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幼馴染は自分の情報を売りました。


 目の前で私のスマホをポンポンと弄びながら、三国先生は周囲を見渡し言いました。


「ふふ、場所を移そうか」

「優奈ちゃん。下がって……」


 雄くんの精霊石を取り出して、私を守るために威嚇してくれています。

 ですが、ここは学校です。このままだと――――。


「ここなら他を巻き込まれるけど、君たちはいいのかい?」

「……雄くん。ここは行きましょう」

「わかった。でも、絶対に僕から離れないでね」


 他の生徒たちからの注目も多く、私たちは移動を余儀なくされて三国先生の後を追いました。

 向かった先は保険準備室。保健室の真横にあり、包帯などの備品や保健室に従事する先生たちの書類などが置かれている場所です。

 中央に長方形の長いテーブルがあり、それを囲うように椅子がきっちりと並べられて置かれています。

 入ると誰もいなく、三国先生はこっちが襲ってこないと安心しているのか鼻歌を歌いながら3人分のカップに紅茶を淹れて出迎えてくれます。


「さて、僕の部屋にようこそ。歓迎するよ」

「あ、ありがとう……ございます?」


 思わず、お礼を言ってしまいましたが言う必要がないと後から気がつきます。

 もちろん、目の前に出された紅茶にも手を出さずに背筋をピンと伸ばして座らずに出口近くで雄くんと共に警戒します。


「飲みたまえ。なに、時間の心配はしなくていい。君たちとの時間はたっぷりと空けておいた。この後の授業は出なくても誰も不思議には思わないよ」

「え、それはどういうことで……」

「ああ、優奈さんにはわかりにくいか。簡単に言うと二人は体調が悪くなって帰宅したことになっているんだ。これなら誰も怪しまないだろう?」

「ひっ……」


 にこっと笑うその笑みに私は恐怖した。

 私の知らないところですでに三国先生の術中に収まっているなんて思わなかった。

 私は怖くなり、ぎゅっと強く雄くんの服の袖に捕まる。 


「さて、飲んでくれたまえ。知り合いから送られたブレンドだがいい香りだろ?」

「飲まない。毒が入っているものを紗南ちゃんに飲ませません」

「疑り深いなぁ。さすがは優奈さんの妹としてきたボディガードだ。だけど……」


 優雅に三国先生は対面の場所に座り込み、同じように淹れた紅茶を手に取った。


「これでどうだい?」


 ぐいっと一気に口につけて飲み込んだ。

 そして――――。


「あつっ!?」


 盛大にその場でこぼした。


「…………」

「あの、なにを?」


 「あつっ、あつっ!」と三国先生はその場でのたうち回っている。


(これは演技なのでしょうか。いや、でも……あれは演技じゃない気がします)


