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ストルレグス(世界の狭間にある境界線)の勇者と巫女  作者: あかつきp dash
第三章 アルシュリオン・オンライン
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 アルシュリオン・オンラインに於いて、死という概念は曖昧である。というのも、ゲーム内で死んだという話がないからである。そういえばと疑問に思うことはあっても、それを突き止められた人間が誰もいないからだ。

「周辺の調査はこれで終わりました」

 別動隊と合流した俺たちは相手方からの報告を受けていた。

 報告をしているのが生徒会長の陽隠央司ことルミハ族のオルズ・サイードである。

 あとの三人は生徒会副会長の大塔結桜(ゆら)ことレイヴェ族のユラハ・タワーノ。

 近所に住んでいる専業主婦の千原路花ことマルア族のロカ・チルハ。その夫である千原進ことフェアル族のスムル・チルハ。姓を見るにこの世界でも二人は夫婦らしい。

 フルプレートの人がメンバーと少し離れたところにいる。お互い、交流も特になかったところを見ると両者が打ち解けたとかいうことはないらしい。

「皆さんはこれからどうするんですか?」

 俺はヨルーダさんに訊ねる。

「しばらくは周辺の様子を探るつもりだ。魔竜が次に狙う場所にも大体の当たりはついているからね」

「それはどこなんですか?」

「星城高校だよ。あそこに結界の薄い部分があるんだ。そこを破壊されればアナズレグスは崩壊して、ストルレグスへの道が開いてしまう」

 そうなれば世界は破滅への道に一歩近づいてしまうということだ。……ちなみに星城高校は俺たちが通っている学校である。そこには自分の家も近くにある。このままいくと近所が戦場になるということだ。

「ってことは、魔竜たちがやってきたら星城高校を守れってことですか?」

「近所を守ることが世界を守ることに繋がる――なかなか素敵だとは思うがね」

 というか、世界の命運を賭けた戦いのはずがやけにスケールが小さくなったな。

「ん?」

 突然に視界が大きく揺れはじめ、同時に大きな地鳴りがあたりに轟きはじめる。

「じ、地震か?」

 スムルさんの声に動揺の色が混じる。

「いや、この時期に地震はないはずだ。これはきっと――」

 ヨルーダさんが空を見あげる。それにつられて、俺も上空に視線を向けた。

「何じゃ、あれは?」

 リーナがおぞましいものでも見たように、その声は竦みあがっていた。

 空には大きな亀裂が入り、夜よりも深い深淵が垣間見える。俺は以前に一度だけこれ似た状況に出くわしていた。そう、それはトゥークリフトが最初に現れたときだ。

「魔竜が来る……!」

 俺は思わず声に出していた。

 黒い割れ目から炎が吹きあげたと思うと、そこから炎をまとった人影がこちらへ降下してくる。

 その人影は文字通りに地面に激突する。すると、その周辺の瓦礫は派手に吹き飛び、人影の周辺にはちょっとしたクレーターが形成される。

「よう。お前が勇者か?」

 見た目は二十代半ばほど。

 身長は二メートルもあろうかという巨躯。それでいてひょろい印象をまるで感じないのはがっちりと広い肩幅に隆々とした筋肉であろう。

 下は単純なズボンとブーツ。上着はノースリーブのレザージャケットを羽織っているだけだ。

 そして奴の髪が揺れると、それはまるで炎が揺らめいているような錯覚を催す。

 瞳は黄色く爬虫類のような眼光を宿らせていた。

 間違いない。奴は魔竜だ。

「……ああ、そうだよ」

 俺は剣を構えながら、短く答える。俺は奴が背中に背負っている剣にずっと注視をする。

 正直、それを剣と表現するにはあまりに無骨な存在である。その大きさはそれこそ男の身長とあまり変わらないくらい。身幅も四〇センチほどあり、剣というよりは鋼鉄の塊というほうが適切かもしれない。そしてなによりその刃の刃先の部分に嵌めこまれている鉄球である。

