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k01-17 ホームレスファミリア

 火災事故から数日……。


 結局事故の原因は不明とされ、その後特に問題も発生しなかったことから経過観察と周辺の警戒強化という形で調査は打ち切りとなった。


 その決定を聞いたマスター・クァイエンは、テイルの魔鉱石が使われた事実から内偵調査を推し進めるよう猛抗議したが、不用意に騒ぎ立て生徒や保護者達の不安を煽る必要はない、という理事会の判断により否決。


 魔鉱石の持ち出し管理を再徹底するという措置で終結した。


 無論クァイェンは不服そうだったが、グランドマスターが判を押したのだから覆る事はない。


 ーーーーー


 それから暫くジン・ファミリアには平和な時間が流れていた。


 ボロボロなホームでマスターと生徒1人ずつ。


 教えるのが下手なマスターと、覚えるのが苦手な生徒のボコボココンビで授業は著しく難航したが、マイペースに楽しみながらやっていた。



 そんなある日……



 アイネとジンは事務棟の掲示板の前で立ち尽くしていた。


「マスター……これはどう言う……」


「……どうもこうも見たままの内容だろ」



『工事のお知らせ。

 旧12号学舎は老朽化のため取り壊しが決定しました。

 つきましては、関係者は1週間以内に下記の通り代替え施設へ移転を願います。


 対象:ジン・ファミリア


 →移転先:実戦演習エリア/B-27』



「ーー実戦演習エリアですよ! 実戦!

 知ってます!? あそこって元々街の外にあっただだっ広い森の一部を演習用に学園内に取り込んでて、マモノとか普通に出るんですよ!?」


 アイネが涙目でまくし立てる。


「分かってる分かってる。……いよいよホームレスだな。まぁこないだの火災の犯人にでも吊し上げられたんだろ。厄介者はとっとと出てけってとこか」


「酷い……! いくらなんでもあんまりです……」


「まぁ、実際やったのは俺達なんだけどな!」


 ジンは高らかに笑ってみせる。


「笑い事じゃないですよーー! どうするんですか!? ……てか、"俺達"じゃなくてマスターの犯行ですけど!」


「犯行とは物騒な! 助けてやっただろ! ……まぁ、クヨクヨしててもしかたない! なんにせよ一旦下見に行ってみようぜ」


「うぅぅ……じゃあ私……ダメかもしれないですけど一応兵器類の貸し出し申請してきますね」


「おぉ、分かった! じゃあこっちはこっちで色々準備しとくわ。

 30分後に演習エリアの入り口で集合な」


 そう言って2人は一旦別れた。


 ーーーーー


 30分後。


 実戦演習エリア入り口。


 演習エリアの入り口前はちょっとした広場になっている。


 これからエリア内での授業を控えた教員と生徒達がブリーフィングを行なっていたり、自主トレーニングに向かう生徒同士のパーティーが待ち合わせをしたりとそれなりに賑やかだ。


 そんな明るい広場とは裏腹に、入り口のすぐ向こうは深い森。


 時折聞こえる、マモノの雄叫びと思しき奇声や、響き渡る兵器の発砲音が物々しい緊張感を漂わせている。


 広場と演習エリアは背の高い鋼鉄製のフェンスで隔たれており、さらに雷の魔鉱石を使った高電圧の電線が張り巡らされている。

 これでモンスターが学園側へ侵入する事を防いでいるのだ。

 森の新緑と、永延と続く無機質なフェンスが何ともミスマッチで、ある種の不気味さを感じる。


 フェンスには数百メートルごとに堅牢なゲートが設置されており、そこから演習エリアへ出入りする。

 その内の1つ『B-3』と書かれたゲートの前にアイネとジンは立っていた


 ーーーーー


 アイネは背中にライフルを担ぎ、腰には大きなポーチを下げている。

 中に弾丸でも入ってるのだろうか。


「マスター……何ですかその大荷物は」


 一方のジンはというと、パンパンに膨らんだ巨大なリュックを背負っている。

 自身の横幅の倍の大きさはあるだろうか。


「まぁ、備えあれば憂いなしってな」


「……もし戦闘になったら、撃った弾全部マスターに当たりそうです」


「……ん? おぉ。兵器の使用許可降りたのか?」


「はい! と言っても一般火器ですけどね。もし大型のマモノと出会ったらオダブツです」


 そう言って合掌するアイネ。


「縁起でもねぇな。……ちなみに、お前一般火器取扱の成績は?」


「拳銃、ライフル、重火器、オールEです!」


「……よし分かった。絶対に撃つなよ。例えマモノに頭かじられても撃つな」


「えー!! 何でですか!?」


 猛抗議するアイネをジンが引きつった顔でなだめる。


 そんな2人の背後から、声をかける人影があった。

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