k01-18 一声
「アイネ!! 奇遇やなぁ! アイネ達も実戦演習なん?」
聞き覚えのある声に振り返ると、甘栗色の髪の女子生徒が人懐っこい笑顔をアイネに向けていた。
「エ、エーリエさん!」
「おぉ! 名前覚えてくれたんか!? 嬉しぃなぁ。あ、でも同い年なんやからエーリエでええで! ほら、シェンナも一緒や!」
そう言って背後を指差す。
目をやると、少し戸惑った顔をしたシェンナがこちらに小さく手を振る。
見れば、周りには数十人程の生徒が集まっており小さな集団が出来ていた。
その傍らには……久々に見るマスター・クァイエンとマスター・カルーナの姿。
「うちら今日はクァイエン・ファミリアと合同演習なんや!
……ヒソヒソ(ほんでな、シェンナの許婚って人も一緒なんよ! ウチ緊張してもうて)」
エーリエがアイネに耳打ちしながら、シェンナの方に目線を送る。
シェンナの横には、師事表明式の時に第2位で呼ばれていた男子生徒……カーティス・アルク……ナントカ。なんかそんなような名前だったはずの男子生徒が立っていた。
他の生徒は皆制服なのに、彼だけは真っ白な軍服を身に纏っている。
随分高級そうだが、いつもあんな格好なんだろうか……。
そんな事を考えながら見ていると、こちらの視線に気付いたのか彼の方からズカズカと歩み寄ってきた。
「やぁ、これはこれは。“ヴァン家”の! 奇遇だね。君たちも実戦演習かい?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、いかにも人を見下した態度でアイネに話しかける。
困惑し答えあぐねるアイネ。
見かねてジンが割って入る。
「まぁ、そんなとこだ。おたくらの邪魔はしねぇから構わないでくれ」
「これは、マスター・ジン!! 仮にもマスターの称号を拝する人物が、見苦しい嘘は良くないですね!!」
先程よりもさらに嫌らしくニヤついた顔で高笑いをする。
「何のことだ?」
「実践演習なんてそんな見栄をはらなくても良いですよ! 素直に『ホームが取り壊しに合ったので、新しいホームの下見に来た』と言えば良いでしょう!」
周りに聞こえるようわざと大声で話すカーティス。
周りの生徒たちがどよめきだす。
「な、なんやて!? ホームの取り壊し? それに下見って……何があったんやアイネ?」
心配そうな顔でアイネを見るエーリエ。
「エーリエくん、ちゃんと教務案内はチェックした方が良いよ。お気の毒に、ジン・ファミリアがホームとしていた施設に廃棄決定が降ってね。
で、その代わりに用意されたのがこの実戦演習エリアの中という事だよ。ホームなのに野宿って!!」
堪え切れないと言った様子で腹を抱えて笑うカーティス。
「そんなアホな! なんかの手違いやろ!? 実戦演習エリアって普通にマモノも出るんやで!!」
エーリエが怒りをあらわにしてカーティスに詰め寄る。
「おいおい、僕に言われても知らないさ。でも妥当だとは思うよ。だってさ、そこのマスターは着任早々郊外で火災事故を起こすような危険人物だよ。おっと、あくまで嫌疑、だったか。
その犯罪予備軍のファミリアに所属してるのがーーかの“大罪人”。曲がりなりにもテイルの敷地内に置いて貰えるだけ寛大な措置と思わなきゃ!」
『え、あの事故ってジン・ファミリアのせいなの?』
『マジかよ』
『勘弁してくれよ。あれのせいで郊外演習中止になったんだぜ』
どよめく生徒たち。
マスター・クァイェンとマスター・カルーナはそれを止めるでもなく黙って見ている。
何も言い返せず黙って俯くアイネ。
「どうしたんだい? おや、否定しないという事は事実なのかい? これは驚き……」
アイネに詰め寄り、今にも張り倒さんとばかりに罵声を浴びせるカーティス。
その時ーー
「カーティス!! 置いてくわよっ!!!」
饒舌な嫌味のオンパレードを遮るように、澄んだ一声が響き渡る。
声の主はシェンナだった。
その場にいた全員が彼女の方を振り向く。
シェンナは、怒るでもなく呆れるでもなくただ無表情で、けれども決して有無を言わせない強い眼差しで、その深紅の瞳をカーティスに向けていた。
「……分かったよマイラヴァー」
その迫力に気圧されたのか、踵を返しシェンナの元に戻っていくカーティス。
「……アイネ、ごめんな。お互い怪我のないよう気を付けよな!」
エーリエもバツの悪そうな顔で、小走りで戻って行く。
ただ茫然と……すこし驚いたような顔でシェンナを見つめるアイネ。
その様子を後ろからじっと見つめるジン。
暫くして……
「さ、準備したら出発するぞ」
そう言ってアイネの背中をポンと叩いた。






