倒れた私を幼馴染が介抱してくれました。
夢を見ます。そう、これは昔の夢です。
『雄くん? 大丈夫?』
『うん! 大丈夫だよ! お医者さんに聞いたらもう少ししたら学校に復帰できるって!』
『本当!? よかった。雄くん全然来ないからつまんないんだもん』
『はは、大丈夫だよ。優奈ちゃんは人気者じゃない』
『それはおとうさんとお母さんが有名人だからだよ……。雄くんだけだもん。私のことを見てくれるのは』
『優奈ちゃん……』
私はこの時、雄くんに本気で恋をしていた。
結婚する約束をして恋人気分になり、いつかは自分たちの家をもって子供たちと幸せに暮らすんだと本気で思っていた。
それが私の正体の夢だったから。
『あ、そろそろ時間だから帰るね』
『うん。じゃあ―――へっくしゅんっ!! ごほっ! ごほっ!』
『大丈夫!?』
『う、うん。いつものことだから』
『もう、鼻水まで垂らして。これ、使って』
『いいの? 大事なハンカチじゃ――』
『いいから! って、看護師さんに怒られちゃう!』
『優奈ちゃん! 待って、ハンカチ!!」
『また、明日来るから。その時に返して!』
夢の中の私は笑顔で帰り道を歩きます。
多分、頭の中だと明日への期待に胸を膨らませているのでしょう。
嫌な習い事も、親の顔を立てるためのクラスメイトも……雄くんに会えるまでの我慢と考えている。
だけど、私は知っている。この日を境に、雄くんには会えなくなった。
そう、だって……雄くんは――――。
目を覚ますといつのもの自分の部屋の天井を眺めます。
体を起こすことがだるくて頭の回転が鈍いです。
どうして、私は寝ていたのでしょうか……?
「あー、うー。はぁ、駄目ですね。思い出せません」
「優奈ちゃん! 気が付いた?」
「雄くん?」
「よかった。気分はどう? 体を起こせそう?」
「あれ、私は……」
「お風呂でのぼせたみたいだね」
「え、あ、そうなんですか。すみません」
そういえば、大浴場に行ったことを思い出します。
雲母ちゃんと早苗と一緒にお風呂に入って、それから……あれ? 何か大変なことがあった気がしますが思い出せませんね。
頑張って思い出そうと額に手を当てるとその手を遮るように雄くんの手が触れました。
「うん。熱もないし色も良さそうだし、今日はもうこのまま1日寝ておこうよ」
「そう、ですね。あれ、今って何時ですか?」
カーテンが閉められていて外の光景がわかりませんが、薄暗くなっていることがわかります。
雄くんは自分の腕時計をこちらに見せながらいいました。
「ちょうど深夜12時を過ぎたあたりだね。何か食べれそうかな?}
「あ、その、じゃあゼリーが食べたいです」
「了解。ちょっと食堂に行ってくるよ」
少しだけ、タブーですけどお腹が空いたので雄くんにお願いしました。
そういえば、なんで雄くんは私の部屋にいるのでしょう?
そう考えている間に雄くんは手早く帰ってきました。
「お待たせー」
「ありがとうございます。あ、これ……」
「うん。昔、何度か作ってくれたでしょ? ミカンとモモのゼリーだよ」
「…………」
やばいです。すごくうれしいです。
このミカンとモモのゼリーは雄くんの好きなものを詰め込んだ私の最初の料理です。
包丁を使わない。幼いながらにしてませていたころに作ったものです。
「……雄くんは」
「?」
「雄くんは本当に昔のまんまなんですね」
受け取って、ゼリーを見つめながら雄くんに問いかけます。
夢を見たせいか。私は雄くんのことがどこか怖く……。
私は……やっぱり心のどこかで雄くんを信じられてません。
雄くんの何が好きなのか。今の雄くんことなんて何もわかっていません。
それは、お互い様のはずなのに雄くんは私のことを大切に思ってくれます。
それが……少し心苦しいです。
「私は、少し変わりましたよ。人を見る目とか、常識とか……」
「それは、いいことだね」
「いいこと?」
そんなわけありませんだって……
「うん。だってそれは成長したってことでしょ? 僕も追いつかないんとね」
「ははっ、何ですか……それ」
雄くんは笑って答えてくれます。私のことちっぽけな思いが不安にならないように。
成長……これが、成長ですか。それなら、私は成長したくなかったです。
雄くんと同じ、無邪気な心のままでいたかったです。
その言葉を飲み込むようにゼリーをすくって口に運びます。
「つめたっ」
さっきまで冷蔵庫に入れていたのか。ものすごく冷たいです。
次第に味がわかるようになり、ゼリー本来の甘みにミカンの酸味、モモの甘みが加わって絶妙においしいです。
あの頃の私よりもはるかにおいしいゼリーがそこにはありました。
お腹が減っていたのか。ぺろりと平らげて一息をつくと眠たくなってきました。
「すみません。やはりもう少し眠っておきます」
「了解。優奈ちゃん、あの……手、握っていい?」
「……お願いします」
雄くんがおずおずと手を差し伸べてきて受け取ります。
その手は同じ女性の手のはずなのに暖かく、雄くんのぬくもりを感じられます。
「あったかい、です」
「そうかな? さっきまでゼリー作っていたから冷たいと思ってたけど」
「いいえ。すごく、暖かいです」
「そっか」
まるで、父親の……いえ、これは……。
「……雄、くん」
「なに? ……あ、しまった。眠っちゃったか。おやすみ、優奈ちゃん」
その日はそれ以降、夢を見ることもなくぐっすりと眠ることができました。




