第44話 〜あるギルド嬢の業務記録 2〜
私はサーシャ。アーリアの町の冒険者ギルドで受付をやってます。
今日も私はトレードマークのオレンジ髪を揺らし、作り笑顔で冒険者の皆さまのお相手をさせて頂いてます。
「ね〜ね〜、サーシャちゃん。
今日デカイ仕事が終わって飲みに行くんだけどさぁ、サーシャちゃんも一緒に行かない?愉しませてあげるよ?」
軽薄な冒険者が絡んでくるのは日常茶飯事です。
こういうのを相手にするのは凄く面倒ですが、それでも私は作り笑顔で丁重にお断りします。
(デカイ仕事って、この前の仕事の穴埋めでしょうが!)と思いますが、そんな事はおくびにも出しません。
こういう冒険者の扱いには困らないのですが、最近になって扱いにとても困る冒険者が現れました。
その人はセイさんといって、冒険者になったばかりの人です。
その人は冒険者になると、あっと言う間にDランクへと昇格し、仕事もきちんとするため指名依頼が何十件もあり、Dランクにして非常に危険なモンスターを倒す立役者になるほどの実力者です。
ギルドマスターは、このままいけばすぐにBランクに、ゆくゆくはAランクにもなれるだろうと言っていました。
それにその人は他の冒険者と違い、誠実で物腰が柔らかいため、私の同僚たちはとても好評価しています。
それで私が困っていることというのは、そのセイさんに避けられてしまっていることです。
薄々はそうじゃないかなと感じていましたが、今では確信を持ってそうだと言えます。
というのも、その人は最初の日以来、私の受付に来ようとしないのです。
受付カウンターは数ヶ所あるのですが、私のカウンターが空いていたとしても彼は他の列に並ぶのです。
それだけなら私も気にしませんでした。
一部の冒険者は、受付嬢を固定することがあるからです。そういうことはよくあるのです。
自分の担当を決めておけばなにかとスムーズに話がまとまりますから。
でもその人の場合は違います。
その人は担当の受付を決めているわけではなく、私以外の空いている所に行くのです。
謂わば逆固定です。
理由はなんとなく分かります。
というか、ぶっちゃけ私が悪いです。
でもこういう態度をとられることに慣れていない私は、気持ちがモヤモヤしてしまいます。
そんなことを考えていると、その人がギルドに入って来ました。
私はついついその人を目で追いかけます。
すると何故かだんだんと怒りにも似た気持ちが湧いてきて、睨むような目をしてしまいました。
その人がこちらを向いて私の睨んだ目と合うと、すぐに目を逸らし、逃げるように去って行きました。
“このままじゃいけない”
そう思った私は、むりやり理由を付けてその人に話しかけてみました。
けれどその人は、どこかビクビクした態度で私の話を聞いていました。
それが一層私の気持ちをモヤモヤさせたので、最後の方はちょっと刺々しい言葉になってしまいます。
話が終わって自分のデスクに戻ると、私はそのまま机の上に突っ伏しました。
(何やってんの〜!?
関係改善どころか悪化しちゃった〜)
私がそうしているうちに、その人は同僚のエリィの所で依頼を受けて出て行きました。
…私のカウンターも空いていたのに
お昼休憩になり、私は自分の悩みを同僚に相談してみました。
けれど私の話を聞いてくれた同僚は…慰めてくれませんでした。
「サーシャが悪い」
同僚のエリィがお弁当をつつきながら言います。
(っ…。分かってるけど、それでもちょっとは慰めて欲しかった…)
「そうね〜、ワタシのタイプとはちょっと違うけど、逃すのはもったいないかもね〜」
「そう?私はけっこうアリなんだけど!
さっきもレポートの依頼受けてたし、他の脳筋とは違うんだよね〜」
マリアンナのせいで私の悩みの話がどこかに行っちゃいました。
「あなたたち、セイさんの話をしているの?」
先輩のミサさんが話に入りました。
「そうですよ、私はアリだっていう話をしてました」
「ワタシは、様子見って感じです〜」
(そんな話じゃなかったでしょ!?私のな・や・み!!)
「そうなのね…
じゃ私も言わせて貰えば、私はガチよ!
セイさんにだったら抱かれてもいいわ!」
「おぉ!ミサさん冒険者嫌いじゃなかったんですか?」
「そうそう、この前も冒険者は絶対ダメ〜って言ってたじゃないですか〜」
「えぇ、言ったわ。
そうね…、あの頃の私はまだ何も知らない小さな蕾だったの。でもセイさんに出会って、ひとつの花を咲かせたわ。
もう冒険者だからと言って嫌いになんかならないわ!」
「「スゲ〜」」
拳を握り熱弁したミサさんにパチパチと2人が手を叩く。
「で、サーシャはどうなのよ?」
「え、わたし!?」
マリアンナが私に振ってきます。
「流れ的にそうでしょ〜」
「私はそんな風に見てないから…」
「えー、でもセイさんのことは悩むくらい気になってるんでしょ?」
うっ…。
き、気にはしているけど、そんなんじゃありません!
「そうね〜、確かにサーシャのタイプの人なんじゃない?」
うぐっ…。
た、確かに優しくて、真面目で、謙虚で、顔も素朴な感じでタイプに一致するところはありますが、そんなんじゃないんです!
「「で、ホントのところはどうなのよ?」」
うぅ〜…。
だ、だって、私にだけ話しかけてくれないし、目があってもすぐに逸らすんだもん…。
字が綺麗とか、誰にでも親切とか、話をちゃんと聞いてくれるとか、子供に好かれてるとか…は好感が持てますが、だからと言ってそんなはずないんです!
だって、私にだけ話しかけてくれないし…。
ぐるぐる混乱する頭で私は必死に否定します。
「わ、私は…あんな人…」
私はあの人を思い浮かべます。
困った顔で笑うのがかわいいと思います。
「あんな人…」
でも同時に、私を避けるあの人にまた怒りが湧き上がってきます。
「あんな人〜っ!」
どうしてこんな気持ちになってしまうのかは分かりません。
「あ、あんな人〜〜っ!大っっ嫌いです!!」
「「マジで〜!?」」
そんな話をしながらお昼休憩を過ごしたのでした。




