k02-15 レッツ・ショッピング
「うわぁーー! 凄い! オシャレですねぇ! さすが都会って感じです」
先頭を歩くアイネが、こっちを振り返りながら叫声を上げる。
「ハイドレンジアにはショッピングエリアがいくつもありますが、ビーチから一番近いこの"ココ・ビーチウォーク"が一番活気がありますね! 観光の方々だけじゃなく、地元の人間もよく買い物に来ますよ!」
はしゃぐアイネに優しく微笑むアザレア。
海に直面した大通りに並ぶショッピングエリア。
通りは綺麗に手入れされた色とりどりの植物で装飾され、南国の開放的な雰囲気が存分に味わえる。
並ぶ店舗はどれも真っ白な外壁で統一されていて、その壁面に色とりどりの鉢植えが飾られている。
空の青さと植物の緑、花々の色がよく映える。
行き交う人々も陽気な様子で、水着の上から上着を羽織っただけの恰好で店の中に入っていく人も居る。
アザレアの言ってた通り、他の街じゃ考えられないけど、ここじゃ有りなのね。
とは言え、そんなフランクな雰囲気とは裏腹に並んでいる店舗は……
「マーチル」「トレンデア」「ブランデ・ロ・スー」
ファッションや時計、ジュエリーの超一流ブランドばっかり。
さすが高級リゾート。
「アイネとシェンナは気になるお店とかありますか?」
「ん〜、アザレアの行きたいお店に付いていくわ」
一応任務中なので、さすがに私達から行きたいお店を指定するのはちょっと……。
そんな私の気持ちなんてつゆ知らず、
「わぁ! シェンナ、見て見て! このお洋服スッゴイ可愛いよ!」
店先のショーケースに張り付くアイネ。
「このお店は……『ルルナール・コレクション』ですね! ここのお洋服可愛いですよね! 私も何着か持ってます! 入ってみましょう!」
そう言って、アザレアに連れ立ってウキウキで店の中に入っていくアイネ……。
ま、まぁいっか。
ルルナールかぁ。
私はあんまり好きじゃないけど男性受けは最高なのよねぇ。
たまには良いかなぁ。
アクアティカにはショップ無いし……。
って、違う違う! 任務任務。
慌てて2人の後を追って店舗の中に入る。
―――
中に入ると、2人が白いワンピースの前でキャッキャとはしゃいでいた。
「このワンピース凄く可愛い!」
「本当ですね! 可愛いです。ルルナールのお洋服って、一見シンプルですけど生地とか細かな装飾とか凄い拘っていて上品ですよねぇ」
そんな2人の脇に微笑みながら立つ店員の綺麗なお姉さん。
「そちらのワンピース、かわいいですよね。実はうちのデザイナー一押しで、何でもハイドレンジアが出来るよりも前、この辺りにあった街の伝統的な衣装がモチーフなんですって」
そうニコニコと話しかける。
店員さん、まさかこの2人が護衛対象とボディーガードには見えてないでしょうね。
どっからどう見ても休みの日に買い物に来た友達同士だもん。
仕方ないわね。私だけでもしっかりしないと。
出入口に注意を向ける。
緊急時に備えて、脱出経路の常時確保を怠らず……
……って、こんな所で出入口をガン見してる私が一番不審者じゃないかしら……。
2人の楽し気な会話が聞こえてくる。
「アイネさんは普段どのようなお洋服を着られるのですか?」
「え、あ、私ファッションとかあんまり分からなくて……。でもあんまり派手な服とかは着ないですね」
「それならこのワンピース絶対お似合いだと思いますよ! ね、ね、試着してみましょうよ!」
「え、で、でも、一応任務中だし」
あ。一応任務の事は覚えてたのね。
申し訳なさそうな顔でこっちを見るアイネ。
「良いわよ、私が見ておくから」
そう言ってアイネに目配せする。
「やったぁ!」
「ありがとうございます、シェンナさん! 後でシェンナさんのお洋服も見ましょうね!」
そう言って揚々と試着室に向かう2人。
それにしてもアザレア、友達が少ないって聞いてたけど……どうしてもそんなに悪い子に感じないのよね。アイネとはすぐ打ち解けたし……。
そんな事を考えていると、暫くして更衣室のカーテンが開かれた。
ワンピースの裾をちょこんとまくり、恥ずかしそうに微笑むアイネ。
こ、これは……!!
