k01-57 私の幼馴染がとんでもない事になってきた
次の瞬間――
淡い輝きを仄かに残し、アイネの姿が目の前から消える。
殆ど間を置かず、周りにいた警備員が叫び声を上げて次々と倒れる。
身に着けていたプロテクターもスパークロッドも粉々に砕け散っている。
「ひ、ひぃぃ……!!」
銅像の前でへたり込むカーティス。
その目の前には、そんな彼を見下してアイネが無言で立っていた。
「な……何なんだお前は!?」
カーティスが引き立った声を上げる。
「――知ってるでしょ? “アイネ・ヴァン・アルストロメリア“。――大罪人“シルヴァント・ヴァン・アルストロメリア”のひ孫よ」
そう言うと、目で追う事すら出来ない速さで漆黒の爪を一振り――
空中に4筋の黒い断裂が残り、背後にあった銅像が見事な輪切りとなり音を立てて崩れ落ちる。
その断面はまるで鏡のように美しく輝き、斬撃の鋭さを物語る。
悲鳴もあげられずただ口をパクパクさせるカーティス。
爪を構え直すアイネを見て、這いずり回りながらなりふり構わず逃げ出すカーティス。
辺りに居た警備員も一緒になって逃げていく。
……そんな彼らの背中を見送り、アイネは右腕を軽く一振りするのだった。
白金に輝く髪は徐々に深い青色へと変色し、漆黒の爪や尻尾は空中へと霧散していく。
「ありがとう、ファンちゃん」
『……主の意のままに』
「ところで……さっき"死を以って償え!“とか、何だか物騒な事言ってなかった?」
『……すまん。つい何というか……勢いだ』
「あんまりそういう乱暴なのは――」
『おおっと、マナの残量が限界のようだ。暫しの間さらばだ!』
そう言って完全に消え去る黒い影。
「……もぉ」
そう呟くアイネはいつもの優しい顔だった。
すぐさまシェンナとエーリエに駆け寄る。
「2人とも大丈夫!? 直ぐに救護を――」
そう言いながらしゃがみ込んだ瞬間……登頂に激しい手刀が突き刺さる!
「――痛ぃっ!!」
振り返るとそこには、こめかみに血管を浮かび上がらせて震えるマスター・ジンの姿があった。
「大丈夫? ……な訳あるかぁ!! どーすんだよ、こんな大勢の前で堂々と披露しやがって!!」
そう言われて、周りを見渡すと、いつの間に集まったのか遠巻きで自分達を囲むように人だかりが出来ている。
「あ……」
「しかもお前! ぶった斬ったのあれ英雄オリジン・ロウの像だろ! 怯える民の目の前で英雄の像を叩っ切るとか……お前は『魔王』か!?」
「マ、マオウ? なんの話ですか!? というか、マスター何でそんなに冷静なんです!? さっきの見て驚かないんですか?」
「当たり前だ! とっくに知っとったわ! 自分の弟子の事くらい把握してるわ!」
「え、嘘だー! こっそり練習してたのどこかでのぞき見しましたね? エッチです!」
「うるせぇ! 来い!!」
「ち、ちょっと、何処行くんですか!? 食堂は逆ですよ!」
そう言って引きずられていくアイネ。
「飯なんて後回しだ! シエンのとこ行ってスライディング土下座で情報操作と隠ぺいのお願いだ! 急げ」
「な、何か物騒な事言ってませんか!?」
そんな事をギャーギャー騒ぎながら何処かへ消える2人。
ポツンと取り残された私とエーリエは、自分で救護に連絡し、事情を話して病院に連れて行って貰った……。
それにしてもさっきの姿といい、あの迫力といい……。
あの子……
私の幼馴染がとんでもない事になってきた――