 こう見せかけといて油断を……! などと素人ながら考えましたけどあまりにもお粗末です。

 さっきまでの暗殺者としての雰囲気が、謎の人物としての雰囲気が台無しになってしまっています。


「ま、まあこれでわかっただろ?」


 「はぁはぁ……」と満身創痍に机にしがみつきながら紅茶を進めてきます。

 この人、意外とポンコツなのかもしれません。

 あれが演技とは思えませんし、熱めの紅茶を口につけているところからすると本当に話をしたいだけかもしれません。

 紅茶のいい香りに誘われて、紅茶のカップに手を駆けます。


「そうですね。では……」

「優奈ちゃん!!」


 その時でした。私の隣にいた雄くんが紅茶をはじいて陶器の割れる音が部屋に響きます。


「雄くん? 三国先生が飲んだから大丈夫だと……」

「優奈ちゃん。悪いけど先にカップに毒を入れる方法だってある。信用はできない」


 「あっ」と声が漏れます。

 私に差し出されたカップは私自身が安全を確認したものではない。だから、付け入る隙があると雄くんが教えてくれます。


「へぇ、いいボディガードをつけてるじゃないか。残念、飲んでくれたら楽だったのにな」


 先ほどまで痴態とは打って変わって、三国先生はにこやかに笑って落ち着いて座っています。


「その警戒心はいいことだ。だけど、不正解だね」

「そんなのはどうでもいい。もうこれ以上、優奈ちゃんを――――」


 雄くんの言葉を遮るように三国先生は顔の横に右こぶしを見せつけます。

 指がゆっくりと動き、人差し指と親指をくっつけていわゆる指パッチンの構えをとります。


「正確には――今、この瞬間に毒に変えるのさ。こんな風にね」

「っ! はあっ!!」


 バチンッと特有の音が三国先生の右手から鳴りました。

 瞬間、床にまき散らされた紅茶の粒が紫色に変化し、蒸発して霧となります。

 一目見て、これは吸ってはいけないとわかるそれを雄くんは右こぶしを前に突き出して一歩しか動かずに対処しました。

 嵐のような風と共に紫色の煙が窓に向かい、触れて戻ってくることはなくガラスが割れて外へ飛び出していきます。


「なるほど、正拳突きかな? 今のは……。素晴らしい。風圧で窓を割るとはいい判断だよ」

「させるかっ!!」


 ガキンガキンと金属の擦れる音が耳元で聞こえます。

 気づけば雄くんは篭手を装着し、三国先生は日本刀を抜いて対峙してました。

 2人のあまりの早業に私の目は残像すら追うことができていません。


「なるほど……いや、この場合はどうしてだ? どことなく彼に似ている……君は血縁者か。もしくは……」

「優奈ちゃん。ゆっくりでもいいから扉に向かって、この場は逃げよう」


 雄くんの提案に、震えて声が出ない私はこくりっと頷いて扉の方へ足を動かします。

 しかし、恐怖に支配されていた足はもつれてしまいます。


「優奈ちゃん!」


 転んで地面に接触するまでの間、私の視界は走馬灯のようにスローモーションに雄くんたちを映し出します。

 私の方に振り向いて駆け寄る雄くん。その背後を追撃する三国先生。

 「危ない」と叫びたかった。せめて危険が迫っていることを雄くんに知らせたい。

 だけど、空中に投げ出された私の体は何一ついうことを聞かずにただその光景を見せつけるだけで……。


「ワイヴァーン!!」

「なにっ!?」


 雄くんの背中から炎の翼が生えて三国先生を襲いました。

 まるで意思があるかのようにうねりながら三国先生に襲い掛かる炎の翼に対し、三国先生は、


「ポイズン! 対処しろ」

『あいよー! 任せろ旦那!!』


 手から紫色のシャボン玉のようなものをいくつも飛ばし相殺させました。

 触れ合った瞬間に、蒸発し煙すら出さずに消えました。

 

「大丈夫!?」

「あっ、はい。あの……ありがとうです……」


 私が転んで地面に接触するよりも早く雄くんは私のことをお姫様抱っこで抱きかかえてくれました。

 もう雄くんは何でもありな気がしてきます。

 雄くんが私を下ろさずにドアに手をかけて飛び出そうとしたその時でした。


「いやー、素晴らしいよ。君は先日の彼よりもいいセンスをしてそうだね」


 その光景に拍手をしていた三国先生は手をあげて降参の意を示した。

 盛っていた刀は鞘にしまい込み、これ以上身構える様子がありません。

 さすがの雄くんもその光景に不信感を抱いたのかドアを開かずに手をかけた状態で固まっています。


「待ちたまえ、先に手を出したが今日はやり合う気がない」

「信じると思う? あれほど優奈ちゃんを殺そうとして……こっちは怒っている」

「そうだね。アプローチに失敗した感じがするよ。そうだね、これなら信用してくれる?」

『なんだい! 旦那ぁ!』

「精霊石!?」


 懐から精霊石を取り出した三国先生に雄くんはわかりやすく動揺しています。

 精霊石からは快活な商売人のような男の声が聞こえ、あれが本物の精霊石ということでしょう。

 紫に怪しく輝きを放ち、それでいて魅了する宝石のような大きさを私たちに見せつけます。


「ポイズン。こいつが僕の精霊石だ。毒が使える。今みたいにね」

「どうして見せる。それは……切り札みたいなものだろ」

「まあね。でも、信頼はまず自分の手の内を見せてからだ。違うかい?」

「…………わかった。信用する」


 私にはわからない感覚ですが雄くんたちはここで戦闘を回避するぐらいの代物を三国先生は雄くんに見せつけたみたいです。


「あと、これが中和剤だ。もしもの時に使いたまえ」

「どうしてここまでする」

「いいもの見せてもらったからね。その報酬みたいなものさ」


 投げつけてきた小瓶には薄緑色のドロッとした液体が入っています。

 雄くんはそれを受け取ると私を椅子に下ろして、篭手をしまいました。


(とりあえず、今は命の危機が去ったとして安心していいのでしょうか?)


