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k01-12 輝石魔法

 土埃が止むと――そこにはアイネの姿もグリムの姿も無かった。


 キョロキョロと周りを見渡すオーク。

 しかし何処にも見当たらない。

 やや冷静さを取り戻したようで、やがておもむろに周囲を確認し始めた。



 ――そのすぐ傍の、背の高い草むらの中に2人は居た。

 ジンの両脇に抱きかかえられている。


「ったく、お前ホント無茶し過ぎだ」

 ジンが小声で囁く。


「……マスター!? 大丈夫なんですか?」

 アイネも小声で答える。


「大丈夫な訳ないだろ! 何じゃあのスプレー! 威力強すぎだろ!?」

 目を真っ赤にし、思わず声が大きくなるジン。


 その時すぐ傍でオークの足音が聞こえ、3人共息を殺し様子を伺う。

 どうやら食らった催涙スプレーのせいで自慢の鼻が利かないようだ。

 周辺の木陰や、草むらを掻き分けながら探している。


「こりゃ見つかるのも時間の問題だな……。さて、どうすっか。お前、足の具合は?」

 擦り剝いて血がにじんでいるアイネの足を気に掛けるジン。


「どうにか歩けはしそうですけど……走ったりはどうか……」


「どのみち街まで全力で逃げ切るのは無理か……。2人抱えて逃げ切れる距離でもねぇし……さすがに厳しいな」

 険しい顔で周辺を伺うジン。

 不安そうに涙ぐむグレン。


「あの……ごめんなさい。私が下手に戻って来たから……。マスターだけならその子を連れて逃げれたかもしれないのに……」

 アイネがそう言って俯く。


「……んな事ねぇよ。お前が居なかったら俺もそいつも今頃ミンチにされてたかもしれねぇし」

 そう言って笑いかけるが、アイネは俯いたまま答えない。


 また私のせい……。

 また私のせいで大切な人が傷つくの?

 それならいっそのこと……。


 ――意を決してアイネが告げる。


「……マスター。その子を連れて逃げてください。――私が囮になります」


「……はぁ? アホか。自分の生徒を囮にして逃げる教師が何処に居んだよ!? 却下だ。」


「聞いてください!! ……マスター、懇親会の時お酒掛けられた私のために本気で怒ってくれましたよね? あの時は言えませんでしたけど、本当は凄く嬉しかったんです。……私のためにそこまでしてくれる人なんて誰も居ないから。でも結局そのせいでマスターに色々迷惑かけてしまって……今だって。だからマスターにはこんな所で死んで欲しく無いんです!」


 早口でまくしたて、潤んだ目でじっとジンの事を見つめるアイネ。

 その深く蒼い瞳に迷いは無い。



 ――暫くその目を見た後、ジンが大きくため息をつく。


「はぁ……お人好しってのは遺伝すんのか? まぁ、そんなに思い詰めんな!」


 そう言ってアイネの頭をポンポンと叩き、いつもの締まりのない笑顔を見せる。


「ったく……ほんと、迷惑かけてんのはどっちだってんだよな」


「え?」


 バツが悪そうに頭を掻く。


「……あのな、実は俺も長い間ずっと独りぼっちだったんだ。でも最近また少しずつ世界に色が戻り始めてきてさ。……よくよく考えたらお前がくれた"色"なのにな。俺が臆病なせいでお前にこんな怪我までさせて……」


 そう言って黙り、目を閉じ考え込む。

 脳裏にいつかの光景が浮かび上がる。



 ―――――


 酷く疲れ、俯いた彼の目の前には白く輝く小さな獣が佇む。

 その獣がジンに向かって語り掛ける。


「本当にいいの?」


「……ああ。――分かるか? 灰色なんだ、世界の全てが。喜びも悲しみも、怒も何も感じない。この広い世界で、俺は独りぼっちだ……。まぁ、"ズル(チート)"して得たモノの代償だ。当然か」