「か、可愛いですーー! 凄くお似合いですよ!」
アザレアが手を叩いて褒めちぎる。
確かに! 身内びいきじゃないけれど、これはかなり可愛い!
ワンピースの白に、深く青いアイネの瞳と髪が綺麗に映える。
白い肌とも相まって、清楚感が半端ないわね!
こりゃ男受けエグそうだわ……。
普段は殆ど制服だし、たまに休みの日に見る私服も地味目なのが多いけど、もしあの子が本気出したら……恐ろしい子。
「そ、そうかな? ちょっと裾短いし、ノースリーブだし、露出高すぎじゃないかな?」
そう言いつつも、本人もまんざらじゃない様子でちらちらと鏡を見る。
「そんな事無いですよ! 絶対可愛いです! ねぇ!」
興奮したアザレアが私に強く同意を求める。
「え、えぇ。私も可愛いと思うよ」
確かに凄く可愛い、とは思うけど……。
アイネ、あの子分かってるのかしら。ここのブランド……
「えへへ。そうかなぁ? シェンナもそう言ってくれるなら買っちゃおうかなぁ! 実はお小遣い、結構持って来たんだぁ」
そう言いながら胸元に付いた値札を見る。
「ん~……12,000コールかぁ。結構いいお値段するんだねぇ……」
そんな訳ないでしょ!
慌ててアイネの元に駆け寄り耳元でささやく。
『値札よく見なさい!』
「え?いち、じゅう、ひゃく……じゅうにまん!? たっかーーぁ!!」
大声で叫ぶアイネの頭を平手で叩く!
ちょっと困ったような顔で微笑む店員さんと、その様子を微笑ましそうに眺めるセレブっぽい他のお客さん達。
その後、丁重にお詫びしてワンピースを戻したけれど、店員のお姉さんは嫌な態度一つ見せない。
「大人になったら是非また来てくださいね」
と笑顔で見送ってくれた。
さすが一流。
店から出た所で、アザレアがアイネに頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! やっぱりこの辺のブランドは高いですよね! 私もお誕生日にお父様から頂いた事があるだけで、お小遣いでは到底買えませんし。で、でもお2人が普段どのようなお店に行かれるかも分からなくて、いきなりローププライスなお店にお連れするのも失礼かと思い……!」
めちゃくちゃ早口でアワアワと謝る。
「い、いえ! こっちこそ、なんだか悪目立ちしてしちゃってごめんなさい! で、でもなかなか貴重な体験をさせて貰いました!」
そう言って頭を下げるアイネ。
そうやってまたしばらく2人共頭を下げたまま固まる。
で、同時に顔を上げて目が合う……そして楽しそうに笑う。
なによ、良い感じじゃない。
なんだか、小さい子供達を見守る親の気分になってきわ。
いや、分からないけどね。
それにしても、いくら高級ブランドとは言えアザレア程のお嬢様なら親のお金で値札なんて気にせず買えるはずだけど……お金の扱いにしても案外しっかりしてるのね。
グラートさん、仕事人間なのかと思ったけれど父親としても立派な方なのかもしれないわ。
通りをもう少し行くといわゆるミドルクラスブランドやロープライスなお店が並ぶエリアもあるという事で、煌びやかなハイブランドのショップを眺めつつ通りを進んで行く。
その間も前を歩く2人はまるで昔からの友達のように楽し気で、時々私を気遣って話を振って振り向いてくる。
そんなこんなで楽しい時間が過ぎている訳だけど……今日のレポートは何て書こう。
午前中は海で遊んで、午後からはショッピング。
うん……どう頑張っても、楽しい夏休みの日記になりそうだわ。






