15.新しい遊びを覚えました。(その3)
……結果を言うと、戦いを制したのは命の方だった。舞桜の戦術は決して悪くは無かったのだが、相手の展開スピードが凄まじかったのだ。最終的には圧倒的な物量作戦でやられてしまった。だが、舞桜には後悔といった感情は芽生えず、むしろ清々しさで満ち溢れていた。この世界での初めてのカードゲームはとても面白かったし、負けた舞桜にも健闘を称える拍手が送られたからだ。そして周りの子供達からも今度一緒にバトルしようと約束しあった。負けたとはいえ、見返りはかなり大きかったのだ。
「強くなったら、また挑戦してもいいかい?」
「強くならなくても、いつでも待ってるぞ!」
バトル後、命と舞桜はガッチリ握手をした。後に舞桜は言う。彼は異世界で出来た初めての友人だと。
その帰り道も舞桜と楓は『ロスト・インヴォーク』の話題で持ち切りだった。こういうカードもある、アニメとか漫画でも人気でそれを元にしたのもあると、興奮冷めやらぬといった感じだった。雫は楽しそうに話す舞桜を優しい笑みを浮かべながら見ていた。
「しっかし、驚いたよなー。『ナイトメア・ハウリング』は自分の体力を削って効果を発揮するモンスターが主体のデッキなんだぜ?あれを初めてのヤツがああまで使うなんてなぁ。」
「いや、このカードが買って貰ったパックに無かったらダメでしたよ。」
「『契約踏み倒しの勅令』だろ?それ、割りとレアなカードなんだぞ?」
「レア?お肉の焼き加減が何か…」
「ハハハ違う違う。珍しいって意味だよ。変なボケかますなよ。」
笑いながら楓は舞桜の頭をワシャワシャと撫でる。
「わ」
「いやー、でも今日も楽しかったなー。」
「楓が皆を楽しくしたんでしょ?楓の専売特許じゃない。」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。さすがはアタシのダーリンだぜ。」
「だからダーリンじゃないっつの。」
雫は楓のボケに冷静につっこむ。
「そういや、舞桜は学校とかはどうしてるんだ?」
「僕、近いうちに明愛学園に通うことになるんです。」
「おぉ、そうなのか!?」
「手続きとかはまた後日だけどね。」
「ヘー、楽しみだなぁ。」
ニヤニヤしながら話を聞く楓。その楓に舞桜は聞きたいことがあった。
「あの、楓さん。」
「どした?」
「楓さんは、いつもあの本屋さんで子供達の遊び相手をしてるんですか?」
「いつもって訳じゃないけどな。アタシ子供の面倒見るの好きなんだよ。」
「まお君、楓の家族って8人きょうだいなんだよ?」
「8人もいるんですか!?」
舞桜は驚いて楓に聞き返す。
「そうさ。アタシは小さい頃から下の弟達のオシメ交換とかミルクあげたりとかやってて、そしたらいつのまにか小さい子供の世話とかするのが趣味みたいになっちまった。遊び相手すんのは疲れる時もあるけど、大事な友達を悲しませる訳にはいかないからな。」
「友達?」
「友達だろ?友達に年齢や人種や性別なんてもんは関係ないんだよ。同じ場所で同じ遊びをして、同じように笑うんだ。それだけで十分友達で、そんで仲間になれるんだ。舞桜、お前だってそうだぞ?」
「僕もですか?」
「当たり前だろ?可愛い友達がまた一人増えてこっちは気分が良いんだぜ。」
楓は再び舞桜の頭をワシャワシャと撫でた。
「わ」
「何かあったらアタシに言いな。電話一本でピザの出前よりも早く駆けつけてやるからな。」
楓はずっと上機嫌のままだった。別れる際も「有栖川家の危機はアタシが守る!」とか宣言して自らの家路にダッシュした位だ。
「賑やかな方でしたね。」
「まぁ、それが楓の良いところなんだけどね。」
舞桜は「同じ場所で同じ遊びをして同じように笑うんだ。それだけで十分友達で、そんで仲間になれるんだ」という楓の台詞を心の中で反芻した。あんな言葉はなかなか出てくるようなものじゃない。あの人はきっと友達想いで仲間想いなんだ。
「楓さんに感謝しなきゃ。今日、この世界で初めて友達が出来たんだ。」
舞桜はニコニコしながら呟いた。
「私は?」
「え?」
「私は違うの?」
「違うって?」
「だから、この世界での最初の友達は私じゃないのかなって。」
雫が舞桜に聞くと舞桜は突然足を止めた。
「雫さんは友達と言うよりは……」
「言うよりは?」
「その……」
すると、舞桜は俯いてモジモジし始めて黙りこくってしまうが、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「…僕の………大切な……お姉さん……というか……」
「まっ♡」
「や、やっぱり何でもないですごめんなさい。」
「そっかそっかそっか♡私はまお君の大切なお姉ちゃんか♡」
「今のナシです!忘れて下さい!」
「だ~め。心に刻んだから♡」
舞桜は真っ赤になって雫に忘れるようお願いするも、その願いは聞き届けられなかった。で、どさくさに紛れて雫は「今度からお姉ちゃんって呼んで」と頼んだが、丁重に断られてorzとなるのだった。
