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k01-52 一件落着

 リベライルから数日……。



 ジンファミリアホームではジンとシエンが紅茶をすすりながら会談している。



「はぁ……全く。どいつもこいつも人の想定の斜め上行きやがって。アイネは何か良く分からん憑依魔法みたいなもんを覚えてくるわ、赤い嬢ちゃんはあの落書き読んだだけで輝石魔法ぶっ放してみせるわ……」


 ジンが深いため息をついてソファーにもたれ掛かる。


「ふふ、前にも言ったでしょ? 時代は進むのよ、凄いスピードで。呑気に立ち止まってたらそれこそあっという間に置いていかれるわ。……良かったでしょ? ここに来て。可能性の宝庫よ」


「……まぁ、退屈はしないわな。しかし、これでやっとひと段落か」


「……えぇ。例の事故も、ガルガティアのスパイ行為という事で調査委員会も納得したわ。先方としては、言われのない濡れ衣でしょうけど、まぁ彼の国のスパイ行為なんて今に始まった事でもないし。我がテイルからの“遺憾の意”に対しては音沙汰無しよ。想定通りね」




 そんな最中、ホームのドアが勢いよく開かれる。


「ただいま戻りました!」


 アイネが元気よく入ってくる。



「お邪魔してるわよ」


 紅茶のカップを軽く持ち上げ挨拶するシエン。



「グランド・マスター!! こんにちは!」


「お~、お帰り。 頼んでた部品は買ってきたか?」



 そう言ってアイネの荷物を受け取ろうとするジン。


 しかし、その手を華麗にスルーし興奮した様子でまくし立てる。


「それより、聞いてくださいよ!!」


「いや、部品……」


「テイル中、シェンナの話題で持ちっきりですよ! 今や空きのあるファミリアはこぞってシェンナの争奪戦ですって!」



「部品……お前、元気なのは良が最近どんどん人の話聞かなくなってきたな。……まぁ、あいつは元々成績も家柄もトップの優等生だろ。カルーナとの確執も心配無いとなりゃ、どのファミリアも喉から手が出る程欲しいだろ」


「ねぇ、マスター!! うちからもシェンナにオファーしましょうよ! うちは深刻な人手不足じゃないですか!」


 そう言って青い瞳をキラキラさせる。



「……嫌に決まってんだろ! こっちは手のかかる奴が既にいるからそっちで手一杯だ!!」


「えーー!! 私がいつマスターに手間かけさせました!?」


「……ダメなもんはダメ!! 絶対ダメだぞ」


 そう言いながらアイネが運んできた荷物をぶん取って棚に向かう。



「シェンナが居てくれればうちのファミリアの知名度もグーーンとアップ! もっともっと志願者だって増えるかもしれませんよ!」


 そう言いながらジンの後ろを付いて回るアイネ。


「別にいいだろ。今のままでも」


 呆れながらジンは手にしたパーツを棚に片付け始める。



「ふふふ、それじゃ私はこれで失礼するわよ」


 そう言って立ち上がるシェンナ。


「あ! 私、演習場の外までお送りしますよ!」


 そう言って駆け寄るアイネ。


「あら嬉しい、この年でも女の子扱いしてくれるのかしら」


「いえ、グランド・マスターももうお若くないですから、ご無理なさらず」


 そう言って満面の笑みを向けるアイネ。

 引き攣った笑顔のシエン。


「……いいえ、大丈夫よ。"まだ若い"からね。これくらい1人で帰れるわ。それじゃあね、マスター・ジン」


 凍り付いた笑顔をジンに向ける。いや、目の奥が全く笑っていない。


「いやいや、俺のせいじゃないだろ!」


「え?え?」


 困惑するアイネ。



 ……



 シエンが帰った後、ジンは何やら機械イジリ。


 アイネは課題のレポートを書き上げている。


 いつぶりか、静かな時間を取り戻したジン・ホーム。


 新学期早々から続いた事件は一件落着。

 ようやく落ち着いて授業が再開出来そうだ。



 外から入ってくる風は、穏やかな春に別れを告げ、ほんの少し夏の暑さを浴び始めていた。

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