「……ごめんね」


 そう悲しそうにつぶやくと、白い獣はトボトボとジンの前から去っていった。


 ―――――



「あ、あの、マスター? どういう意味……」


 アイネの声で目を開く。


「――過ぎた日々に捕らわれるな、か。いや、なんでもない! 俺だけいつまでも逃げてる訳にもいかねぇな!」

 そう言って、パンパンと自らの頬を両手で叩き気合を入れるジン。


「マスター??」

 戸惑うアイネを余所に、ジンがグリムに話しかける。


「おい、ボウズ。さっきの魔法カッコよかったじゃねぇか。ファイアー……ストライクだったか? あれでクレムゾンオークやっつけらんないのか?」


「な、何言ってんのこんな時に! 魔法なんてある訳ないじゃん!」


「……そんな事ないさ。エバージェリーじゃ普通に使ってるらしいぜ」


「それは異世界人だからだよーー!! キプロポリス人はどう頑張っても魔法なんて使えないってテイルで習うから! だから皆魔兵器の勉強するんだよ!」


 そう言って今にも泣き出しそうなグリム。


「ま、半分正解だ」

 ジンはニィッと笑い、グリムの頭をポンと叩く。


 そのまま立ち上がり、草むらの中から出ていく。


「ま、マスター!? なにを!?」

 アイネが慌てて止めようとするが、足が痛み急には動けそうにない。


「いいからそこで見とけ」


 ―――――


 草むらから姿を現し、開けた場所まで歩くジン。


「おい、こっちだ!」

 声を上げると、その姿を見つけたオークが即座に歩み寄ってくる。


「悪いな……マナに還って貰うぞ」

 そう呟くと、ポケットから赤い魔鉱石を1つ取り出す。


 どんどんと近づいて来るオーク。

 それを見据え、両腕を突き出し体の正面で構える。

 掌の中心には魔鉱石が添えられている。




 ――唐突に強い風が吹き抜け、辺り一面に咲いた花を散らしていく。


 風が吹き止むと同時に、ジンが静かに口を開く。



「"神と人とを繋ぐ者――"」



 手に持った魔鉱石がぼんやりと赤い光を放ち始める。

 足元に複数の光の点が現れ、地面に沿って縦横無尽に走り出す。



「"天上の陽光 空中の雷明 地下の祭火"」



 魔鉱石はより一層輝きを増し、足元の光点は地面に幾何学模様の光の魔方陣を描き出した。


 その様子に気づいたオークが手にした棍棒を思いっきり投げつける!


 しかし、棍棒はジンに到達するよるも手前で、瞬間的に燃え上がり、灰となって崩れ落ちた。

 見れば足元の魔法陣は深紅に輝き、その熱が大地に陽炎を浮かび上がらせている。


 そしてその周囲に轟々と燃え滾る3つの火球が浮かび上がる。



「"三界に顕現せしその業火にて――穢れた暗黒を駆逐せよ!!"」



 次の瞬間!


 足元の魔方陣は烱然と輝き、周辺を漂っていた3つの火球が真赤の帯となり勢い良く宙を走り出す。


 炎の帯はそれぞれ異なる軌道で飛翔しオークの周辺を飛び交うように光の渦を巻き、その姿を槍へと変え三方から一斉に襲いかる!


 炎の槍がオーク巨体を貫く!!



 息を吸い、声高らかに告げる――



「"断罪の三炎槍 フィア・フランム!!"」



 炎の槍が激しい閃光を放ち――大爆発!!

 10メートル以上ある火柱が立ち昇った。


「きゃぁぁ!!」


 凄まじい爆風と熱波を受け、アイネとグレンが地面を2,3度転がる。


 どうにか体制を整え爆発のあった方を見ると――そこにはクレムゾン—オークの姿は無く、巨大な火柱がただ轟々と立ち昇るだけだった。


 その手前では、ジンが静かに構えを解く。


 その手からは粉々に砕け散った魔鉱石の赤い欠片が、炎の光を受け美しく輝きながら崩れ落ちるのだった。


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