が後ろを振り向きます。
その時、視界の端で雲母ちゃんがタオルをもってガタガタと端っこで震えていました。
「いやー、嫌な予感がしたから来たけど良かった……ピンチだったんじゃない?」
「へぇー」
ザブザブッと湯船の中を歩き、そいつの元へとたどり着きます。
「あれ? お風呂お湯の温度下がった?」と早苗が寒そうにお風呂に浸かります。
「ふぅ、じゃ、いこっか」
「どこに?」
「え、だって……あの、優奈ちゃん。なんだか……こわ」
「え? なんですか」
「あ、はい。なんでもないです」
おかしいなことを言います。
私のことが怖いですって? そんなわけあるわけないじゃないですか。
湯船のお湯が渡井の顔を反射してしっかりとわかっているのですよ?
そう、私は今……満面の笑みを浮かべているというのに。
「雄くん。私がどうしてこの顔なのかわかります?」
「僕が……約束を破ったから?」
「正解です、では、雄くんはどう償いたいですか?」
「……ごめんなさい」
ペコリと頭を下げます。
ああー、そうですか。そう来ましたか。
謝ったことは評価しましょう。ですが、この場合もっと問題があります。
だから、もっと厳しい罰が必要……と思った時でした。
「あ、れ?」
「優奈ちゃん!!」
視界が歪み、膝に力が入りません。
倒れそうになる身体を雄くんがとっさに受け止めてくださいました。
のぼせたのでしょうか? だん、だん……意識、が……。
「優奈ちゃん!? 優奈ちゃん!!」
「早く! 救護室に!!」
遠くの方で聞こえる声は……もう、私の耳には届きませんでした。