《*≧∀≦》
「そうだ、雫さん、聞きたいことがあるんでした!」
「聞きたいこと?」
家に帰って一息ついた時、舞桜は雫に尋ねた。
「雫さんは魔法が使えるんですか?」
「へ?」
台所の炊飯器のスイッチを押しながら雫は振り向いた。
「だって僕と『念動会話』したじゃないですか!?」
「『チャネリング』って、あの時本屋さんで聞いた、あの?」
雫は思い出す。舞桜のカードバトルの最中に彼が自分の体の中に直接話しかけた感覚を。
「そうですよ!チャネリングは遠く離れた人と精神で会話する魔法なんですよ!魔法の素養が無ければ出来ないんですから!」
「え…」
舞桜は上機嫌で雫に告げる。あの初めての感覚は魔法の力ありき、ということなのか。ということは…
「つまり、私は、やろうと思えば魔法を使えるってこと?」
そういうことになる。自分でも良く分からない事を言ったなと雫は思うが、舞桜は笑顔で全力で首を縦に振る。
「試しにもう一回やってみたらどうですか?」
「もう一回って?」
「チャネリングですよ。もう一回僕のことを強く想って話しかけるんです。」
「………じゃあ、やってみるよ?」
「お願いします。」
雫は目を閉じて舞桜を強く想い、心の中で話しかけてみた。
〔………………まお君、今日のご飯は青椒肉絲だよ?〕
〔雫さん、ちんじゃおろーすーってなんですか?〕
「!!」
雫は驚いて目を開けた。
「うそ!?」
「ほら!やっぱり使えるじゃないですか!」
「なんでなんでなんで?」
舞桜と心の中で会話出来てしまった。知らない間に自分が魔法使い(仮)になっていた事に雫は固まってしまう。
「雫さんはもしかしたら魔法使いの血を引いてるんじゃないですか?」
「私が?私のおじいちゃんとおばあちゃん、先祖代々普通の農家やってるんだよ?」
「もっともっとずっと前ですよ!1000年以上前とかのご先祖様とか!」
「1000年以上前か……」
学校での愛歌先生の話を思い出した。西暦1000年に入る頃には世界から魔法使いは完全にいなくなってしまったと先生は話していたが、逆に言えばその前までは何とかギリギリ残ってたとも言える。そのギリギリ残った魔法使いの中に自分のご先祖様がいたとすれば辻褄は一応合う。
「もしかしたらですけど…」
「?」
考える雫に舞桜が語りかける。
「この世界って、確かに魔法は失われてしまったけど使い方を知らないだけで実はやろうと思えば魔法を使える人って意外といるんじゃないかと思うんです。きっと、自分の中に眠らせていることに気づかないまま生きているんじゃないかって。」
「なるほど……」
例えば『絶対音感』というのがあるだろう。これは、身近な音のほとんどを「ドレミファソラシド」で区別し表現することが出来るもので、訓練とかではまず身に付かない才能の一つだ。所持者がそれを思いのままに活用できるのは、彼らがたまたま音楽の世界に足を踏み入れ、それを見つけた指導者に見いだされる事で自分の才能に気づく事が出来た事に他ならない。
もし、その『絶対音感』の所持者が音楽とは無縁の世界にいたとしたら、その場合の彼らは才能を眠らせたまま生きているということになるだろう。
これを『魔法』の観点に置き換えると、この世界は一部を除いて魔法の技術は完全に失われた世界とされている。仮に魔法の力を持っていても見いだされる事も発見されることもない世界。これでは自分の内に眠る力に気づかないまま人生を送ることになってしまうと言ってもいいのだ。
「愛歌先生は1950年頃に力に目覚めた人があちこちから現れ始めたって言ってましたけど、皆が皆とは言ってないじゃないですか?才能はあるけど気づいてないだけなんですよ。」
「じゃあ、なんで私は使えちゃったんだろう?」
「そこまでは……」
う~んと唸る舞桜。さすがにこれは説明がつかなかった。
ふと、雫の頭にある疑問が浮かび上がる。
「そう言えばまお君、この『チャネリング』って誰とでも出来るの?」
「いや、誰とでもじゃないです。まず、お互い『チャネリング』が出来なきゃ無理です。」
「つまり、魔法が使えない人に一方的に声を送る事は出来ないのね?」
「そういうことになります。あと、会話相手とあまりにも遠く離れすぎていても上手く届かないです。それと……」
「それと?」
すると舞桜はまたモジモジし始めた。
「あ、相手と…」
「相手と?」
「こっ……こころから、お互いに、好きあっていてっ…通じ合っていなきゃ……できn」
ぎゅうううううっ!
「わぁ雫さんいきなり抱きしめないでください!」
「いやぁつい嬉しくて♡」
「わぁぁぁ……」
「そっかそっか♡まお君は私の事が好きなのか♡」
「お、お姉さんとしてですからね!お姉さんとしてですよ!」
「あ~もう可愛いな~♡お姉ちゃんはとっても幸せだよ~♡」
「うぅ……」
舞桜の顔が耳まで真っ赤になっているのにも構わず、雫はずっと抱きしめ続けた。で、どさくさに紛れて「今晩一緒に寝よう!」と持ちかけたが、案の定丁重に断られてorzとなるのだった。




