9.勇者VS.聖拳(上)
「二人とも、下がっていてくれ!」
エヴェリナとティーエは優秀な魔術師だが、近接戦闘なら俺の専門分野だ。
白い鎧をまとい、両手持ちの大剣を構える、整えられた金髪に端正な顔立ちの、筋肉質の男……。
──聖騎士ジャスタスの相手は、俺がふさわしい。
──それに、誤解があるようだしな。
俺はティーエを誘拐なんて、していない。
魔術師ギルドの破壊については……犯人はエヴェリナだが。
それに、ジャスタスがここに来たということは、聖騎士団も近くまできているはずだ。
ともかく、誤解を解くことで戦闘が避けられるなら……無用な戦いをしたくはない。
「ジャスタス。……誤解があるようだ。俺はティーエを拐ったりなどしていない」
だが、ジャスタスの視線は、俺ではなくエヴェリナに向けられていた。
「そのような言い訳など! では、なぜ、貴殿は魔族とともにいるのだ?
なによりの裏切りの証拠ではないか!
──魔王領で魔族に魂を売ったのだろう、ウィペット!」
そう言われて、俺は動揺した。
勇者をクビになった俺は、魔王であるエヴェリナの誘いを受けて、魔王領へ渡ろうとしている。
俺にとってはただの転職でも、見方によれば、裏切りとも言える。
魔族に魂を売ったと言われても間違いではないだろう。
──むしろ、ジャスタスの言っている通りのことを、俺はやろうとしている。
「うろたえたな、ウィペット! やはり貴殿は──!」
大剣を握るジャスタスの両腕に力がこもる。
俺は言葉による説得をあきらめるしかないと悟った。
「説明はむずかしそうだな。なら、──戦うしか、ないか……!」
俺は、腰に下げた“刀”の鞘をはらい、刀身を抜く──。
「──なんだ、その剣は……」
俺の刀を見て、ジャスタスが目を丸くする。
「なんだ、刀がそんなに珍しいか? ジャスタス」
俺は、剣先をジャスタスにむけて刀を構え、言った。
「魔王領で手に入れてな。こいつの切れ味は中々のものだぞ」
ジャスタスの声が怒りに震える。
「聖王国の勇者ともあろう者が、正しき剣を捨て、妖しき剣をつかうなど……!
誇りを捨てたか! ジン・ウィペット!」
「俺は、勇者じゃない。……とっくにクビになったからな。それに、剣のかたちになんて、こだわったりはしない。自分にあったものを使うだけだ」
大剣を振りかざし、まっすぐに突っ込んでくるジャスタス。
──怒りのあまり、動きが単純になっているようだ。
まるで素人だな……。
「それに──この“刀”は今まで使った剣の中でも、俺の戦い方に一番あってるんでな!」
俺は振り下ろされた大剣を足をさばいて避けるのと同時に、刀の腹でジャスタスの手の甲を強烈に叩く──!
ガシンッッッッッッッ!
ジャスタスの手から大剣が離れ、地響きを立てて地面に落ちた。
俺は剣先をジャスタスに向け直し、言った。
「案外、早く勝負がついたようだな、ジャスタス……」
だが、ジャスタスの目にはまだ、敗北の色はうかんでいない。
「やはり、貴殿に剣技では敵わぬか……! だが!」
ジャスタスの身体から放たれた強い闘気によって、俺の身体がジリジリと後ろ向きに押される。
「ああ、結局こうなるのか……騎士の誇りってのは、どこに行ったんだ?」
俺は、からかうような調子で、ジャスタスに言った。
「聖拳術は、聖王国の正統な武術! 騎士の誇りに恥じるところなどない!」
聖王国で“聖拳”と名高いジャスタスは、剣技こそ苦手としているが、その格闘術は聖騎士団でも右に出るものはない──。
聖拳術の使い手として名をあげ、剣技が重んじられる聖騎士団で、拳によって団長まで昇りつめたその実力は確かなものだ。
「第二ラウンドといこうか、ウィペット」
ジャスタスが脱ぎ捨てた鎧が落ち、地面にめり込む。
整えられた金色の髪をほとばしる汗で後ろになでつけ、獅子のような表情で闘気を放つジャスタスは、やる気充分といった様子だ。
これだから、できればジャスタスとは戦いたくなかったのだ……。
面倒なことになった。
二度の死の危機から帰ってきたばかりで病み上がりの俺は、あまり激しく体を動かしたりはしたくなかったのだが、そうもいかないようだ……。
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