 そんな私の心配を他所に三国先生は紅茶を一口、楽しんだ後に質問してきました。


「さて、あかつ―――。言いにくいな。優奈さんと呼んでもいいかな?」

「あ、はい。大丈夫です」

「では、遠慮なく。優奈さん、君に聞きたいことがあるんだ」


 さきほどよりも真剣な表情。

 これは一体どんなことを質問されるのか。

 私は生唾を飲み込んで、真摯に向き合うと――――。


「か、彼は……竜騎士はどこにいる?」

「?」


 予想の斜めの上の質問をされます。

 竜騎士。そう、雄くん……どこにいるかって? そんなの――――。


「僕は彼に興味があってね。もう一度会いたいんだ。教えてくれるなら君の学園内での安全を保障しよう」

(隣にいます!!)


 そう叫びたかったけどその言葉を飲みこみました。

 三国先生からすれば今、私の隣にいる少女が先日会った竜騎士(雄くん)と同一人物だなんてわかるわけがありません。

 しかも、雄くんの情報を教えると私の安全が保障されると言っています。

 それは冗談かもしれません。だけど、本当の場合はこの情報を教えてもいいものかどうか考えてしまいます。


「………………」

「だんまりか。仕方ない。本命は諦めるとして他に何か情報はないかい?」

「情報?」

「ああ、彼の好きなものとか、趣味とか、どこに住んでいるとか、家族は何人とか――――」

(待ってください三国先生。情報というのはそういう情報なのですか?)

 

 私としては定番の技名や弱点。それとか精霊石の情報を教えてほしいんだと思っていました。


(あれ? もしかして、もう一度会いたいの理由は恋愛的な意味なんじゃ――――)


 恐らくは間違っていない結論に冷や汗をかきつつ、三国先生は人差し指を差し出してこう言った。


「なんでもいい。どれか一つでも教えてくれたら1カ月ずつ保証期間を延ばすよ?」


 私の中で疑問が確信に変わってしまいます。

 余計に情報を与えてしまうわけにはいかなくなり、この密談を断ち切りろうと私は勇気を振り絞って声を出しました。


「え、えっと。その、実は――――」

「からあげが好きですよ」

(雄くん!?)


 まさかの本人からの情報開示に驚きを隠せません。

 というか、雄くんはいいのでしょうか? これ、私よりもよっぽど雄くんのは大変な目には遭う可能性があります。

 だけど、雄くんの目は微塵もそんなことを考えていないのかまっすぐを見つめ、さらに続けて言います。


「好きなものはからあげ。趣味は読書。今はどこにも住所がない。家族は両親しかいないです」

「なるほど」


 口調は女性のものに変えて、早口で自分の情報を雄くんは告げています。


「今はどこにも住所がないと言ったね。確認だけど本当にないの?」

「はい。どこにもありません」

「なるほど、気になる点はあるがこれ以上の追及は野暮だね」


 すごい勢いでメモをする三国先生は一度、私の目を見てそっとペンを止めます。


「他には?」

「……これで4カ月の安全でいいですよね?」

「あと2つぐらいは情報が欲しいなぁ」

「それは4カ月たってから考えます」

 

 これ以上取引しないという意思の表れか、雄くんは時計を指さします。

 私と三国先生はつられて時計を見上げるとちょうど予鈴が鳴り響きます。


「はあ、仕方ない。教師としてこれ以上引き留めるのは問題だ。オーケー、今学期中の安全は保障しよう」

「ありがとうございます」


 雄くんはその場から逃げるように急いで椅子から立ち上がり、私の腕を引っ張ってドアを開けて速足で歩きます。

 少し早い速足にもつれそうになりますがどうにかバランスをとりました。

 角を曲がり、三国先生の姿が見えなくなったから止まってもらおうと口に出そうとしたその時でした。

 

「それにしても……君イイね。すごく好みだ」


 ぞくりっと背筋が震えます。

 耳元でささやかれるような甘い声に怖くなり、私たちは止まりました。

 心臓がバクバクとなりだして、痛いくらいです。

 私は胸に手を当てて落ち着こうとするとぎゅっと私の手を雄くんが両手で包み込んでくれました。


「三国先生。私は嫌いです」

「へぇ、そういうとこもいいよ」


 はっきりとそう告げました。

 いつの間に回り込んだのか、前からゆっくりと足音を立てて歩いてくる三国先生は振り向きもせずに言葉だけを残し――――。


「ま、今は竜騎士が気になっているから見逃そう。だけど、次は君にするよ」

「そうですか」


 そういって、カツンカツンという足音が消えるまで私はその場から動けませんでした。

 これが暗殺者の恐怖。

 私は……これからこの恐怖と立ち向かわなくてはいけないのですか……。



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