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k02-31 潜入、海中プラント

 エレベーターが動き出して1分近く経ったかしら……。



 そんなに速く動いている様子は感じないけど、それでも随分と深い位置まで降りてきている事になる。


 進度を示すランプが次々と点滅していき、もうじき目的地に着く事が分かる。



 程なくして、エレベータが鈍い機械音を立て停止する。


 最下層に着いたらしい。



 手に持った魔兵器を構える。


 アイネにやられてノビていた敵兵から拝借してきた小銃だ。



 アザレア曰く、プラントの外壁はそれなりの強度はあるけれど、私の輝石魔法の威力には到底耐えられないだろう、とのこと。


 万一大穴でも空けば、プラントごと崩壊しかねないらしい。


 冗談じゃないわ。もしそんな事になったらどっちがテロリストか分かんないじゃない……。



 ゆっくりとエレベーターのドアが開く。


 ……慎重に辺りの様子を伺う。



 様々な色の配線や、太いダクトが張めぐされた薄暗く無機質な通路が続く。


 どうやら周囲に人の気配は無いようだ。


 よかった、ドアが開いた瞬間敵が待ち構えてたらどうしようかと思った。



「アザレア、降りて大丈夫よ」


「……はい」


 私に続いてエレベータを降りるアザレア。




 エレベーターホールの前からは、正面、左右、それぞれに通路が伸びている。



「ハイドレンジアの施設だから、何て言うかもっと最新の研究施設みたいなの想像してたけど……」


「このプラントはハイドレンジア建造最初期に作られた物だそうです。基幹システムが常に稼働しているので中々大規模な移設は難しいそうで……修繕の繰り返しで今に至ると聞いています」



 煌びやかな街でも一歩裏道に入れば……とはよくある話だけど。


 享楽の島ハイドレンジアの裏側を見たような気がした。



「アザレア、道分かりそう?」


「大丈夫です! これ、見て下さい」


 そう言って携行端末の画面を私に見せる


 なにやら迷路のような複雑な図面が表示されている。



「これは?」


「このプラントの設計図。しかも建造当時に際に作られた初期の物です」


「……ちなみに、当然ながら真っ当な方法で手に入れた物……じゃ、ないわよね」


「え、えぇ、まぁ。そこは聞かないでください」


 そう言って苦笑いするアザレア。



「それより……見て下さい」


 そう言ってアザレアが図面を操作する。



「前に、興味本位でこの図面に迷路探索プログラムを走らせてみたんです」


 そう言って実行ボタンを押すと、地図の中に赤い点が現れ通路に沿って高速で動き出す。


 赤い点が通った後は図面が灰色に塗りつぶされていく。


 ものの数秒で地図は殆ど灰色に塗りつぶされた。



「今グレーに塗りつぶされたのが通路と部屋です。白く残ってるのが柱や壁などの構造物になります」



 そこまで説明されれば、アザレアの言わんとする事は分かった。


「なるほど……ココね」



 図面の一箇所を指差す。


 元のごちゃごちゃした図面じゃ全く分からなかったけど、他と比べて明らかに大きな空白が一ヵ所あった。



「はい。大きさにして……おおよそ50×100m。周辺のどの通路とも接続されていない空間がここにあるはずです」


「真四角じゃなくて歪な形をしてるのは、似たような通路ばっかりの施設の中で空間認識を曖昧にさせてその存在を悟らさないためね」


「恐らくは」


「……さすがね、やるじゃないアザレア! そうと分かったらさっそく――」



 ――その時! 遠くから話し声が聞こえてきた!


 アザレアの手を引き、付近の大きな柱の裏に慌てて身を隠す。




「なぁ、さっきの揺れ何だったんだ?」


「さぁなぁ。地上班との連絡用の回線はまだ掌握できてないらしいし、こっからじゃ調べようがないな」


「まぁ、次の定時連絡を待つしかないか」


「はぁ……。いつまでこんな陰気臭い工場の見回りしなきゃなんねぇんだよ……誰もこんな所攻めて来ねぇって」




 ……男が2人、そのまま通り過ぎていく。


 武器も持ってたし、どう見ても技師や研究者じゃないわね。



「この様子だと、プラント内部も制圧されていると思って良さそうですね……」


「そうね。でも、地上にあれだけの戦力を集中させたんだから、中の警備はそこまで厳重じゃないはず……。こんな巨大迷路みたいな施設、完全に掌握しようとしたら兵がどれだけ居ても足りないもの」


「なら、騒ぎになる前に……。アイネが頑張ってくれてる今のうちがチャンスですね」


「……えぇ。急ぎましょ」


 兵士達が行った方とは逆の道へと進む。



 ―――



 私が先導し、後ろからアザレアが地図を見ながらバックアップする。


 途中何度か兵士と鉢合わせそうになり冷や汗をかいた。


 アイネが居てくれたら……。




 それでもどうにか敵に見つかることなく目的のエリアまでたどり着くことができた。



「……どうやらこの壁の向こうみたいですね」


 アザレアが小声でささやく。


 壁を軽く叩いてみるけれど、ペチペチと冷たいコンクリートの感触が返ってくるだけで特別変わった所は無い。



「さて、どうしようか……。やみくもに探してヒントが見つかるとも思えないけど……」


「……………」


 黙って考え込むアザレア。


 正直、私は考えた所でムダそうね。


 何か手掛かりが無いか近くの壁を注意深く見てみる。




「……あ!」


「どうしたの?」


「昔、何かの本で読んだのですが、魔法ってマナの流れと大きく関係するんですよね?」


「え、えぇ。エバージェリーの魔法については詳しく分からないけど、少なくとも"輝石魔法"も基本はマナの流れを理解する事からよ」


「ということは、シェンナもマナの流れが分かるんですか!?」


「ま、まぁ、多少だけど」


「それなら、電気のマナを追って貰えませんか! こんな壁に分かりやすく鍵穴があるとも思えないので、おそらく何かしらの電気的な仕掛けがあるはずです!」


「なるほどね……。やってみる!」



 意識を集中すると、周囲を流れる電属性のマナを感じる。


 さすがプラントの中。どこもかしこも電気だらけね。


 感度を調整……問題の壁面だけに焦点を合わせる。



「……OK、行きましょう」


 壁面に集中しながら、通路を歩いていく。


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