 そのおかげで剣の先端が目玉のように見える。これは重眼剣の特徴である。

「魔竜って人の姿をしているのね……」

 ロカさんがつぶやく。たしかに“魔竜”と聞けば、巨大なトカゲを想像するのが普通だろう。だが、実際に目の前にいるのは人の姿をした魔竜と呼ばれる存在だ。

「トゥークリフトも無念だろうよ。力さえ弱まっていなければ、なりたての勇者なんぞ楽勝だったろうにな」

 俺の顔を見て馬鹿にしたような表情を見せる。実際、馬鹿にしているんだろう。目の前に立っているだけで感じる威圧感は並のモノではない。

「とは言え、それは俺も同じだがな」

 男は自分の感覚を試すように手を握って広げるを何度も繰り返している。

「どういうことだ?」

 という俺の問いに男は笑いながら答える。

「喜べ。どうやら、この世界に張られている結界のおかげで俺の力は若干抑制させるようだ」

 男が手を掲げる。すると空気が収束して、火の玉ができあがっていく。これはいけないと感じた俺は思わず叫ぶ。

「みんな、逃げろーっ!」

 男が直径一メートルくらいの火の玉を撃ちだす。すると火の玉は俺たちのいるところより少し手前に着弾して爆発する。

 俺は顔を両腕で覆いながら、向かってくる爆風を真っ向から受ける。だが、悲しいかなマルア族は全種族でも軽い部類に入る。

 激しい爆風に俺はあっさりと吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。

「くっ――痛ぅ!」

 背中をさすりながら、俺は何とか立ちあがる。幸いに背中を打ったくらいで、他は特に怪我をしていない。

 それにしても何て威力だ。奴は炎を自由に扱えるとでも言うのか。

「俺の名前はホールバイストだ。短い付き合いになるだろうが、よろしくな」

 塵煙霧は晴れるとぎらついた紅の髪をした男がゆらりと立っていた。

 いつの間にか、ホールバイストのまわりを全員で囲んでいた。距離からして、いつでも斬りかかれる準備はできているのだろう。だが……。

 俺の心配を他所にロカさんのいるあたりから光弾が三発撃ちだされる。あれは魔法の光である。

 ホールバイストはその光弾を剣で防御する。その間にヨルーダさんが槍斧で斬りかかる。魔法による遠距離攻撃で牽制をしておいて、別の者が近接攻撃を仕掛ける。セオリー通りであるが、いい連携である。

「勇ましいな――」

 ――だが。とホールバイストは続ける。

 大剣と槍斧がかち合う。

「よせ! ヨルーダさん、逃げてくれっ!」

 俺が叫ぶ。

「逃げられるのならな!」

 ヨルーダさんは槍斧で押し返そうとする。だが、相手はピクリとも動かない。それどこからホールバイストは相手をいたぶるような表情でジリジリと押し返していく。

「どうした? もっと踏ん張ってみせろよ」

 ヨルーダさんの額に脂汗が滲む。やがて槍斧は押し返されて、膝は地面についてしまう。

「ぐあああ!」

 ついに槍斧で受け止めきれなくなり、大剣の刃がヨルーダさんの肩に食いこむ。

「やめろーっ!」

 気づけば俺はホールバイストに斬りかかろうとしていた。

「行儀の悪い奴だ」

 そう言ってヨルーダさんをあっさり斬り伏せてしまう。それから、奴は力任せに大剣を横に薙ぐ。先端に取りつけられた鉄球といい暴力的なまでの威力だ。俺はそれを飛びあがってかわし、そのまま頭上を飛び越えて、背中を切りつける。だが、ホールバイストが咄嗟に前に体をかがめたせいで傷は浅かった。

 それから三方向よりホールバイストに向かって魔法の光弾が撃ちこまれる。おそらくロカさんたちからの援護だろう。

 だが、その効果は薄かったようだ。ホールバイストはフンと鼻を鳴らすと、ロカさんのいる方向に火の玉を高速で撃ちだした。その速度に回避も間に合わず、火の玉はロカさんに着弾する。いや、着弾するどころか火の玉はロカさんの胸板を貫いて、彼女を一瞬にして火だるまにした。

 苦悶の表情を浮かべる暇もない。何の声もあげずに彼女は事切れて、地面に伏した。残ったのは丸焦げになった遺体だけ。

「貴様ーっ!」

 それを見たスムルさんが激昂すると、翼を広げてフェアル族お得意の高速飛行で斬りかかる。

「ハエは引っこんでな!」

 ホールバイストは猛々しく叫びながら大剣を縦に振りおろす。それは本当にハエ叩きをされているようだった。それくらいにスムルさんは脆く、儚く映った。

 刀で防ごうとするも大剣の勢いと重量にあっさりとへし折られ、スムルさんはそのまま大剣にあっさりと叩き潰された。それは比喩などではない。文字通り彼は虫をはたくように叩き潰されたのである。

「次の相手は誰だ?」

 その凄みの利いた一言に俺を含め、まわりにいた人たちも萎縮して押し黙っている。

 実質、この状況で奴の相手ができるのは俺くらいのものだろう。ゴクリと唾を嚥下して、俺は無言のまま進み出る。

「勇者か……。俺としてはまだお前の相手はしたくないんだがな」

 この期に及んで、相手を選ぼうというのか。随分と虫のいい奴だ。俺は一瞬だけ後ろに振り返ってフーナさんに撤退をする合図を目配せで送る。彼女もそれに察してくれたのか、神妙な面持ちで頷いてくれた。

 そして、俺はまたホールバイストに向き直る。余裕を称えた笑みが何とも憎らしい。それでいて、その巨躯から発せられる威圧感には竦みあがりそうになった。

 それをこらえて、俺は一歩を踏みだす。こうなると、もう後戻りはできない。前進あるのみだ。

「いくぞ!」

 それは相手に言ったのでない。自分を奮い立たせるために言った言葉である。

 俺は走りだすと剣を振りあげながら、斬りかかる。それをホールバイストは大剣で受け止める。

「いまだ!」

 俺が叫ぶと後ろの方で走り去る足音が聞こえた。

「仲間を助けるために自分が残るか。何とも涙ぐましいことだな」

 ホールバイストはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。それから俺の後方でフーナさんの悲鳴が聞こえた。

「フーナさん?」

 俺が振り向くとそこには火柱に包まれたフーナさんの姿があった。悲痛そうに火柱の中でもがく姿が見られたが、やがて力尽きたのか身動きしなくなって、そして遂には人影すら焼却されていく。

 俺はその光景に絶句するしかなかった。

「はじめようぜ。命がけのゲームをな」

 ホールバイストはニタリとした酷薄な笑みをたたえる。

「くっそおおおぅっ!」

 俺は張り叫びながら、ホールバイストに斬りかかっていた。

結桜って何て読むんだと思って資料読み返したら「ゆら」だった件について、あーでも可愛い読み方だなあと関心してしまいました。もちろん書いたのは自身ですが。

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