ケリーの過去
軽い暇つぶしで書いています。
読んで楽しんでいただけると幸いです。
適当に歩いている内に、俺は昔の事を思い出していた。生まれた頃の事だ。
一万二百年前…
俺が生まれた頃は、まだ人間と魔物は対立しておらず、特に何の関わりもなくそれぞれが別々の場所で暮らしていた。
ダンジョンも数えるほどしかなく、魔物の数も少なかった。
それを支配していたのは、魔王だ。
まあ支配していたと言っても、悪政を行なっていた訳では無く、ただ、王としての役目を果たしていただけだ。
例えば、あらゆる種族の魔物の統率、ダンジョンの整備や、魔物の生活においてのルール決定などがある。
忙しい仕事だが、魔王は真面目だったから、愚痴一つ言わずに取り組んでいた。
俺はスケルトン一族の中の、バノン家という家系の長男として生まれ、将来は、一家を継ぐ者となる予定だった。
だが、そんな時、事件が起こった。
人間が村に迷い込んだ魔物を殺したのだ。それまで、敵対関係になかった人間と魔物のバランスは、これにより完全に崩壊した。
戦争が始まり、最初は、数の有利があった人間がかなり優勢で、魔物は絶滅の危機と思われた。だが、魔王は諦めず、それぞれの魔物の適性や能力を測り、軍隊を編成。
人間の村を、一つ一つ潰していった。
これは俺たち魔物にとって、ありがたいと感じる出来事だ。だが、俺にとってこれは悲劇の始まりだった。
軍隊の編成で能力値を測る時、スケルトン一族の中で当時最も勢力があったバノン家の長男だった俺は、周りからかなり期待されていた。それは勿論、ドラゴンとかデーモンみたいな上位魔物と比べれば期待値は低かったが、スケルトンとしては考えられないほどで、そのせいで当時の俺は自分が高い能力を持った優秀なスケルトンなんだと勘違いしてしまった。
周囲に対して、軍を率いる将軍になるとか大口を叩いたり、自分が将軍になったら部下にしてやると話したりした。
だが、いざ能力を測ると全く高くなく、スケルトンの中でも最低のステータスだった。スキルも見たことない雑魚そうなもの一つしか持ち合わせていなかった俺は、周囲に一気に袋叩きにされ、一家も追い出された。
真面目な魔王にも、俺が周囲に偉そうなことをほざいていたせいで見放され、ひとりぼっちになり、その後は当時から有名だった雑魚モンスターが集まるダンジョンに行って暮らした。
自分に自信がなかった俺はダンジョンの隅で座って、腹が減ったら虫やネズミを食べ、喉が乾いたときは雨の日に溜めた雨水を飲み、ひっそりと生きながらえた。死んでしまおうと思った日もあったが、そんな勇気は勿論なく、はじめの頃はよく泣いたものだ。
でも、いつのまにかそんな生活にも慣れ、たまにダンジョン内を動き回るようになった。
勿論俺を馬鹿にする奴も多く居たが、そいつらも雑魚ダンジョンにいる奴だから大して変わらないと考えて無視していると、いつのまにか居なくなっていた。死んだのだ。俺は寿命で死ぬことはないが、他の奴らは違った。
そのおかげで俺より先にダンジョンにいた奴はみんな居なくなり、馬鹿にされる事も無くなった。
少しずつ自信をつけた俺は、ダンジョンのリーダーになり、部下をまとめたり、様々な事で成長してきた。まあ特に実感は無かったが、今思うとそうなのだろう。かなり簡潔だったが、そんな感じで今に至っている…
こんな人生を歩んできたからか、俺の心は大抵のことではブレなくなった。
そんな事を考えているうちに、人間の街に着いたようだ。ってあれ?俺が探してたのは魔物のいるダンジョンなんだが…。まあ仕方ない。この辺りで情報収集すれば良いだろう。
ケリー『この姿だと人間の街に入れないな…よし、変装!』
この魔法は、姿を変える為のものだ。俺は人間に姿を変えた。それも、情報収集に向いている美少女にだ。だが、若すぎると相手にされない可能性があるから、丁度良い年にしておいた。
ケリー『さて、街へ行くか…。』
ー街ー
『さあさあいらっしゃい!今日は魚が安いよ〜。』
ザワザワ
街はかなり賑わっている。音楽もかかっていて、今魔物と戦争をしているとは考えられないほどだ。 まあ、そんなことは情報収集すればすぐにわかるだろう。
ダンジョンの場所を知るためには、冒険者に聞くのが一番手っ取り早い。
冒険者が居るギルドに行く事にしよう。お?あの人間は如何にも冒険者っぽい格好をしているな…
ケリー『あの…すみません、冒険者ギルドって、どこにありますか??』
若い冒険者『え?あ、ギ、ギルドなら、すぐそこですよ!案内…しましょうか!?』
ケリー『ありがとうございます!助かります。』
早速ギルドに案内してもらえる事になった。ふっ、ちょろいな、魔物も人間も、こういう所は何も変わらないみたいだ。若い男に聞けば、すぐに顔を赤くして教えてくれる。
ーギルドー
若い冒険者『ここです!』
ケリー『ありがとうございました!』
若い冒険者『あの〜、お名前…』
若い冒険者が名前を聞こうとしてきたが、言い終わる前にさっさと場を離れ、受付に行った。
ケリー『あの、この近くのダンジョンってありますか?』
受付のお姉さん『はい。この辺りには、ダンジョンは三つあります。ですが、どれもあまり手強く無いので、現在は放置しております。仕事をお探しなら、北の方の街へ行く事をオススメしますよ。』
ケリー『そうですか…ありがとうございます。』
なるほど、だからこの街は平和そうなのか。
でも変だ…ダンジョンが三つもあって、それを放置していれば魔物が増えて大変なことになるはずなんだが…まあなっていないということは、ベテランの冒険者が外に出てきた魔物を狩っているのだろう。それに、俺が気にすることでもない。
俺はギルドを出て、捕獲を使い、女用と男用両方の服と、今のより綺麗なリュック、更に果物を盗んだ。やっぱり便利な魔法だなぁ…。
ベンチに座ってゆっくり果物を食べていると、いきなり遠くから悲鳴が聞こえた。
その方向を見ると、人間たちが魔物に追われている。かなりの数だ。ゴブリンとオークの群れだろう。
ケリー『やっぱりか、ダンジョンの中で繁殖して、攻撃の時を見計らっていたらしい。』
まあ俺は別に人間の側でも俺を見捨てた魔物の側でもないからどーでも良いんだがな。
そう思って場を立ち去ろうとした俺を、大きなオークが持ち上げた。動きが速い。群れのボスか何かだろう。
オーク『人間の女だ…ん?』
ケリー『おい、離せ。』
オーク『なんだと…というか貴様、本当に人間か?』
俺が魔物だとオークは気づいたようだ。だが、今は周りに多くの人間が居る…正体をバラされると、この後色々と大変になりそうだ。
咄嗟にそう判断した俺は、俺の正体を今にもバラしそうなオークを、人間ではあり得ない速さの手刀で首を切って、殺してしまった…。
評価や反応が良ければ更新していこうと思っております。まあなくても暇なときに書きますが、更新頻度は落ちるかも知れません笑